万が一の時に知っておくべき「遺族厚生年金」とは?支給条件やもらえる期間を徹底解説

保険料を支払った本人が受け取る「国民年金」や「厚生年金」以外に、本人の死亡後、その配偶者や子どもに支給される「遺族年金」があるのをご存知ですか? 今回は遺族年金の中でも「遺族厚生年金」をクローズアップ。遺族厚生年金をもらうための条件やもらえる期間について詳しく解説します。

万が一の時に知っておくべき「遺族厚生年金」とは?支給条件やもらえる期間を徹底解説

そもそも遺族年金とは?

そもそも遺族年金とは?

遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者だった人が亡くなった後に、配偶者や子どもなど、その人によって生計を維持していた遺族が受け取ることのできる年金です。

遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった被保険者が加入していた年金の種類やその納付状況などによって、遺族にいずれかまたは両方の年金が支給されることになっています。なお、遺族年金を受給するには以下のとおりさまざまな条件が設けられており、遺族だからといって必ずしも遺族年金がもらえるわけではありません。

遺族基礎年金(国民年金)

遺族基礎年金(国民年金)

国民年金の被保険者が亡くなった場合、その人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」は、子が18歳になって最初の年度末を迎えるまで(子が1級・2級の障害者である場合は20歳になるまで)、遺族基礎年金を受け取ることができます。

遺族基礎年金は、いわば「子どもを養育するための年金」であり、子どもがいない配偶者には支給されません。また、子どもが上記の年齢を超えるなどして遺族基礎年金の支給対象から外れた場合は、その人数分の子の加算が減額され、支給対象となる子どもが1人もいなくなれば、遺族基礎年金は支給されなくなります。

遺族基礎年金の概要

●支給要件
被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
(死亡した者の保険料納付済期間が、免除期間を入れて加入期間の3分の2以上ある者に限る)。

ただし、2026年(令和8年)4月1日前の場合は死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに、保険料の滞納がなければ受けられます(※)。

※例えば、被保険者が2021年2月に死亡した場合、「2020年1月〜12月まで」の間で保険料の滞納がなければ受給が可能

●支給対象者
死亡した者によって生計を維持されていた、「子のある配偶者」又は「子」。ここでいう「子」とは次のものに限られます。

 ・18歳到達年度の末日を経過していない子
 ・20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子

●支給額
 78万1,700円+子の加算
 ※子の加算:第1子・第2子は各 22万4,900円、第3子以降は各7万5,000円。


なお、子が遺族基礎年金を受給する場合の加算は第2子以降について行い、子1人あたりの年金額は、上記による年金額を子供の数で割った額となります(※)。

※子が3人で遺族基礎年金を受給する場合、年金額は「78万1,700円+22万4,900円×2(第2子と第3子分の加算)=123万1,500円」となり、子はそれぞれ受け取る金額は「123万1,500円÷3(人)=41万500円」となる。

※【参考】日本年金機構ホームページ「遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」 詳しくはこちら

遺族厚生年金(厚生年金)

一方、厚生年金保険の被保険者だった人が亡くなった場合、その人によって生計を維持されていた遺族は、遺族厚生年金を受け取ることができます。前述の通り遺族基礎年金は子のない配偶者には支給されませんが、遺族厚生年金は子のない配偶者にも支給されます。

遺族厚生年金の概要

●支給要件
以下の①~③のいずれかの要件を満たす場合に支給されます。
①被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき。(ただし、遺族基礎年金と同様、死亡した者について、免除期間を含む保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上あること)
②老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。
③1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき。

●支給対象
死亡した者によって生計を維持されていた

 ・妻
 ・子、孫(子と孫についてはいずれも18歳になって迎える年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)
 ・55歳以上の夫、父母、祖父母

遺族厚生年金受給の優先順位は?

遺族厚生年金の受給資格には以下のとおり優先順位があります。

子(18歳になって迎える年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の障害者に限る)がいる配偶者と子には、遺族基礎年金も合わせて支給されます。なお、子がいない30歳未満の妻には、5年間に限り遺族年金が支給されることになっています。これは、子供がいない若い女性は就職して生活の再建がしやすいという考え方に基づいています。

優先順位1位

・子のある妻
・子のある55歳以上の夫(支給開始は原則として60歳から※)
・子(18歳になって迎える年度末まで、障害等級が1級・2級の場合は20歳になるまで)

優先順位2位

・子のない妻(30歳未満の場合は5年間のみ支給)
・子のない55歳以上の夫(支給開始は原則として60歳から※)

優先順位3位

・55歳以上の父母(支給開始は60歳から)

優先順位4位

・孫(18歳になって迎える年度末まで、障害等級が1級・2級の場合は20歳になるまで)

優先順位5位

・55歳以上の祖父母(支給開始は60歳から)

※夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、60歳前でも遺族厚生年金を合わせて受給できます。

遺族厚生年金の支給額は納付期間や報酬で異なる

遺族厚生年金の支給額は納付期間や報酬で異なる

遺族基礎年金の支給額は上記のとおり基本支給額も子の加算額も一律で定められていますが、遺族厚生年金の支給額は死亡した人が厚生年金に加入していた期間やその期間の報酬(給与や賞与など)の額によって異なります。下記の計算式「A」「B」にあるとおり、遺族厚生年金の支給額の計算のもととなる報酬は、2003年(平成15年)3月までは「平均標準報酬月額」で、同年4月以降は「平均標準報酬額」となっています。「平均標準報酬月額」には賞与が含まれませんが、「平均標準報酬額」には賞与を月数で割った金額が含まれているという違いがあります。

遺族厚生年金支給額は、原則として次の「A」の計算式で算出します。ただし、「B」の計算式で算出したほうが金額が多い場合は、その金額が支給されることになります。計算式がとても難しいので、支給額を知りたい場合は、最寄りの年金事務所に相談してみるとよいでしょう。

■計算式A

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■計算式B

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※【参考】日本年金機構ホームページ「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」詳しくはこちら

遺族厚生年金の寡婦加算とは?

遺族厚生年金の寡婦加算とは?

遺族厚生年金には寡婦加算制度が設けられています。寡婦加算には「中高齢の寡婦加算」と「経過的寡婦加算」のふたつがあります。

①中高齢の寡婦加算

遺族基礎年金は子どものいない妻には支給されません。また、子がいてもその子が18歳(18歳の誕生日の属する年度末まで)または20歳(1級・2級の障害の子)に達すれば支給されなくなります。

ただし、夫が死亡したときに40歳以上で子のない妻(夫の死亡後40歳に達した当時、子がいた妻も含む)が受ける遺族厚生年金には、本人が40歳から65歳になるまでの間、中高齢の寡婦加算(※)が加算されることになっています。なお、妻が65歳になると自分の老齢基礎年金が受けられるようになるため、中高齢の寡婦加算はなくなります。

※中高齢の寡婦加算の加算額は老齢基礎年金の約4分3の額が目安。

②経過的寡婦加算

遺族厚生年金を受けている妻が65歳になり、自分の老齢基礎年金を受けるようになると、65歳までの中高齢寡婦加算に代わり「経過的寡婦加算」が加算されます。

経過的寡婦加算は老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算の額に満たない場合に、65歳以降の年金受給額が低下するのを防ぐために支給されるものです。経過的寡婦年金の支給額は、1986年年4月1日に30歳以上(1956年4月1日以前生まれ)の人が、60歳までの国民年金に加入可能な期間をすべて加入した場合の老齢基礎年金の額と合算して、ちょうど中高齢寡婦加算の額となるよう、生年月日に応じて設定されています。

遺族厚生年金はいつまでもらえるの?

遺族厚生年金はいつまでもらえるの?

以上、遺族厚生年金の概要について見てきましたが、遺族厚生年金はいつまでもらうことができるのでしょうか?
受給者別に受給できる期間をまとめると、以下のようになります。それぞれ、子どもがいる場合といない場合、また夫が亡くなったときの妻の年齢により異なります。

受給者が妻の場合

子ども無し

夫が亡くなったときの年齢 支給期間
30歳未満 5年間
30歳以上 一生涯(中高齢寡婦加算ももらえる)

子供あり

夫が亡くなったときの年齢 支給期間
全年齢 一生涯(中高齢寡婦加算ももらえる)

受給者が夫の場合

子ども無し

夫が亡くなったときの年齢 支給期間
55歳未満 5年間
55歳以上 一生涯(支給は60歳から)

子ども有り

夫が亡くなったときの年齢 支給期間
55歳未満 需給なし
55歳以上 一生涯

受給者が子・孫の場合

受給できる期間は、18歳になって迎える年度の末日(障害等級1級・2級の障害の状態にある場合は20歳未満まで)を経過するまでです。受給期間中であっても、子や孫が結婚した場合や養子縁組をした場合は、支給が停止されます。

遺族厚生年金よくあるQ&A

ここからは、遺族基礎年金に比べ、やや複雑な遺族厚生年金に関して、多くの人が疑問に思いがちなことに対して解説します。

Q1. 夫の死後に遺族厚生年金をもらっていた妻が再婚した場合、引き続き遺族厚生年金をもらうことができますか?

A1. 再婚すると遺族年金はもらえなくなります。
再婚すると遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに受給資格を失います。遺族厚生年金を受けていた人は、再婚後10日以内に年金事務所や年金相談センターで、所定の届出書に結婚した年月日、マイナンバーカード等に記載されているマイナンバーなどを記入し、年金証書を添えて提出してください。遺族基礎年金のみを受け取っていた人も、市町村役場の国民年金担当窓口に同様の届出を行う必要があります。なお、届出が遅れ、再婚の翌月以降の分も遺族年金を受け取っていた場合は、その分を返還しなければなりません。

Q2. 遺族厚生年金は課税されますか?

A2. 課税されません。
国民年金法第25条および厚生年金法第41条第2項の規定により、遺族年金は、遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに非課税であり、支給額の多寡に関わらず所得税も相続税も課税されません。したがって、その年の収入が遺族年金のみの場合は、原則として確定申告をする必要もありません。

Q3. 離婚した夫の遺族厚生年金を元妻がもらうことはできますか?

A3. できません。
遺族年金を受け取れるのは、被保険者の「配偶者」です。離婚して婚姻関係が解消されると妻は夫の配偶者ではなくなるため、離婚した夫の遺族年金を受け取ることはできません。ただし、離婚した夫との間に子(※)がいる場合で、その子と離婚した夫が生計を一にしていた場合(仕送りや養育費を受けていた場合を含む)は、その子が夫の遺族基礎年金または厚生年金を受け取ることができます。ただし、その子が母と同居するなどして母と生計を一にしていた場合は、遺族基礎年金を受け取ることはできません。

※18歳になって迎える年度の末日(障害等級1級・2級の障害の状態にある場合は20歳未満まで)を経過していない子

Q4. 遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金を同時に受け取ることはできますか?

A4. 原則として自分の老齢厚生年金が優先されます。
日本の公的年金は一人一年金が原則のため、複数の年金を同時に受け取ることはできません。仮に65歳になって老齢厚生年金の受給資格を得た場合は、老齢厚生年金が優先して支給されます。ただし、老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額を下回るときは、遺族厚生年金と老齢厚生年金との差額が遺族厚生年金として支給されることになっています。

まとめ

遺族年金には国民年金の被保険者の遺族に支給される「遺族基礎年金」と厚生年金の被保険者の遺族に支給される「遺族厚生年金」とがあります。遺族厚生年金の支給額は被保険者の保険加入期間やその期間の報酬の多寡によって異なります。また、遺族が遺族厚生年金を受給できる期間についても、被保険者が亡くなったときの年齢や子どもの有無によって異なるため、一概には言えません。遺族厚生年金には細かい決まりがあり、受給額を求める計算も難しいので、受給額や受給期間について確認したい場合は年金事務所に問い合わせるか、もしくはファイナンシャル・プランナーや銀行の担当者などに相談すると良いでしょう。

【参考】日本年金機構ホームページ「遺族年金について」詳しくはこちら
【参考】日本年金機構ホームページ「年金Q&A」詳しくはこちら
【参考】国税庁ホームページ「遺族の方に支給される公的年金等」詳しくはこちら

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