今の時代だからこそ、家族に「想い」を伝える大切さを考える(1)

遺言の良さを理解し、積極的に活用しましょう。今回はある家族をモデルケースに専門家の意見を交えながら、遺言の活用方法について事例をご紹介します。

今の時代だからこそ、家族に「想い」を伝える大切さを考える(1)

「妻のこと」を想い

家族の中で少し心配な方はいらっしゃいますか。例えば、最近病弱になってしまった奥様がいるとします。もし自分がいなくなったらどうなるのでしょうか? 誰が面倒をみてくれるのでしょう?奥様が一人で生活を送るためにはさまざまな不安が残ります。
子どもたちは、仲は良いのですが、それぞれが家庭を持っています。奥様は施設に入ってからも幸せに過ごせるのでしょうか?施設などの入居金やその後の生活資金など、お金のことも心配になります。施設の人たちと上手く付き合っていけるかも気になります。子どもたちはきちんと母親のことを気にかけてくれるのでしょうか? 不安は尽きることはありません。
今回は、そのようなご家族のお話です。

出典 資産運用・承継の知恵袋

都内在住のAさん(78歳)は、奥様(78歳)と子ども2 人( 長男52歳・長女47歳)の4人家族です。長男は転勤族で現在は大阪に住み、長女は嫁いでいるため神奈川に居住しています。今の住まいは、土地が50坪(相続税評価額7,500 万円)で築32年の2階建ての一軒家です。金融資産は、退職金とコツコツ貯めたお金で7,000万円程度です。

Aさんは、「52年連れ添ってきた病弱な妻」のことが心配です。自分が死んだら、その後の妻の面倒は誰が見てくれるのだろうか? 自宅を売却して施設に入るのがいいのか?
娘は嫁いでおり、長男は現在、大阪勤務で、いつ帰ってくるかもわかりません。「元気なうちに何かできることはないか? 」とAさんは常々考えていました。

考えがまとまらなかったある日、奥様が「将来は施設に入りたい」と言い出しました。「子ども夫婦にも生活があり、孫も今、教育費が掛かる時期だしね」と。それは突然の事でした。

その時に、自分以上に奥様が家族のことを気に掛けていたのだと気付かされました。そこでAさんは、奥様の気持ちを大切にしたいと思い、どんな施設があるか、入居した場合の負担はどうなるかを一緒に調べ、希望に近い候補を見つけることができました。

奥様としては、身体のこともあり一人で家にいるのも不安であることや、子どもたちに迷惑を掛けたくないなどの理由で、施設に入ろうと決めたようです。奥様の気持ちを汲み、Aさんは子どもたちに自分に万が一があった時のことを伝えようと考えました。そして、言葉だけでなく、自分の気持ちをきちんと伝えたいと思い、遺言書を作ることにしました。

そこで奥様のためには、資金を確保することが重要と考え、自宅を長男・長女の共有資産に、金融資産は奥様へとの遺言書案を書きました。自宅は、もし奥様が戻らないなら売ってもいいと考えてのことです。そして自分の意思をみんなにしっかり伝えたいという考え方のもと、遺言の相談のため専門家を訪ねました。

専門家を尋ねる

専門家の意見

①不動産を共有することをどう考えるか。共有の場合、例えば売却時など相手の同意が必要となる。また、共有者に相続が発生するとその子どもなどが共有者となり権利関係が複雑になる可能性がある。
②金融資産を子どもたちに渡さないと、子どもたち自身の資金で相続税などの費用負担が生じることになる(分割内容の再検討)。
③妻への毎月の生活資金をどのように確保するか(信託商品の活用<年金と同じように決まった日に決まった額を入金する仕組みなど>)。
④自分より先に妻に万が一があった場合にどうするか?(補充遺言の活用)。
⑤妻が施設へ入居する際、どのようにサポートするか。
⑥付言の活用をするか(遺言を書いた趣旨や気持ちを伝える)。
⑦遺言の手続きを専門家に任せ遺言執行者を入れるか。

※補充遺言 推定相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合に備えた遺言。それにより、先に死亡した場合に書換の必要がなくなる。

Aさんの結論

●不動産は売却を前提として共有させようと思うが、この趣旨について子どもたちによく相談しておくことにする。
●費用負担分の金融資産を渡すことで子どもたちの負担を軽減する(遺言による遺贈)。
●妻への毎月の生活資金は信託商品を活用して、毎月決まった日に決まった金額を渡すようにする。
●妻が万が一先に逝った場合は、子どもたちに財産を均等に相続すると遺言中で記載しておく(補充遺言の活用)。
●最後に妻と子どもたちに感謝の気持ちを伝えるとともに、施設への入居手続きやその他妻のことを子どもたちにお願いする。また、妻がどれほど子どもたちのことを気に掛け、心配りをしているかということも伝えるための付言を書く。
●遺言の執行者に関しては、妻が不慣れなことや長男が転勤族であることを考えて専門家に依頼する。

Aさんが亡くなった時、この遺言の説明を受け、奥様と子どもたちは、Aさんの気持ちを十分理解し、遺言どおりに手続きを進めることができました。

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