事実婚でも相続権はある?相続税や遺贈の放棄についても解説

事実婚状態で法律上の配偶者という立場でなかった場合、財産や遺産を相続することができるのでしょうか。結論を述べると、事実婚や内縁関係であった場合は相続権はありません。しかし「特別縁故者」の申し立てや「遺言」の作成などを通し、遺産を受け取ることは可能です。本記事ではいざというとき、どのように相談すればよいのかを説明します。

事実婚でも相続権はある?相続税や遺贈の放棄についても解説

事実婚とは?

事実婚とは?

事実婚とは、実際には夫婦のように暮らしていながら、婚姻届けを役所に提出せず、別姓のまま生計を共にしている状態を指します。事実婚(内縁関係)であること自体は、法律上特に問題はありません。しかし、事実婚と法律婚とでは、遺産相続で生じる権利に差が出てくることに気を付けましょう。

配偶者しか認められない?事実婚や内縁関係の場合の相続権は

亡くなった人の遺産については、「法定相続分」として相続の法律上の割合が定められています。相続人として扱われる人のことを「法定相続人」と呼び、「直系卑属(子や孫)」「直系尊属(父母や祖父母)」「兄弟姉妹」の順番で、相続権が割り当てられます。たとえば、被相続人に子がいるなら、父母に相続権は与えられません。

一方で法律上の配偶者は、他の親族の存在にかかわらず、常に相続人として判定されます。配偶者の相続人としての権利については、民法第890条において定められています。しかし、ここでの「配偶者」とは、婚姻届の提出を済ませ、法律上で配偶者と認められた妻もしくは夫のことです。たとえ生計を同一としていても、内縁の妻や夫の場合は、相続人として判定されません。

特別縁故者の申し立て

事実婚の場合に遺産を受け取る一つ目の方法としては、特別縁故者として申し立てる方法が挙げられます。被相続人に法定相続人がいなければ、内縁の妻や夫であっても、遺産を受け取ることができるのです。

特別縁故者となるためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

・生計を共にしてきた内縁の妻や夫・養子
・被相続人の療養看護に努めた人
・生前に特別な関係にあった縁故者

出典 


特別縁故者になるためには、家庭裁判所への申し立てが必須です。けれども、申し立てが受理されるかどうかは家庭裁判所の裁量にもよるため、必ず希望が通るわけではないことを知っておきましょう。

また、特別縁故者として申し立てるにあたって戸籍の調査が行われます。これは、法定相続人が他に存在しないかどうかを確かめるためです。たとえ音信不通の親族であっても、法定相続人の範囲に含まれる人物であるなら、相続権があると判断されます。一人でも法定相続人がいれば、その人に相続権が与えられ、内縁の妻や夫は遺産を受け取ることができないことに注意しましょう。

遺言の作成が重要

遺言の作成が重要

内縁の妻や夫が遺産を受け取るには、どのような方法を取るのが得策なのでしょうか。特別縁故者の制度を利用するにしても、確実に遺産を取得する権利を得られるとは限りません。内縁関係にある夫婦の場合は、生前に遺言書を用意しておくと安心です。遺言書を書き記しておくことで、財産を内縁の妻や夫に引き継がせることができます。

ただし、法定相続人が存在しているなら、遺留分の割合に注意しましょう。被相続人がすべての財産を内縁の妻や夫に相続させようと遺言書を書いたとしても、法定相続人は内縁の妻や夫に対して遺留分として最低限の遺産を取得することを請求できるのです。この請求は法定相続人(※ただし、兄弟姉妹及びその代襲相続人には遺留分はありません。)に与えられた正当な権利であるため、相続争いを回避する意味でも、遺留分に配慮しつつ遺言書を作成するのが望ましいでしょう。

事実婚の場合でも相続税はかかる!配偶者控除を適用できないことに注意!

事実婚の場合でも相続税はかかる!配偶者控除を適用できないことに注意!


前述した通り、内縁の妻や夫の場合でも特別縁故者となったり、遺言書の作成によって遺産を受け取る権利を得たりすることができます。ただし、その際には相続税を納める義務が生じることを知っておきましょう。


戸籍上の配偶者であれば、「1億6,000万円」もしくは「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い方の金額までは、税額の軽減が認められています。一方で、事実婚の場合は戸籍上の配偶者ではないため、相続税の配偶者控除を受けることができません。さらに、配偶者控除を受けることができないだけでなく、相続税の額も2割加算されるという点にも注意が必要です。

事実婚の場合は、たとえ特別縁故者の制度や遺言書により遺産を承継することができたとしても、多額の相続税が発生することもあります。このようなデメリットを踏まえた上で、事実婚の状態を続けるべきかを検討することが重要です。

遺贈の放棄をする場合の方法と手順

遺贈の放棄をする場合の方法と手順

仮に被相続人に法定相続人が存在せず、遺言書により遺産の全てを承継する包括遺贈を受けた(※1)としても、被相続人に借金がある場合には、それも含めて引き継ぐことになります。「負債を背負いたくない」「遺産に関する争いを避けたい」という場合には、遺贈の放棄の手続きが必要です。

内縁の妻や夫が、遺言書を通して遺産を受け取る権利を得た場合には、遺贈の放棄の必要性を判断しなくてはなりません。遺贈の放棄を希望する場合は、家庭裁判所で手続き(※2)を行いましょう。

※1:特定の財産を承継する遺言内容(特定遺贈)の場合には、被相続人の負債を背負うことはないため、遺贈の放棄は必要ありません。
※2:包括遺贈の場合には家庭裁判所での手続きが必要ですが、特定遺贈の放棄の場合には、家庭裁判所での手続きは不要です。

注意しなければならないのが、包括遺贈の場合には被相続人が亡くなった後、3か月以内に遺贈の放棄の手続きを行う必要があるという点です。被相続人がどれくらいの財産を所持していたか、借金を背負っていたかなど、財務調査をくまなく行うにはある程度の時間がかかります。期限内に遺贈の放棄をすべきかの判断ができるよう、早めに調査を進めなくてはなりません。

また、遺贈の放棄を行うのであれば遺言者の住民票除票や戸籍の附票、遺贈の放棄の申述者の戸籍謄本など、必要書類をすべて揃えることになります。住所地や本籍地が遠方であれば、郵送での請求となるため、取り寄せに時間がかかることに注意しましょう。

困ったときは専門家に相談するという選択も

困ったときは専門家に相談するという選択も

遺産の承継は必要な手続きや書類の準備が多く、専門的な知識が欠かせません。事実婚と法律婚の違いを踏まえて手続きしなくてはならず、分からないことばかりで不安に感じる方もいるでしょう。遺言書の有無により必要な書類が異なることもあるため、困ったときは専門家に相談してみるのがおすすめです。相談先としては、税理士事務所や弁護士事務所、信託銀行などが考えられます。大手の信託銀行では遺産整理業務のほか、書類の名義変更などの事務作業も代行しており、相続の専門家が数多く在籍しています。

まとめ

事実婚(内縁関係)であった場合でも、必要な手続きを行うことで遺産を承継することが可能です。しかし、戸籍上の婚姻関係とは異なり、多額の相続税が発生する可能性が高いということを知っておきましょう。

事実婚のメリットとデメリットを把握した上で、今後の関係性をどのようにしていくかを考えることが大切です。遺言書を用意しておくなど事前の備えだけでなく、いざという場合の相談先についても、しっかりと検討しておきましょう。

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