社会保険の任意継続とは?退職後の厚生年金や健康保険の継続手続きやメリット

会社に就職すると、社会保険に加入しなければなりません。この記事では、社会保険について、厚生年金保険と健康保険の特徴や退職後に加入する保険の種類、必要な手続きを解説します。健康保険を任意継続する際の加入条件、メリット等も確認できます。

社会保険の任意継続とは?退職後の厚生年金や健康保険の継続手続きやメリット

厚生年金に任意継続はない

厚生年金に任意継続はない

社会保険には主に健康保険と年金保険があり、会社に勤めている時には健康保険と厚生年金に加入するようになっています。会社員の保険料は給料から天引きされているため、ずっと会社勤めだった方であれば、自分で保険料を払った経験がないという方もいるでしょう。ただし、退職した場合には会社員時代に加入していた社会保険から別の社会保険(国民健康保険)に切り替わるため、自分で保険料を支払う必要があります。

ところが、社会保険のうち健康保険には退職後の任意継続が可能です。任意継続をした場合には、退職後も会社員の時に加入していた健康保険に2年間に限り加入できる制度です。

社会保険のうち健康保険では任意継続制度を利用できる一方、厚生年金は原則として任意継続ができません。厚生年金の任意継続は、定年を迎えても働いているケース等で認められる場合があります。

退職後の年金制度はどうなる?

退職後の年金制度はどうなる?

年金制度には国民年金と厚生年金があり、日本では20歳から59歳までの国民は全員いずれかの年金制度に加入しなければなりません。会社員や公務員の人は「第2号被保険者」になり厚生年金に加入、自営業やフリーランス等の人は「第1号被保険者」として国民年金に加入します。
会社員や公務員に扶養されている配偶者の場合は、年金保険料の負担がない「第3号被保険者」として国民年金に加入します。これまで会社員として働いて厚生年金に加入していた人が60歳で定年退職した場合には、その後仕事をするか扶養に入るか等、その状況によって加入する年金制度が決まります。

第1号被保険者になる場合

第1号被保険者は、国民年金の加入者です。20歳から59歳までの人は、厚生年金に加入していない時、または扶養に入っていない時には国民年金に加入しなければなりません。会社員として厚生年金に入っていたが退職してその後再就職しない場合には、厚生年金加入の第2号被保険者ではなくなります。

会社員ではなく自営業者になった場合(かつ扶養に入らない場合)にも、必ず国民年金に入り第1号被保険者になる必要があります。厚生年金から抜けて国民年金に切り替える手続きは、自分でおこなわなければなりません。
ただし、厚生年金の加入者が60歳で会社を定年退職した場合等、60歳を超えて第2号被保険者でなくなった人には国民年金の加入義務はありません。年金の受給額を増やしたり、年金の受給資格を得たりする目的がある場合には、国民年金の任意加入がおこなえます。

将来受け取れる老齢基礎年金は、国民年金の加入期間が10年に満たないと受給資格が生じません。厚生年金への加入期間中にも年金の基礎となる国民年金には加入しているため、国民年金と厚生年金両方の年金に合計10年以上加入していると、老齢基礎年金の受給資格が得られます。

また、国民年金は40年間の納付期間があると満額の年金が受給できます。年金の納付期間が10年に達していない人は、受給資格を得る目的で60歳を過ぎてから69歳まで任意で加入することが可能です。年金を満額受け取れない人の場合は、64歳まで任意加入できます。

第2号被保険者になる場合

厚生年金保険が適用事業所である会社等に就職すると第2号被保険者になります。会社員として働いている間は要件を満たす限り基本的に第2号被保険者のままであり、仮に転職したとしてもそれは変わりません。しかし、会社を退職したあとにまたすぐ就職するのではなく、自営業やフリーランス等になる場合は厚生年金への再加入にはなりません。

60歳で会社を定年退職したあとも続けて会社員として仕事をする等の場合には、70歳まで厚生年金に加入できます。70歳を超えて仕事を続けていたとしても、原則として70歳で資格を喪失します。

70歳の時点で老齢基礎年金の受給資格である国民年金の加入期間が10年まで達していない場合には、年金の受給が可能になるまで厚生年金の加入を継続することも可能です。70歳以上で年金への加入を継続することは、厚生年金の高齢任意加入と呼ばれます。
老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合には、70歳以上で厚生年金保険の適用事業所ではない会社で働いた時にも、厚生年金に任意加入できるケースがあります。厚生年金保険への加入について事業主から同意を得て「高齢任意加入被保険者資格取得申請書」を提出後、認可された場合には高齢任意加入が可能です。

第3号被保険者になる場合

第3号被保険者には、20歳以上で59歳以下、年収が130万円未満の第2号被保険者に扶養されている配偶者が該当します。20歳から59歳の人がそれまで働いていた仕事を退職する等して、第2号被保険者の配偶者等の扶養に入る場合には、第3号被保険者になります。1年の途中で仕事を退職して配偶者の扶養に入った場合は、扶養に入ってからの年間収入が130万円未満でそのほか必要な要件を満たすと第3号被保険者になることが可能です。

年金制度と年齢

国民年金は20歳から59歳の人が加入することが定められていますが、厚生年金には加入開始年齢が決まっていません。そのため、20歳未満でも会社員や公務員として働き始めた時には厚生年金に加入します。この場合厚生年金には加入していますが、国民年金には加入していない状態となるため注意が必要です。
もし20歳未満の時に退職して第2号被保険者の扶養に入ったケースでは、国民年金への加入が義務になる20歳になるまで第3号被保険者になることはありません。また、会社に勤めていた人が60歳になって定年退職して扶養に入ったケースでも、第3号被保険者にはなりません。

第2号被保険者の配偶者の扶養に入ったとしても、本人が20歳未満もしくは60歳以上の時は第3号被保険者にはなれないことから、年金の加入期間を伸ばしたいケースでは注意が必要です。年金が満額にならない状態で不足している加入期間がある人は、国民年金に任意加入して加入期間を増やせます。

退職後も年金の任意加入しよう

退職後も年金の任意加入しよう

国民年金は年金を満額受け取れない人の場合は64歳まで、受給資格期間を満たしていない場合には69歳まで任意加入が可能です。また、厚生年金では70歳を過ぎても高齢任意加入制度が利用できます。

国民年金は、納付月数に応じた年金額を受け取る仕組みになっています。20歳から59歳の40年の間に空き期間がなく、継続して国民年金や厚生年金に加入していた場合には、満額の老齢基礎年金を受け取れます。
学生の間や転職した時等に納付していない期間や未加入期間が数ヶ月から数年間ある人等は、満額を受け取れません。国民年金の任意加入を利用して60歳から64歳の間に不足期間分を支払うと、将来年金を満額受け取ることが可能です。

仕事をしている場合には、70歳を過ぎてからでも不足している期間分を高齢任意加入制度により補填できます。任意加入で支払っている年金保険料は、全額所得税の社会保険料控除に充てられることから、税金面でのメリットもあります。

退職後におこなう社会保険の手続き

退職後におこなう社会保険の手続き

会社員の時には自身で手続きをしなくても社会保険に加入した状態になります。退職して別の会社に転職しない場合は、加入していた社会保険から外れて別の社会保険に加入しなければならないため、その手続きが必要です。社会保険は、退職した日の翌日には資格が喪失するため、健康保険証は退職する会社に返却する必要があります。

退職から再就職まで期間がある場合には社会保険を継続できないため、退職する会社で社会保険の喪失手続きをしてもらい、国民年金や国民健康保険に加入します。

社会保険喪失後に国民健康保険へ加入するには、「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」等の書類を退職する会社に提出する手続きが必要です。退職して社会保険を抜けてから、市区町村の窓口で国民年金や国民健康保険に加入する手続きをおこないます。
退職後、家族の扶養に入る場合には、家族の勤めている会社で扶養者となるための加入手続きをおこなう必要があります。

社会保険は厚生年金保険と健康保険がある

社会保険は、社会保険を適用している会社で雇用されている人が加入する保険・年金制度です。正社員だけでなく、パートやアルバイトの人でも一定の条件を満たしていれば加入対象となります。会社に就職して加入対象となった時には、会社が手続きをおこなって加入させなければなりません。
社会保険料の場合、加入によって支払う保険料の半額は会社負担です。会社は毎月の給料から本人負担分の保険料を天引きし、まとめて支払いをします。

会社員が加入する社会保険は、大きく年金保険と健康保険(介護保険)に分けられます。厚生年金保険は将来の年金、遺族年金、障害年金に備える保険で、加入対象の会社員や公務員の人は加入しなければなりません。
健康保険は医療給付や手当金等の支給(介護サービス利用)を目的とする保険です。事業所で社会保険に加入している期間中は健康保険への加入も必要です。事業所の社会保険では、国民健康保険とは異なり一人一人の保険料がかかることがなく、配偶者以外の家族も保険料が不要の被扶養者にすることが可能です。

健康保険には任意継続がある

会社を退職すると、それまで使っていた健康保険証は使えなくなるため、返却しなければなりません。会社員の保険料は給料から天引きされていましたが、退職後に国民健康保険に加入した場合等には、自分で支払うことになります。
保険料を自分で払う方法として挙げられるのは、以下の2通りです。

【健康保険料を自分で払うケース】
1. 健康保険の任意継続
2. 国民健康保険への加入

出典 

原則として、退職する時には会社が組合や協会へ「健康保険被保険者資格喪失届」を提出して健康保険の加入から抜ける手続きをします。
健康保険の加入から抜けたあとしばらくはほかの会社に就職しないといった場合には、国民健康保険に加入するケースが多いですが、条件に合う場合は任意継続を選ぶことも可能です。

健康保険の任意継続とは?

健康保険の任意継続とは、会社を退職して被保険者の資格を失った時等に、一定の条件を満たしていれば2年間を限度に健康保険に継続して加入できる制度のことです。
健康保険を任意継続した際の保険料は、退職時の標準報酬月額を基にして定められます。保険料は原則として2年間変わりません。任意継続を選んだ場合には、出産手当金と傷病手当金を除いて会社に在籍していた時と同様の保険給付が受けられます。
2022年1月からは、2年間が経過する前でも資格喪失を希望する旨を保険者に申し出ると翌月の1日に資格を喪失することが可能になりました。保険料を納付期限までに納付しなかった時にも、被保険者の資格は喪失します。

健康保険の任意継続の保険料や納付方法

任意継続の保険料は、退職した時の標準報酬月額に住んでいる都道府県の保険料率をかけて計算します。40歳以上65歳未満の方であれば、これに介護保険料率も含め計算しなければなりません。
また、保険料には上限があります。退職した際の標準報酬月額が30万円を超えていれば、標準報酬月額を30万円として任意継続の保険料を算出します。

【参照】全国健康保険協会「保険料について」詳しくはこちら

保険料は、在職中は会社と折半でしたが、任意継続では全額本人負担になります。任意継続の保険料に上限が設けられているのは、2倍になる保険料の支払負担が重くなりすぎるのを防ぐためです。
任意継続の保険料は、保険に加入した月から納めていくことになります。日割りで納付することはできないため、月初めに加入しても月末に加入しても、支払う保険料は変わらず1ヶ月分です。
国民健康保険に加入した場合は世帯ごとの加入人数で保険料が変動しますが、扶養家族の保険料がかかりません。そのため、扶養家族が多い場合は国民健康保険よりも保険料が低くなる可能性があります。

任意継続の保険料は、6ヶ月分もしくは12ヶ月分を前納することもできます。前納納付をした場合、年4%の複利原価法によって保険料が減額されるメリットもあります。例えば、12ヶ月分の前納では月ごとの支払いよりも約2.1%保険料を減らすことが可能です。

ただし、任意継続では納付期限が厳しく、保険料の納付が期限を1日でも過ぎると滞納期日の翌日に即資格喪失となるため注意が必要です。
保険料を納めるには、以下の3通りの方法があります。

【保険料納付方法】
・毎月納付書で納付
・一定期間分を一括し、事前に納付書で納付
・毎月口座振替で納付

出典 

毎月納付書で納める場合、月初めに郵送で納付書が届くので、その月の10日までに金融機関やコンビニから納付してください。

保険料は原則として2年間は変わりませんが、以下に該当する場合は変更されます。

【保険料が変更になるケース】
・任意継続に加入している期間中に40歳になり、介護保険第2号被保険者に当てはまる場合、もしくは任意継続への加入中に65歳になり、介護保険第2被保険者から外れた場合
・都道府県の保険料率および介護保険料率が変わった場合
・標準報酬月額の上限が変わった場合
・保険料が異なる都道府県に転居した場合

出典 

任意継続の保険料が退職時の標準報酬月額に応じて決まるのに対し、国民健康保険の保険料は市区町村単位で定められており、通常は源泉徴収票に記載されている前年の所得額に基づいて計算されます。
会社員時代の収入が高いほど保険料は高額になりますが、任意継続をするよりも国民健康保険に加入した方が保険料は安いケースもあります。
例えば退社時の収入が少なかったケースでは、退社時から2年間保険料が変わらない任意継続に入るよりも国民健康保険に入る方が保険料は低くなるかもしれません。

国民健康保険の保険料概算は、市区町村の健康保険課で確認することが可能です。自治体によっては、Webサイト等で概算の金額をシミュレーションできるため、任意継続と国民健康保険の保険料を比較し、保険料の低い方に加入するとよいでしょう。

健康保険の任意継続の条件

健康保険を任意継続するためには、退職日までに継続して2ヶ月以上被保険者だった期間が必要です。これは、最後に退職した会社で2ヶ月以上の被保険者期間が必要ということではありません。
異なる会社に勤めていた場合でも、健康保険に入っていた期間が1日も間を空けずに2ヶ月以上あれば加入が認められます。申請は資格を失った日から20日以内におこないます。もし20日目が営業日でない場合には、翌営業日までに申請してください。

任意継続の申請には、「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」が必要です。退職日を確認できる書類を添付すると、通常の健康保険証の発行には2〜3週間程度かかるところが、1週間程度で早期発行してもらえます。また、16歳以上の被扶養者がいる場合、その方の収入が130万円未満であることを証明する書類等も添付しなければなりません。
健康保険の任意継続をおこなうためには、以下の条件を満たしている必要があります。

【任意継続をおこなう条件】
・資格喪失日の前日(退職日)までに2ヶ月以上続けて被保険者資格を有していること
・資格喪失日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出していること
協会けんぽでは、書類を住所地を管轄する協会けんぽ支部に提出、健康保険組合の場合は組合に対して手続きが必要です。

出典 

【参照】全国健康保険協会「会社を退職するとき」詳しくはこちら

会社員が入っている保険は、主に全国健康保険協会(協会けんぽ)か健康保険組合のどちらかです。健康保険組合は一部の大企業や業界団体等が自社や組織のために運営しているもののため、ほとんどの会社員は協会けんぽに加入しています。
健康保険組合の場合、健康保険組合に必要書類の提出が必要です。協会けんぽの場合、申請書は住んでいる地域の協会けんぽ支部に提出します。都道府県を超えて転居する場合は、転居先の住所を管轄している支部に提出してください。

まとめ

社会保険には、退職後も保険に加入し続けられる任意継続の制度があります。事業所の社会保険には、大きく分けて厚生年金保険と健康保険の2つの制度があり、厚生年金保険には基本的に任意継続の制度がありませんが、健康保険では任意継続の制度を利用できます。
健康保険の任意継続では、扶養家族が多いケースで扶養家族分の保険料を抑えることも可能です。国民健康保険に変えるか健康保険の任意継続にするかは、保険料の支払額等からどちらがよいかを検討できます。

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