定年退職後でも失業保険はもらえる!損しない失業保険の受給方法
定年退職後も活躍したいという方や、年金や貯金だけでは不安で、再就職を検討している方もいるのではないでしょうか。実は、再就職を希望している場合は、直近の給与の半分から8割程度の基本手当日額を、失業保険として受け取れることがあります。今回は、定年退職後に再就職する際の失業保険の種類や方法、注意点を解説します。

目次
再就職希望の定年退職者なら失業保険の受給が可能

失業保険の給付や再就職手当は、60歳以降に定年退職した後でも受給が可能です。条件は、60歳未満の場合とほとんど同じで、以下の通りです。
- ハローワークに来所し、求職の申込みを行っている
- 就職しようとする積極的な意思がある
- いつでも就職できる能力がある
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上ある
- 自己都合退職の場合は待機期間がある
なお、再就職すると再就職手当が出て、失業保険の給付はなくなります。
受給する額は「基本手当日額」と呼ばれます。60~64歳の場合、下の式で計算されます。
1.賃金日額=離職直前6カ月間の給与合計(※賞与等除く)÷180
2.基本手当日額=賃金日額×45~80%
基本手当日額は7,087円を上限(2019年3月18日時点)として、給与が高かった人ほど低率、低かった人ほど高率で計算されます。
受給できる期間は、下の表の通りです。
被保険者期間ごとの失業保険給付日数
被保険者期間 | 特定受給資格者※注1 | 一般の離職者 |
---|---|---|
1年未満 | 90日 | - |
1年以上5年未満 | 150日 | 90日 |
5年以上10年未満 | 180日 | 90日 |
10年以上20年未満 | 210日 | 120日 |
20年以上 | 240日 | 150日 |
※注1:特定受給資格者及び一部の特定理由離職者
離職者の種類によって受給期間に差があります。左列の「特定受給資格者」と「特定理由離職者」とは主に解雇などの会社都合、右列の「一般の離職者」とは自己都合に該当するのが基本です。
定年退職という形でも、会社が再雇用制度を用意している上で退職した場合は自己都合、本人は延長を希望したのに雇用が継続されなかった場合は会社都合になる可能性があります。
最終的にはハローワークが労使協定や就業規則、事実から判断しますが、受給額にも影響するため事前に規則などを確認しておきましょう。
定年退職後に申請できる失業保険の種類

定年退職後に申請できる失業保険は2種類ありますが、定年退職時の年齢によって受給できるものは異なります。
基本手当
基本手当とは、先述したように60歳~64歳で定年退職した場合に受給できる失業保険です。
一般的な退職者と同じように申請ができます。
高年齢求職者給付金
高年齢求職者給付金とは、65歳以上で離職した場合に申請できるものです。給付金額は基本手当と同じ計算方法ですが、受給日数は30日分(被保険者期間1年未満)または50日分(被保険者期間1年以上)と短縮されます。
未経験業種で再就職を目指す際に、便利なのが公共職業訓練です。ハローワークから職業訓練を受講するよう指示を受けた場合、仮に基本手当の受給期間を超過する場合でも、訓練期間は基本手当が延長されるほか、必要に応じて受講手当や通所手当が支給されるケースがあります。
定年退職後に失業保険の基本手当を受給するもらう場合

60〜64歳で定年退職をした後に失業保険の基本手当をもらう際のポイントは、下の表の通りです。
基本手当のポイントと詳細
ポイント | 詳細 |
---|---|
条件 | ・就職する積極的な意思 ・就職できる能力 |
資格 | ・60〜64歳で離職 ・離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上ある(特定受給資格者又は特定理由離職者に該当する場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上ある時でも可) |
金額(日額) | 過去6カ月の賃金日額×45~80% ※詳細は先述 |
日額上限 | 7,186円 ※2020年8月現在 |
給付開始時期 | 離職票を提出した日から約1か月後 ※自己都合の場合は約4カ月後 |
給付期間 | 90〜240日間 ※就業困難者は最大360日 |
支給日については、離職票を提出して7日間の待機期間を経た後に支給が開始され、実際に振り込まれるのは約1カ月後が目安です。
申請は住所地を管轄するハローワークで行います。離職した際に会社から受け取る「雇用保険被保険者離職票」が必要になるため、保管しておきましょう。
その後、雇用保険受給者初回説明会へ参加し、認定日にハローワークに行き失業認定を受けることで、支給が実施されます。
定年退職後に高年齢求職者給付金(一時金)をもらう場合
定年退職後に高年齢求職者給付金をもらう際のポイントは、下の表の通りです。
申請方法は、基本手当とほぼ同じです。ただし、65歳以上という要件や、計算される日数が少ないこと、支給が一括である点などが異なります。
高年齢求職者給付金のポイントと詳細
ポイント | 詳細 |
---|---|
条件 | ・労働の意志及び能力がある ・職業に就くことができない状態 |
資格 | ・65歳以上で離職 ・算定対象期間(原則は離職前1年間)に被保険者期間が6ヶ月以上ある |
金額(日額) | 過去6カ月の賃金日額×45~80% ※基本手当日額と同じ |
上限(日額) | 6,850円 ※2020年8月現在 |
給付開始時期 | 離職票を提出した日から約1か月後 |
給付金額を算出する日数 | 30日または50日間分 |
定年退職後に失業保険をもらう場合の注意点

定年退職後に失業保険をもらう場合、いくつか注意するポイントがあります。
老齢厚生年金
基本手当を受け取りながら、同時に特別支給の老齢厚生年金を受給することはできません。特別支給の老齢厚生年金はリタイア後の生活費の支えなので、働く意思があって再就職活動中の人が、失業保険と同時に受け取ることはそぐわないのです。
年収制限
扶養に入りながら基本手当の失業保険を受ける場合、失業手当は収入として見なされます。収入合計が扶養の年収制限(65歳未満は130万円未満、65歳以上は180万円未満が条件)以上になると扶養から外れる可能性があります。
在職老齢年金制度
そして、再就職して収入を得るときに気をつけたいのが在職老齢年金制度です。年金と収入の合計が一定の金額を超えると年金がカットされる場合があります。
65歳以降の在職老齢年金の額の計算方法は、具体的には、以下の指標の合算額によって判定されます。
・基本月額(老齢厚生年金の月額)
・総報酬月額相当額(その月の基本給と各種手当の合算額と、その月以前1年間の賞与額の1,000円未満を切り捨てた額の合計を12で割った額)
基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合、全額支給されます。しかし、47万円を超える場合は、支給額は以下の通りになります。
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
老後の生活費と資産状況から再就職も検討を

定年退職のあとに失業保険をもらうか、再就職するかを考える際に、知っておきたいのが、老後の生活費と収入とのバランスです。
2人以上世帯 退職後の収入(万円/月)
カラム1 | 持ち家(万円) | 賃貸(万円) |
---|---|---|
生活費 | 24.7 | 30.2 |
年金収入 | 19.9 | 19.9 |
月々過不足 | ▲4.8 | ▲10.3 |
20年間 過不足合計 | ▲1,152 | ▲2,472 |
25年間 過不足合計 | ▲1,440 | ▲3,090 |
【参考】総務省e-Stat:「家計調査-二人以上の世帯」詳しくはこちら
【参考】厚生労働省「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」詳しくはこちら
【参考】全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向(2019年5月調査)」詳しくはこちら
単身世帯 退職後の収入(万円/月)
カラム1 | 持ち家(万円) | 賃貸(万円) |
---|---|---|
生活費 | 14.6 | 20.1 |
年金収入 | 14.4 | 14.4 |
月々過不足 | ▲0.2 | ▲5.7 |
20年間 過不足合計 | ▲48 | ▲1,368 |
25年間 過不足合計 | ▲60 | ▲1,710 |
【参考】総務省e-Stat:「家計調査-二人以上の世帯」詳しくはこちら
【参考】厚生労働省「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」詳しくはこちら
【参考】全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向(2019年5月調査)」詳しくはこちら
こちらの表は、2017年総務省の「家計調査」や、年金受給状況などのデータをもとに算出した、老後の生活費と年金収入の収支の目安です。
持ち家の場合、生活費は単身で14.6万円、2人以上世帯で24.7万円が目安ですが、賃貸の場合は家賃分の負担が一気に増えます。
年金収入は、企業に長年勤めて定年を迎えた場合の国民年金と厚生年金の合計額のモデルで、会社員の多くの方がこの金額の前後になるはずです。
この収支を見ると、ほとんどのケースで1,000万~2,000万円強の生活費不足になっています。さらに、退職一時金を計算に入れましょう。
退職金 | 大企業総合職(万円) | 東京都の中小企業(万円) |
---|---|---|
大学卒 | 2,694 | 1,690 |
高校卒 | 2,477 | 1,502 |
【参考】厚生労働省中央労働委員会:「平成29年 退職金、年金及び定年制事情調査」詳しくはこちら
【参考】東京産業労働局:「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」詳しくはこちら
中央労働委員会などのデータを参考にすると、定年退職の退職一時金は1,500万円から2,500万円が相場です。
これらのデータを総合して考えれば、収支がギリギリかマイナスになる可能性も十分ありえます。数字はあくまで平均やモデルですが、平均以上になる場合でも不測の出費や長生きすることを想定した備えは欲しいものです。
まとめ

定年退職後に再就職を目指す場合には、失業保険の申請ができます。定年後でも、60~64歳未満の場合は基本手当が、65歳以上であれば高年齢求職者給付金が受給できる可能性があります。年金との同時受給や在職老齢年金制度など注意点はありますが、生活費の支えになる便利な制度のため、条件に当てはまる方は活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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