遺言執行者(遺言執行人)とは?役割や権限や資格等、わかりやすく解説

法的な効力がある遺言書は、円滑な相続とトラブルの回避に役立ちますが、遺言書の作成だけではスムーズに相続が進まないケースもあります。本記事では、遺言執行者の概要と必要性、具体的な業務内容、選任するメリット・デメリットを解説します。

遺言執行者(遺言執行人)とは?役割や権限や資格等、わかりやすく解説

遺言執行者(遺言執行人)とは

遺言執行者(遺言執行人)とは

遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために、遺言者の死後に手続きを行う人で、遺言書に記載された相続の内容を実現するには、所定の手続きを正しく遂行しなければなりません。

遺言書に正しく記載をしておけば、遺言執行者は相続に関する手続きを単独で進める権限を持つため、不動産の登記や銀行口座を解約するための手続きも行うことができます。遺言の内容によっては遺言執行者を指定する必要がないケースもありますが、あらゆる事態を想定して適切な人物を選任しておくとよいでしょう。

遺言執行者(遺言執行人)の必要性

遺言書を作成する際は、遺言者の意思を実現できる遺言執行者を選任しておくのが理想的です。遺言執行者が必要なケースとして「認知」、「推定相続人の廃除・取り消し」、「一般財団法人の設立」が挙げられます。

法律上、婚姻関係のない男女を父母に持つ非嫡出子に対し、遺言により認知することが可能であり、認知届の提出には遺言執行者の選任が必要です。また、被相続人が推定相続人から重大な侮辱や虐待などを受けており、当該相続人を廃除する旨の遺言がある場合、遺言執行者が家庭裁判所に対して相続の廃除(又は廃除の取消し)の申立てを行う権限を与えられています。

さらに、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第152条の2項では、遺言により一般財団法人を設立する意思が示せると記載されています。この場合、一般財団法人の設立には遺言執行者の指定が不可欠です。

【参考】e-Gov法令検索「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(第五款 設立時代表理事の選定等 第百六十二条)」詳しくはこちら

具体的な業務内容

具体的な業務内容

未成年者や破産者でない限り、誰でも遺言執行者になることはできますが、相続における煩雑な手続きを進めていくには、少なからず法的な知識があったほうが安全です。遺言執行者を誰に依頼すればよいのか検討するうえで、具体的な仕事の内容を把握しておきましょう。

遺言執行者の就任通知書を作成・交付

遺言執行者のはじめの業務は、相続人に対して遺言執行者に就任した旨を通知する通知書を作成し、全ての相続人に交付することです。
気をつけておきたいのが、故人の生前から遺言執行者には遺言執行者になって欲しいという旨を伝えておくことです。遺言書を開封してはじめて自分が遺言執行者に指定されているということが分かり、遺言執行者になることを拒否されては、相続がスムーズに進みません。

遺言執行者に就任した旨と責任を持って遺言内容を進めることを周知することがスタートです。

遺言書の写しを送付

遺言執行者は、全ての相続人に対して、遺言の内容を通知するため、遺言書のコピーを送付します。上述したように、遺言執行者就任通知書に同封して送付すると、スムーズでしょう。なお、相続人に遺言の内容を知らせることは、民法1007条第2項で義務付けられています。そのため、遺言執行者への就任を承諾したら、速やかに遺言書の写しを送付するようにしましょう。

相続財産目録を作成・交付

相続財産目録とは、対象となる相続財産をわかりやすく整理した文書です。対象が不動産であれば、所在地や物件の種類、構造などを細かく明記します。預貯金の場合には、金融機関名や支店名、口座番号等の記載が必要です。

なお、相続の対象となるのは、現金や不動産、預貯金だけではありません。債務も相続財産に含まれることがあるため、目録には債務も記載します。正確な目録の作成のために、しっかりと財産の調査を行うなどして、相続時点の財産の状態を正しく把握しておくとよいでしょう。

金融機関の解約手続き

遺言執行者には、遺言書に解約権限等を与える旨を記載することで、遺言者名義の口座の解約手続きを行う権限も与えられます。解約手続きにおいては、金融機関によって必要な書類は異なりますが、相続手続依頼書や被相続人の除籍謄本、対象口座の通帳やキャッシュカード、遺言書などが必要となります。

相続財産の登記

相続法の改正に伴い、現在では一定の場合には不動産の登記手続きを遺言執行者が行えるようになっています。例えば、被相続人の特定の不動産が、相続人の一人に遺贈された場合、遺言執行者は登記に関する手続きを実行することができます。登記の変更により、相続した不動産の所有権が相続人に移れば、受け継いだ財産を有効に活用できます。

財産の名義変更

相続財産の名義変更も遺言執行者が担う業務のひとつです。名義のある相続財産とは、自動車や有価証券、株式などが該当します。自動車の名義変更は陸運局で行います。株式や有価証券の名義を変更する際には、証券会社や信託銀行へ問い合わせたうえで必要な書類を入手すれば手続きは行えますが、移管する口座を新たに開設しなければならないなど時間を要するでしょう。

その他、遺言書に記載のある業務

上記以外の要望を遺言書に記載することも可能です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために存在します。そのため、遺言事由の範囲内であれば、具体的な要望を明記しておけば遺言執行者により業務として実行されます。

任務完了後に文書で報告

業務がすべて終了したら、遺言執行者は相続人に対して速やかにその旨を報告しなければなりません。当該報告に関する文書に記載される内容には、遺言執行に係る業務の内容、手続きを実行した日付や業務期間中に収支内訳などが挙げられます。なお、民法では、任務完了に伴う通知に関して、遅滞なく行わなければならないと義務付けています。

遺言執行者(遺言執行人)の選任方法

遺言執行者(遺言執行人)の選任方法

近年、遺言書の作成とともに遺言執行者を選任するケースが増えています。相続のトラブルを避けるために重要な役割を担う執行者ですが、中には、相続人との間でトラブルに発展することもあるようです。遺言執行者を指定する際は、公平で正しい解釈ができるかどうかに加え、管理能力の有無も考慮したうえで選任することが大切です。

遺言執行者(遺言執行人)になれる人

遺言執行者になるための資格や条件はありません。そのため、専門家ではない遺言者の家族や相続人でも就任できます。ただし民法によって、未成年者と破産者は遺言執行者になれないと定められています。

また、法的な知識のある弁護士・司法書士・行政書士・税理士などの専門家に依頼することや信託銀行などの機関に依頼する方法もあります。

未成年者や破産者でなければ誰でも就任できるものの、相続の手続きは複雑です。誰でも簡単に業務を遂行できるものではないため、トラブルを避け、スムーズに相続を進めたいと考えているのなら専門家への相談がおすすめです。

選任方法は3つ

遺言執行者の選任は、遺言書・第三者・家庭裁判所で指定するといった3つの方法があります。遺言書で特定の人物を指定する場合には、相続が発生した際に困惑させてしまわないよう、遺言書作成前に遺言執行者に選任する旨を事前に伝えておくようにしましょう。なお、遺言執行者は法人を指定することも可能です。

遺言書で遺言執行者を指定するのではなく、遺言書の中に遺言執行者を誰に決めてもらいたいか記載し、指定した第三者によって遺言執行者を選定してもらうという方法もあります。また、遺言書に遺言執行者の記載がとくにないケースや、指定した遺言執行者が就任を拒否したり亡くなったりした場合は、家庭裁判所に遺言執行者を選任するための申立てを行うことが可能です。

選任に必要なもの

家庭裁判所に選任の申立てを行うときは、以下の書類が必要です。

・申立書
・遺言者の死亡について記載してある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
・遺言書の写しもしくは遺言書の検認調書謄本の写し
・被相続人との利害関係を証明する文書
・遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票

出典 

また、申立てを行う際の費用として、遺言書1通に対して800円分の収入印紙のほか、連絡用の郵便切手も用意しなければなりません。

報酬も支払う

相続人を遺言執行者に指定する際には、報酬を定めないケースもありますが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、報酬の支払いが生じます。依頼先によって報酬額は大きく変わるため、事前の確認は必須です。

なお、選任した相続人に報酬を支払いたいと希望する場合には、予め遺言執行者の報酬金額を遺言書に記載しておくとよいでしょう。遺言執行内容に応じて適切な報酬額を決定してもらいたい場合には、家庭裁判所で決めてもらうのもひとつの方法です。

辞任・解任することもできる

指定された遺言執行者は就任を拒否することができ、就任してから辞任をすることも可能です。しかし、就任後の辞任には正当な理由が求められ、病気や引っ越しなどを理由に客観的に継続が困難である場合に、家庭裁判所に申立てをして辞任の手続きを行えます。

また、遺言執行者を解任する際にも然るべき理由が必要です。例えば、遺言執行者として果たすべき任務を怠ったり、不正の疑いがあるなどの場合に家庭裁判所へ解任を請求することができます。他方で、個人的な感情や遺言書に対する不満を理由に解任を請求する行為は認められていません。

遺言執行者(遺言執行人)を選任するメリット

遺言執行者(遺言執行人)を選任するメリット

遺言執行者を選任すれば、円滑に相続手続きを進められます。遺言執行者には、遺言内容の実現に向けて単独で手続きを進める権限が与えられるため、他の相続人の負担も軽減できるでしょう。また、相続人の不正や独断を抑制する効果も期待できます。

遺言者にとって、遺言内容をきちんと実行してくれるかどうかはとても重要です。遺言執行者を指定すれば、遺言者が望むとおりの相続を実現してくれます。少しでも不安に感じる要素があれば、費用がかかったとしても第三者である専門家を遺言執行者に指定した方が安心できるでしょう。

遺言執行者(遺言執行人)を選任するデメリット

相続に関する知識が十分でない人物を遺言執行者として選任した場合、手続きが滞るおそれがあります。中には、期間制限が設けられてる手続きもあるため、遺言執行者には相応の負担がかかります。

専門家を選任した場合、決して安くはない報酬額が発生する点がデメリットになるかもしれません。しかし、段取りよく相続に必要な書類を集めたり、戸惑うことなく手続きを進めたりできる点では心強いでしょう。

まとめ

遺言執行者は、遺言の内容を執行するために、単独でさまざまな相続手続きを行う権限を有します。未成年者や破産者以外であれば誰でも就任できますが、人選を誤ると手続きがスムーズに進まなくなるおそれがあります。

相続に関する手続きは複雑なため、法に詳しい専門家を選任すると安心です。遺言執行者を選任する際は、メリットとデメリットの両方を正しく理解したうえで慎重に検討するようにし、遺言書の作成前に一度は弁護士や信託銀行などの専門家に相談するのがよいでしょう。

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