遺言書の法的効力はどこまで?遺言書の種類や無効になる注意点を解説

遺言書には、できること・できないことがあり、効力を発揮する条件も決まっています。この記事では、遺言書の効力について、遺言書の種類や無効になってしまう注意点を紹介します。遺言書があると、遺産相続の話し合いがスムーズに進められるため、理解を深めておくとよいでしょう。

遺言書の法的効力はどこまで?遺言書の種類や無効になる注意点を解説

遺言書の効力はどこまで?遺言書でできること

遺言書の効力はどこまで?遺言書でできること

遺言書は、自分の死後に財産を誰にどのくらい分配するかなどについて、生前の希望を書き記しておくものです。正しく作成された遺言書であれば、その希望を実現させることができます。
遺言書を作成することで具体的にどのようなことができるのか、代表的なものを解説します。

遺産分割方法を指定できる

遺言書では、誰にどの財産をどれだけ相続させるかという遺産の分割方法を指定することができます。
例えば「妻が自宅と預貯金を相続し、長男が株式を相続する」「不動産は売却し、売却金を長男と次男がそれぞれ2分の1ずつ相続する」といったように指定することが可能です。
また、こうした分割方法の決定を相続人以外の第三者に委託することもできます。

相続人を廃除できる(相続権消失)

特定の相続人から虐待や侮辱などを受けているといった事情があり、その相続人に財産を渡したくない場合、遺言書によって相続する権利を剥奪することができます。これを「相続人の廃除」といいます。

なお、相続人の廃除は家庭裁判所への申し立てが必要です。遺言書による相続人の廃除は、遺言執行人(遺言書の内容を実現する人)が手続きを行うことになるため、併せて遺言執行人を選定する必要があります。

相続割合を指定できる

財産を相続できる相続人は、法律で定められた範囲に限り、各相続人の相続割合(遺産の取り分)も法律で定められています。これを「法定相続分」といいます。
遺言書は、相続割合を指定することも可能で、遺言書で指定した相続割合は、法定相続分よりも優先されます。
そのため遺言書を作成することで、遺言者(遺言書を作成する人、つまり被相続人)は自由に相続割合を決定することができます。

遺産分割協議を禁止できる(最大5年)

自分の死後すぐに遺産分割をしないほうがよいと考える場合は、遺言書によって、遺産分割を最大5年間禁止することができます。この間、仮に遺産分割協議によって遺産分割が行われても、原則として無効となります。

遺産分割を禁止する場合の例としては、相続人に未成年者がいる場合や、病気などの事情がありすぐに相続の手続きができない場合などです。

遺言執行者を指定できる

遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実行するために、必要な手続きをする権限を持った人のことです。遺言書によって、遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託することができます。

遺言の内容によっては、遺言執行者が必ずしも必要というわけではありません。ただし、遺言執行者が指定されている場合には、相続人であっても相続財産の処分を勝手に行うことはできない点には注意が必要です。
また、前述の「相続人の廃除」や後述する「認知」などを行う場合は、遺言執行者を選任する必要があります。

相続人でない人に遺贈や寄付ができる

遺贈とは、遺言で特定の人に財産を譲り渡すことをいいます。財産を相続できるのは法律で定められた相続人の範囲に限られますが、遺贈の場合は相続人に限られません。
そのため、生前お世話になった人や内縁の妻、孫など相続人以外の人に遺産を渡したいと考える場合は、遺言書を作成することでこれが可能になります。
また、遺言書により、特定の団体に寄付することも可能です。

子供を認知することができる

婚姻関係にない相手との間にできた子供(婚外子)がいる場合、遺言書により認知することができます。これは「遺言認知」と呼ばれる方法であり、認知するとその子供は相続人に加えられ、遺産を相続することができるようになります。

未成年後見人を指定できる

遺言者に未成年の子供がいて、遺言者が亡くなるとほかに親権者がいなくなる場合、遺言書によって未成年後見人を指定することができます。未成年後見人は、未成年者の財産管理や身上監護などを行います。

遺言書が効力を発揮する条件

遺言書が効力を発揮する条件

遺言書は、法律で定められた書き方やルールで作成されてはじめて効力を発揮します。せっかく書いた遺言書も正しく記載されていなければ、無効となってしまうため注意しましょう。

遺言書には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があるので、それぞれが効力を発揮する条件を解説します。

自筆証書遺言が効力を発揮する条件

自筆証書遺言は、遺言者が自筆で遺言書を作成する方法です。紙とペンさえあれば自分一人で作成できるため、もっとも手軽な作成方法といえます。
一方で、遺言書の内容や方式に不備があっても気づきにくく、せっかく作成しても無効になってしまう恐れがあります。
また、遺言書の存在を誰にも知らせていなかった場合、発見されずに遺言が効力を発揮しないというリスクもあります。

自筆証書遺言が効力を発揮する主な条件は「遺言者本人が、遺言書の全文、作成日、氏名を自書し、押印すること」です。ワープロで作成されたものや、本人以外の人が代筆したものは無効です。ほかにも、添付する財産目録や訂正の仕方などについて細かいルールがありますが、それらについては後述します。

なお、自筆証書遺言は、遺言者の死後、遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出する「検認」という手続きが必要になります。
検認とは、相続人に遺言書の存在や内容を知らせると同時に、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。遺言書の有効・無効を判断するものではありませんが、検認をしないと、遺言書の実現が困難になったり、罰則が科される可能性があります。

公正証書遺言が効力を発揮する条件

公正証書遺言は、遺言者が口述した遺言内容を公証人が筆記することで作成します。専門的な知識のある公証人が遺言書を作成してくれるので、無効になる可能性は低く、自筆証書遺言と比べて安全確実な遺言方法であるといえます。

公正証書遺言が効力を発揮する主な条件は、以下のとおりです。

・二人以上の適格な証人がいること
公正証書遺言を作成する際には、証人二人以上の立会いが必要です。そして、この証人には、未成年者、推定相続人(相続人となることが予定されている人)や遺贈を受ける人及びその配偶者などはなることができません。

・遺言書の内容は遺言者が口述したものであること
公正証書遺言を作成する際、遺言者は、公証人に遺言の内容を口頭で述べなければなりません。なお、口や耳が不自由な人は、筆談や通訳人を通じて公証人に意思を伝えることができます。

・遺言者、証人、公証人の署名押印があること
公正証書遺言には、遺言者、二人以上の証人、公証人それぞれの署名押印が必要です。

秘密証書遺言が効力を発揮する条件

秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にしたまま遺言書の存在だけを公証人役場で認証してもらう遺言です。
自分一人で作成できるため、遺言内容を秘密にできるという点は自筆証書遺言と同じですが、秘密証書遺言の場合は、遺言書が発見されないというリスクを軽減することができます。また、自筆証書遺言と違い、パソコンや代筆で作成することも可能です(ただし、署名は自筆で書く必要があります)。

秘密証書遺言が効力を発揮する主な条件は、以下のとおりです。

・遺言書に、遺言者本人の署名押印があること
秘密証書遺言の遺言書自体は自筆で作成しなくても構いませんが、遺言者本人の自筆による署名と押印が必要です。

・遺言者が遺言書を封じ、遺言書で使用した印鑑で封印すること
秘密証書遺言の遺言者は遺言書を封筒に入れ、印鑑を押して封印しますが、封印の際には遺言書に押した印鑑と同じものを使用しなければなりません。

・遺言書を封じた封筒に、遺言者、証人、公証人の署名押印があること
秘密証書遺言の遺言書を入れた封筒には、遺言者、二人以上の証人、公証人それぞれの署名押印が必要です。公正証書遺言と同じく、秘密証書遺言にも証人二人以上の立会いが必要で、証人の適格も公正証書遺言と同様です。

緊急時は特別方式遺言も効力を発揮できる

前述の自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言は「普通方式遺言」と呼ばれ、一般的な状況下で利用される遺言です。
これに対し、特殊な状況下で利用できる「特別方式遺言」というものがあります。

例えば、病気やケガなどで死期が迫っている、乗船中に遭難事故に遭い命の危機が迫っている、伝染病で隔離されているといった時で、普通方式遺言の作成が困難な場合に、特別方式遺言が利用されます。

特別方式遺言にはいくつかの種類があり、それぞれ作成方法や効力を生じる要件などが異なりますが、共通しているのは「特別方式遺言には期限がある」ということです。
特別方式遺言は、遺言者が普通方式遺言で遺言をのこせるようになった時から6ヶ月間生存すると、効力を失います。

【参考】電子政府の総合窓口(e-Gov)「民法」詳しくはこちら

遺言書が無効になる!遺言書を書く時の注意点

遺言書が無効になる!遺言書を書く時の注意点

自分で遺言書を作成する場合、法律に定められた作成方法を守らないことにより、遺言が無効となるケースがあります。有効な遺言書を残すために、以下のことに注意しましょう。

遺言書を作成した日付を記載する

遺言書には、遺言書を作成した日付を記載する必要があります。「〇月吉日」のように日付があいまいな書き方だと無効になってしまうので、遺言書を作成した年月日を具体的に記載するようにしましょう。

遺言書は全文自筆で書く

遺言書は、基本的に全文自筆での作成が必要です。パソコンや代筆で作成されたものは無効になってしまいます(秘密証書遺言を除く)。

ただし、遺言書に添付する相続財産目録については、パソコンでの作成や通帳・不動産の登記事項証明書などのコピー添付が認められています。なお、この場合は、各ページに自筆での署名と押印が必要です。

署名と押印が必要

遺言書には、自筆での署名および押印が必要です。押印は認印でもよいとされていますが、実印にしたほうがトラブルを避けられるでしょう。署名も、通称ではなく、戸籍上の本名で署名したほうが無難です。

訂正や加筆の方法も決まっている

遺言書の訂正や加筆の方法にも厳格なルールがあり、ルールに反している部分は無効となります。遺言書の訂正や加筆のルールの一部として、次のような点があげられます。

・遺言書を作成した本人が、訂正および加筆する
・訂正する場合は、二重線で消し、その付近に正しい内容を記載し、訂正印を押す
・加筆する場合、どこに挿入するのかを示し、文言を書き入れ、訂正印を押す
・訂正・加筆いずれの場合も、遺言書の末尾、あるいは訂正・加筆箇所の付近に、訂正・加筆した内容を書き、署名する

遺言書の効力にまつわるよくある質問

遺言書の効力にまつわるよくある質問

遺言書を書く経験は一生に一度きりで、分からないことや悩むことが多いでしょう。
最後に、遺言書の効力についてよくある質問をまとめました。

遺言書を勝手に開けたら無効になりますか?

遺言書を開けてしまっても、効力がなくなることはありません。ただし、自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認を行うより前に勝手に遺言書を開けた場合には、5万円以下の過料が科される場合があります。

遺言書を保管していて検認前にうっかり開けてしまったといった場合は、直ちに遺言書を家庭裁判所へ提出し、検認手続きを行いましょう。

なお、遺言書の内容を勝手に書き換えたり、遺言書の隠蔽や破棄などを行ったりすると、相続人の権利を失います。

遺言書の内容に納得がいかない場合はどうしますか?

遺言書の内容は基本的には法律より優先されますが、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議で遺言どおりに分割しないことも可能です。ただし、遺言者は遺産分割を最大5年間禁止することができるため、そのような記載が遺言書にないか確認しましょう。

また、遺言書に自分の相続分がない、または相続分が著しく少ない場合には「遺留分」(法律で保障されている最低限の遺産の取り分)を主張できる可能性があります。

遺言書の効力が発揮できる期間はありますか?

遺言書の効力は、遺言者が亡くなった時から発生し、その効力に期限はありません(特別方式遺言を除く)。
どんなに古い遺言書であっても、有効に成立するものであれば、何ら問題なく効力は発生します。

ただし、遺言者は遺言書を撤回することができ、撤回された場合には遺言書の効力はなくなります。また、複数の遺言書が発見された場合は、日付の一番新しいものが有効となります。

遺言書は遺留分を侵害できますか?

一定範囲の相続人には、最低限の遺産の取り分が法律で保障されていて、これを「遺留分」といいます。遺言書であっても、この遺留分を侵害することはできません。

遺言書に指定されていた相続割合が遺留分に満たなかった場合は、遺産を多く受け取った人に対して「遺留分侵害額請求」をすることができます。
遺留分侵害額請求とは、遺留分をお金で返してもらう手続きです。遺留分侵害額請求には時効があり「相続開始および遺留分侵害の事実を知った時から1年以内」に請求する必要があります。

まとめ

まとめ

遺言書は、財産の分配方法などについて、自分の死後に自分の希望を実現するための手段です。正しく作成された遺言書であれば、確実に自分の希望を実現することができます。

ただし、遺言書の内容や作成方法については法律で厳しく規定されており、これに則っていなければ無効になってしまいます。遺言書の作成や、作成された遺言書の効力に疑問点がある場合は、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

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