住宅ローンも相続する?団信の加入によって異なる相続を理解しよう

故人が住宅ローンを抱えたまま亡くなった場合、故人が加入している団信や生命保険によって相続方法や課税対象が異なります。今回は、住宅ローンやその対象となる家が相続の際にどう扱われるのかを解説します。安易に相続放棄しないことや、ペアローンの場合など、注意点も参考にしてください。

住宅ローンも相続する?団信の加入によって異なる相続を理解しよう

住宅ローンを相続することは少ない

住宅ローンを相続することは少ない

相続人は、自宅不動産や現預金など「プラスの資産」と、借金やローンなどの「マイナスの資産」の両方を相続します。
「プラスの資産だけ相続する」ことはできないため、故人が住宅ローンの返済中に亡くなった場合、住宅ローンはマイナスの資産として相続人が引き継ぎ、返済する必要があります。
しかし、基本的には住宅購入時に団体信用生命保険に加入しているため、相続するケースは少なくなっています。

団体信用生命保険に入っている場合は住宅ローンを相続しなくてよい

団体信用生命保険に入っている場合は住宅ローンを相続しなくてよい

住宅ローンの契約者の大半は「団体信用生命保険(団信)」に加入しています。
団信とは、生命保険の1つで住宅ローンの契約者が被保険者、融資する金融機関が保険金の受取人となります。契約者が死亡したり、高度障害状態になったりすると、その時点のローン残高に相当する保険金が、団信から金融機関へと支払われる仕組みです。

故人が団信に加入していれば、住宅ローンは団信の保険金で相殺されるため、住宅ローンを相続する必要はなくなります。
民間の金融機関の住宅ローンの多くは、契約の際に、団信への加入が必要となっていますが、団信の加入には年齢制限など一定の条件があるため、加入していない可能性もあります。
住宅ローンの契約時に団信に加入していたかどうかを確認する際は、住宅ローンの借入先の金融機関、あるいは住宅金融支援機構団信専用ダイヤルで照会することができます。

生命保険のみに加入している場合は住宅ローンを相続する

生命保険のみに加入している場合は住宅ローンを相続する

一部の住宅ローンでは団信への加入が任意となっており、団信の代わりにほかの生命保険に加入しているケースもあるでしょう。その場合には、受け取る保険金と住宅ローンが相続税に影響します。

住宅ローンの相続人「当然分割」とは?

当然分割とは、遺産分割の対象外となり、法定相続分に従って共同相続人で分割承継することです。当然分割は、相続開始の時点で、債務を相続する場合に自動的に発生します。

故人が住宅ローンの契約の際に団信に加入しておらず、ほかの生命保険に加入していた場合、契約していた住宅ローンはそのまま負の資産として残ります。
住宅ローンは当然分割に該当するため、住宅ローンの債務は遺産分割協議を経ることなく、相続人全員が法定相続分に応じて残りのローンを引き継ぐことになります。

金融機関はどの相続人にも住宅ローンを請求できる

法定相続人が法定相続分で住宅ローンを引き継ぐこととなれば、その住宅を相続しなかった相続人までもが住宅ローンを引き継ぐことになります。そのため、金融機関はどの相続人にも住宅ローンを請求できます。

遺産分割協議で、住宅を相続する人が住宅ローンを承継すると合意ができたとしても、それのみでは借入先である金融機関に対抗することはできません。

仮に相続人全員で行った遺産分割協議において、長男が住宅ローンを承継すると取り決めたとしても、二男や長女の法定相続分を限度として、二男や長女に対して金融機関から住宅ローンの返済を請求される可能性があります。

この場合、長男の代わりに二男や長女が住宅ローンを一部返済した場合には、その金額を二男や長女から長男に対して請求することができます。

団信にも生命保険にも加入してない場合

団信にも生命保険にも加入してない場合

では、故人が健康上の理由などで団信にも生命保険にも加入しておらず、住宅ローンの残債がある場合、残りの住宅ローンの支払いや相続税はどうなるのでしょうか。以下、このケースについてご説明します。

住宅ローンは債務控除ができる

故人が団信にも生命保険にも加入しておらず、住宅ローンが残された場合、基本的に相続人が残りの住宅ローンを返済することになります。
この場合、相続した不動産は相続税の対象となりますが、住宅ローンの残債は「債務控除」として相続財産から差し引くことができます。

■債務控除の仕組み

団信にも生命保険にも加入してない場合

※マイナス分を控除することでプラスの資産が圧縮

相続した家には相続税がかかる

債務控除で住宅ローンを差し引くことができても、相続した家は相続税の課税対象となります。団信やその他の生命保険に入っているかいないかによって、保険金への相続税負担は変わりますが、いずれにせよ相続する家には相続税を納める義務が生じます。

相続財産に住宅ローンがあった場合の流れ

相続財産に住宅ローンがあった場合の流れ

実際に相続した不動産に住宅ローンが残っていた場合の手続きの流れについてご紹介します。

金融機関に契約者の死亡を伝える

金融機関は遺族の方から申告がない限り、ローン契約者が亡くなったことを知る術がありません。
そのため、ご家族の方が現在返済中の金融機関(融資のお申込先の金融機関)に連絡をし、契約者が亡くなられた旨を伝えましょう。
その際に、住宅ローンの状況と団信の加入の有無を確認します。

住宅ローンの返済手続きを行う

ローン契約者が団信に加入していれば、住宅ローンは完済されます。団信に加入していなくても、生命保険の保険金でローンを完済できる場合もあります。

しかし、夫婦共働き等でペアローンを組んでいた場合は、死亡した人のローン残債だけが団信で返済されます。もう一方の人のローン残債は、引き続き返済が必要となります。

抵当権抹消登記の手続きが必要

住宅ローン完済後は、抵当権の抹消手続きを行う必要があります。
抵当権とは、住宅ローンを借りる際に購入する土地と建物に対して金融機関が設定する権利のことをいいます。

住宅ローンを契約する時は、担保として土地と建物に抵当権が設定されます。住宅ローンを完済したからといって、自動的に抵当権がなくなるわけではありません。
そのため、自分で抵当権を抹消する手続き(抵当権抹消登記)をする必要があります。

抵当権抹消の手続きの方法

抵当権抹消の手続きは、法務局で申請の相談を行います。
その後、金融機関から書類を受け取り、提出書類の準備をします。
作成した抹消登記申請書類を法務局に提出した後、法務局が登記簿の内容を変更し、抵当権抹消登記の手続きが完了となります。
なお、抵当権抹消登記の手続きは、オンラインでもすることができます。

抵当権の抹消登記手続きは、自分で行うことが可能です。しかし、住宅ローンを完済後、早めに抵当権の抹消登記手続きを行いたい場合には、司法書士に依頼するとよいでしょう。

相続した住宅ローンを支払えない場合の対処方法

相続した住宅ローンを支払えない場合の対処方法

住宅ローンを相続した場合、住宅ローンを支払えないというケースも発生する可能性があります。住宅ローンが払えなくなった場合の対処方法として「金融機関に住宅ローン返済計画の変更を相談する」「限定承認」と「相続放棄」を検討するなどの方法があります。

金融機関に返済計画変更の相談する

住宅ローンを相続することになったけれど、残債を支払うのは難しい。そうした場合は、故人が住宅ローンを契約していた金融機関に、返済計画の見直しについて相談してみましょう。
住宅ローンの返済期間を延長したり、毎月の返済額を減額する、ボーナス払いを中止、または減額するといった返済計画を変更してもらえる可能性があります。

「限定承認」と「相続放棄」を検討する

住宅ローン自体を相続したくない場合の対処方法としては「限定承認」と「相続放棄」が挙げられます。

限定承認とは、故人のプラスの資産を上限として、マイナスの資産を相続する制度です。限定承認を選択すると、マイナスの資産がプラスの資産を大きく上回る場合でも、プラスの資産の範囲内でマイナスの資産を相続します。

もう1つの相続放棄は、プラスの資産もマイナスの資産も一切の相続権を放棄することです。住宅ローンを抱えてまで自宅を相続したくないと思うのであれば、相続放棄は選択肢の1つでしょう。
ただし、相続放棄をすると住宅ローンの返済義務がなくなりますが、預貯金や不動産などプラスの資産も一切相続できなくなるため、慎重に検討しましょう。

住宅ローンを相続する際の注意点

故人から住宅ローンを相続する場合は、団信や生命保険の加入の有無によって、相続の方法に大きな違いが出てきます。それぞれの状況を理解し、対応するうえでの注意点を解説します。

安易に相続放棄しない

住宅ローンを相続する際の注意点

先に住宅ローンを相続したくない場合の対処法として、限定承認と相続放棄を挙げました。しかし、安易に相続放棄を選ぶことには注意をしましょう。

住宅ローンは、ほかの債務とは性格が異なります。故人が団信に加入していれば、団信の保険金で住宅ローンは完済されます。団信に加入していなくても生命保険に加入していれば、その保険金をローンの返済に充てることができます。また、住宅ローンはマイナスの資産として「債務控除」が受けられます。

相続放棄をすれば、プラスの資産財産も一切相続できなくなります。住み慣れた家も同時に失うことになりかねないので、住宅ローンの返済を恐れて相続放棄をする際は、慎重に検討しましょう。

住宅ローンが払えなかった場合は抵当権が実行される

相続後に住宅ローンが支払えないということが起こった場合、金融機関から抵当権が実行される恐れがあります。
抵当権が実行されると、相続した住宅も競売にかけられ、強制売却されてしまうので、しっかりと返済計画を立てたうえで、相続をしましょう。

金融機関に無断で名義変更しない

住宅ローンの債務残高がある場合は、原則として無断で名義変更をしてはいけません。
無断で名義を変更していても、相続の登記を行える可能性はありますが、故人の収入などの信用をもとに住宅ローンは組まれているため、相続が起こった場合は新たな返済計画が必要になります。
トラブルを防ぐため、相続が起こり名義変更がある場合には、その旨を金融機関に伝えましょう。

ペアローンは故人の住宅ローンのみ返済される

不動産購入時に夫婦のペアローンや、親子のリレーローンを組んでいた場合は、故人の債務分のみを相続財産として考えます。

例えば6,000万円の不動産で、親子や夫婦が3000万円ずつローンを組んでおり、団信に加入していた場合は、故人の負っていたローンの残債が返済免除となります。
故人が負担した3,000万円の不動産持ち分に対してのみ相続税がかかることになります。

まとめ

故人が住宅ローンの返済中に亡くなった場合、団信や生命保険の加入の有無によって相続の方法や手続きが大きく異なります。

住宅ローン契約者のほとんどの方が団信に加入しており、多くの相続人は住宅ローンの相続で頭を悩ますことは少ないと思われます。
しかし、実際に住宅ローンの相続は100%ないとは言い切れないため、生命保険に未加入などの場合は、誰が住宅ローンを引き継いで返済を続けていくのか、早いうちから考えておくのがよいでしょう。
団信でローンが消滅した場合も、相続登記や抵当権の抹消登記などの手続きが必要なので注意しましょう。

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