相続税の基礎控除とは?計算方法や知っておくべき法定相続人を解説

相続した遺産の総額が「相続税の基礎控除額」以下であれば相続税を申告する必要はありません。今回は、相続税の基礎控除額の計算方法や、相続税の負担を軽減できる制度等をわかりやすく解説します。相続税を正しく申告するために、基礎控除額を適切に計算できるようにしましょう。

相続税の基礎控除とは?計算方法や知っておくべき法定相続人を解説

相続税の基礎控除とは?

相続税の基礎控除とは?

相続税の基礎控除とは、税額を計算する時に相続した財産の合計金額(課税価格)から一定金額を控除できる制度です。

亡くなった人(被相続人)が残した財産の合計額が基礎控除額を上回っている場合は、相続税を申告しなければなりません。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

相続税の基礎控除額は「法定相続人」の数をもとに計算されます。ここでは、法定相続人になれる人や基礎控除額の計算方法をみていきましょう。

法定相続人とは?

法定相続人とは、被相続人が残した財産を相続する権利を持っている人のことです。法定相続人になれる人や優先順位は、民法で定められています。

被相続人と法律上の婚姻関係にあった配偶者は、常に法定相続人となります。内縁関係にあった人や離婚をした元配偶者等は、法定相続人になれません。

また、被相続人の血族も法定相続人になれます。血族とは、亡くなった人の子供や父母、兄弟姉妹等です。民法では、以下のとおり法定相続人となれる血族の順位が決められています。

・第1順位(直系卑属):子供や代襲相続人である孫等
・第2順位(直系尊属):父母・祖父母等
・第3順位(傍系血族):兄弟姉妹

順位が高い相続人がいる場合、基本的に順位が低い人は遺産を相続できません。例えば、被相続人が亡くなった時に子供が存命であった場合、父母や兄弟姉妹は法定相続人にはなれません。

相続の開始時点ですでに子供が亡くなっていた場合は、その子供(亡くなった人の孫)が代襲相続をします。

被相続人に子供や代襲相続をする孫がいない場合、法定相続人となるのは第2順位の父母や祖父母等の直系尊属です。相続が発生する前に、すでに父母が亡くなっている場合、祖父母が存命であれば法定相続人になることができます。

第2順位に該当する人もいない場合は、兄妹姉妹をはじめとした傍系血族が法定相続人となります。相続の開始時点で、法定相続人である兄妹姉妹が亡くなっていた場合は代襲相続が発生し、甥や姪等が代襲相続をすることが可能です。

基礎控除の計算方法

相続人の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。

相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人の数ごとの基礎控除額を計算すると、以下のとおりとなります。

・法定相続人が二人:3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
・法定相続人が三人:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
・法定相続人が四人:3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円
・法定相続人が五人:3,000万円+(600万円×5人)=6,000万円

法定相続人の数が増えるほど、相続税の基礎控除額は高くなっていくため、納税額は少なくなっていきます。相続税の計算を間違えないためにも、相続が発生した時は法定相続人の数を把握することが大切です。

なお、2014年(平成26年)12月31日以前に発生した相続では、相続税の基礎控除額が「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」で計算されていました。

それが、税制改正により2015年(平成27年)1月1日以降の相続からは、計算式が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」に変更され、基礎控除額が縮小されています。

相続税の基礎控除額を計算する時の注意点

相続税の基礎控除額を計算する時の注意点

相続税を正しく申告するためには、法定相続人の数え方を適切に理解し、基礎控除額を正確に計算することが大切です。

ここでは、相続放棄をした相続人がいる時や、法定相続人が養子である時、相続欠格または相続排除となった相続人がいる時の基礎控除額の計算方法をみていきましょう。

法定相続人は代襲相続が発生したあとの人数となる

相続の開始時点で法定相続人が亡くなっており代襲相続が発生した場合は、基礎控除額を計算する時の法定相続人の数が変わることがあります。

例えば、本来の法定相続人が配偶者、長男、長女の三人であるとしましょう。相続が発生した時点で、長男はすでに亡くなっていたため、長男の二人の子供(被相続人の孫)が代襲相続をすることになりました。

この場合、本来の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。しかし、代襲相続が発生して配偶者、長女、孫1、孫2の合計四人が相続人となったことで、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円」となります。

相続放棄はなかったものとして計算される

相続放棄とは、亡くなった人の遺産を相続する権利のすべてを放棄することです。相続放棄をした人は、現金や不動産等のプラスの遺産だけでなく、借金や未払金等マイナスの財産も一切引き継がなくなります。
相続税の基礎控除額は、相続放棄をする前の法定相続人の数をもとに計算します。

例えば、法定相続人が配偶者と長男であるとしましょう。亡くなった人の両親や祖父母等はすでに他界しており、兄と妹は存命です。長男が相続放棄をした場合、遺産を相続できる権利が被相続人の兄と姉に移るため、法定相続人の数は配偶者も含めた三人となります。
しかし、相続税の基礎控除額を計算する時、法定相続人は配偶者と長男の二人とカウントされます。よって、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円」です。

法定相続人に含まれる養子の人数には制限がある

被相続人と養子縁組をしていた人は、法定相続人になることができます。ただし、相続税の基礎控除額を計算する時に法定相続人としてカウントされる人数には、以下の制限があります。

・被相続人に実子がいる場合:一人
・被相続人に実子がいない場合:二人

法定相続人に含まれる養子の人数に制限がないと、基礎控除額を増やして相続税の課税を逃れるために、養子縁組を繰り返す人が現れるかもしれません。そのため、基礎控除額の計算時に法定相続人の数に含められる養子の人数は、一人または二人に制限されています。

【参考】国税庁「No.4170 相続人の中に養子がいるとき」詳しくはこちら

相続欠格や相続廃除となった人は法定相続人に含まれない

相続欠格とは、相続人が遺言書の偽造や変造をした場合や、被相続人またはほかの相続人を殺害した場合等に、遺産を相続できる権利を失わせる制度です。
相続排除は「長年にわたって被相続人に家庭内暴力をふるっていた」「多額の借金を被相続人に肩代わりさせていた」等、著しい非行や悪行があった相続人の相続権を失わせることができる権利です。

相続税の基礎控除額は、相続欠格や相続排除となった人を除いた法定相続人の数で計算をします。相続欠格や相続廃除となった人を含めて基礎控除額を計算すると、相続税額を本来よりも少なく申告してしまうことになります。

相続税の計算方法

相続税の計算方法

基礎控除額とともに押さえておきたいのが、相続税を計算する方法です。税額の計算手順は、以下のとおりです。

①正味の相続財産を計算する
②課税遺産総額を計算する
③相続税の総額を計算する
④各相続人が納める相続税を計算する

1つずつみていきましょう。

ステップ①:正味の相続財産を計算する

まずは、以下の計算式を用いて正味の相続財産(相続税の課税価格)を計算します。

正味の相続財産=相続財産の総額 −(非課税財産 + 債務 + 葬式費用)

相続税の計算方法

相続財産の総額は、相続税の課税対象となる以下のすべてを合計した金額です。

・相続財産:預貯金・不動産・株式・投資信託・自動車・著作権等
・みなし相続財産:生命保険の死亡保険金・死亡退職金等
・相続時精算課税制度を適用して贈与された財産
・相続開始前3年以内に贈与された財産

出典 

相続税を計算する際は、預貯金や不動産等の価値を評価します。評価された財産の価額を「相続税評価額」といいます。
みなし相続財産は、相続や遺贈(遺言によって特定の人に財産を贈ること)で取得した財産ではないものの、相続税の課税対象となる財産のことです。

例えば、故人が契約者(保険料負担者)と被保険者(保険の対象となる人)であり、死亡保険金の受取人が相続人である生命保険に加入していたとしましょう。被相続人が亡くなった時、相続人が受け取る死亡保険金は、民法では相続財産とはみなされませんが、相続税を計算する時はみなし相続財産として課税対象になります。

相続時精算課税制度は、贈与された財産のうち2,500万円までは特別控除が適用されて、贈与税が非課税となる制度です。2,500万円までの生前贈与に贈与税がかからなくなる代わりに、贈与された財産は相続税の課税対象となります。

また、相続が開始される3年以内に被相続人が相続人に贈与した財産も、相続税の課税価格に加算されます。これは、相続税の負担を軽減することを目的とした、かけこみの生前贈与を防ぐためです。

相続財産の総額を計算する際は、借入金や未払金等の債務を差し引きます。これを「債務控除」といいます。また、相続人が負担した葬式費用(埋葬や火葬の費用、納骨費用、戒名料等)も控除することが可能です。
非課税財産は、墓地や仏壇、仏具、公益事業用財産等、相続税の課税対象とはならない財産を指します。

ステップ②:課税遺産総額を計算する

課税遺産総額は、正味の相続財産から基礎控除額を差し引いて計算します。

課税遺産総額:正味の相続財産−基礎控除額

例えば、相続税の課税価格の合計が1億2,000万円、法定相続人が配偶者・長男・長女の三人である場合、相続税の基礎控除額と課税遺産総額は、以下のとおりです。

・相続税の基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
・課税遺産総額:1億2,000万円−4,800万円=7,200万円

相続税の課税価格が基礎控除額を下回っており、課税遺産総額の計算結果が0円以下となる場合、相続税の申告をする必要はありません。

ステップ③:相続税の総額を計算する

次に、各相続人が法定相続分にしたがって課税遺産総額を配分したと仮定して税額を計算し、それらを合計して相続税の総額を求めます。

法定相続分とは、民法で定められた遺産の相続割合であり、法定相続人に応じて決まります。また、同じ順位の法定相続人が複数いる場合は、人数で均等に分けます。

法定相続人 法定相続分
配偶者のみ 配偶者:1
配偶者+子供 配偶者:1/2
子供:1/2
配偶者+父母 配偶者:2/3
父母:1/3
配偶者+兄弟姉妹 配偶者:3/4
父母:1/4

法定相続分に応じた取得金額と各相続人の仮の相続税額の計算方法は、以下のとおりです。

・法定相続分に応じた取得金額:課税遺産総額 × 各法定相続人の法定相続分
・相続人ごとの仮の相続税額:法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額 × 税率

仮の相続税額は、以下の速算表を用いて計算します。

相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

【参考】国税庁「No.4155 相続税の税率」詳しくはこちら

例えば、法定相続人が配偶者と長男、長女の三人である場合、法定相続分は配偶者2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつとなります。課税遺産総額が7,200万円である場合、配偶者の法定相続分に応じた取得金額は以下の通りです。

・配偶者の法定相続分に応じた取得金額:7,200万円×1/2=3,600万円
・配偶者の仮の相続税額:3,600万円×20%−200万円=520万円

長男と長女についても同様に計算をしたあと、各相続人の仮の相続税額を合算することで、相続税の総額を計算します。

ステップ④:各相続人が納付する税額を決める

最後に、計算した相続税の総額を、各相続人が実際に相続した遺産の金額に応じてあん分し、個人ごとの相続税額を求めます。計算式は、以下のとおりです。

相続人ごとの税額=全体の相続税額 ×(相続人ごとの課税価格 ÷ 課税価格の合計額)

例えば、全体の相続税額が960万円、課税価格の合計が1億2,000万円、実際に取得した財産の課税価格が1億円である場合、相続税額は以下のとおりです。

相続税額=960万円×(1億円÷1億2,000万円)=800万円

その後、算出された相続税額から各相続人に適用される控除制度や特例を差し引くと納税額が決まります。
相続税の控除制度には、配偶者の課税価格のうち一定の金額まで相続税がかからなくなる「配偶者の税額軽減」や、相続人が未成年である場合に相続税額から一定金額を差し引くことができる「未成年者控除」等があります。

【参考】国税庁「No.4152 相続税の計算」詳しくはこちら

基礎控除以外に相続税額を軽減できる制度

基礎控除以外に相続税額を軽減できる制度

相続税には、基礎控除以外にも税負担を軽減できる控除制度や特例が設けられています。制度のなかには、相続税の申告をしないと適用できないものがあります。

申告が必須であるにもかかわらず手続きを怠ると、特例が適用できなくなることがあります。また、税務調査が入り申告漏れを指摘され、追徴課税が発生するかもしれません。
相続税を計算する際は、控除制度・特例の種類や制度内容、申告の必要性を押さえることが重要です。ここでは、相続税の基礎控除以外の控除制度や特例をみていきましょう。

【申告不要】生命保険の死亡保険金の非課税金額

生命保険の死亡保険金がみなし相続財産として相続税の課税対象になる場合、非課税限度額を適用できます。具体的には、相続人が受け取った死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかかりません。

例えば、法定相続人の数が二人である場合、受け取った死亡保険金のうち「500万円×2人=1,000万円」まで相続税が非課税となります。
正味の相続財産が基礎控除額を上回っていても、生命保険の非課税枠を適用した結果、税額が0円になるのであれば相続税の申告は不要です。

【参考】国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」詳しくはこちら

【申告不要】未成年者控除(未成年者の税額控除)

未成年者控除は、相続人が未成年であった場合に、相続税額から一定金額を控除できる制度です。控除額の計算方法は、以下のとおりです。

控除額=(18歳−相続が開始した時の年齢)×10万円

相続が開始した時の年齢について、1年未満は切り捨てます。例えば、相続開始時点の年齢が14歳5ヶ月である場合、控除額は「(18歳−14歳)×10万円=40万円」です。

未成年である相続人の相続税額から控除して余りが生じた場合、扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。扶養義務者は、配偶者や直系の血族、兄弟姉妹等です。
未成年者控除を適用することで、全体の相続税額が0円となる場合、相続税の申告は不要です。

なお、2022年(令和4年)3月31日以前に発生した相続では、20歳を基準として控除額を計算しましたが、成年年齢が2022年(令和4年)4月1日から18歳に引き下げられたため、未成年者控除の計算式も変更されました。

【参考】国税庁「No.4164 未成年者の税額控除」詳しくはこちら

【申告不要】障害者控除(障害者の税額控除)

基礎控除以外に相続税額を軽減できる制度

障害者控除とは、85歳未満の障害者の相続人である場合に、相続税額から一定金額を差し引くことができる制度です。

控除額は、以下のとおり一般障害者と特別障害者で異なります。

・一般障害者:(85歳−相続開始時点の年齢)×10万円
・特別障害者:(85歳−相続開始時点の年齢)×20万円

特別障害者は「身体障害者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級と記載されている」「重度の知的障害者と判定されている」等の要件に該当する人です。一般障害者よりも特別障害者のほうが、障害の程度は重くなります。

相続開始時点の年齢については、1年未満は切り捨てて計算をします。例えば、相続人が60歳4ヶ月の一般障害者であった場合、控除額は「(85歳−60歳)×10万円=250万円」です。

障害者の相続税から控除した余りについては、未成年者控除と同様に、扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。障害者控除を適用した結果、相続税額が0円となる場合、相続税の申告をする必要はありません。

【参考】国税庁「No.4167 障害者の税額控除」詳しくはこちら

【参考】国税庁「特別障害者」詳しくはこちら

【申告不要】相次相続控除

相次相続控除とは、10年以内に相次いで相続が発生した時、同じ財産に対して課税される相続税の負担を軽減できる制度です。

例えば、祖父が死亡した時に遺産を相続した父親が、最初の相続から6年後に亡くなり、息子がすべての遺産を相続したとしましょう。
1度父親に相続されたあと、2回目の相続で息子に引き継がれた祖父の財産は、6年間で2回、相続税の課税対象となります。祖父が多額の財産を残していると、2度にわたる相続で多額の相続税が課せられてしまうかもしれません。

相次相続控除を適用できると、祖父が亡くなった時に父親が納めた相続税の一部を、長男に課せられる相続税額から控除できます。控除できる金額は、前回の相続から10年経過するごとに10%ずつ減少していきます。相次相続控除についても、未成年者控除や障害者控除と同様に、相続税の申告をすることなく適用が可能です。

【参考】国税庁「No.4168 相次相続控除」詳しくはこちら

【申告が必要】配偶者の税額軽減

基礎控除以外に相続税額を軽減できる制度

配偶者の税額軽減とは、亡くなった人の配偶者が遺産を相続する場合に所定の要件を満たすと適用できる制度です。相続や遺贈によって取得した遺産の額が「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分」のどちらか大きい金額まで、相続税がかからなくなります。
そのため、配偶者が相続する遺産の課税価格が1億6,000万円未満である場合、配偶者の税額軽減を適用できると相続税はかかりません。

配偶者の税額軽減を適用する場合、相続税の申告は必須です。配偶者の税額軽減を適用した結果税額が0円となる場合でも、必ず申告をしなければなりません。

【参考】国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」詳しくはこちら

【申告が必要】小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、亡くなった人の自宅や事業を営むために使っていた土地を相続する際に適用できる制度です。所定の要件を満たすと、相続税を計算する際に土地部分の相続税評価額が、一定の限度面積まで最大80%減額されます。

減額割合や減額が適用される限度面積は、以下のとおり相続した土地の種類ごとに決められています。

減額割合 限度面積
特定居住用宅地等
(故人が居住用に使っていた土地)
80% 330㎡
特定事業用宅地等
(故人が事業用に使っていた土地)
80% 400㎡
特定同族会社事業用宅地等
(同族会社の事業用に使用されていた土地)
80% 400㎡
貸付事業用宅地等
(故人がアパートやマンション等を経営していた土地)
50% 200㎡

小規模宅地等の特例を適用できるのは、基本的に亡くなった人の配偶者や亡くなった人と同居していた所定の要件を満たす親族です。ただし、被相続人に配偶者や同居の親族がいなかった場合は、別居している子供が小規模宅地等の特例を使えることがあります。

別居していた子供が、小規模宅地等の特例を適用するためには「相続開始前の3年以内に自分自身に配偶者、3親等以内の親族などの持ち家に住んでいないこと」等の要件を満たさなければなりません。

小規模宅地等の特例を適用できると、土地部分の相続税評価額を大幅に減額できます。そのため、正味の相続財産が基礎控除額を超えていても、小規模宅地等の特例を適用すると税額が0円になるケースは少なくありません。
ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合は、相続税の申告が必要です。期日までに相続税の申告をしないと、小規模宅地の特例を使えなくなってしまいます。

【参考】国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」詳しくはこちら

相続税を計算してみよう

相続税を計算してみよう

最後に、モデルケースを設定し、相続税額を計算してみましょう。

・被相続人:夫
・法定相続人:妻・長女(22歳)・長男(16歳)
・相続財産(預貯金・不動産・投資信託等)の総額:2億円
・借入金・未払金:300万円
・葬式費用:200万円

出典 

なお、相続開始前の3年以内に贈与された財産や、相続時精算課税制度を利用して贈与された財産はないものとします。また、相続財産に含まれる不動産は自宅のみとし、相続財産の総額は小規模宅地等の特例を適用したあとの相続税評価額をもとに算出したとします。

夫は遺言書を残していなかったため、法定相続人である妻、長女、長男の三人で遺産分割協議をして、相続する遺産の種類や割合を決めることになりました。

遺産分割協議の結果、遺産の分割内容は以下のとおりとなりました。

各相続人が相続する財産
預貯金・不動産・株式・投資信託等:1億2,000万円
生命保険の死亡保険金:2,000万円
債務(借入金・未払金):300万円
葬式費用:200万円
長女 預貯金・投資信託等:4,000万円
長男 預貯金・投資信託等:2,000万円

妻が取得した死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数(3人)=1,500万円」までは非課税となります。

以上をもとに正味の相続財産(相続税の課税価格)を計算すると、結果は以下のとおりとなります。

正味の相続財産=相続財産の総額 −(非課税財産 + 債務 + 葬式費用):
1億8,000万円=2億円−(1,500万円+300万円+200万円)

法定相続人は妻、長男、長女の三人であるため、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。よって、課税遺産総額は次のとおりです。

課税遺産総額:1億8,000万円−4,800万円=1億3,200万円

法定相続分は、妻2分の1、長女4分の1、長男4分の1となります。そのため、法定相続分に応じた取得金額は、以下のとおりです。

・妻:1億3,200万円×1/2=6,600万円
・長女:1億3,200万円×1/4=3,300万円
・長男:1億3,200万円×1/4=3,300万円

法定相続分に応じた取得金額をもとに仮の相続税額を計算すると、結果は次のとおりとなります。

・妻:6,600万円×30%−700万円=1,280万円
・長女:3,300万円×20%−200万円=460万円
・長男:3,300万円×20%−200万円=460万円
・合計:1,280万円+460万円+460万円=2,200万円

計算の結果、相続税の総額は2,200万円と算出されました。

続いて、実際に取得した遺産の割合に応じて各相続人の相続税額を計算すると、結果は以下のとおりです。

・妻:2,200万円×(1億2,000万円÷1億8,000万円)=約1,467万円
・長女:2,200万円×(4,000万円÷1億8,000万円)=約489万円
・長男:2,200万円×(2,000万円÷1億8,000万円)=約244万円

被相続人の配偶者である妻は「配偶者の税額軽減」の適用が可能です。妻が相続した遺産の金額は1億6,000万円を下回っているため、納税額は0円となりますが、相続税の申告が必要です。

長男は未成年者であるため、未成年者控除を適用できます。未成年者控除を適用した場合の控除額は「(18歳−16歳)×10万円=20万円」です。よって、長男の納税額は「約244万円−20万円=約224万円」となります。

まとめ

相続税の基礎控除額は「3,000万円+ (600万円×法定相続人の数)」で計算します。正味の相続財産が基礎控除額を下回っていれば、相続税を申告する必要はありません。

また、正味の相続財産が基礎控除額を上回っていても、生命保険の非課税枠や未成年者控除、障害者控除等を適用して税額が0円になるのであれば、相続税の申告は不要です。

一方で、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例等は、税額にかかわらず申告が必須です。申告が必要となる場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に手続きを済ませる必要があります。

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