相続税評価額とは?財産ごとの計算方法や相続税を抑える方法を解説

相続税評価額は、相続税の計算に用いる相続財産の価値を金額にしたものです。この記事では、財産ごとに相続税の対象になるのかとそれぞれの財産価値の評価方法を説明していきます。死後、残された家族にできる限り財産を残しながら、相続税の負担を軽減させるために税金の知識を身につけましょう。

相続税評価額とは?財産ごとの計算方法や相続税を抑える方法を解説

相続税評価額とは?相続税の計算で重要なポイント

相続税評価額とは?相続税の計算で重要なポイント

「相続税評価額」とは、相続税を計算する際に用いる財産の価値を金額で評価するものです。相続人が被相続人から財産を相続する時は、相続税を支払わなくてはけません。
国税庁が定めた「財産評価基本通達」により「相続税評価額」を用いて相続税を計算します。

相続税評価額の計算は、特別な評価方法が定められているものを除くと、一般的に相続が発生した日におけるその財産の時価(自由に取引が行われる時の価格)を基準とすることになっています。

現金など簡単に時価を把握できる場合もありますが、財産それぞれの時価を調べることが必要です。
どのような財産が遺されたのか、またそれらの財産はどのように評価するのかを大まかにでも把握しておくことが大切です。

【財産別】相続税評価額の計算方法

【財産別】相続税評価額の計算方法

相続税の計算を行うためには、建物や土地といった各財産の財産評価基本通達に基づいて相続税評価額を求めることになります。

財産評価基本通達の具体的な内容を把握するには、専門的な税金の知識が必要です。ここでは、代表的な相続財産別に相続税評価額の計算方法を紹介します。

土地の相続税評価額

【財産別】相続税評価額の計算方法

土地の相続税評価額の計算方法は「路線価方式」または「倍率方式」の2つの方法があります。

路線価方式

路線価方式は、国税庁が定めた路線価により土地の相続税評価額を求める方法です。
路線価とは、その路線に面した1平方メートル辺りの土地の金額を定めたもので、国税庁によって年に一度定められています。

ただし、路線価は路線ごとに付けられ、同じ路線に面した土地であっても、奥まった場所にある、使いにくい形状であるなど、必ずしも同じ条件下にあるとは限りません。別途定められた補正率を利用して、評価を行うことになります。そのため実際の計算方法は次のとおりになります。

1㎡あたりの路線価×補正率×相続する土地の面積(㎡)

倍率方式

田畑や山林といった路線価がない土地の場合、倍率方式によって相続税評価額を算出します。
毎年送られてくる固定資産税納税通知書に、土地の固定資産税評価額が記載されています。国税庁が毎年発表している「財産評価基準」に記載の評価倍率を土地の固定資産税評価額に乗算することによって、相続税評価額が求められます。

このように土地は、財産評価基本通達の中でも、複雑な補正や計算に基づいて評価を行う財産となっています。もし、相続が発生した時に土地を相続する場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

貸地の相続税評価額

貸地の場合、自用地より評価額は低くなります。
貸地ということは、その土地を借りている人がいることになります。借主には「借地権」があるため土地の利用に制限がかかり、自分名義の土地でも自由に扱うことができません。
貸地の相続税評価額の計算方法は次のとおりになります。

自用地としての評価額-(土地の評価額×借地権割合(※)
(※)定期借地権の目的の場合は残存期間に応じた割合

借地権割合とは、その地域について借地権の価額を評価するために国税庁が提示している割合のことで、借地権の残存期間や地域によって異なります。

建物(家屋)の相続税評価額

建物(家屋)の相続税評価額は、その建物の固定資産税評価額と同じです。
建物を賃貸している場合、その建物の相続税評価額は「固定資産評価額×70%」で計算されることになり、自分や家族で使用している場合よりも相続税評価額が低くなります。

ただし、親族に無償で貸している場合や、著しく低い家賃で賃貸していた場合などは、国税庁に賃貸物件と認められず、相続税評価額が減額されない場合がある点に注意が必要でしょう。

マンションの相続税評価額

マンションの一室を相続した場合、マンションの建物部分と土地部分の相続税評価額を分けて計算する必要があります。
原則として、マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じです。
土地部分の相続税評価額は、マンション全体の敷地における所有する占有部分の割合(敷地権割合)で変わります。敷地権割合は不動産の全部事項証明書やマンション売買契約書で確認できます。マンションの土地の相続税評価額は、次のように計算します。

1㎡あたりの路線価×マンション全体の土地の面積 ×敷地権割合

〈分譲マンションの相続税評価額〉
2024年1月より、分譲マンションにおいては、市場価格と相続税評価額に乖離がある場合に区分所有補正率の計算が必要になりました。
区分所有補正率の計算式は、評価水準(※1)を用いて計算する区分によって異なり、評価乖離率(※2)という数値を用います。

区分 区分所有補正率
評価水準(※1) < 0.6 評価乖離率(※2) × 0.6
0.6 ≦ 評価水準(※1) ≦1 補正なし
1 < 評価水準(※1) 評価乖離率(※2)

※1 評価水準=1÷評価乖離率
※2 評価乖離率=A+B+C+D+3.220 (0以下の物件は評価額0)

A:マンションの築年数 × △0.033
B:マンションの総階数 ÷ 33階(1.0が上限)×0.239
C:評価する部屋の所在階 ×0.018
D:(一棟の敷地面積×敷地権割合 又は 共有持分割合)÷専有部分の面積(床面積)× △1.195

補正が必要な場合の分譲マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額に区分所有補正率をかけて計算します。

固定資産税評価額×区分所有補正率

補正が必要な場合の土地部分の相続税評価額にも、区分所有補正率が計算に加わります。
補正が必要な場合の分譲マンションの土地の相続税評価額は、次のように計算します。

1㎡あたりの路線価×マンション全体の土地の面積(㎡) ×敷地権割合×区分所有補正率

上場株式の相続税評価額

株式の価格は日々変動するため、相続日の価格が必ずしも適切な評価額であるとは限りません。
株式の相続税評価額は、次の4つの評価額の中から最も低い価格を選択することができます。

1.相続開始日の終値
2.相続開始月の全終値の平均額
3.相続開始月の前月の全終値の平均額
4.相続開始月の前々月の全終値の平均額

普通預金の相続税評価額

普通預金は、相続開始日の口座にある残高が、そのまま相続税評価額になります。残高のある金融機関で残高証明書を発行し、相続税申告時に残高証明書に書いてある金額を申告しましょう。

生命保険金の相続税評価額

生命保険金には「残された家族の生活を守るための資金」という大きな役割があります。相続人が受け取る生命保険に関しては、一定の控除枠が設けられています。

生命保険金が相続の対象から控除される金額は「500万円×法定相続人の数」の計算式で求められます。
この控除額を、受け取る保険金から差し引いた金額を相続税の計算に用います。

なお、生命保険金の被保険者と受取人が違う場合は贈与税の対象となるなど、生命保険金であっても相続税の控除の対象にはならない場合があるため、注意が必要でしょう。

自動車の相続税評価額

自動車の相続税評価額は、買った時の値段のまま評価するのではなく、使っているうちに価値が減っていると想定して評価することになります。
自動車は、次のいずれかを選んで相続税評価額を求めます。

1.減価償却によって計算した残存価額
2.中古市場で下取りした場合の価格

退職手当金の相続税評価額

退職手当金は、本来なら被相続人が受け取るはずのお金です。被相続人の死亡後3年以内に相続人が退職手当金(功労金、その他これらに凖ずる給与)を受け取る場合、相続財産とみなされ相続税の課税の対象となります。

相続人が受け取った退職手当金などは非課税枠が設けられているため、非課税限度額以下の場合は課税されません。

・退職手当金の非課税限度額
500万円 × 法定相続人の数

・退職手当金の相続税評価額
受け取った退職手当金-非課税限度額

投資信託の相続税評価額

投資信託や貸付信託受益証券の相続税評価額の計算方法については、次の通りです。

1.投資信託の相続税評価額
相続開始日の1口あたりの基準価額×口数-相続開始日に解約した場合に源泉徴収される所得税の額-信託財産留保額及び解約手数料貸付信託受益証券の相続税評価額
元本の額+既経過収益の額-源泉所得税相当額-買取割引料


2.貸付信託受益証券の相続税評価額
元本の額+既経過収益の額-源泉所得税相当額-買取割引料

計算方法がやや難しいですが、どちらの場合も「相続開始日に投資証券をただちに換金した場合の価格」とイメージすると分かりやすいでしょう。

美術品・骨董品の相続税評価額

被相続人が絵画や骨とう品などの美術品を所有していれば、相続財産に含めて相続税を計算します。相続人が美術品の鑑定を取った結果、高額な美術品と判明し、相続税の納税額に大きく影響を与えてしまうケースはよくあります。

美術品の評価方法は販売業者として所有している美術品と、自宅に飾っている美術品に大別されます。

美術品販売業者が所有している美術品は、たな卸資産として評価します。たな卸資産の評価方法は確定申告で計上している帳簿価額を評価額とすることも可能です。

自宅に飾っている美術品は、インターネットなどの情報や買い取り時の査定価格などの売買実例価格や、専門家による鑑定結果である精通者意見価格などを参考にします。
専門家による鑑定は鑑定料のほうが高くなる可能性があるので、比較的安価なものは売買実例価格で評価します。
また、1点あたりの評価額が5万円以下の場合、家庭用財産に含めて計上することも可能です。

1点物や高価な美術品は市場に実例が少なく、インターネットなどで情報を探すことも難しくなります。そのため、専門家にしっかりと鑑定をしてもらい精通者意見価格を参考にしましょう。

相続税評価額を抑える方法

相続税評価額を抑える方法

相続税の知識があれば、遺産の相続税評価額を抑えることができます。

相続の時期によっては、事業に供している不動産に関しての特例など、遺産の相続税評価額を減額できる特例が出されている場合もあります。相続の際は、国税庁の情報をチェックするようにしてください。

小規模宅地等の特例を利用する

家族で一緒に住んでいた自宅の所有者がなくなった場合、その土地と建物は相続財産となり相続税の課税対象となります。しかし、一般的に土地や建物の相続税は高くなります。

相続税の支払いのために自宅を売らなければなくなり、家族の生活が破綻してしまう可能性もあります。
このような事態にならないために、相続税評価額を大きく減額できる制度として「小規模宅地等の特例」があります。

小規模宅地等の特例を活用することで、相続した土地の相続税評価額を最大で80%まで減額することができます。
事業用と居住用と利用していた目的によって、特例を利用するための要件と適用される土地面積の限度と減額割合が変わります。

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額割合
被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が事業に使っていた土地 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が貸付業をしていた土地 貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
被相続人および被相続人の親族などが発行済株式の総数または出資の総額の50パーセント超を有している法人などが使用していた土地 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が相続開始直前まで住んでいた土地 特定居住用宅地等 330㎡ 80%

小規模宅地等の特例は、要件が非常に細かく決められており、たびたび改正も行われています。場合によっては、税理士への相談も検討しましょう。

控除を活用して相続税がかからない場合がある

相続税は、相続される遺産の総額が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額の範囲内に収まる限り、申告は必要ありません。

また、亡くなられた方の配偶者が遺産を相続する場合「配偶者控除」の対象となります。配偶者控除においては、配偶者が相続する財産の評価額が1億6,000万円以下の場合には、相続税が非課税となります。

配偶者が相続する財産の評価額が1億6,000万円を超えた場合でも、配偶者の法定相続分の範囲内であれば、同様に相続税を納める必要がありません。
控除を活用することも有効ですが、家族に相続される財産をなるべく多く残すためには、最終的な相続税評価額の総額を抑えるに越したことはないでしょう。

まとめ

まとめ

相続した財産の相続税評価額は、それぞれの財産の評価方法を知っておく必要があります。どの評価方法を選ぶかによっても、最終的に納める税額が変わる点に注意が必要です。

また、時期によっては特例が出されていて、税額の控除を受けられる場合があります。
相続が発生した時は、相続税に関して専門の知識を持った税理士や税理士法人に相談することをおすすめします。

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