相続時精算課税制度とは?手続き方法やメリット・デメリットを解説

相続時精算課税という制度をご存知ですか?2,500万円までなら贈与税が非課税になる仕組みや手続き方法を解説します。暦年贈与との違いやメリット・デメリットを理解して、うまく制度を活用することで贈与税や相続税の対策をしましょう。

相続時精算課税制度とは?手続き方法やメリット・デメリットを解説

「相続時精算課税制度」とは

「相続時精算課税制度」とは

「相続時精算課税制度」とは、贈与額のうち2,500万円までは特別控除が認められて非課税となり、2,500万円を超えた部分は20%の贈与税率で課税される制度です。生前贈与の課税負担を軽減することによって高齢者から若い世代への財産移転を促し、経済の活性化を図ることが目的で、2003年(平成15年)の税制改正により創設されました。

相続時精算課税制度を使える対象者

この制度は誰でもが使えるわけではありません。贈与する側の条件は「60歳以上の父母または祖父母」であり、贈与される側の条件は「20歳以上の子・孫」です。また、生前贈与に限り選択可能です。

2,500万円までは非課税、すべて相続税の課税対象に

相続時精算課税制度では、2,500万円までの生前贈与は非課税ですが、贈与した人が亡くなって相続が発生した時に、すべてが相続税の対象となり、他の財産と合わせて課税されます。

例えば、80歳の父親が相続時精算課税制度を使って2,500万円を娘に贈与し、その5年後に資産1億円を残して亡くなったとします。その際の相続税は、資産1億円だけではなく、娘が5年前に贈与を受けた2,500万円も対象です。つまり、合計1億2,500万円に対して相続税が課されます。

「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」との違いは

「相続時精算課税制度」と「暦年贈与」との違いは

贈与税には、一人当たり年間110万円の基礎控除があります。年間110万円までなら税金はかかりません。これを利用した生前贈与の方法が「暦年贈与」です。

相続時精算課税制度を使って生前贈与をした時には2,500万円までなら税金はかかりませんが、贈与した人が亡くなった際は相続税が課されます。一方、暦年贈与は1年に贈与できる額が110万円と少ないですが、贈与税も相続税も納めずに済みます。

相続税対策としては、相続時精算課税と暦年贈与とどちらがお得か考えると、贈与に長い時間をかけられるなら、暦年贈与の方が確実でしょう。

相続時精算課税のメリットは?

相続時精算課税のメリットは?

「2,500万円まで非課税で贈与できる」といっても、のちに相続税が課税されるのなら、どのように活用すれば相続税対策になるのかが分かりにくい面があります。相続時精算課税のメリットについて具体的に説明します。

2,500万円を超えても贈与税が安くなることがある

通常の贈与税は、1年間に贈与を受けた財産の金額から110万円の基礎控除を差し引き、その金額に応じた税率をかけて計算されます。財産の額が大きくなると税率も上がる仕組みで、最高税率は「55%」です。

一方、相続時精算課税では、2,500万円を超えた分の税率は「一律20%」です。そのため、金額によっては贈与税の大幅な相続税の負担軽減となります。

値上がり確実な財産だと相続税の負担軽減になる

最大の特徴は、贈与された資産の価値が「贈与時点で固定される」ことです。のちに相続税の対象となったとき、その資産は贈与時点の時価で計算されます。

例えば、相続時精算課税制度で、父親から時価およそ3,000万円の土地の贈与を受け、10年後に父親が亡くなった時、土地は4,000万円に値上がりしていたとします。この場合、相続税は4,000万円ではなく、3,000万円に対して課税されるため、結果として大きな相続税の軽減効果が得られます。しかし、反対に2,000万円に値下がりしたとしても、3,000万円に対して課税されるため、この場合は損をしてしまいます。「値上がり確実」な財産であれば相続税の軽減効果が期待できます。

収益性のある財産なら収益の分だけ相続税を軽減できる

「価値の固定」は、収益性のある有価証券や賃貸不動産などでも相続税の軽減効果を発揮します。のちに相続が発生した際には、贈与時点の時価で税額が計算され、贈与後に贈与財産から得られた収益は相続税の対象にはなりません。

例えば、毎月20万円の家賃収入がある賃貸物件を所有していた場合、物件も家賃収入もそのままにしておけば、相続時には両方とも相続税の対象です。しかし、相続時精算課税制度を利用して早めに子や孫に贈与しておけば、子や孫が得た家賃収入には贈与税や相続税が課税されず、それだけ相続税対策できます。

相続時精算課税の必要書類・申告方法・手続き

相続時精算課税の必要書類・申告方法・手続き

相続時精算課税制度を利用するためには3つのステップでの手続きが必要です。また、申告先は税務署です。

①必要書類を揃える
②贈与税を計算する
③申請する

①必要書類を揃える

相続時精算課税の申請に必要書類は次の5つです。

・相続時精算課税選択届出書
・贈与税の申告書
・贈与を受ける人の戸籍謄本または戸籍抄本
・贈与を受ける人が20歳に達した時以後の住所がわかるもの
・贈与した人の住民票または戸籍の附票

相続時精算課税選択届出書

相続時精算課税制度を利用することを税務署に申告するための書類です。税務署でも手に入りますが、国税庁のHPでダウンロードすることもできます。

贈与税の申告書

贈与税を計算して税務署に申告するための書類です。税務署でも手に入りますが、国税庁のHPでダウンロードすることもできます。

贈与を受ける人の戸籍謄本または戸籍抄本

相続時精算課税制度で贈与を受ける人の条件は直系尊属から20歳以上の直系卑属であるため、それを証明する戸籍謄本または戸籍抄本が必要となります。
本籍がある市町村の役場で入手でき、郵送での取り寄せも可能です。

贈与を受ける人が20歳に達した時以後の住所がわかるもの

贈与を受ける人の20歳以後の住所が分かる必要があります。戸籍の附票で確認できれば問題はありませんが引越しをしていると確認できない場合も。この場合、改製原附票と呼ばれる過去の戸籍の附票があればベストですが、証明できないこともあるでしょう。その場合は、自身で証明書を作成して提出することも認められます。

贈与した人の住民票または戸籍の附票

贈与した人の戸籍や60歳に達した後の住所が分からなければなりません。こちらも、引越しをしていると確認できない場合には、過去にさかのぼって取得したり、自分で証明書を作成する必要があるでしょう。

②贈与税を計算する

必要書類が揃えば、いよいよ贈与税を計算しましょう。
相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税の計算方法は、

(贈与された財産の価額-特別控除額)×20%

贈与された財産が現金や預金の場合は、贈与された金額をそのまま計算すればよいですが、土地や不動産のような実物資産の場合は、その相続税評価額を計算する必要があります。
財産の種類によって、計算方法が異なるので計算方法を確認したのちに評価額を求めましょう。そのため、必ず事前に評価方法を確認したうえで、どれくらいの贈与税になるのかを頭に入れておきましょう。

贈与額が2,500万円の非課税枠におさまった場合は、贈与税がかかりませんが、残りの非課税枠を確認するためにも計算してみるとよいでしょう。

③申請する

①の必要書類のうち「相続時精算課税選択届出書」と「贈与税の申告書」に必要事項を記入して、必要書類を税務署に提出します。電子申告も可能です。

特別控除額の2,500万円を超えた贈与の場合は、贈与額から 特別控除額をマイナスし、残った金額に対して20%を乗じた金額が贈与税額となります。
一方、贈与の額が特別控除額の2,500万円を超えなかった場合には、特別控除額の残額がいくらになるかを明記して申告します。

この申告は贈与された人が申告をするものなので、複数の人へ贈与した場合は人数分の申請がされることになるでしょう。

相続時精算課税制度、利用時の注意点!

相続時精算課税制度、利用時の注意点!

贈与の仕方によっては大きな相続税の軽減効果も期待できますが、デメリットも少なくありません。主な注意点を紹介します。

最大の注意点は、自動継続であること

父母、祖父母から生前贈与を受ける際には、暦年贈与か相続時精算課税にするのかを選択しなければいけません。ここで気を付けたいのは、一度相続時精算課税を選んでしまうと、その後の贈与はすべて自動継続されるということです。「父からの贈与は相続時精算課税」「母からの贈与は暦年贈与」と、贈与者ごとに選択できますが、相続時精算課税を一度選ぶと自動継続になるのは変わりません。

110万円以下の贈与でも贈与税の申告が必要

暦年贈与では、年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税の申告は不要です。しかし、相続時精算課税を選択すると年間の贈与額が110万円以下でも申告しなければいけないので、注意しましょう。

相続時精算課税制度を使うと暦年課税制度は使えない

相続時精算課税を一度選ぶと、相続時精算課税を選択した贈与者との間では、一生暦年贈与は使えなくなります。「110万円までは非課税」という暦年贈与の基礎控除を利用した相続税対策をすることはできません。

贈与を忘れると遺産分割協議と相続税申告をやり直す必要がある

相続時精算課税で贈与を受けてから、実際に相続が発生するまでに長い時間が経過していると、贈与を受けたこと自体、忘れてしまいがちです。贈与を受けた財産は、たとえ何十年経過しても相続税の課税対象です。これを忘れて相続税の申告をすると税務署から指摘され、遺産分割協議や相続税の申告をやり直さざるをえなくなります。

相続人ではない孫は2割加算で相続税を納める

相続時精算課税制度で、孫が贈与を受けたときも注意が必要です。本来の相続人が先に亡くなっている「代襲相続」ではない限り、孫には相続権がないため、相続税計算の際に2割増加算されます。

不動産だと小規模宅地等の特例が使えない上、別の税金がかかる

相続時精算課税制度で不動産を贈与すると、実際に相続が発生した際に、「小規模宅地等の特例」が使えなくなります。この特例は、亡くなった人が住んでいた土地など、一定の条件を満たした場合に課税価格を引き下げるもので、相続税の負担軽減につながります。さらに、相続時精算課税制度で不動産の贈与を受けると、不動産取得税など別の税金がかかってしまいます。

相続税の物納には使えない

税金は金銭での納付が原則ですが、相続税に限り、金銭での納付が困難で一定の要件を満たした場合、物納が認められます。しかし、相続時精算課税で贈与された財産は、物納は認められません。

まとめ

まとめ

相続時非課税制度では、2,500万円まで贈与税が非課税になり、多額の財産を一括贈与でき、資産価値の固定ができるというメリットがあります。しかし、一度選択してしまえば二度と暦年贈与には戻れないため、使い方を間違えるとデメリットが大きいといえます。専門家などにも相談し、十分なシミュレーションを行ったうえで利用することが望ましいでしょう。

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