土地にかかる相続税はいくら?計算方法を理解し控除や特例も活用しよう

土地を相続した場合にも相続税がかかりますが、土地は金融資産とは異なる方法で評価されます。この記事では土地の評価額の計算方法や注意点について解説します。小規模宅地等の特例や控除を活用して、相続税の負担を軽減させる方法も参考にしてみてください。

土地にかかる相続税はいくら?計算方法を理解し控除や特例も活用しよう

相続すると土地にも相続税がかかる

相続すると土地にも相続税がかかる

相続税は、相続で総額一定以上の資産を受け取った場合にかかる税金です。納める額は、相続財産の時価をもとに計算するため、土地だけで相続税はいくらとは決まりません。

しかし、相続財産に土地の価額(税金を計算する時の価額を評価額といいます)も加算されるため、相続税の対象になります。土地は1筆でも比較的評価額が高いこと、また、土地の相続税評価額は独特のルールがあるため、注意が必要です。
なお、相続税の税率は、相続税対象額によって10%~55%の範囲で8段階に分かれます。

相続税の計算の流れ

相続税の計算の流れ

この章では、基本となる相続税の計算方法をご紹介します。

課税価格を算出

まず、相続税対象になる遺産の総額となる「課税価格」を求めます。この金額を「正味の遺産総額」と呼んでいる場合もあります。

課税価格を求めるために、金融資産や不動産などのプラスの財産と、故人の借金などのマイナスの財産を相殺します。そこに、税制上のルールに従って生前贈与の一部を加えたり、相続財産の非課税分を引いたりします。

課税価格に関わる財産の例

項目 内容
課税価格に加えるもの 金融資産、不動産、死亡保険金、死亡退職金
暦年課税の生前贈与の加算分
課税価格から引くもの 故人の負債、葬儀費用、死亡保険金や死亡退職金の非課税分

相続時精算課税制度を利用した場合は、上記の表の合計に加算します。もし、上記の表の合計がマイナスの場合は、合計を0円として扱います。

暦年課税の生前贈与加算や、相続時精算課税制度についての詳細は国税庁のホームページを参考にしてください。

暦年課税の生前贈与加算について:【参考】国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」詳しくはこちら
相続時精算課税制度について:【参考】国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」詳しくはこちら

基礎控除を差し引く

相続税には「基礎控除」というものがあり、前章で求めた課税価格から基礎控除を引きます。

基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数

課税価格から基礎控除を引いた額を「課税遺産総額」といい、この金額をもとに納める相続税額を計算します。なお、課税価格より基礎控除の方が多ければ、相続税はかかりません。

各相続人の法定相続分をもとに相続税総額を計算する

相続税の総額は、相続人全員が法定相続分を相続したとして計算した相続税の合計です。

各相続人の法定相続分の取得額=課税遺産総額 × 相続人ごとの法定相続分の割合

この式で求められた金額(1,000円未満切り捨て)が各相続人の法定相続分の取得額です。この金額に税率をかけて法定相続分の相続税を計算します。

法定相続分の相続税=各相続人の法定相続分取得額×税率

上記で求めた、法定相相続分の相続税を全員分合算したものが相続税の総額です。

各相続人の納める相続税を求める

相続税の総額と、実際に相続した評価額から各相続人に割り当てられる相続税額を求めます。

各相続人の相続税額=相続税の総額×相続人ごとの課税価格 ÷ 課税価格の合計額

最後に、適用される控除がある人は割り当てられた税額から控除額を引いて、実際に納める相続税額を求めます。相続の内容は、遺言書や遺産分割協議の内容が反映されます。

【参考】国税庁「No.4152 相続税の計算」詳しくはこちら

土地の評価額の計算方法

土地の評価額の計算方法

相続税を計算する時の土地の評価方法は、大きく2つあります。この章ではそれぞれについての解説と、評価額の目安を計算する方法もご紹介します。

路線価方式

路線価方式は、道路に設定された「路線価」という値をもとに、その道路に接する土地の価額を計算する方法です。
路線価は1平方メートルあたりの価値を1,000円単位で表し、道路に接する土地の面積をかけて計算します。
なお、同じ道路に面していても土地の形状などによって価値が変わり、評価額の計算では補正率という値をかけます。

路線価は、全ての道路に設定されているわけではなく、主に市街地や住宅地の道路に設定されています。1月1日時点の評価額が7月に国税庁から発表され、同年1月1日から12月31日の相続まで1年間使用されます。

【参考】国税庁「No.4604 路線価方式による宅地の評価」詳しくはこちら

倍率方式

倍率方式は、路線価が設定されていない土地の評価に使用する方法です。
一般的に郊外の土地や田畑、山林、原野などの評価に利用されます。
倍率方式では、固定資産税評価額に特定の倍率をかけて評価額を計算します。倍率は、国税庁のホームページで確認出来ます。

簡便法

上記2つの方法は土地の価額を正確に計算出来ますが、路線価や倍率を調べなければならないため、手間がかかります。
簡便法は、簡易的に固定資産税評価額を使い、次の式で土地の概算評価額を計算することが出来ます。

土地の概算評価額=固定資産税評価額×1.14

これは、国土交通省が発表する公示価格がキーになる方法です。固定資産税評価額は公示価格の70%、相続税の路線価は80%程度であることにより、倍率を求めます。

ただし、この方法で計算できるのは概算ですので、正確な評価額が必要な時は法律で決められた方法で計算しなければなりません。

土地に家を建てた場合の相続税評価額の計算方法

土地に家を建てた場合の相続税評価額の計算方法

所有する土地に家を建てた場合の評価額は、土地と家の評価額の合算で求められます。土地の評価額は更地の評価額と同じですので、前章の方法で計算します。
家の評価額は、固定資産税評価額と同額です。

なお、相続人と故人が建てた家に住んでいた場合や、特定の事業用に使用している場合は、相続税の評価額を抑える特例もあります。

購入した住居用マンションを相続した場合の相続税評価額の計算方法

購入した住居用マンションを相続した場合の相続税評価額の計算方法

住まいとして購入したマンションの評価額も、基本的には土地と住まいの評価額の合算です。土地はマンションが建っている土地をほかの所有者と分割して所有しているという考え方から、次のように計算します。

マンションが建っている土地の評価額×持分割合

マンションが建っている土地の評価額は、更地の評価額計算方法と同じように計算します。その評価額に売買契約書に載ってる持分割合をかけて、相続した土地の評価額とします。住まいの評価額は、固定資産税評価額と同額です。

【参考】国税庁「No.4602 土地家屋の評価」詳しくはこちら

土地の相続には小規模宅地等の特例を活用しよう!

土地の相続には小規模宅地等の特例を活用しよう!

小規模宅地等の特例は、故人と同居していた配偶者や遺族が自宅を相続する時に利用出来る制度です。
この制度を適用すると330平方メートルまでの土地の評価額を80%減額することが出来ます。
故人が亡くなる直前まで一人暮らしだった場合は、別居していた子供でも一定条件を満たせば、小規模宅地等の特例が使える可能性があります。

特定の事業に使用している場合も、小規模宅地等の特例が利用できます。事業内容によって、特例が利用できる敷地面積や減額率が異なります。
また、故人が事業を開始して3年以内に亡くなってしまうと、この特例を利用出来ないので注意が必要です。

相続税を軽減できる控除や特例

相続税を軽減できる控除や特例

相続税の納税額を抑えられる控除や特例があります。その一部を紹介します。

基礎控除

基礎控除は、相続税の課税価格から引ける金額です。法定相続人の数によって決まり、計算方法はこちらです。

基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続人の特性による控除(配偶者控除・未成年者控除・障害者控除)

相続人が次のどれかに該当する場合は、その人の相続税を計算する時に該当控除額を引くことが出来ます。

相続税の人的控除の一例

名称 条件など 控除額
配偶者控除 被相続人の配偶者
婚姻届けを出していること
1億6,000万円もしくは配偶者の法定相続分、どちらか大きい方を控除
未成年者控除 18歳未満の法定相続人で、日本に住んでいる人 18歳になるまでの年数×10万円を控除
障害者控除 障害者認定を受けている法定相続人で、日本に住んでいる人 85歳になるまでの年数×10万円を控除
なお、特別障害者の場合は1年間あたり20万円

未成年者控除、障害者控除の年数は、1年未満を切り上げます。
例えば、16歳7ヶ月の未成年者の場合、18歳まで1年5ヶ月です。端数の5ヶ月を切り上げて2年とします。

【参考】国税庁「No.4152 相続税の計算」詳しくはこちら

みなし財産の非課税枠

故人が亡くなったことによって、遺族が手にする財産をみなし財産といいます。死亡保険金、死亡退職金などがその例で、法定相続人の人数によって一定額まで相続税がかかりません。相続税がかからない金額を非課税枠といい、次の式で求められます。

みなし財産の非課税枠=500万円×法定相続人の人数

なお、複数の相続人が死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合は、受取った金額の割合に合わせて非課税分を分配します。

配偶者居住権

配偶者居住権は、故人と同居していた配偶者が自宅に住み続けられるように作られた制度です。
この制度では住まいを所有権と居住権に分けて、配偶者は居住権を相続します。居住権をもつと、子供などが所有権を持っていても、配偶者は住み続けることが出来ます。

なお、配偶者が亡くなると居住権は自然消滅します。そのため、所有権を持っている人は配偶者の相続時に、相続税をかけずに住まいを受け継ぐことが出来ます。

贈与税額控除

故人が生前、相続人に資産を贈っており、相続人が贈与税を払っていた場合に適用出来る控除です。
生前に贈与をした場合、死亡前3年(2024年1月以降の贈与は7年)に行った贈与額を相続時に加算します。この時、相続時に加算した分の贈与に贈与税を払っていた場合は、相続税額から引くことが出来ます。

相次相続控除

被相続人が10年以内に相続をして、相続税を払っていた場合に適用できる控除です。控除できる金額は、被相続人が前回納めた相続税や経過年数、今回の相続で受け取る資産などによって決まります。

【事例】土地を相続した場合の相続税を計算してみよう!

【事例】土地を相続した場合の相続税を計算してみよう!

それでは、具体例を用いて相続税を計算してみましょう。今回は、次のような相続を考えてみます。

被相続人Aさんの相続財産
・死亡保険金:2,000万円
・預貯金:1,500万円
・自宅(250㎡):土地3,700万円、建物800万円
・駐車場:2,500万円

相続税算出に関わる情報
・生前贈与なし
・負債なし
・葬儀費用500万円(妻、子供で250万ずつ負担)
・相続人:妻、子供1人(成人)

出典 

Aさんの相続財産を次のように分割したとします。
妻:自宅、死亡保険金
子供:駐車場、預貯金

これを前述の相続税の計算の流れに沿って計算していきます。

課税価格を算出

Aさんの課税価格に加えるもの
死亡保険金(2,000万円)、預貯金(1,500万円)、自宅の評価額(土地3,700万円、建物800万円)、駐車場(2,500万円)

Aさんの課税価格から引くもの
死亡保険の非課税分(500万円×2)、葬儀費用(500万円)、自宅の小規模宅地の特例(3,700万円の80%)

これらを合計すると、課税価格:6,040万円

基礎控除を引く

今回の例では法定相続人が2人ですので、

3,000万円+600万円×2=4,200万円
6,040万円-4,200万円=1,840万円

各相続人の法定相続分をもとに相続税総額を計算する

今回の相続は妻と子供で相続します。それぞれの相続税を計算しますと、

妻の法定相続の取得分:1,840万円×1/2=920万円
妻の法定相続の取得分にかかる相続税:920万円×10%=92万円

子の法定相続の取得分:1,840万円×1/2=920万円
子の法定相続の取得分にかかる相続税:920万円×10%=92万円

相続税の総額:184万円

各相続人の納める相続税を求める

相続税の総額184万円を実際の相続額の割合で分配します。

妻の相続分:1,000万円+800万円+3,700万円×(100%-80%)-250万円=2,290万円
妻の相続税:184万円×2,290万円÷6,040万円=69万7,600円(100円未満切り捨て)
配偶者特別控除を引いて、妻の相続税は0円

子供の相続分:1,500万円+2,500万円-250万円=3,750万円
子供の相続税:184万円×3,750万円÷6,040万円=114万円2,300円(100円未満切り捨て)

子供は114万2,300円の相続税を納めます。

土地を相続する場合の注意点

相続財産に土地があると、ほかの財産と比べて評価額が高額になる傾向があります。また、1筆の土地を分割して相続するのが難しいため、土地を相続した人の相続額は一般的に高額になります。
土地を相続する場合の注意点を理解しておきましょう。

ほかの相続人の遺留分を侵害する可能性がある

遺産相続する土地の評価額が高額なために、ほかの相続人と相続額が違い過ぎると、ほかの相続人の遺留分を侵害する可能性もあります。
遺留分とは、一定の法定相続人に保障されている最低限受取れる相続財産額です。遺留分を確保出来ない場合、土地を相続した人が代わりに現金を渡すことになるケースもあります。

二次相続を見据えて相続内容を考える

夫婦のどちらかが亡くなったあと、その配偶者の相続を二次相続といいます。夫婦は同世代であることが多いため、2回の相続にそれほど時間が経たないのが特徴です。
二次相続では、配偶者控除が利用できないことや、法定相続人が減っていることから、相続税が高くなる傾向があるといわれています。

そのため、一次相続の時から二次相続の節税対策も意識しましょう。
例えば、一次相続の時にある程度子供にも相続させておくのも1つの方法です。配偶者控除を活用しようとして配偶者が多く相続した結果、二次相続で高額の相続税が発生することを防ぐことができます。

子供と夫婦が同居しているのであれば、一次相続で子供が自宅を相続することも有効です。
配偶者は、配偶者居住権を使って一次相続では住まいの相続税を抑え、二次相続では住まいの相続税を回避するための対策です。

ただし、一次相続の時に配偶者に渡す資産が少なすぎると配偶者の生活が厳しくなる可能性があるので、注意が必要です。

相続税の申告期限は10ヶ月以内

相続税は、故人が亡くなってから10ヶ月以内に、遺産を分割し、相続税を確定させ、申告して、納税しなければなりません。また、申告期限に間に合わないと相続税を減額できる特例の一部が使えなくなり、さらにペナルティがかかってしまいます。
10ヶ月は意外と短いもの。元気なうちに出来る対策はしておいた方がよいでしょう。

まとめ

まとめ

不動産相続において、土地の扱いは多方面からの知識が必要です。相続税評価額の計算方法が独特であるうえ、評価額が高くなる傾向があり、相続税額に影響が大きいケースがあるためです。

一方、相続税対策につながる特例も、土地の利用方法などによって異なる場合があります。希望に沿った相続を行うために、専門家のアドバイスを受けながら相続対策を行うことをおすすめします。

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