遺言書の法的効力はどこまで?無効になるケースや注意点など
遺言書があると、遺産の分配について、親族間での話し合いがスムーズに進められます。しかし、遺言書の内容や作成方法によっては、遺言書の効力が無効となるおそれがあります。無効となるケースや注意すべき点などを紹介しますので、作成の参考にしてください。

遺言書でできること

遺言書を作成しておくと、故人が生前望んでいた意思を正確に残せるようになります。具体的にどのようなことができるのか、代表的なものを解説します。
遺産分割の配分や方法の指定
遺言書では、誰にどの財産をどれだけ相続させるかを記載することができます。法定相続分に関わらず、遺言書により遺産の取り分を指定することが可能となるのです。つまり、相続においては、法定相続分として規定された分配割合よりも、遺言書に記載された内容が優先されます。配分の割合は、遺言書の作成者が自由に決められることになっています。

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相続人以外への遺贈・寄付
故人の遺産は、遺言がない場合、原則として法定相続人へ相続されることとなっています。ただし、相続人以外の人物(お世話になった人・内縁の妻・孫など)や特定の団体へ遺産を渡したい場合は、遺言書への記載により、遺贈や寄付が可能です。特定の団体への寄付を考えるケースは、身内がおらず、遺産を残す相手がいない場合に見受けられます。

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子供の認知
婚外子(いわゆる隠し子)が存在する場合、生前に認知するとトラブルにつながることがあります。この場合、遺言書に記載することで、正式に自分の子供であるとの認知をすることも可能です。これは「遺言認知」と呼ばれる制度であり、認知すると相続人に加えられ、遺産相続ができるようになります。
後見人の指定
遺言書を遺した本人が亡くなることで、相続人が未成年しかおらず、親権者がいなくなる場合に、遺言書に記載することにより未成年後見人を指定できます。未成年後見人は、未成年者の財産管理・身上監護などを行います。
遺言書が無効になってしまうケース

遺言書の種類は主に3つあります。このうち、公証人が作成するものが公正証書遺言であり、自ら作成するものは自筆証書遺言と秘密証書遺言の2種類です。自ら遺言書を作成するとき、法律に定められた作成方法を守らないことにより、遺言が無効となるケースがあります。有効な遺言書を残すために、次のように作成しないよう注意しましょう。
なお、上記の3つの遺言書とは別に、病気や事故により死が目前に迫っている状況で活用できる特別方式遺言も存在しますが、多くの人は上記3つの遺言の種類を検討することになります。

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全文パソコンで作成している
遺言書は、基本的に全文自筆での作成が必要です。パソコンで作成すると、遺言書が無効となってしまいます。ただし、平成31年1月13日以降に作成された遺言書においては、民法の改正により、相続財産目録のみ、パソコンでの作成や通帳・不動産の登記事項証明書などのコピー添付が認められています。なお、同日よりも前に作成された遺言書においては、従前の方式に従った遺言書でなければならず、新しい方式に従って遺言書を作成されていたとしても、その遺言は無効となります。
また、自筆証書遺言では、自筆での署名および捺印が必要です。通称ではなく本名で署名し、実印で押印することで、トラブルを避けられます。自筆以外の方法で相続財産目録を作成したのであれば、全てのページに署名・捺印が必要です。

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日付が未記入である
遺言書には、日付も必ず自筆で入れることが定められています。また、「〇月吉日」のように、日付があいまいなものも無効です。遺言書を作成した正確な日付を、忘れずに記載しましょう。
訂正や加筆の方法が不適切である
自筆証書遺言書の訂正や加筆の方法も厳格に定められており、決まりに反している部分は無効となります。決まりの一部として、次のような点があげられます。
・遺言書を作成した本人が、訂正および加筆する
・変更箇所は二重線で消し、その付近に正しい内容及びその内容に変更した旨を記載する
・変更箇所に、文字と重ならないよう押印する
・加筆する際は、どこに挿入するのかを示し、正しい内容を追記する
・遺言者本人の署名が必要である
これらの決まりに沿って、作成することが重要です。
こんな場合はどうなる?遺言書の効力Q&A

遺言書が正しく作成されていても、その後で効力がなくなってしまうことがあります。以下のようなケースでは、遺言書の効力はどうなるのでしょうか。正しく理解していれば、慌てずに対処することができるでしょう。
遺言書を勝手に開けてしまった
遺言書を開けてしまっても、効力がなくなることはありません。ただし、家庭裁判所において、相続人が揃った段階で開封する手続きが必要です。これを検認といいますが、検認を行うより前に勝手に開けた場合には、民法1005条の規定により、5万円以下の過料が課せられます。
遺言書を開封後に、内容を勝手に書き換えたり、隠蔽や破棄などを行ったりすると、相続人の権利を失います。遺言書を保管している者が検認前に遺言書をうっかり開けてしまったら、直ちに、弁護士などの専門家に相談の上、遺言書を家庭裁判所へ提出し、検認を受けましょう。
【参考】民法「第五編 相続 第七章 遺言 第四節 遺言の執行 第千五条 過料」 詳しくはこちら
遺言書がない
遺言書を紛失してしまった、または故人が遺言書を作成していなかったなどの理由で、遺言書がない場合には、相続人同士が話し合ったうえで、話し合いの内容を記載した「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議前には、相続人調査を行い、当該相続に関して相続人となる者が誰であるかを調べる必要があります。さらに、分割する財産の内訳を知るために、相続財産調査も行わなければなりません。
相続人の範囲が広い場合には、この調査を行うのに専門家へ依頼する方がスムーズに進められることもあります。弁護士・司法書士・行政書士などに相談するのもひとつの方法です。
遺言書があるかどうか分からない
故人が、公正証書遺言を作成していれば、公正役場で遺言書の有無の確認がとれます。しかし、遺言書を自宅に保管していた場合に、保管場所を家族に知らせていないケースがあります。この場合、遺言書があるかどうか分からないといった状況に遭遇するでしょう。
まずは、心当たりのある場所を、ひとつずつ探してみることをお勧めします。自宅の金庫やタンス、鍵付きの書斎、仏壇の奥などで見つかる場合もあります。
また、取引していた銀行や信託銀行などに尋ねてみるのもよいでしょう。それでも見つからなければ、遺言書がない場合の手順で手続きを行います。
遺産分割を行った後で遺言書の存在が分かった場合、内容によっては遺産分割協議を再度行う必要が生じるため、隅々までくまなく探しましょう。
遺言書の内容に納得がいかない
遺言書は、故人の生前の意思を示すものですが、必ずしも全ての記載内容に沿った相続をする必要はありません。相続人全員の同意があり、遺言者も遺産分割協議を禁じていないことなどの一定の条件下においてであれば、遺言どおりに分割しないことも可能です。
また、例えば一人に全ての遺産を相続させるなど、納得のいかない内容が書かれていれば、「遺留分」の主張が認められます。これは、遺言に関係なく、相続人(兄弟姉妹を除く)が最低限の遺産を受け取ることができる制度です。主張可能な権利は、法定相続分の半分が基本となっています。
まとめ

遺言書は、遺産の配分や子供の認知など、相続人に伝えたい内容を記載できる一方で、法律上の規定に従った書き方をしなくては無効となってしまいます。遺言書の作成や、作成された遺言書の効力に疑問点があれば、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、スムーズに相続や遺産の分割が進められるようにするとよいでしょう。
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