「相続財産」をわかりやすく解説!課税対象となるもの・ならないものとは?

亡くなった人(被相続人)が所有しており、相続によって相続人が引き継ぐ財産や権利等を「相続財産」といいます。今回は、相続財産となるものとならないものを解説します。相続が発生した時、遺産の分け方を決めたり相続税額を計算したりするためには、相続財産を適切に把握することが重要です。

「相続財産」をわかりやすく解説!課税対象となるもの・ならないものとは?

相続財産とは?

相続財産とは?

相続財産とは、亡くなった人(被相続人)が残した財産や権利、義務等のうち、相続税の対象になるもののことです。また、相続財産は相続人全員が話し合って遺産の引き継ぎ方や割合を決める「遺産分割協議」の対象にもなります。

遺産総額が相続税の基礎控除額である「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えている場合は、相続税を申告しなければなりません。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内です。

被相続人が遺言書を作成していなかった場合、相続人全員で「遺産分割協議」をして、相続財産を誰がどのように引き継ぐのかを話し合う必要があります。

そのため、被相続人が亡くなって相続が発生した時は、相続財産がいくらあるのかを早急に調査することが大切です。

相続財産になるもの

民法では、相続が開始された時、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められています(民法第896条)。この相続人に引き継がれる財産の権利や義務を、一般的に「相続財産」といいます。

相続税の課税対象となるのは、相続や遺贈(遺言によって特定の人に財産を贈ること)で取得した相続財産のうち、金銭的な価値があるもののすべてです。具体的な例は、以下のとおりです。

相続財産の例

プラスの財産(資産・権利) ・現金・預金
・不動産の所有権・借地権・借家権
・株式・投資信託・債券等の金融商品
・自動車・船舶
・骨董品・貴金属・宝石
・ゴルフ会員権・著作権
・慰謝料請求権・損害賠償請求権
・商標権・著作権・特許権等の知的財産権
マイナスの財産(負債・義務) ・借入金・ローン
・家賃・地代・水道光熱費の未払金
・医療費・介護費用の未払金
・所得税・住民税・固定資産税等の未払金
・支払いを滞納している健康保険料や年金保険料
・買掛金・小切手
・損害賠償義務

預金や不動産、株式等のプラスの財産だけでなく、被相続人が残した借入金や未払金等も相続財産に含まれます。

ただし、被相続人が組んでいた住宅ローンは、相続財産に含まれることはあまりありません。というのも、住宅ローンを組んでいる人は基本的に団体信用生命保険に加入しており、亡くなった時は保険金でローンが完済されるためです。

プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い場合は、相続放棄をするのも1つの方法です。相続放棄をすると、現金や不動産等を相続できなくなりますが、被相続人が残した借金や未払金を負担する必要もなくなります。

相続放棄をする場合は、家庭裁判所での手続きが必要です。期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内です。

相続財産にならないもの

以下のような財産や権利等は相続財産とはならず、相続税は非課税となります。また、遺産分割協議の対象にもなりません。

相続財産とはならないものの例

被相続人の一身専属権 ・親権者としての権利義務や地位
・養育費や婚姻費用等の請求権・受給権
・年金受給権
・生活保護の受給権
・公営住宅を使用する権利
祭祀に関する財産 ・仏壇や仏具
・お墓
・神棚
・先祖からの系譜(家系図)
・位牌
死亡保険金・死亡退職金 ・被相続人が保険料負担者である生命保険の死亡保険金
・被相続人が所属していた勤務先から支給された死亡退職金
その他遺族が受け取る財産 ・香典
・弔慰金
・未支給の公的年金
・遺族年金 等

一身専属権とは、本人のみ有することができる権利や資格のことです。本人以外の人に移したりほかの人が行使したりできないため、一身専属権は相続財産とはなりません。
墓石や仏壇等の祭祀財産は、祖先の祭祀を主宰する人が承継すると民法で定められています。そのため、相続財産とはならず相続税もかかりませんが、骨董品としての価値があるものや商品として所有していたものは課税の対象です。

被相続人が死亡したことで受け取った弔慰金や香典は、常識的な金額であれば相続税はかからないとされています。常識的な金額の目安は、以下のとおりです。

・業務上の死亡である場合:普通給与の3年分
・業務上の死亡でない場合:普通給与の半年分

出典 

※普通給与とは、被相続人の死亡時における賞与以外の給与

【参考】国税庁「No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い」詳しくはこちら

相続財産でなくても相続税がかかるもの

相続税は、金銭的な価値がある相続財産にかかる税金です。「みなし相続財産」や「特定贈与財産」は、相続財産ではありませんが相続税の課税対象となります。

みなし相続財産

みなし相続財産は、被相続人の死亡によって得られた財産です。みなし相続財産の例としては「被相続人が保険料を負担していた生命保険」や「死亡退職金」が挙げられます。

死亡保険金や死亡退職金は、受け取った人の固有の財産であるため、相続財産には含まれず、遺産分割協議の対象にもなりません。しかし、相続税法では相続税の課税対象になるとされています。

相続人が受け取った死亡保険金や死亡退職金のうち、相続税の課税対象になるのは、受取額から非課税限度額を差し引いた残りです。
死亡保険金と死亡退職金の非課税限度額は、どちらも「500万円×法定相続人の数」です。法定相続人は、遺産を相続できる権利がある人のことで、民法によって該当する人の範囲や順位が定められています。

例えば、法定相続人が3人であった場合、非課税限度額は「500万円×3人=1,500万円」となります。死亡保険金の受取額が2,000万円であった場合、相続税の課税対象となるのは「2,000万円−1,500万円=500万円」です。

特定の贈与財産

特定の贈与財産には、以下の2種類があります。

・相続開始前3年以内に被相続人から相続人へ贈与された財産
・相続時精算課税制度を適用して贈与された財産

相続または遺言で財産を取得した人が、相続が開始される前の3年以内に、被相続人から贈与された財産があれば相続税の課税対象となります。
また、税制改正により2024年(令和6年)1月1日以降に発生する相続では「相続開始前の3年以内」から「相続開始前の7年以内」に延長される予定です。

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母が、18歳以上の子供や孫に対して財産を贈与する時に選択できる制度です。

相続時精算課税制度を適用すると、2,500万円までの生前贈与に贈与税がかからなくなります。ただし、非課税で贈与された財産は、贈与した人が亡くなった時に相続税の課税対象となります。

相続財産でも相続税がかからないもの

相続または遺贈で取得した財産であっても、相続税がかからない場合があります。

例えば、被相続人が残した財産のうち、相続税の申告期限までに国や地方公共団体、特定の公共法人等に寄付したものに相続税はかかりません。
また、被相続人が個人で経営していた幼稚園を相続人が引き継いだ場合、事業に使われていた財産のうち一定の要件をみたすものが非課税となります。

相続財産がわからない時の調査方法

相続財産がわからない時の調査方法

相続税を正確に計算したり、相続放棄をすべきか判断したりするためには、相続財産を調査する必要があります。ここでは、不動産や預金等の調査方法をみていきましょう。

不動産の調べ方

被相続人が所有していた不動産を調べる時は、登記の名義人に交付される「登記済証(権利証)」が保管されていないかを確認しましょう。また、固定資産税の納税通知書と課税明細書が保管されていれば、被相続人が所有していた不動産を特定しやすいです。

ただし、地方にある山林のような固定資産税評価額が安い不動産は、税額が0円であり、納税通知書や課税明細書が送られてこないことがあります。

そこで、活用したいのが「名寄帳」です。名寄帳には、同じ市区町村内で保有している不動産のすべてが掲載されているだけでなく、不動産の種類や地番、固定資産税評価額等相続手続きの際に必要な情報も確認できます。

名寄帳は、原則として市区町村役場または都税事務所の窓口で取得できますが、郵送で取り寄せることも可能です。請求する時は、亡くなった人と相続人の戸籍謄本、申請する人の本人確認書類、1通につき300円程度の手数料等が必要です。(※自治体によって異なります。)
名寄帳は、市区町村ごとに作成される書類であるため、被相続人が所有していた不動産があると思われる市町村や都税事務所の1つ1つに請求をしなければなりません。被相続人が複数の不動産を所有していると、請求に時間や手間がかかることがあります。

預金口座の調べ方

預金を調べる場合、亡くなった人が口座を開設していた金融機関を特定する必要があります。遺品の中に、金融機関の通帳やキャッシュカードがないかを確認しましょう。

また、亡くなった人宛に金融機関から郵便物が届いていないかを確認することも大切です。通帳やキャッシュカードが見当たらなくても、金融機関から送付された通知書や取引報告書、利用明細等で預金口座の存在が発覚することがあるためです。

ネット銀行のように、紙の通帳が発行されず郵送物も送られてこない金融機関の口座を持っている可能性も考えられます。そこで、可能であれば亡くなった人のスマートフォンやパソコンにログインし、金融機関からメールが届いていないかを確認するとよいでしょう。

金融機関を特定できたら、相続の手続きで必要となる残高証明書の発行を依頼します。残高証明書は、基本的に金融機関の窓口だけでなく郵送でも請求が可能です。また、相続人が単独で請求することができます。
請求時は、口座開設者の死亡を証明する戸籍謄本や、請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本、請求者の本人確認書類等の提出を求められるのが一般的です。

また、通帳の記帳や取引履歴の開示請求もするとよいでしょう。取引履歴を確認すると、ほかの相続財産の存在が判明することもあるためです。

金融商品(株式・投資信託等)

相続財産がわからない時の調査方法

株式や債券、投資信託等の金融商品を保有するためには、証券会社や信託銀行、銀行等で口座を開設しなければなりません。口座がある金融機関から送付された取引明細書や年間取引報告書等を確認することで、亡くなった人が保有していた金融商品を調べられます。

口座の開設先がネット証券である場合、書類が電子交付されており、郵便物が届かないケースがあります。そのため、故人のパソコンやスマートフォンにログインして、メールの履歴を確認してみるとよいでしょう。
また、預金通帳の取引履歴を調べて、ネット証券とのあいだに入出金履歴がないか確認するのも有効な手段です。

証券保管振替機構(ほふり)に開示請求をする方法もあります。ほふりに開示請求をすると、亡くなった人が口座を開設していた証券会社や信託銀行等がわかります。
ただし、支店名や口座番号まではわからないため、口座がある金融機関に直接問い合わせて確認しなければなりません。加えて、ほふりでの開示請求は郵送のみで受け付けられており、1件につき6,050円の手数料がかかります。

借入金・未払金等を確認する方法

亡くなった人に借金や未払金があるかどうかは、郵便物を確認するとよいでしょう。

故人に借金がある場合、借用書や借入残高の通知書等が届いているかもしれません。税金や社会保険料等の未払いであれば、督促状や催告書が届いていることがあります。

また、預金通帳で借入金を返済した履歴がないかを確認するのも1つの方法です。個人信用情報登録期間に亡くなった人の信用情報を開示請求することで、借金や滞納の存在が発覚することがあります。
個人信用情報登録機関は、クレジットやローン等の申込状況や契約情報等が登録されている機関です。「全国銀行個人信用情報センター」「株式会社日本信用情報機構(JICC)」「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」の3機関があります。

これは相続財産?課税対象?

これは相続財産?課税対象?

亡くなった人が残した財産のなかには、相続財産にあたるかどうか判断が難しいものが含まれていることもあります。ここでは、相続財産であるかどうかの判別が困難であるものの例をみていきましょう。

借地権・借家権

借地権や借家権は、財産的に価値のある権利であるため、損害賠償請求権や特許権等と同様に基本的には相続の対象です。

ただし公営住宅の使用権については、相続人が当然に引き継がれるわけではないという判決が過去に下されています。そのため、公営住宅の入居者が亡くなった場合、相続人は退去を求められるかもしれません。

借家権については、本来であれば法定相続人ではない内縁関係にある人や事実上の養子にも引き継がれることがあります。
借主である人が亡くなった時に、借家権を承継できないと居住する場所を失ってしまいかねません。そこで借地借家法では、亡くなった人に相続人がいない場合に限り、内縁の配偶者や事実上の養子が借家人として権利や義務を引き継ぐことができるという規定が設けられています。

被相続人が営んでいた事業

被相続人が株主であり、かつ事業を営んでいる会社の株式は、相続財産となります。しかし、会社名義で所有されている不動産や債務等は、被相続人の財産ではないため、相続財産とはなりません。

一方で、被相続人が個人事業主であった場合、不動産や設備機械、売掛金、借入金等事業用の財産は被相続人の個人名義で所有されているため、すべて相続財産となります。

損害賠償金

被相続人が交通事故の被害者であり、遺族が受け取った損害賠償金は、相続財産とはならず相続税の課税対象にもなりません。
また、税法上では交通事故の損害賠償金を受け取った遺族には、所得税が課せられないとされています。

ただし、本来であれば被相続人が受け取るはずの損害賠償金を、受け取ることなく死亡した場合、損害賠償金を受け取れる権利が相続財産となり、相続税の課税対象となります。

被相続人が子供や孫等の名義で管理していた預金

口座の名義人と実際にお金を預けている人が異なる預金を「名義預金」といいます。

例えば、亡くなった父親が生前に子供の名義で預金口座を開設してお金を預けていたとしましょう。名義人であるはずの子供が預金口座の存在を知らない場合や、父親が口座の通帳と印鑑を管理していた場合は、名義預金とみなされることがあります。

相続人が名義人となっている預金口座が名義預金であり、実際は被相続人が管理していたとみなされると、口座内の残高が相続税の課税対象となります。

まとめ

相続財産は、被相続人が残した預金や不動産、株式、投資信託等が該当します。また、亡くなった人が残した借入金や未払金等も相続財産です。金銭的な価値がある相続財産のすべてが、相続税の課税対象となります。

生命保険の死亡保険金や死亡退職金は相続財産ではありませんが、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。一方で、被相続人が残したものであっても、仏壇や仏具等は相続税の課税対象になりません。

相続税の申告や相続放棄の手続きには期限が設けられているため、相続が開始された時は、相続財産やみなし相続財産がいくらあるのかを早急に調査しましょう。

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