役職定年制度とは?仕事内容や給与・年金額を確認して定年に備えよう

定年退職前に役職を解かれる「役職定年制度」は、キャリアプランの再構築ができるなどのメリットがある一方、給与や老齢厚生年金が減額されるなどのデメリットもあります。この記事では、役職定年制度の概要やメリット・デメリット、対象者が準備すべきことを紹介します。セカンドライフを充実させるためにも、人生設計を行いましょう。

役職定年制度とは?仕事内容や給与・年金額を確認して定年に備えよう

役職定年制度とは?

役職定年制度とは?

役職定年制度とは、部長や課長などの役職者が、ある一定年齢を超えるとその役職から外される制度です。「管理職定年制度」とも呼ばれます。すべての企業で採用されてはいませんが、規模の大きな企業ほど導入している傾向にあります。

人事院の2017年の調査では、企業規模500人以上の企業で30.7%が導入済みです。国家公務員も2023年4月から役職定年制が始まりました。

役職定年に類似する制度として「役職任期制」がありますが、こちらは事前に役職の任期を定めて登用する制度です。年齢で役職の定年となる役職定年制とは異なります。

【参照】人事院「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要(PDF)」詳しくはこちら

役職定年の対象者

役職定年制度は部長や次長、課長、係長、主任、マネージャー、所長などの役職に就く人が対象となります。ただし、企業の組織形態によって対象となる役職はさまざまです。
例えば外資系やベンチャー企業であれば、独自の昇進コースやポストが定められているでしょう。

役職定年を迎えた後のポジションも企業によって異なります。元の役職と同格の専門職やキャリア職で迎えられたり、役職定年前に異動したうえで格下のライン職に就いたりするケースが見られます。

対象となる年齢については、役職定年制度を導入している企業の多くが55歳~60歳です。

【参照】e-Stat政府統計の総合窓口「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査」詳しくはこちら※表番号50

役職定年制度の導入背景

役職定年制度が導入されたのは、1980年代から実施された60歳定年制への移行がきっかけとなったケースが多いとされます。それまで55歳定年が一般的でしたが、1986年に高年齢者雇用安定法により、60歳定年が企業の努力義務となりました。

その後、1994年には公的年金制度が改正され、厚生年金(定額部分)の支給年齢が60歳から段階的に65歳へ引き上げられました。さらに、2000年には報酬比例部分の支給年齢も65歳へと引き上げられました。中高年社員は定年後の収入の確保が課題となり、国は企業に60歳未満の定年禁止と希望者は65歳まで雇用することなどを義務化しています。

一方で企業は中高年社員を多く抱えることになります。役職者に高い給与を払い続けることが厳しくなり、役職を解いて雇用を継続できるように役職定年制度を導入しました。つまり人件費の削減が主な目的です。同時に、若手社員にポストを与える機会とし、企業の世代交代を進めることも理由でした。役職定年により強制的にポストに空きが出れば若手が役職に就くことができ、「組織の活性化」や「若手の育成」を促進できます。

役職定年制度の導入状況

前述した人事院の2017年の調査では、企業規模500人以上の企業で30.7%が役職定年制度を導入しており、国家公務員も2023年4月から役職定年制が始まりました。さらに規模の小さい企業でも導入は進んでおり、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査では、301人以上規模の企業の35.2%がすでに導入し、導入の検討も含めると46.2%に達します。
一方、社員数が100人以下の企業では、導入も検討もしていない割合が68.2%というデータもあります。

定年年齢によっても導入状況は異なります。定年が64歳以下で継続雇用が65歳までの企業は、役職定年の導入割合が30.5%ともっとも高いですが、継続雇用が66歳以上だと24.3%と下がります。65歳以上の定年制を採用している企業では19.7%とさらに低くなります。

今後の労働力人口の減少を見越して役職定年制度を廃止した企業もあります。人事院の調査では、社員500人以上の企業で役職定年制がない企業のうち、「廃止した」企業が10.8%でした。役職定年制を導入している企業でも「廃止を検討」している割合が4.3%でした。

【参照】高齢・障害・求職者雇用支援機構「資料シリーズ1 調整型キャリア形成の現状と課題 第8章 役職定年制度の導入状況とその仕組み」詳しくはこちら
【参照】人事院「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要(PDF)」詳しくはこちら

役職定年制度のメリット

役職定年制度のメリット

企業にとって役職定年制度は人件費の削減につながるためメリットがあります。一方、役職を解かれる方は、役職定年制度にマイナスの印象を抱くかもしれません。しかし役職定年は年齢が上がっても本人の希望に沿って働き続けられる制度です。働く方にとってのメリットも多くあります。

キャリアプランの再構築が可能

役職に就いているときは自身の努力や結果よりも、担当部署の成績や結果が重視され、責任範囲も大きくなります。また、何かに特化した技術や専門スキルよりも、全体の業務を見渡せる管理能力や判断力が必要です。

役職を外れれば、自身が得意とする業務の知識をさらに学んで深めたり、若手の育成や技術の継承などの役割を得たりと、キャリアプランを再構築できます。

無理なく働くことができる

役職の肩書があると経営層からの要求や期待に応える必要があり、仕事に対するプレッシャーも大きいでしょう。中には部下の指導で心身をすり減らしている方がいらっしゃるかもしれません。仕事にやりがいは感じていても、知らず知らずのうちにストレスが蓄積して体調を崩し、休職してしまうケースもあります。

中高年になると体力的に厳しいと感じる場面が増えるため、働き続けるための体調管理が必要です。役職定年を迎えれば、一社員として自分のペースで無理なく働けます。家族との時間を増やすなど、ワークライフバランスの改善にもつながるでしょう。

若手の育成を通じてやりがいを感じられる

年功序列で役職に就く仕組みだと、どんなに優秀な若手人材がいても中高年になるまでポストには就けません。管理職になってさまざまな経験や実績を積む機会を逃してしまいます。企業が永続的に発展していくためには、常に次世代の幹部を育成できる環境を整えておくことが必要でしょう。

役職定年制があれば、優秀な人材の成長意欲を活かし、早くから管理職経験を積んでもらえるので、若手社員の働く意欲にもつながります。役職定年を迎えた方の中には、こうした若手人材の育成に力を入れることで成長を促し、やりがいを感じている方も少なくありません。

役職定年制度のデメリット

役職定年制度のデメリット

役職定年はこれまで積み上げてきたキャリアをいったんリセットすることになるため、さまざまな影響があります。役職定年を迎えた後のデメリットも確認しましょう。

給与が下がる

役職定年でもっとも大きなデメリットは多くのケースで給与が下がることです。役職に就くと基本給が上がり、それに伴って賞与が増え、役職手当も付きます。役職定年になるとこれらの収入が減るため、家計への影響は避けられません。住宅ローンや教育資金、老後資金などの経済的課題を抱えている場合は、資金計画を見直す必要があります。働きがいでもある給与が下がるのは働く意欲の減退にもつながります。

なお、退職金は勤続年数に応じて金額が決定することが多いため、影響を受けることはほとんどありません。

仕事のやりがいがなくなる

仕事に対する張り合いをなくすことも少なくありません。重い責任のプレッシャーがあったからこそ、仕事へのやりがいを感じる方も多くいらっしゃいます。

特に昇進の階段を順調に上がってきた方にとっては、これまでの頑張りを証明する肩書がなくなることは、モチベーション低下につながります。自分に求められている役割が分からなくなり、部下の手本となるように率先して新しいプロジェクトに挑戦することもなくなるかもしれません。対象年齢が近づいている方はキャリアプランの見直しが必要でしょう。

新たな職場環境でのストレス

役職定年後も同じ部署に在籍する場合は、これまでの指導する立場から、新しい役職者や社員をフォローする立場に変わるため、環境の変化に適応するのに苦労します。中には資料が配布されなかったり、定例会議の案内がなかったりして情報不足に陥る、職場でコミュニケーションの機会が減って孤立感を覚えるといったケースもあります。

一方、新しい部署に異動した場合は、これまでの経験や知識が役に立たず、若手社員に交じって学び直さなければなりません。それを負担に感じる方にはかなりのストレスです。役職定年後の新しい変化に対応するためには、仕事への姿勢や意識の切り替えも必要でしょう。

年金の受給額が減る

会社員の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建てで算出されます。役職定年で給与や賞与が下がると、それに連動して老齢厚生年金の受給額が減ります。

老齢厚生年金の支給額(年額)は
「平均標準報酬額×5.481÷1,000×厚生年金加入月数」
で算出できます(2003年4月以降の加入期間)。

例えば月収50万円で10年勤務すると、
「50万円×5.481÷1,000×120」
となり、老齢厚生年金の受取額は32万8,860円です。

一方、役職定年を迎えたため10年間のうち4年間は月収40万円だった場合、月収40万円の期間の標準報酬額が41万円となり、
((50万円×72)+(41万円×48))÷120×5.481÷1,000×120
と10年間の総額の平均で計算され、約30万5,180円になるため、役職定年がなかった場合と比べて2万3,000円以上の減額です。

【参照】日本年金機構「報酬比例部分」詳しくはこちら

年下の上司が遠慮する

役職定年制度が定着すれば、企業の役職者は決められた年齢以下のメンバーで構成されます。新しい役職者からすると、部下に自分より年長の社員が増えることになり、「年上の部下に対して偉そうなことは言えない」「厳しい要求をしづらい」といった心理的な遠慮をしがちです。そのような状況は他の部下から見ると、上司の管理能力に不信を抱いたり、不安を覚えたりすることもあり得ます。世代交代を進めたはずが、かえって職場の風通しが悪くなりかねません。

役職を退いた方が新たな役職者や周囲に対して「遠慮しないで業務を遂行してほしい」と伝えることや、新たな役職者にマネジメントやコミュニケーションを学んでもらうことも必要でしょう。

役職定年で給与はどのくらい下がる?

役職定年で給与はどのくらい下がる?

役職定年を迎えると、一般的には元の年収の20%ダウンすることが多いようです。元の年収が500万円だと一気に100万円ダウンしてしまいます。

公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団が2018年に発表した調査報告書によれば、役職定年を経験した方の90%以上が年収減となり、全体の約40%は役職定年後の年収が50%未満に下がりました。役職定年前と年収が変わらない方は10%もいませんでした。

【参照】公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団「50代・60代の働き方に関する調査報告書(PDF)」詳しくはこちら

定年退職の前に準備しておくべきこと

定年退職の前に準備しておくべきこと

役職定年を迎えたら、定年退職の準備も進めておく必要があります。50代・60代で役職に就いている方は、今から準備できることを知っておきましょう。

定年退職後の仕事内容を確認する

就業規則を調べ、定年退職後に再雇用制度があるのか、あれば何歳まで雇用されるのかを確認します。企業によって継続雇用される年齢は異なります。再雇用された場合の仕事内容や所属部署なども変わるケースがあるため確認が必要です。これまで通り常勤なのかパート勤務なのかなど、勤務形態も確認しましょう。

定年退職後の収支をシミュレーションする

定年退職後に再雇用されたとしても、収入ダウンは避けられません。仕事量が減少し、勤務時間を短縮して再雇用されるケースが多いためです。

国税庁が公表した2021年の民間給与実態統計調査で「年齢階層別の平均給与」を確認すると、55歳~59歳の平均給与は男性が687万円、女性が316万円のところ、60歳~64歳では男性が537万円、女性は262万円に減少しています。60歳までの現役世代と60歳~64歳の定年世代を比べると、男性で約22%、女性は約17%減少していることが分かります。

また経済メディアが2021年に実施したアンケートでは、再雇用後の年収は定年前の40~60%程度にまで下がったという回答が全体の半数を超えました。

一方、毎月の生活費は以前と変わりません。2021年の家計調査報告によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の支出は25万5,100円です。これに対して実収入は23万6,576円なので1万8,524円が不足しています。不足分は老後資金に頼るか、働いて収入を得る必要があります。

【参照】国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査(PDF)」詳しくはこちら
【参照】日経ビジネス「定年後の就労に関する調査」詳しくはこちら
【参照】総務省「家計調査報告 家計収支編 2021年(令和3年)平均結果の概要(PDF)」詳しくはこちら

セカンドライフのプランを考える

退職後に再雇用されて働いたとしても、年数は限られるケースが多いでしょう。そこで、これまで仕事を中心に考えてきた人生設計をいったんリセットし、セカンドライフの計画に着手することをおすすめします。

仕事に多く充てていた時間がフリーになるので、仕事に代わるような趣味やボランティア、地域活動に参加するのも選択肢です。今まで時間が取れずにあきらめていた学びの時間に充てることもできます。退職金がある方は、定年後に生活環境の便利なマンションに住み替える、憧れの田舎暮らしを始めるなども可能でしょう。

ただし、退職金は老後の生活を支える大切な資金です。多額の退職金が振り込まれて気が緩み、無計画に使うと老後の生活が苦しくなってしまいます。希望するセカンドライフを実現するためにいくら必要なのか、病気や介護などのリスクに備える余裕はあるのかといった点も忘れずに確認しておきましょう。

新たな活躍先を求めて転職を検討する

老後資金が不足すると予想される場合や仕事の張り合いを求める場合などは、新たに転職先を探すのもひとつです。ハローワークやシルバー人材センター(60歳以上)で探すほか、縁故を活用した転職も多く見られます。再就職するときは失業手当の申請期間に注意し、働きながら受け取れる在職老齢年金が減額されないように収入と照らして検討しましょう。

まとめ

役職定年は一定年齢に達すると役職を解かれる制度です。給与は下がるケースが多いですが、キャリアの再構築や働き方の見直しができます。定年後の退職に向けた準備期間にもなるので、今から備えておきましょう。

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