2018年民法(相続法)改正の8つのポイントと注意点を解説

日本の相続は「民法(相続法)」の規定をベースに、相続税関連は民法の規定に基づいて「相続税法」で定められています。2018年には民法が改正され、それにより変わった新しい相続の仕組みが2019年から2020年にかけ段階的に導入されています。そこで、今回は民法の改正内容や、それに伴う注意点について解説します。

2018年民法(相続法)改正の8つのポイントと注意点を解説

相続・贈与制度の変更点

相続・贈与制度の変更点

相続や贈与に関する民法が改正されたのは約40年ぶりです。この間に、日本の相続のあり方も大きく変わりました。40年前には地方を中心に長男が全財産を相続する「本家相続」の慣習が根強く残っていましたが、今は兄弟姉妹が平等に相続する「均分相続」が主流です。こうした時代の変化を背景に、主に以下の内容が改正されています。

①自筆証書遺言の方式緩和
②預貯金の払い戻し制度
③婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用財産贈与の優遇措置
④特別寄与の制度
⑤遺留分制度の変更
⑥対抗要件の具備
⑦配偶者居住権
⑧自筆証書遺言保管制度

これにより、従来の相続の常識が大きく変化した部分もあるでしょう。

変更点と施行のタイミング

2018年民法改正による主な相続・贈与制度の変更点と施行のタイミングをまとめたのが次の表です。以下は、それぞれのポイントや注意点を詳しくご紹介します。

改正点と施行時期

改正点 施行時期 
自筆証書遺言の方式緩和 2019年1月
預貯金の払い戻し制度 2019年7月
婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用財産贈与の優遇措置 2019年7月
特別寄与の制度 2019年7月
遺留分制度の変更 2019年7月
対抗要件の具備 2019年7月
配偶者居住権 2020年4月
自筆証書遺言保管制度 2020年7月

【参考】三菱UFJ信託銀行「なに!なに?民法改正(PDF)」詳細はこちら

自筆証書遺言の財産目録部分はパソコン作成などがOK

自筆証書遺言の財産目録部分はパソコン作成などがOK

従来、自筆証書遺言は文字通り全文自筆の必要があり、代筆や、パソコンやワープロを使うのはNGでした。しかし、2019年1月から、財産目録の部分はパソコンやワープロで作成できるようになりました。印刷したものに署名押印すれば、自筆証書遺言の一部として認められます。さらに預貯金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付することも可能になっています。

方式緩和のメリットや注意点

自筆証書遺言は財産目録などの項目が多いほど、手書きするのが大変です。さらに、高齢になると手先の機能は衰えますし、脳梗塞などの病気を発症している方は自分で筆を執るのが難しいかもしれません。
こうした場合は公正証書遺言という選択肢もありますが、自分が好きな時に家族に内緒で書くことができる自筆証書遺言には一定数のニーズがあり、今回の方式緩和は、自筆証書遺言をより使いやすくするものとして注目されます。
一方で、遺言書の本記は依然手書きしなければなりませんし、前述したようにパソコンやワープロで作成した財産目録には印刷した後に1枚ずつ署名押印しておく必要があるので、注意が必要です。

遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せる

遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せる

故人の預貯金口座は相続人間の遺産分割協議が終わるまでは凍結され、相続人が単独で故人の預貯金を引き出すことはできませんでした。しかし、2019年7月以降は遺産分割の前でも故人の口座から一定の範囲で払い戻しを受けられるようになっています。
具体的には、金融機関ごとに「相続開始時点の残高の3分の1×払い戻しを行う相続人の法定相続分(上限150万円)」までは、家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができます。
また、医療費の精算などでまとまった額を仮払いする必要がある場合は、他の相続人の利益を害しなければ、家庭裁判所の判断で仮払いが認められます。

預貯金の払い戻し制度のメリットや注意点

遺産分割前でも故人の預貯金から一定額を払い戻せるようになったことで、相続人は自分の財産から故人の葬儀代などを立て替える必要がなくなりました。とはいえ、葬儀代や当面の生活費など小口資金の補填を前提にした制度などで、故人の預金口座に数千万円単位の残高があったとしても、引き出せる額は制限されます。

結婚20年以上の夫婦なら贈与した居住用不動産は相続財産の対象外

結婚20年以上の夫婦なら贈与した居住用不動産は相続財産の対象外

2019年7月以前は、妻が夫から居住用の不動産(建物またはその敷地)を生前贈与された場合、その不動産は「遺産の先渡し」と見なされました。遺産を分割する際には原則、その不動産を「特別受益」として計上する必要があり、夫の死によって相続できる財産から差し引かれていました。しかし、2019年7月以降は、婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で居住用の不動産の贈与や遺贈(遺言を使った贈与)がなされた場合、原則、その不動産は遺産の先渡しとして見なされず、相続財産の対象外となっています。

夫婦間贈与の優遇措置のメリットや注意点

改正前は、夫が亡くなった時に妻が相続する財産から生前贈与した居住用不動産の分が差し引かれる形でした。しかし、今は生前贈与分が相続財産の対象外となったため、結果的に妻は、生前贈与がなかった場合の遺産分割よりも、トータルで多くの遺産を取得できることになります。

法定相続人でない親族も貢献分を相続人に請求できる

法定相続人でない親族も貢献分を相続人に請求できる

高齢化した親の介護の負担が子どもやその配偶者にかかるケースは少なくないようです。実子であれば、介護した親の相続発生時には民法上の「寄与分」が認められ、法定相続分より多めに遺産をもらうことできます。しかし、子どもの配偶者が主たる介護者となっている場合、これまでの制度だと、遺贈などの配慮がない限り、遺産を受け取ることはできませんでした。
しかし、2019年7月からは、子どもの配偶者など法定相続人以外の親族が無償で療養介護をし、故人の財産の維持・増加に寄与した場合、こうした親族は相続人に対して「特別寄与料」として金銭を請求できるようになっています。

特別寄与の制度のメリットや注意点

法定相続人ではない親族への特別寄与の制度を使えば、故人の介護をしていた親族が故人に貢献した分を報いるために遺産を分けることができます。しかし、特別寄与の制度は「法律上、特別寄与料の請求が可能になった」という段階で、実際に請求するとなるとハードルが幾つもあります。

例えば、具体的にどれくらいの期間に渡ってどのような介護をしたのか、介護日記や立て替えた介護費用の領収書などを示して証明しなければなりません。また、仮に嫁の立場だとしたら、夫の兄弟姉妹に対して「特別寄与料をください」とは言いづらい面もあるでしょう。
さらに、特別寄与料が支払われたとしても、特別寄与者は法定相続人ではないため、相続税がかかるケースでは相続税額が2割加算となります。

遺留分の侵害額を金銭で請求できるように

遺留分の侵害額を金銭で請求できるように

故人の兄弟姉妹以外の法定相続人には、相続に当たり「遺留分」という最低限の遺産取り分が認められています。法定相続人は自分の相続財産がこの遺留分に満たなかった場合、足りない分を請求することができます。しかし、例えば遺産の大部分を不動産が占めており、他の相続人と分割相続の合意に至らないと、不動産が相続人による共有状態になってしまいます。この場合、売却なども難しく遺留分を受け取ることができないといった問題がありました。

こうした事態を避けるため、2019年7月以降は遺留分侵害額を金銭で請求できるようになりました。一方、遺贈や贈与を受けた相続人がすぐに金銭を準備できない場合は、家庭裁判所に対して支払い猶予の申し立てをすることもできます。

遺留分制度のメリットや注意点

遺留分侵害額の問題を金銭で決着できるようにしたことで、従来のような不動産の売却ができなかったり、事業運営に支障を来したりといったトラブルが発生するのを回避することができます。
先のようなケースで遺留分侵害額を請求された相続人が、請求した相続人の同意を得て不動産で代物弁済(金銭での支払いが困難な場合に代わりに他の財産を給付すること)を行うとも可能です。この場合、不動産は相続後に譲渡したものと見なされ、譲渡利益が発生した場合、渡した側は所得税を支払うことになります。受け取った側も登録免許税と不動産取得税を負担することになるので注意しましょう。

法定相続分を超えて権利を承継する場合は対抗措置が必要に

法定相続分を超えて権利を承継する場合は対抗措置が必要に

法定相続人には、故人の家族構成や故人との血縁関係に応じて民法で遺産分割の割合が決められています。これを「法定相続分」といいます。これはあくまで遺産分割の目安であり、例えば、「妻に全財産を相続させる」といった遺言があった場合、妻は法定相続分を超える相続をする形になります。
2019年7月から、このようなケースでは登記などの対抗要件を備えないと、所有権について第三者に抵抗できないようになりました。

対抗要件の具備のメリットと注意点

この措置は、遺言の有無やその内容を知ることができない故人の債権者の利益や、第三者の取引の公平性を確保するためのものです。
一方で、法定相続分を超える相続をした人は、速やかに登記などの対抗要件を取っておかないと、所有権が脅かされる可能性があります。

家の価値を「配偶者居住権」と「所有権」に分けて相続できるように

家の価値を「配偶者居住権」と「所有権」に分けて相続できるように

配偶者居住権とは、相続発生時に故人の所有する建物に居住していた配偶者が、原則生涯に渡り(期間を設定することも可能)、無償でその建物に住み続ける権利のことです。2020年4月に新設されました。
夫に先立たれた高齢の妻が、余生を住み慣れた自宅で送りたいと考えるのはごく自然な感情です。
しかし、夫に先立たれた妻が後妻で相続人が妻と先妻の子(後妻と養子縁組をしていない子)といったケースでは後妻が亡くなった後に問題があります。自宅不動産を相続した妻は自宅に住み続けることができ、財産としても自宅を所有することができます。その後、後妻が亡くなると自宅は後妻の親族が相続することになります。夫の実子であっても、後妻と養子縁組をしていないままに自宅の所有権が後妻に渡ると、将来的に夫の実子が自宅を相続することができなくなるのです。

そこで、自宅不動産を「配偶者居住権」と「所有権」とに分け、妻が配偶者居住権を相続して自宅に住み続けることができるようにします。子が自宅の所有権を相続することで、実の父の後妻が亡くなったあとも自宅を所有しつづけることができるのです。また、法定相続分(妻が2分の1)での相続となった場合、妻が相続しているのは不動産の所有権ではなく配偶者居住権なので、不動産の所有権を相続する場合より、多くの金融資産を相続することができるでしょう。

配偶者居住権は、遺贈や死因贈与に加え、相続人による遺産分割協議、遺産分割協議が不調に終わった場合は遺産分割調停や審判などでも設定することが可能です。配偶者にとって有利なのは、生前に遺言を使って遺贈する方法です。遺贈は遺言者の相続が発生した時点(死亡時)から効力が発生するので、配偶者は遺産分割協議などを経ずに自宅に住み続ける権利を手にすることができるからです。

配偶者居住権のメリットと注意点

前述した例に限らず、例えば子どものない夫婦で夫が先祖代々の自宅不動産を自分の親族に承継させたいと考えているような場合、配偶者居住権を設定して妻が存命中は自宅に住み続けられるようにした上で、所有権は甥や姪といった次世代の親族に相続させる、といった使い方もできます。
気を付けたいのは、配偶者は自宅不動産が不要になった場合でも売却ができないことです。老人ホームに入居するなどの理由で所有権を持つ子どもの同意を得れば売却することは可能ですが、子から配偶者居住権消滅の対価をもらわなかったり、もらったとしても市場価値を大きく下回る売却価格だったりした場合は、子どもに対して贈与税がかかる可能性もあります。

法務局による自筆証書遺言の保管制度がスタート

法務局による自筆証書遺言の保管制度がスタート

自筆証書遺言については、2020年7月から法務局による保管制度が始まっています。相続人は遺言者の死後、全国の保管所から遺言書が保管されているかどうかを調べることができ(「遺言書保管事実証明書」の交付請求)、保管されている場合は、遺言書を保管する保管所(法務局)で閲覧したり、遺言書の写しの交付を請求したり(「遺言書情報証明書」の交付請求)することができます。
制度を利用する際は、遺言者本人が必ず自筆証書遺言の保管制度の利用の申請を行う必要があります。保管所は遺言者の住所地か本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局から選択できます。
保管費用は1通につき3900円。相続人が遺言書の閲覧や、「遺言書保管事実証明書」や「遺言書情報証明書」の交付を請求する際も手数料がかかります。

自筆証書遺言保管制度のメリットや注意点

自筆証書遺言保管制度を利用することで、自筆証書遺言の紛失や改ざんを防ぐことができます。また、自筆証書遺言は通常、開封する前に家庭裁判所の検認を受ける必要がありますが、保管制度を使えばこの検認手続きも不要になります。
気を付けたいのは、保管手続きや、保管する遺言書の体裁です。保管手続きを行う際は、法務局に事前予約が必要です。また、登録の際は、住民票(発行後3カ月以内)が必要となり、身分確認のためにマイナンバーカードや運転免許証などの顔付き身分証明書の提示が求められます。さらに、保管できる遺言書はA4サイズのみで、余白についても左は20ミリ以上、上と右5ミリ以上、下10ミリ以上といった規定があるので、注意が必要です。

まとめ

まとめ

2018年の民法改正を全体的に見ると、相続にかかる手間や不便だった点を改善し、現代の相続にふさわしい内容へと変更されています。新制度を正しく理解し、上手に活用することで、これまでの相続上の課題が一気にクリアされることもあります。
しかし、制度によっては高度な専門性が必要となり、素人が判断するのはリスクを伴う場合もあります。必要な手続きが増えたものもあるので、内容や活用方法でよくわからない点があったら、疑問点を整理して専門家に相談しましょう。

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