早期退職で充実したセカンドライフを!老後資金や年金受給は計画的に

企業の業績不振や組織改編などを目的として、「早期退職」や「希望退職」などの名称で、定年前退職の決断を迫られるケースがあります。この記事は、経済面での長期的な生活設計の視点を中心に、早期退職のメリットとデメリットを解説します。早期退職制度を活用した方の事例も参考にしてみてください。

早期退職で充実したセカンドライフを!老後資金や年金受給は計画的に

早期退職とは?

早期退職とは?

早期退職とは、定年よりも前に自発的に退職することをいいます。
近年では、早期退職を会社の制度として導入しているところもあります。その場合、「早期退職(優遇)制度」と「希望退職制度」があります。

早期退職制度と希望退職制度の違い

「早期退職(優遇)制度」は、従業員のキャリアプランの選択肢を広げてキャリアアップのニーズに応える点に重点を置いた会社施策です。したがって、退職事由を自己都合とする一方で、退職一時金を上乗せしたり、外部の人材紹介会社と提携して転職することを支援したりするなどの優遇措置が講じられる場合があります。

「希望退職制度」は、一般的に期間を定めて退職者を募る制度です。早期退職従業員のキャリアアップというよりは、企業業績の不振や組織改編、人事制度の改定などを目的とする点が異なります。したがって、退職事由は会社都合となる場合があります。一方で、早期退職(優遇)制度と同様に退職一時金の上乗せ、転職支援などの優遇措置が講じられる場合があります。

両者には明確な定義がないので、その制度の内容と、制度を利用した場合の退職事由が「自己都合」なのか「会社都合」なのかを確認することが重要です。後述しますが、会社都合退職の場合の方が、退職金の金額が増えたり、雇用保険の基本手当の受給期間が長くなったりするなどの措置があります。

「選択定年制」を取り入れている会社もある

会社の中には「ライフプラン制度」「キャリアプラン制度」などの名称で、人事制度のひとつとして「選択定年制」を導入しているところがあります。勤続年数などの要件を満たした人が、60歳より前の50歳以降や55歳以降の年齢に達したときに、退職を申し出ることができる制度です。

セカンドキャリアの支援を制度としている会社では、選択定年制により退職金を割り増して支給するなどの措置が盛り込まれていたり、再就職を支援する会社と契約して職業の紹介やキャリアカウンセラーによる相談を受けられたりする場合があります。

早期退職のメリット

早期退職のメリット

早期退職には、メリットがあります。自分の目的にあったメリットを得られるよう、判断の材料にしてみてください。

退職金が割増になる場合がある

一般的に退職一時金の金額は、計算の基本となる賃金に所定の率を乗じて計算します。その率は、自己都合より会社都合の方が高くなります。したがって、自己都合と比較して会社都合の退職一時金の方が金額は増えることになります。
退職一時金の割増によって、転職後の賃金の減少をカバーすることができます。ただし、退職一時金に所得税・住民税がかかる場合には、割増分が純増にならない場合もありますので注意が必要です。

セカンドキャリアをスタートできる

現在の仕事にモチベーションを保てなかった人は、心機一転、セカンドキャリアを実現するための制度として早期退職制度を利用することができるでしょう。将来の経済的な不安があると、なかなか転職に踏み出すことができません。
しかし、会社都合の退職となって、雇用保険の基本手当を受給するまでの期間が短縮されたり、受給期間を長く確保できたりすることで、自らが望むライフスタイルを実現できる会社を見つけられるかもしれません。前向きにじっくりと転職活動に取り組むことができるでしょう。

退職一時金の割増額によっては、それを独立・開業のための資金として活用し、個人事業主や会社経営者としての選択肢も出てきます。軌道に乗れば、生涯現役で働くこともできます。

老後の盤石な生活設計に寄与する

早期退職制度を利用して転職することで65歳まで就業が確保できる場合は、現在の会社に在籍するよりも生涯賃金が増える可能性があります。さらに資産形成を行う期間を延長することも可能で、退職後の生活資金を増やすことができます。
厚生年金の被保険者として就労する期間が延びれば、老齢厚生年金の金額も増加し、将来の公的年金の老齢給付を増やすこともできます。

会社都合退職の場合は雇用保険の給付が手厚い

会社都合退職の場合、雇用保険の基本手当(失業給付)は7日間の待期期間のあとすぐに給付されます。また、自己都合退職と比較すると、基本手当を受給できる期間が長くなるため、早期・希望退職の日に転職先が決定していなくても、当面の生活資金を確保することができます。

早期退職のデメリット

早期退職のデメリット

早期退職制度にはメリットがある一方でデメリットもあります。利用を検討するときは十分に注意しましょう。

収入が途絶える

自己都合退職となる場合、雇用保険の基本手当は、7日間の待期期間に加えて最長3ヵ月間は受給できません。また、転職までしばらくの間収入が途絶え、退職一時金や預貯金を取り崩さなければならないケースも考えられます。

現在の勤務先の退職金制度がすべて確定拠出年金の場合、積み立ててきた資金は60歳まで引き出しができない点にも注意が必要です。

再就職できない可能性がある

早期退職したものの、転職先がすぐに決まるかどうかはわかりませんし、転職候補先で提示される年収が希望するものよりも低くなる可能性もあります。そうなると、転職後の生活設計がうまくいかず、将来の老後資金の設計に支障が出ることになります。

また会社都合の退職の場合、なぜ退職しなくてはならなかったのか、という点を説明できなくてはいけません。もしかすると、問題を起こしてやめさせられたのか、仕事ができなくてクビになったのか、選考企業に懸念され転職活動に支障がでる可能性もあります。

割増退職金による所得税・住民税の負担に注意

退職一時金にかかる税金は、支給額と勤続年数によって変わります。退職一時金が早期退職によって割増され、勤続年数に比して金額が大きくなった場合は、高額の税金が差し引かれます。結果的に手取り額が割増分ほど増えない可能性がある点にも注意が必要です。

住まいや健康保険の手厚い補助がなくなる場合も

現在、勤務先の社宅に住んでいたり、住宅ローン金利の補助を受けるなど、勤務先の福利厚生制度を利用している人は、それらの利用を断念しなければなりません。健康保険組合の手厚い付加給付があった場合も、転職後は法定通りの給付となることもあります。

公的年金の受給額が減少する場合がある

さらに、公的年金にも留意すべき点があります。
転職後の収入が減少したり、転職できずに無職の期間があると、老齢厚生年金や遺族厚生年金の年金額が減少することもあります。また、現在の勤務先で配偶者が国民年金の第3号被保険者となっている場合、退職後再就職するまでその配偶者は第1号被保険者となり、国民年金保険料を納めなければなりません。

早期退職の前に注意するポイント

早期退職の前に注意するポイント

早期退職では、長期的な視点から検討を行い、慎重に決定する必要があります。

早期退職後の収支で生活できるか

早期退職することで、人生100年時代の経済的な裏付けがあるかは、最も重要な要素です。早期退職により得られる退職金、転職後の収入、公的年金の収入が、その後の支出をカバーできるかどうかを検証しましょう。具体的には、今後の年ごとの収支を反映した金融資産の推移をエクセルの表として作成する方法があります。

家族の同意が得られているか

特に配偶者の収入が少ない場合、教育費が多額にかかっている時期や住宅ローンが残っている時期などは、早期退職したあとの経済的な裏付けがないと、その後の生活設計に大きな支障をきたします。このような状況の中で退職することについて、配偶者などの家族の同意を取り付けることも必要です。

セカンドキャリアの選択肢があるか

早期退職後に転職する場合、セカンドキャリアの選択肢が明確になっているかも重要です。転職先企業の候補が具体的になっているか、そこで行う業務が明確となっているか、そのための準備を行っているか、なども重要です。

早期退職後のセカンドライフ例

早期退職後のセカンドライフ例

私は普段、セカンドライフの資金プランニングを業務として行っています。早期退職を検討しているときに相談を受けた人が、その後いきいきとセカンドライフを送っている事例をご紹介します。

転職して新しい会社で働く

Aさん(60歳)は、58歳のときに早期退職優遇制度を活用して転職しました。前職の人脈を活かして、小規模ながら65歳まで継続して働ける職場で活躍していらっしゃいます。前職のまま勤務していたならば60歳以降の収入は大幅にダウンするところ、現在の職場は前職の80%にダウンしましたが、その収入が65歳まで続きます。その結果、早期退職優遇制度の割増退職金と合わせて、60歳以降の収入の総額は前職を上回ることができました。

起業する

Bさん(65歳)は、59歳のときに希望退職制度を活用して退職しました。転職活動が不調であったため、方向転換して起業することを決意しました。現在は在職中のスキルを活かしてコンサルタントとして活躍しています。個人事業主であるため厚生年金を受給する場合でもカットされませんが、繰下げ受給して年金額を増やす予定とのことです。

趣味に没頭する

Cさん(55歳)は、若いうちから資産形成を計画的に行っており、割増退職金と合わせればある程度老後資金の目途も立ったということで、早期退職優遇制度を活用して退職しました。その後は就労せず、登山と山岳写真の撮影に没頭する生活を送っています。今後の金融資産の推移によっては、最近公的年金の繰上げ受給の際の減額率が引き下げられたことを契機に、60歳から公的年金を繰上げ受給することも検討しているそうです。

まとめ

早期退職とは、定年よりも前に自発的に退職することをいいます。退職金を割り増して支給するなどの措置が盛り込まれていたり、再就職を支援してもらえる場合もあります。一方でデメリットもあるため、判断は慎重に行う必要があります。

前述のように、早期退職して成功している人は、老後生活の資金的な裏付けをしっかりと確保し、具体的なプランニングを行っている点で共通しています。就労期間や収入金額の確保、在職中の自助努力による資産形成、公的年金制度の有効な活用、そして何よりも職業生活やプライベートの生活を「楽しむ」という、前向きな気持ちも必要であると痛感します。
独力でプランニングをすることが難しいと感じる人は、ファイナンシャルプランナーや銀行などの専門家のアドバイスを聞いてみることをおすすめします。

ご留意事項
  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。

RANKING

この記事もおすすめ