年金生活の親を扶養に入れるメリット・デメリットや条件や注意点は?

年金を受給している親でも一定の条件を満たしていれば扶養家族に入れることが可能です。扶養家族にすることで、所得税や健康保険料などでのメリットもありますが、逆にデメリットや注意点もあります。本記事では、年金受給者の親を扶養に入れるメリットとデメリット、注意点を解説します。

年金生活の親を扶養に入れるメリット・デメリットや条件や注意点は?

親を扶養家族にすることは可能!

親を扶養家族にすることは可能!

年金を受給している親であっても、扶養家族に入れることが可能です。ただし、いくつかの条件を満たしていなければなりません。
条件は、税法と健康保険でそれぞれ細かく異なりますので後述しますが、大前提としての条件は「扶養者と生計を一にしている」ことです。

ただし、この「生計を一にする」とは必ずしも親と同居している必要はありません。例えば、入院・療養や勤務の事情などで別居していたり、一緒に住んでいなくても親の生活費を仕送りなどで支払っていたりすれば、生計をともにしているとみなされます。

年金受給者の親を扶養家族にする条件

年金受給者の親を扶養家族にする条件

年金受給者の親が扶養家族になるためには加入要件があります。税法上・健康保険上それぞれについて紹介します。要件を満たせば、両方の扶養に入れることも可能です。

税法上の加入条件

税法上の扶養に入れば、扶養者である子の所得税などが軽減される、いわゆる「扶養控除」を受けられます。

税法上の扶養家族の要件
  1.配偶者以外の親族である
  2.納税者と生計を一にしている
  3.その年の12月31日現在の年齢が16歳以上である
  4.年間の合計所得金額が48万円以下である
  5.青色申告の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていない、または白色申告者の専従者でない

出典 

【参考】国税庁「No.1180 扶養控除」詳しくはこちら

配偶者以外の親族であること

配偶者以外の親族とは「6親等内の血族」および「3親等内の姻族」のことで、血族とは所得者の家族、姻族とは配偶者の親族を指します。子供や両親は1親等、兄弟姉妹・祖父母・孫は2親等に該当するため、親はこれらの条件を満たすでしょう。

生計を一にしていること

扶養控除の適用において生計を一にするために、必ずしも同居が要件になるわけではありません。例えば、病気やケガの療養、会社への勤務や修学などを理由として別居している場合であっても、生計を一にしていれば扶養親族に該当します。

仮に別居している両親がいる場合であっても、常に仕送りをしている等の事実があれば、生計を一にしていると判断される可能性が高いでしょう。また、親族が同じ家に住んでいる場合であれば原則として「生計を一にする」ものとして扱われます。

合計所得金額が48万円以下であること

扶養控除の対象となる親族として認められるためには、1年間の合計所得金額を48万円以下にしなければなりません。また、年金収入のみの場合、所得は「公的年金等に係る雑所得」に分類されます。年金を受け取る人の年齢や年金以外の所得金額によって控除額は異なりますが、ここでは公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下であると仮定して考えてみましょう。

■65歳未満の場合

65歳未満の場合、以下の要件が適用されます。

公的年金等の収入金額合計 所得金額
60万円以下 0円とみなされる
60万1円~129万9,999円まで 60万円の控除が受けられる

【参考】国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」詳しくはこちら

合計所得金額は公的年金等の収入金額から控除額を引いた額となり、その額が48万円以下であれば扶養控除の対象となります。よって、65歳未満の親の場合、年金収入が108万円(60万円+48万円)であれば扶養控除の適用対象となるでしょう。

■65歳以上の場合

65歳以上の場合、以下の要件が適用されます。

公的年金等の収入金額合計 所得金額
110万円以下 0円とみなされる
110万1円~329万9,999円まで 110万円の控除が受けられる

【参考】国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」詳しくはこちら

65歳以上の親の場合、公的年金等の収入金額合計が110万円以下であれば扶養控除の対象です。よって、65歳以上の親の場合、年金収入が158万円(110万円+48万円)であれば扶養控除の適用対象となります。

事業専従者に該当しないこと

個人事業主のうち、青色申告者の事業を手伝う「事業専従者」として給与収入を得ている親族は扶養控除の適用対象外となります。例えば、同居している親が青色申告事業者である息子が営んでいる事業を手伝い、青色申告事業専従者給与を1円でも受け取っている場合、控除対象扶養親族とはならない点に注意が必要です。

健康保険上の要件

続いて、健康保険上の要件を確認します。

健康保険上の扶養家族の要件

項目 要件
生活 扶養者と生計を一にしている
年齢 75歳未満
年収上限 同居:年収130万円未満かつ被保険者の年収の半分未満
別居:年収130万円未満かつ被保険者の仕送り額未満
※60歳以上の場合は130万円→180万円

【参考】リクルート健康保険組合:「家族の加入について」詳しくはこちら
【参考】トヨタ関連部品健康保険組合:「父母 | 被扶養者になれる?なれない?確認チャート」詳しくはこちら

健康保険の扶養条件はこの3つです。

●扶養者と生計を一にしている
●親が75歳未満である
●収入が制限額を超えていない

1つ目の条件は、税法上とほぼ同じで、同居が必須というわけではありません。税法上では親の年齢上限がありませんでしたが、健康保険では75歳までです。そして、収入の制限金額は同居か別居かにより異なります。

●同居:年収130万円未満かつ被保険者の年収の半分未満
●別居:年収130万円未満かつ被保険者の仕送り額未満

さらに、親が60歳以上または障害年金受給者の場合は上限が130万円ではなく180万円に上がります。

親を扶養に入れるメリット

親を扶養に入れるメリット

親が扶養家族になった場合、税法については扶養者側には税負担を軽減できるというメリットがあり、健康保険については親の保険料負担がなくなるという効果があります。

●税法:税負担の軽減効果
●健康保険:保険料負担免除

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

所得税の負担が軽減できる

親を扶養に入れて生計を一にした場合、下表の通り所得税の負担が軽減されます。

扶養親族 所得税 控除額 住民税 控除額
一般の控除対象扶養親族 38万円 33万円
老人扶養親族(70歳以上)
同居老親等以外
48万円 38万円
老人扶養親族(70歳以上)
同居老親等
58万円 45万円

【参考】国税庁「No.1180 扶養控除」詳しくはこちら
【参考】国税庁「No.1182 お年寄りを扶養している人が受けられる所得税の特例」詳しくはこちら

例えば、所得税率が20%で70歳以上の親と同居する場合、58万円の控除が受けられ、所得税の節税額は11.6万円となります。また、住民税は一律10%であるため、45万円×10%で4.5万円の節税となるでしょう
なお、社会保険料の控除や、扶養家族の人数、自治体などで税額の計算は異なるため、あくまでも参考値と考えてください。

健康保険の保険料負担が軽減できる

健康保険について、親が今支払っている額によっては、年間数万円~十数万円が節約できる可能性があります。なお、健康保険料については、年齢や自治体、年金収入によって異なるので、各自治体のHPから保険料の計算方法を確認してみましょう。

保険の種類 老親を健康保険の扶養に入れる場合の保険料の扱い
国民健康保険 世帯人数で変動する
協会けんぽ 被扶養者人数で変動せず
※被扶養者が40〜65歳の場合は介護保険料が上乗せされる可能性あり

【参考】リクルート健康保険組合「家族の加入について」詳しくはこちら
【参考】新宿区「保険料の計算例について」詳しくはこちら

親を扶養に入れるデメリット

一方、親を扶養に入れる場合には以下のようなデメリットが挙げられます。

●高額療養費制度の自己負担限度額が高くなる
●生計を一にすることで負担になる場合がある

高額療養費制度の自己負担限度額が高くなる

親が扶養に入ると、高額療養費制度の自己負担限度額が高くなることがあります。これは、給与収入などの所得に応じて自己負担の限度額が決められる仕組みです。所得区分を「①現役並み」「②一般所得者」「③低所得者」とした場合の自己負担額は、下記2つの表の通りになります。

①現役並み所得者の高額療養費制度の自己負担限度額(70歳以上75歳未満)

被保険者の所得区分 自己負担限度額
①現役並みⅢ
(標準報酬月額83万円以上で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
[多数該当:140,100円]
①現役並みⅡ
(標準報酬月額53万~79万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
[多数該当:93,000円]
①現役並みⅠ
(標準報酬月額28万~50万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
[多数該当:44,400円]

②一般所得者および③低所得者の高額療養費制度の自己負担限度額(70歳以上75歳未満)

被保険者の所得区分 自己負担限度額
外来(個人ごと)
自己負担限度額
外来・入院(世帯)
②一般所得者
(①および③以外の方)
18,000円
(年間上限14.4万円)
57,600円
[多数該当:44,400円]
③低所得者 Ⅱ(※住民税非課税者) 8,000円 24,600円
③低所得者 Ⅰ(※所得なし) 8,000円 15,000円

先述の通り、扶養に入ると扶養者である子供の収入が基準に入るため自己負担限度額が増えてしまいます。
例えば、扶養に入ることで所得が上記表の「②一般所得者」から「①現役並みⅠ」となった場合、外来負担は月1.8万円から約8万円に増えます。ただし、この外来負担の増加額が、前項で解説した健康保険料の免除額と節税可能額の合計を上回らない限りは、扶養に入ったほうが金銭的な負担を軽減できます。すなわち、加入によりメリットがあるかどうかは、持病の有無や高額療養費の治療をする必要があるかによっても変わります。家庭の状況に応じて検討しましょう。

生計を一にすることで負担になる場合がある

親を社会保険の扶養に入れることで、健康保険料の負担が軽減されます。しかし一方で、親が65歳以上になると親は介護保険料を負担しなければなりません。
介護保険料の金額は世帯収入の額によって決まるため、親を扶養に入れ、かつ同世帯で暮らしているような場合には注意が必要です。子の収入によっても異なりますが、場合によっては介護保険料の金額が扶養に入らなかった場合と比べて倍以上に増えてしまうケースも見受けられます。

また、介護保険料と同様に、介護サービスの利用料が増える点にも注意しましょう。

扶養に入る際に注意したいこと

扶養に入る際に注意したいこと

親を扶養に入れる際は、所得や年齢に注意しましょう。60歳を超えて年金所得がある場合、税法上は所得控除の計算をする必要があり、また、健康保険との上限金額が違います。

年齢について、健康保険は75歳未満が対象のため、75歳以上の方は扶養には入れません。75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入することとなります。税法と健康保険の両方の扶養に入れるためには、以下の条件を満たす必要があります。

親の年齢:75歳未満
親の年収:108万円以下(65歳未満の場合)、130万円以下(65歳以上の場合)

もう1つ知っておくとよい点は、健康保険料の費用負担は変わらないということです。被扶養者が増えれば扶養者である自分が支払うべき保険料が増えるかというと、そうではなく一定です。保険料は加入者全員で負担しているため、親を扶養に入れても自己負担が増えるわけではありません。

扶養家族へ加入するための手続き

扶養家族へ加入するための手続き

親を扶養家族にするための手続きは、配偶者の場合と同じです。税法上と健康保険のどちらの場合でも、扶養者が勤めている会社に申請します。

- 税法:「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を年末調整までに提出
- 健康保険:加入時に「被扶養者(異動)届」と続柄・収入要件確認の書類を提出

税法の場合は、年末調整に手続きが遅れると翌年に確定申告をする必要があります。健康保険の場合は随時対応のため、事前に会社に伝えて準備をしておきましょう。

まとめ

年金を受給している親を扶養に入れることは、条件を満たせば可能で、税法面や健康保険の保険料が節約できるメリットがあります。親の所得が大きい方など一部の場合を除いて、負担が減るケースが多いです。親を扶養に入れることを検討されている方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

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