相続人になれない?!「相続欠格」になる理由や事例などを解説

相続人が相続権を失う「相続欠格」ですが、どのような理由で失うのでしょうか。5つの欠格事由や、相続廃除との違い、廃除を申し立てする際の手続き方法などを解説しています。欠格者に子供がいる場合はどうなるか、といった質問にも答えていますので、ぜひ参考にしてください。

相続人になれない?!「相続欠格」になる理由や事例などを解説

相続欠格とは?

相続欠格とは?

相続欠格(けっかく)とは、民法第891条で決められている「相続人の欠格事由」に当てはまる人が遺産を受け継ぐ資格を失うことです。その場合、欠格者は遺産を相続することできなくなり、法定相続人全員に保障されているはずの「遺留分」も受け取れなくなります。

一度欠格になってしまったら、基本的に取り消すことは不可能です。ただし過去には、極めて稀なことですが、被相続人に許してもらったため欠格が取り消されたケース(広島家裁呉支部平成22年10月5日審判)も存在します。

また、欠格者に子供がいれば、子供が欠格者の代わりに遺産を受け継ぐ「代襲相続」が可能です。

5つの欠格事由

相続欠格になる事由は以下の5つです。民法第891条の5つの事由のうちどれかに当てはまる人は、相続人として遺産を受け継ぐ権利を失います。

1)故意に被相続人や相続人を死亡させたり、又は死亡させようとしたりしたために、刑罰を受けた人(有罪になれば、執行猶予も含む)。
2)被相続人が殺害されたことを知っていたにもかかわらず、告発や告訴をしなかった人。ただし、その者に是非の弁別がないときや、殺害者が自己の配偶者又は直系の血族であった場合を除きます。
3)詐欺や強迫により、被相続人が相続に関する遺言をしたり、遺言を撤回・取消し・変更したりすることを妨害した人。
4)詐欺や強迫により、被相続人に相続に関する遺言をさせたり、遺言の撤回・取消・変更を行わせたりした人。
5)相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した人。

出典 

【参照元】e-Gov:「民法|法令検索、第五編 相続、第二章 相続人 第八百九十一条 相続人の欠格事由 詳しくはこちら

被相続人を死亡させた場合や殺人未遂で有罪になるのは滅多にないケースでしょう。しかし、遺言書を無理に書かせようとしたり、遺言書を書き換えたり隠したりするケースはあるかもしれません。

相続欠格と相続廃除の違い

相続欠格と相続廃除の違い

遺言の偽造や書き換えなど、上記の欠格事由に該当する行為を行うと「相続欠格」、著しい非行行為をした場合や被相続人を虐待してきた場合には「相続廃除」の制度により、相続権利を失います。「相続廃除」は遺産を受け継ぐ権利をなくす「相続欠格」と似た制度ですが、その内容や手続きなどに違いがあります。

相続廃除とは

相続廃除とは

相続廃除とは、民法892条によって決められた相続制度のひとつです。その事由は民法892条で「被相続人を虐待した場合」「被相続人に重大な侮辱を与えた場合」「相続人にその他の著しい非行があった場合」と規定されています。その他の著しい非行とは、犯罪を行ったり、被相続人の財産を浪費ないしは無断で処分したり、被相続人を遺棄したりなどの行為を指します。

相続廃除は、相続人が欠格事由に当てはまれば手続きが不要な相続欠格とは異なり、被相続人が家庭裁判所に廃除請求の申し立てを行うか、遺言によって相続人を廃除するかし、その内容が認められた際に相続人が遺産相続の権利を失う制度です。

相続廃除をしないと遺産が渡る可能性も

相続廃除をしなくても、遺言で特定の相続人に遺産を渡さない旨を書いておけばよいのでは?と思うかもしれません。

しかし、そのような内容が書かれていたとしても、被相続人の配偶者や子、直系の尊属(親や祖父母)が相続人の場合は、民法で一定の割合で遺産を受け取れる遺留分が決まっています。遺言に記載された相続人が遺産を受け取った際に、他の相続人は自らが受け取る相続額が遺留分よりも少なかった相続人が「遺留分侵害額請求」を行い、遺留分の不足分の遺産を追加で受け取ることが可能です。

つまり、遺言書で「○○には一切相続させない」と書いていた場合でも、実際には当人に遺産が渡る可能性が高いのです。ところが、相続欠格や相続廃除では、この遺留分さえ受け取ることはできません。
ただし、もし相続欠格や相続廃除になっていても、その人の子供が遺産を受けとる「代襲相続」は可能です。
なお、相続廃除の場合は、あとから取り消すことも可能です。その点、基本的には取り消せない欠格とは大きく異なります。

相続廃除の手続き方法

相続廃除には、被相続人が前もって家庭裁判所に申し立てをしておく「生前廃除」と、遺言書内で廃除の意思表示をする「遺言廃除」の2種類の方法があります。相続廃除は、民法891条各号に該当することにより当然に相続権が喪失する相続欠格とは異なり、裁判所での手続きが必要となり、相続権を剥奪する廃除事由を明確に証明しなければなりません。廃除事由を証明できないと裁判所に認められない場合も多く、注意が必要です。

【生前廃除の手続き方法】

生前廃除は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てて、審判を行ってもらうものです。申立書、被相続人の戸籍謄本、廃除したい相続人の戸籍謄本を提出して審判を待ちます。ほかにも相続人の非行行為を立証する書類などが必要な場合があるので、事前に家庭裁判所に提出書類を確認してから提出することが大切です。

審判後に相続人の廃除が決まったら裁判所から審判書謄本が送付されます。審判書謄本が届いたら、10日以内に「審判書謄本、確定証明書、推定相続人廃除届」を準備して、相続廃除された相続人の本籍地もしくは申立人の住所地の役所で戸籍変更手続きを行います。戸籍の手続きをしたあとには、戸籍上の該当する相続人に「相続廃除」と記載されて終了です。

【遺言廃除の手続き方法】

遺言廃除では、遺言書を作成するときに文書内に相続人を廃除する旨を記載します。この際に「遺言執行者」を定めておくとよいでしょう。被相続人が亡くなった後、「遺言執行者」が家庭裁判所へ相続廃除する人について申し立てをしなければなりません。もし「遺言執行者」が決まっていなかった場合、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任の申し立てをすることになります。

こんな場合はどうなる?相続欠格Q&A

こんな場合はどうなる?相続欠格Q&A

相続欠格に関して基本的な条件はわかっても、相続欠格者に子供がいたり、他にも相続人がいたりした場合はどうするか、といった疑問がわくかもしれません。以下では、そのような際の正しい対応方法について、疑問に答えます。

Q. 相続欠格者に子供がいる場合

相続欠格者に子供がいた場合、民法887条2項に定められている通り、子供が代わりに遺産を受け取ることは可能です。一方、相続放棄の場合には、放棄者の子供が相続できると民法には記載がないため、代襲相続ができません。

Q. 他に相続人がいる場合

ほかに相続人が存在しているケースでは、ほかの相続人だけで遺産分割協議を行います。相続欠格者は、欠格の事実が戸籍上に明記されません。不動産登記や金融機関の現金払い戻しなどの手続きを行う際には、欠格者本人が作成した欠格事由を認める証明書、印鑑証明などの書類を添付する必要が多いです。

Q. 相続した後に欠格事由が判明した場合

相続欠格は被相続人の意思にかかわりなく決定するため、欠格事由が発生した時点で当然欠格になります。遺産分割協議の途中でも相続をやり直さなければなりません。相続発生後に判明した場合でも、同様に相続のやり直しをする必要があります。

まとめ

まとめ

相続欠格は、主に相続に関して犯罪行為などをした相続人が、遺産を受け取る権利を失う制度です。遺留分も受け取れなくなります。手続きを経なくても相続欠格になり、基本的に取り消すことはできません。
相続欠格になるケースはごく限られたものですが、相続で有利になるために殺人や遺言の改変などを行うことを抑止するために設けられた大切な制度です。

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