遺産相続のトラブルを未然に防ぐ!遺留分放棄とその手続き

遺産相続において、トラブルになりやすいのが相続人以外の人間に遺産を遺すケースです。死後に残された親族が諍い(いさかい)を起こさないように、被相続人が生きている間に遺留分放棄をすることは対策のひとつとなるでしょう。遺留分放棄には数多くのメリットがあります。正しい手順に沿って、誰もが納得する形で相続を終えましょう。

遺産相続のトラブルを未然に防ぐ!遺留分放棄とその手続き

遺留分放棄とは?

遺留分放棄とは?

法律では、兄弟姉妹及び、その代襲相続人(※1)以外の法定相続人において、相続が発生した際に最低限の遺産を取得できる権利が認められています。この権利を「遺留分」と呼びます。例えば、故人が血縁者以外にほとんどすべての遺産を渡そうとしても、この法律がある限り、法定相続人(妻や子など)は、自分の遺留分を請求することができます。しかし、法定相続人はこの遺留分を放棄することが可能です。そのための手続きが「遺留分放棄」です。
実務上、遺留分放棄が行われることはあまり多くはありませんが、遺留分放棄の制度も活用次第では有効な相続対策となります。まず、遺留分放棄のメリットについて検討します。

※1 相続人である子や兄弟姉妹が、相続権を失ったり、被相続人より先に死亡した場合、その者に代わって相続人となる者のこと。代襲相続は相続人の子、それがだめなら孫、ひ孫など、相続可能な者まで下ります。兄弟姉妹の代襲相続は、その人の子までです。

遺留分放棄で得られる相続人と被相続人のメリット

遺留分放棄で得られる相続人と被相続人のメリット

遺留分放棄は、相続人と被相続人それぞれにメリットがあります。

相続人の場合

遺留分を生前に放棄をする際には、家庭裁判所の審判が必要です。その際の判断要素が、「既に遺留分に相当する程度の利益を受けていること、又は、遺留分に相当する額の金額を受け取ったこと」です。口約束だけで履行の可能性が低いものや、経済的価値のない代償は認められません。つまり、遺留分放棄が認められた相続人は、遺留分と同等の見返りを受け取っていることになります。

これには、相続人同士のトラブル回避というメリットがあります。例えば、相続人が兄弟姉妹でいちどは話し合いなどで取り分などを決めても、後々遺留分を請求されることもあります。話し合いだけでなく、相続人以外の人に遺留分放棄の手続きをしてもらえば、このトラブルも回避できるでしょう。

被相続人の場合

被相続人が自分の死後に遺産を法定相続人ではない別の人などへ贈与したいと考えることも少なくありません。例えば、自分が経営していた会社の資金にしたり、恩人や親友などに遺贈したりするパターンです。しかし、相続人が遺留分を放棄していない場合は、せっかく遺贈した財産について相続人から遺留分侵害額請求をされるリスクが残ってしまいます。このため、自身の死後に争いが生じたり思い通りに遺産が渡らなかったりする可能性が残ってしまうことになります。

そこでこうした問題を解決するのが、相続させない人に遺留分の放棄をしてもらう方法です。もしもこれらの人が遺留分を放棄してくれれば、被相続人は遺言書を作成するなどして、自由に財産を分けることができます。すなわち、自分が本当に譲りたい人へと遺産を自由に配分できるのです。すでに解説したように、遺留分を放棄してもらう相続人に相当の見返りを与える必要がありますが、放棄してもらえれば自分がなくなった後に起こりうるトラブルを避けることができます。

このように、遺留分放棄を行うことは、相続人にとってはその後の時間や労力、費用の節約につながりますし、被相続人にとっても遺産に関する争いを確実に減らすなど、さまざまなメリットがあります。

遺留分放棄と相続放棄の違い

遺留分放棄と相続放棄の違い

遺留分の放棄と混同されやすい手続きとして、相続放棄が挙げられます。いずれも、「放棄」との言葉が使用されていますが、内容は全く異なっているので両者の違いをしっかり認識しておきましょう。

「遺留分の放棄」の特徴

まず、遺留分を手放すことは相続が開始する(被相続人が死亡する)前でも後でもできます。ただし、遺留分の放棄により本人が手放すのは、「法律上最低限保証されている遺産に対する権利」だけであり、相続人としての権利は残ります。このため、遺留分の放棄をしても、例えば遺言を作成しないまま被相続人が死亡したり、遺言などで遺留分を放棄した相続人に対しても遺産を相続させることになっていたりすると、その相続人は遺産を相続することができます。

なお、先にも触れましたが、遺留分の放棄には相続が開始する前(被相続人が死亡する前)の時点では家庭裁判所の審判が必要です。その際、相続人が遺留分の放棄の代償を得ていることが条件となっていますので、相続人に何の見返りも与えられていない場合には遺留分を放棄することはできません。

「相続放棄」の特徴

一方で、相続放棄とは、相続開始後(被相続人が死亡した後)にしか行うことはできません。相続放棄をした場合には、相続人の地位を失うことになります。そのため、手続きが完了すれば、相続人にとって得になるものも損になるものも受け継ぐことができません。相続放棄は、本人にとって不利益となるような相続を避けるための手段だといえるでしょう。

一見、相続放棄する理由などないように思われるかもしれませんが、相続放棄をした方が良いと考えられる場合もあります。

例えば、不動産を相続するとその評価額などに応じた相続税の支払いが必要になります。しかし、「不動産を相続しても、相続税を支払う余裕がない」ということもあるでしょう。その場合には、相続放棄が支払いを回避するひとつの手段となるでしょう。
また、被相続人が借金をしていた場合、その負債も相続されます。相続してもマイナスにしかならないような場面には、相続放棄をすれば借金を返済する必要はありません。


なお、一度相続放棄をすると、後になって撤回することはできません。相続開始直後は負債しかないと思っていて相続放棄をしたものの、後日になって故人が秘密にしていた財産が見つかり実は大きなプラスだったというケースでも、相続放棄は撤回できず、遺産は一切相続できないことになります。そのため、相続放棄を行う場合には慎重な判断が求められます。

遺留分放棄の手続きと遺留分侵害額請求(減殺請求)

遺留分放棄の手続きと遺留分侵害額請求(減殺請求)

自分が誰かの相続人になっているとして、遺留分を放棄したいのなら、そのための方法をきちんと把握しておきましょう。

生前と相続後で変わる遺留分放棄の手続き

被相続人の生前に遺留分を放棄するのと、相続開始後に遺留分を放棄するのとでは全く手続きが異なります。まず、生前に行う場合は、家庭裁判所に審判を申し立てなくてはいけません。審判には被相続人の戸籍謄本と申立人の戸籍謄本が必要です。これらを申立書に添付して提出します。なお、財産目録も一緒に求められます。財産目録を正確に記すには、被相続人の理解を得て、財産調査を徹底するのがよいでしょう。

申立書が受理され次第、審問期日が決まります。審問とは、遺留分放棄に関する詳細を裁判所が当事者から聞き出す機会です。通知された日時に裁判所で面談が行われ、遺留分放棄に正当な目的があるかどうか調べられます。審問が終われば、裁判所から遺留分放棄を認めるかどうかの通知が届きます。そこで許可されたなら、遺留分放棄の許可証明書をもらうことが可能です。ちなみに、一度遺留分放棄が認められれば、よほどのことがない限り撤回はできません。

次に、被相続人の死後に遺留分を放棄する場合には、手続きは必要ありません。遺留分侵害額請求権は、相続の発生と遺留分が侵害されていることを知った時から1年で消滅するほか、相続が発生した時から10年で消滅しますので、放っておけば自動的に消滅することになります。

遺留分を侵害されたときは遺留分侵害額請求

相続において、自分の遺留分が侵害されたときには、遺留分侵害額請求をすることが可能です。遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された場合に侵害されている金額を取り返すための手続きです。

①遺言を確認する
請求を行う前に、まず、遺言を確認しましょう。遺言がある場合には、原則として、遺産の分割は遺言に基づいて行われることになります。その遺言を確認することで、遺留分を侵害されているかを確認することができます。なお、遺言に記載された分割方法では遺留分を侵害されていない場合でも、ある相続人が生前贈与等で別の相続人の遺留分を超える財産を受け取っている場合には、遺留分侵害額請求権が発生する場合もありますので、ご注意ください。


②遺産を確定する
どのような遺産がどれほど遺されているのか判明しなければ、遺留分の金額が明らかになりません。遺産は現金や預金だけとは限らず、証券や不動産、家財などの可能性もあります。遺産は財産調査等を行なうことにより確定することになりますが、当事者間で争いが生じた場合には調停や訴訟を通して確定することもあります。

③話し合い
遺産が確定したらいよいよ遺留分侵害額請求となります。請求のフォーマットや手順は法律で決められていません。ただし、後々請求されていないと言われ、時効消滅を主張されるリスクがあるため、請求者は請求相手に対して内容証明郵便を送るようにしましょう。その後、メールや対話などで交渉を続けていきます。交渉内容は記録に残しておくと有利になる場合があるので、録音等をすることも有用です。


④合意内容を書面にする

先方との間で金額等が合意できれば、交渉成立です。それでも、口頭だけの合意ではいつ覆されるか予想がつきません。それに、覆されたときに合意の存在を証明するのも難しいでしょう。そのため、合意書や和解書などを作成するのが一般的です。合意書や和解書の内容はインターネット上のひな形でも問題ないケースもありますが、個々の事案によって記載すべき内容は異なりますし、法律上この文言は欠かしてはいけないというものもありますので、可能であれば弁護士などの専門家に相談しましょう。

⑤調停
もしも直接交渉が決裂すれば、法的手続きによる解決を検討することになります。法律上は、訴訟をする前に調停での解決を試みることになっています。このとき申し立てる調停を「遺留分侵害額の請求調停」(※2019年7月1日よりも前に発生した相続については、「遺留分減殺による物件返還請求調停」を申し立てることになります。)といいます。調停を申し立てる場合には裁判所に申立書を提出しなくてはなりません。調停が始まると、裁判所が決めた日程に家庭裁判所に出頭し、調停委員を介して話し合いが行われます。ここで決着がつけば調停調書が作成され、合意した金額についての請求権が確定することとなります。

⑥裁判
調停で決着がつかなかった場合には、訴状を作成して裁判を起こすことが可能です。裁判になれば、家庭裁判所の管轄を離れ、請求金額が140万円を超えるなら地方裁判所に、140万円以下なら簡易裁判所に案件が移ります。裁判が始まると双方が裁判所に対し自分の主張をすることになります。少しでも有利に裁判を運ぶため、弁護士を雇うのが一般的な流れです。裁判は和解によって終わることもありますが、判決にまで持ち込まれる案件も少なくありません。片方が判決に不服なら控訴をすることが可能です。遺留分額を回収できるのは、和解や判決が確定した後になります。

相続した場合の手順や相談

相続した場合の手順や相談

遺留分放棄や相続放棄を行わず、遺産を相続する場合も手順を知っておきましょう。相続においては、故人の死亡届を提出したり、必要なら年金受給を停止したりと不可欠な作業がたくさん発生します。しかも、いずれも期限が決められており、長期にわたって相続に関わる手続きなどで忙しくなってしまう場合も珍しくありません。遺産の種類が多岐にわたっていると手続きだけでも大変です。「相続についてよくわからないし、忙しくて手続きなどもできない」、そんなときには、信託銀行など相続の専門家に任せることも検討しましょう。

たとえば、多くの信託銀行では遺産整理業務のほか、書類の名義変更などの事務作業も代行しています。遺産の分割を書面化し、分割方法について長年の経験をもとにアドバイスしてくれます。また、株式や国債といった金銭以外の遺産の整理をサポートするサービスもあるので、専門的な知識がない遺族も安心です。遺産相続はプロの力を借りて、安全かつ確実に進めていけるといいですね。

まとめ

遺留分放棄は円満に相続を進めるために活用できる手続きのひとつです。実際、遺留分放棄には相続人・被相続人の双方にメリットがある場合もあります。一方で、正当な相続人の権利が侵害されることもあるでしょう。そのようなときは、調停や裁判によって遺留分を守りましょう。相続には複雑な手順が多いため、一般人だけで成し遂げようとすると、より問題が深刻化することもありえます。弁護士や信託銀行といったプロの力を借りながら、相続に関わった全ての人が受け入れられる落としどころを探りましょう。

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