定年後の再雇用制度とは?再雇用では給与や雇用形態が異なる?制度を徹底解説

老後の生活資金確保のため定年後も働き続ける再雇用制度ですが、正しく理解していますか?今回は、再雇用制度の概要や給与や雇用契約の違い、利用する際の注意点などを解説します。「老後資金2,000万円問題」の報道を受け、定年後の働き方を考えておきましょう。

定年後の再雇用制度とは?再雇用では給与や雇用形態が異なる?制度を徹底解説

定年後の再雇用制度とは?

定年後の再雇用制度とは?

定年後の再雇用制度とは、定年退職をした従業員が同じ企業と再び雇用契約を結ぶ制度のことです。

ここでは、再雇用制度が導入された背景や、再就職・勤務延長制度との違いを解説します。再雇用制度の特徴を理解することで、自分自身に合った定年後の働き方を考えやすくなるでしょう。

再雇用制度の導入の背景

定年後の再雇用制度が導入された背景には、急速に進む少子高齢化の進展と、それにともなう労働人口の減少があります。

また、2013年に厚生年金の受給開始年齢が65歳に引き上げられたことも、再雇用制度が導入された要因の1つと考えられます。

受給開始年齢の引き上げにより、60歳で定年退職した後の5年間は、給与収入もなく年金も支給されず、世帯収入が著しく低下する可能性が生じました。

こうした背景から、2013年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、定年年齢を65歳未満としている企業に以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講ずることが義務づけられました。

1.65歳までの定年の引き上げ
2.65歳までの継続雇用制度の導入
3.定年の廃止

再雇用制度は、上記2の継続雇用制度の1種です。

【参考】厚生労働省「高年齢者の雇用」詳しくはこちら

厚生労働省の調査によると、65歳までの高年齢者雇用確保措置をすでに実施している企業は、99.9%でした。このうち、定年の引き上げにより対応した企業は26.9%であるのに対し、継続雇用制度を導入した企業は69.2%です。
多くの企業が再雇用制度などの継続雇用制度を導入することで、高年齢者雇用確保措置に対応しているといえます。

【参考】厚生労働省「令和5年 高年齢者雇用状況等報告」詳しくはこちら

再就職と再雇用制度の違い

再就職とは、定年を迎えた人が自分自身で就職先を見つける方法のことです。定年後再雇用は定年前と同じ企業で働きますが、再就職はハローワークや転職サイト、シルバー人材センターなどで新たな職場を探す点が異なります。

再就職であれば、給与や勤務時間などが自分自身の希望に合った企業を見つけて働くことが可能です。一方で、60歳以上の方を対象とした求人は少ない傾向にあるため、希望に合う就職先が見つからない可能性もある点には注意が必要です。

勤務延長制度と再雇用制度の違い

勤務延長制度は、定年を迎えた社員をそのまま継続して雇用する制度です。再雇用制度と同様、継続雇用制度の1種です。
定年後再雇用制度とは異なり、勤務延長制度は定年の年齢を迎えても退職扱いとはなりません。労働時間や給与体系、業務内容などは、定年前と変わらないのが一般的であり、定年を迎えたあとも同じような働き方ができます。
ただし、延長期間が終了して退職するまで、退職金は支払われません。

定年前と定年後の再雇用時の就労条件(契約・給与)の違い

定年前と定年後の再雇用時の就労条件(契約・給与)の違い

定年後再雇用制度を利用して働く場合、契約内容や雇用形態、業務内容、賃金などが変更される可能性があります。
再雇用制度を利用した働き方が、自分自身に合っているかどうかを判断するためには、定年前と労働条件がどのように変わる可能性があるのかを理解することが大切です。

再雇用後の契約・雇用契約

定年後再雇用の多くは、契約期間1年の「有期雇用契約」です。1年ごとに本人の意思や健康状態などを確認し、問題がなければ契約を更新できます。

また、企業によっては再雇用でも有期雇用契約が更新されて通算5年を超えた時は、本人の希望があれば期間の定めがない「無期労働契約」に転換することも可能です。
ただし、勤務先が適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局の認定を受けている場合、特例により無期労働契約には転換できません。

雇用形態は、正社員、嘱託・契約社員、パートタイマーなどが一般的です。再雇用の際に、雇用形態を変更することも可能です。フレックスタイム制度や在宅勤務制度などを利用し、通勤の負担を減らして働ける企業もあります。

【参考】厚生労働省「無期転換ルール」詳しくはこちら

再雇用後の業務内容

定年後再雇用では、定年前と同じ業務をするケースが多いようです。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、アンケートに回答した5,891社の82.6%が、再雇用の前後で仕事内容に変わりがないと回答しています。
また、仕事内容は同じではあるものの、責任の重さが軽くなると回答した企業は約38.4%でした。
定年後に業務内容が一部変更されることもありますが、まったく異なる業務をするケースは稀です。また「事務職から清掃員」のように、定年前と異なる業種になることはありません。

【参考】独立行政法人 労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」詳しくはこちら

再雇用後の給与・ボーナス

定年後の再雇用制度では、労働契約を結ぶ際に賃金を再設定します。多くの場合、再雇用後の給与は定年前と比較して下がります。また、ボーナスは支給されないのが一般的です。
一方で、再雇用制度を利用する場合でも、最低賃金を下回る心配はありません。
また、業務内容や業務量、責任の重さなどが同等である現役の正社員と比較して、再雇用後の給与が著しく低いと同一労働同一賃金に違反します。

再雇用後の各種手当

再雇用後も、勤務先が定める規定に準じて通勤手当や住宅手当、家族手当、精勤手当が支給されます。正社員に支給されているにも関わらず、合理的な理由もなく再雇用の社員に各種手当を支給しないことは違法です。
例えば、通勤手当は再雇用後も通勤ルートに変更がないのであれば、基本的には定年前と同様の金額を支給してもらえます。
一方、住宅手当や家族手当など一部の手当は、支給される趣旨から考えて合理的であれば、再雇用後に減額・不支給となる場合もあります。再雇用を検討する際は、手当に関する社内規定をよく確認しておくことが大切です。

再雇用後の福利厚生

有給休暇は、再雇用後も付与されます。有給休暇の付与日数は、定年前と通算した継続勤務年数に応じて決まります。
再雇用制度では一度退職はするものの、労働契約は存続しているとみなされるため、付与日数が決まる際の基礎となる継続勤務年数はリセットされません。
ただし、1週間あたりの所定労働日数に変更があると、有給休暇の付与日数も変更される場合があります。
その他の福利厚生制度は、再雇用後に対象外となるものもあります。現役時代と比較して、利用する福利厚生が減ることもあるため、再雇用制度の利用を検討する際に社内規定で確認するとよいでしょう。

再雇用後の社会保険

定年後再雇用を利用して働き始めたあとも、要件を満たせば社会保険に加入できます。社会保険は、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類です。
再雇用後も正社員などフルタイムで働く人や、所定労働時間および月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上である人は、健康保険、厚生年金保険、介護保険に加入できます。
契約社員やパート、アルバイトなどの短時間労働者の場合、健康保険や厚生年金保険、介護保険に加入するためには、以下の要件を満たさなければなりません。

・厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業で働いている
※2024年(令和6年)10月以降は51人以上
・週の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない

雇用保険は「週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上の雇用見込みがある」の2つを満たしていれば、再雇用後も加入できます。
労災保険は、定年後再雇用を利用して働き始めたあとも、引き続き加入します。

【参考】政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。」詳しくはこちら

再雇用制度を利用する流れ

再雇用制度を利用する流れ

再雇用制度を利用するためには、所定の手続きが必要です。おおまかな手続きの流れは、以下のとおりです。

1.再雇用制度が通知される
2.再雇用制度を利用する意思表示をする
3.勤務先と再雇用後の条件を話し合う
4.雇用条件の合意・再雇用の決定
5.定年退職の手続き
6.再雇用契約を結ぶ

定年退職を迎える従業員には、勤務先から再雇用制度の内容が通知されます。再雇用を希望する場合は、その旨を勤務先に伝え、必要に応じて「再雇用希望申出書」を提出しましょう。

次に、再雇用を希望する労働者と勤務先の担当者が個別面談をします。面談では、雇用形態や契約期間、賃金、諸手当など、再雇用後の雇用条件が提示されるとともに、本人の希望もヒアリングされます。
双方の認識に相違が生じないよう、よく話合ったうえで再雇用後の雇用条件を決めることが大切です。

雇用条件に合意し、再雇用が決まったあとは、定年退職の手続きを進めます。提出する書類や提出の期日などを前もって確認し、スケジュールに余裕を持って手続きをしましょう。
その後、勤務先と再雇用契約を結びます。雇用契約書に記載された雇用条件が、事前に勤務先と合意したものと相違がないかよく確認のうえ、手続きを進めていきます。

定年後に再雇用制度で働くメリット

定年後に再雇用制度で働くメリット

再雇用制度を利用して働き続けることで、定年後も安定した収入を得られます。国から支給される老齢年金だけでは生活が苦しくなると想定される場合、再雇用制度を利用して働き続けることで、セカンドライフの家計が楽になるかもしれません。
また、一般的に定年退職をした後は人間関係が希薄になりやすいですが、再雇用制度を利用することで、仕事を通じて職場の元同僚や元取引先との関係を継続できます。

定年前と同じ職場で働ける点も、再雇用制度のメリットです。長年培ってきた知識やスキルを発揮しやすいできる場があることで、老後の生活に充実感が得られる可能性があります。
健康状態や老後のライフスタイルにあわせて労働時間や勤務時間を調整し、心身の負担を軽減しながら勤めることも可能です。

定年後に再雇用制度で働くデメリット

定年後に再雇用制度で働くデメリット

再雇用制度の主なデメリットは、給与水準が下がる可能性があることです。定年前に比べて毎月の収入が下がり、そのままでは生活が苦しくなる場合「貯蓄を取り崩す」「生活水準を下げる」などの対処が必要になるかもしれません。

また、賃金の減少や雇用形態の変更などが要因となって、働くことに対するモチベーションが低下する恐れもあります。

そして、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら、再雇用制度を利用して働くと「在職老齢年金」という制度により、老齢厚生年金の受給額が減らされてしまうこともあります。
老齢厚生年金が減額されるのは、老齢厚生年金の月額と月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)の合計が50万円を超える時です。支給停止額の計算式は、以下のとおりです。

・支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-50万円※)×1/2
※令和6年度の支給停止調整額

65歳以降も働く場合や、老齢厚生年金を60〜65歳になるまでのあいだに繰り上げて受給しながら働く場合は、老齢厚生年金の受給額が減ってしまわないかよく確認することが大切です。

【参考】日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」詳しくはこちら

再雇用制度に関するよくある質問

再雇用制度に関するよくある質問

最後に、再雇用制度についてのよくある質問とそれに対する回答をご紹介します。

再雇用後はいつまで働ける?

多くの企業では、65歳までの雇用が義務付けられていますが、70歳までの雇用については努力義務となっています。
2021年(令和3年)4月に施行された改正高年齢者雇用安定法で、事業主(企業)に講ずるよう努めることが求められる措置は、以下のいずれかです。

1.70 歳までの定年の引き上げ
2.定年制の廃止
3.70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、ほかの事業主によるものを含む)
4.70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5.70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

【参考】厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」詳しくはこちら

65歳以降も働き続けられるかどうかは、企業の方針次第です。再雇用制度の利用を検討する際は、勤め先の企業で何歳まで働けるのかをよく確認することが大切です。

再雇用制度では退職金はどのように扱われる?

再雇用制度を利用する場合、定年退職時に退職金が支払われるのが一般的です。

ただし、企業によって退職金の取り扱いは異なるため、再雇用制度の利用を検討する際は勤務先の退職金規定をよく確認することが大切です。

再雇用制度では同一労働同一賃金になる?

再雇用制度を利用して働く人についても、同一労働同一賃金の対象になります。同じ企業で同一の仕事をしているにも関わらず、正社員で再雇用社員との待遇に不合理な格差を生じさせることは認められません。

ただし、職務内容や責任の度合いが異なるのであれば、賃金に差をつけることが合理的と判断される場合もあります。再雇用後の待遇については、企業とよく話し合いましょう。

働く以外で老後の収入源を増やす方法はある?

再雇用制度以外にも、収入源を増やす方法はあります。例えば、iDeCoや企業型確定拠出年金などの制度を活用して、自助努力で年金を準備するのも1つの方法です。

また、個人年金保険に加入すると、一定の年齢に達した時に一定期間または一生涯にわたって年金を受け取れます。

ほかにも、不動産投資をして家賃収入を得たり、株式投資で配当収入を得る方法もあります。

それぞれのメリットやデメリット、自分自身のリスク許容度(受け入れられる損失の度合い)などをもとに、自分自身に合った方法を慎重に検討することが大切です。

まとめ

再雇用制度を利用すれば、定年後も安定した収入を得ながら、社会とのつながりを維持できるでしょう。
ただし、給与水準が低下して生活が苦しくなったり、老齢厚生年金が減額されたりすることがある点には注意が必要です。
再雇用制度の利用を検討する際は、定年前後の就労条件の違いを確認するとともに、老後のライフプランにあっているかどうかを考えることが大切です。

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