定年退職後にかかる税金とは?住民税の注意点や源泉徴収について解説

在職中には、所得税や住民税等の税金が給料から天引きされています。見落としてしまいがちですが、実は定年退職後にも払わなければならないさまざまな税金があります。この記事では、退職金にかかる所得税や退職後に納付書が届く住民税等、注意が必要な退職後の税金について解説します。

定年退職後にかかる税金とは?住民税の注意点や源泉徴収について解説

定年退職後にかかる税金

定年退職後にかかる税金

会社員として働いている時には、住民税や所得税等の税金は給料から自動的に引かれます。勤務先がまとめて税金を納付し、年末調整までおこなうため、自分で納税をする必要はありませんでした。

長年勤めた会社を定年退職したあとには、給与所得がなくなるため税金を払う必要がなくなると思いがちですが、実際には払わなければならない税金があるため注意が必要です。定年後でも払う税金の種類には、以下のようなものがあります。

・所得税
・住民税
・固定資産税

所得税

定年後にまた働き始めた人や、ほかの所得がある人は所得税を支払う必要があります。また、年金は雑所得と見なされるため、金額が一定ラインを超えている場合には所得税を払わなければなりません。

この一定ラインとは、基礎控除と公的年金控除を足した控除範囲内の金額のことを指します。控除額は年齢や収入等によって違いがありますが、基準となる控除額のラインは以下のように定められています。

年齢別の年金控除額

年齢 控除の内訳 合計控除額
65歳未満 ・公的年金控除60万円
・基礎控除48万円
108万円
65歳以上 ・公的年金控除110万円
・基礎控除48万円
158万円

【参考】国税庁「基礎控除」詳しくはこちら
【参考】国税庁「公的年金等の課税関係」詳しくはこちら

つまり65歳以上で年金受給額が158万円以下、もしくは65歳未満で受給額が108万円以下であれば課税されることはありません。年金に所得税がかかる場合、控除額を引いた所得から、5%が所得税、さらにその所得税の2.1%が復興特別所得税として合わせて5.105%が差し引かれます。基本的に所得税は年金から引かれて徴収され、差額が預金口座に振り込まれます。

年度途中に定年退職して会社で年末調整を受けていない時には、自分で確定申告をして所得税を精算しなければなりません。退職後その年内に所得がなかった場合等では、所得税が還付される可能性もあります。

住民税

退職後には住民税も払う必要があります。住民税は「前年度の収入」にかかる税金です。1月から12月の所得をもとに税額が計算され、翌年6月から納付が始まります。そのため前年度会社員だった時の収入が高く、高額の住民税を翌年支払う時には退職後で所得が下がっていたり、収入がなくなっていたりするケースでは、税金の支払いが苦しくなることがあります。

住民税は、在職中は毎月の給料から引かれていましたが、自分で納付しなければなりません。住民税の納付方法は一括納付と分割納付のどちらかを選べます。一括納付の場合は6月30日まで、分割納付の場合は6月30日、8月31日、10月31日、翌年1月31日の4回に分けて納付します。

また、年金を受け取っている場合には、所得税と同じく年金の額に応じて住民税がかかります。所得が一定以下の場合には税金が非課税ですが、住民税がかかる場合には基本的に所得の10%分の税額を払わなければなりません。ただ、自治体によっては、財政の関係上税率が変更されているケースもあるため、住民税の場合は自治体により税額が多少異なります。

固定資産税

土地や住居等の不動産を所有している場合には、土地と住居それぞれに固定資産税を支払わなければなりません。固定資産税額は、固定資産評価額に1.4%をかけた金額です。
固定資産税の金額は、立地や土地の広さ、建物の大きさ等によって異なり、評価額をもとに計算されます。持ち家の場合は家賃がかかりませんが、固定資産税の納税が必要になるため、定年退職後にも税金を支払い続けることを考慮して資金計画を立てておくことが大切です。

定年退職後の住民税の注意点

定年退職後の住民税の注意点

定年後の住民税は、退職時期によって税金が異なることと、退職後1年は住民税が高いことに注意が必要です。以下で解説する住民税の注意点をよく理解し、前もって計画を立てておくことが大切です。

退職の時期によって税金が異なる

1つ目の注意点は、退職金から1年分の住民税のうち、未納分が引かれるため退職の時期によって税金が異なります。在職中の場合、住民税は1月~12月末までの収入が確定してから税額を計算し、翌年の6月~翌々年5月の間に毎月の給料から前年度分の税金が引かれます。退職した場合は、退職の時期により翌年5月までの残りの住民税が、給与もしくは退職金から引かれます。
1月~5月に退職する場合は、5月まで毎月支払う予定だった住民税が退職月の給料や退職金から引かれます。
そして6月~12月に退職をした場合は、退職した月の翌月から自分で住民税を支払わなければなりません。退職後は自宅に納付書が届くため、毎月ではなく6月、8月、10月、1月に納付書で支払います。

例えば、10月に退職するなら10月分までは給与から引かれますが、その後は自分で納付をします。2月に退職するなら3月~5月までの住民税は給与や退職金から天引きされるといったイメージです。つまり、時期によっては退職金から住民税が多く引かれてしまうことがあります。

退職後1年は住民税が高い

2つ目の注意点は、住民税は去年の所得をもとに計算されるということです。退社した翌年は、給与等の収入がなくても働いていた昨年の所得をもとに計算された住民税を払わなければなりません。

退職した年の翌年6月に納付書が届くため、一括納付か4回の分割納付かのどちらかを選んで期日までに納付します。給料から引かれていた時とは異なり、自分でおこなうため納期を過ぎると延滞税が課せられる場合もあるため、注意が必要です。

住民税は、前年の1月から12月における所得の10%が基本となります。急激に給料が減った退職後に支払うには負担が大きい金額です。住民税の仕組みを理解し、定年退職前から住民税として納付するためのお金を用意しておくことが大切です。

定年退職後の税金の控除

定年退職後の税金の控除

定年退職後に受け取る所得には、退職金や年金等があります。定年後の所得にも税金は発生するため、税金の控除について把握しておくと税負担を軽減できる可能性があります。

退職所得控除額

退職金にも給料と同様に、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。退職金には控除額が設定されていますが、受け取り額によっては税金が発生します。退職金にかかる税金は口座に振り込まれる前に引かれる部分もあるため、実際の額面をそのまま受け取ることはできません。

退職金は長い間働いてきたことに対する報償的な意味をもつお金のため、一度にもらう額は大きくなります。高額になる所得を通常の給料と同様の方法で計算すると、多額の税金を支払わなければならないため退職金は、毎月の給料とは違った特別な方法を用いて税額を計算します。

退職金には、退職所得控除と呼ばれる税負担を軽減するための特別な控除があります。所得税を計算する時には、退職金から退職金控除額を引き、1/2を掛けて(勤続年数が5年以下の場合、300万円を超える部分については1/2は掛けない)課税退職所得金額を算出します。さらに、そこから所得税率を掛け、控除額を差し引きます。退職金が退職金控除額より少ない時には、税金がかかりません。

退職所得控除額はこれまで働いてきた年数によって変わります。計算式は以下の通りです。

【退職所得控除額】
・勤続5年以下(300万円超)=150万円+[収入金額-(300万円+退職所得控除)]
・勤続20年以下=40万円×勤続年数
・勤続20年超=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※1年に満たない勤務期間がある時には、1日であっても1年として計算します。
※障害者となったことが退職の直接の原因だった時は、退職所得控除額に100万円を加算します。

出典 

公的年金等控除額

定年退職後に受け取る年金も一定額を超えると所得税等の税金がかかります。公的年金等控除額は、年金収入からそのまま差し引くことが可能です。
また、公的年金等控除額に加え誰でも所得から引くことが可能な控除に「基礎控除」があります。基礎控除額と公的年金等控除額とを合わせた金額が、年金が非課税になる金額です。
基礎控除額は、収入額等に影響を受けない一律に定められている控除です。従来は38万円でしたが、2020年に改正があり、現在の48万円に変わりました。

公的年金等控除額は年齢や年金、収入額によって変わります。65歳未満では最低額が60万円、65歳以上が110万円です。基礎控除額と公的年金等控除額を足した金額は、65歳未満が108万円、65歳以上が158万円となります。この金額以内に収まっている年金部分には税金がかかりません。

退職金の源泉徴収の計算方法

退職金の源泉徴収の計算方法

それでは実際に退職金にはどのくらいの税金が差し引かれるのでしょうか。詳しい計算方法と金額の目安をシミュレーションします。

1.まず、受け取った退職金収入から退職所得控除額を引き、さらに1/2を掛けて課税対象となる課税退職所得金額を出します。

【計算式①】(退職金-退職所得控除額)×1/2
※1,000円未満切り捨て
※勤続5年以下で300万円超の場合は、300万円を超えた部分は1/2しない

退職所得控除額は、前述の計算方法でわかります。また、国税庁が発表している表からも確認が可能です。働いた期間(年数)ごとに定められている控除額を一覧でみることが可能なため、以下のURLから確認してみてください。なお、源泉徴収税を調べる際の表は、毎年更新されるため、最新のものを確認することをおすすめします。

国税庁「源泉徴収のための退職所得控除額の表(令和4年分)」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2021/data/17-18.pdf

出典 

2.計算式①で算出した課税退職所得金額に、所得金額によって定められている所得税率をかけ、さらに控除額を引きます。これに102.1%をかけると、徴収される所得税・復興特別所得税がわかります。

【計算式②】(課税退職所得金額×所得税率-控除額)×102.1%
所得税率と控除額は、上記の「退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和4年分)」で確認できます。



3.退職金を受け取る時に生じる住民税は、課税退職所得金額に10%(都道府県民税率4%+市町村民税率6%)を掛けて算出できます。

【計算式③】課税退職所得金額×住民税率
ただし、税率は自治体によって異なる場合があるため、お住まいの自治体の税率を確認する必要があります。



<具体的な金額の目安>
【A:退職金1,000万円・勤続年数20年】
1.課税退職所得金額=(1,000万円-800万円)×1/2=100万円
※勤続年数が20年以下のため、退職所得控除額は40万円×勤続年数20年=800万円
2.所得税(復興特別所得税)=(100万円×5%-0)×102.1%=5万1,050円
3.住民税=100万円×10%=10万円

手取り額=1,000万円-(5万1,050円+10万円)=984万8,950円

【B:退職金2,000万円・勤続年数30年】
1.課税退職所得金額=(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円
※勤続年数が勤続20年超のため、退職所得控除額は800万円+70万円×(勤続年数30年-20年)=1,500万円
2.所得税(復興特別所得税)=(250万円×10%-9万7,500円)×102.1%=15万5,702円
3.住民税=250万円×10%=25万円

手取り額=2,000万円-(15万5,702円+25万円)=1,959万4,298円

源泉徴収額と手取り額の目安

例               A B
所得税(復興特別所得税含む) 51,050円 155,702円
住民税 10万円 25万円
税金の合計額 15万1,050円 40万5,702円
手取り額 984万8,950円‬ 1,959万4,298円

「退職所得の受給に関する申告書」について

「退職所得の受給に関する申告書」とは、源泉徴収をするために必要な書類です。退職金を受け取る際にあらかじめ勤務先に提出しておくと、適切な課税額が徴収されて口座に振り込まれます。申告書は、国税庁のホームページでダウンロードするか、勤務先で配布されていることもあります。

退職所得の受給に関する申告書を提出して源泉徴収された場合には、退職金に関して原則自分が確定申告をする必要はありません。
申告書を提出しなかった場合は、自分で確定申告をしなくてはいけません。一律で20.42%の源泉徴収税率が適用され、税額が引かれることになりますが、このままでは適切な税額がわからない状態であるためです。税額に過払い分があった場合には、確定申告によって還付金が受け取れます。

まとめ

定年退職後には給与所得がなくなるため、所得税等の税金が発生することに気づかない場合もあるかもしれません。住民税は前年度収入を計算してから、忘れたころに納付書が届くため、退職後に減少した収入では生活費と税金の支払いが大変になる場合もあります。

老後に年金収入で生活をしていく場合にも、条件によっては所得税等が発生するため、額面がそのまま受け取れるとは限りません。収入から引かれる税金にはどのようなものがあるのか、あらかじめ把握しておくと、引かれる金額も考えながら計画的に生活費を管理できます。

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