相続税の計算方法をわかりやすく解説!早見表から控除を踏まえた事例も紹介

相続税とは何か、誰にいくらかかるものなのかについて紹介。また相続税の具体的な計算方法や、相続税額の早見表まで紹介し、わかりやすく解説していきます。

相続税の計算方法をわかりやすく解説!早見表から控除を踏まえた事例も紹介

相続税とは?

相続税とは、相続または遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した場合に、取得した財産に応じて課される税金です。

相続税は、遺産の総額が3,000万円を下回ればかかりません。この基準となる金額を「基礎控除」といいます。遺産の総額が基礎控除額を上回った場合には相続税が発生します。
また相続税は相続人ごとに申告が必要で、申告期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」です。なお、同一の被相続人から相続によって財産を取得し、相続税申告書を提出しなければならない者が2名以上ある場合は、それらのものは共同で相続税申告書を提出することが一般的です。

今回は、相続税の具体的なケースを想定しながら、その計算方法についてご紹介します。

相続税の計算方法

相続税の計算方法

相続税額計算は、手順にしたがって、一定の計算式により算出します。計算過程は煩雑ですが、この記事では、各段階の計算順に沿った形で作成しているので知識が無い人でもおおまかな納税額を算出することができます。

相続税の計算は、まず財産の評価をすることから始まります。現預金は額面で評価すれば済みますが、土地・家屋など不動産や上場株式などは財産評価基本通達にしたがって評価することになります。本ページでは各種財産は評価済みと仮定して、相続税額の計算方法を紹介します。

相続税額の計算手順

具体的には以下のとおり、大きく7つの計算過程で相続税額は算出可能であり、その流れに沿って順次紹介していきます。

相続税額の計算手順

手順算出項目
「正味の相続財産」を計算
①から基礎控除を引いて「課税遺産総額」を算出
②を法定相続分で分ける(「相続人ごとの課税遺産額」を算出)
③にそれぞれ相続税率をかけて「相続人ごとの仮の相続税額」を算出
④を合算して「全体の相続税額」を算出
⑤を相続人ごとの財産取得割合に応じてあん分し「相続人ごとの実際の相続税額」を算出
適用できる税額控除があればそれぞれ計算して完了

ちなみに遺産額が同じであっても、「相続人の続柄(配偶者、子、兄弟姉妹など)」、「相続人数」、「遺産分割の仕方(誰にどのように相続財産を割り振るか)」によって相続税額が変わります。

また、実際の相続税の計算は、財産評価がポイントであるほか、各種特例の適用の有無などの判断も必要であることから、申告に際しては税理士に依頼するのが妥当です。

本ページで相続税の計算方法や早見表を紹介していますが、実際の相続税額と異なることがあるため、あくまで参考程度として活用するようにしてください。

1. 正味の相続財産を計算

1. 正味の相続財産を計算

正味の相続財産とは、相続税がかかる財産のことです。相続によって取得するのはプラスの財産だけではありません。

被相続人の債務(借入金や未納税金、未払医療費など)や葬式費用も相続人は負担します(マイナスの財産)。また社会政策的見地や国民感情から相続税法で非課税としている財産(墓地や仏具など)もあります。

相続等で取得した財産からマイナスの財産を控除して、正味の相続財産額を求めます。正味の相続財産は申告書では「課税価格」と記載され、相続税額を計算する基礎となる金額です。

<正味の相続財産の計算式>

相続財産の総額 −(非課税財産 + 債務 + 葬式費用)= 正味の相続財産

正味の相続財産を計算

「正味の相続財産」を計算するための以下、2つについて詳しく解説していきます。

●相続財産の総額(プラスの財産 + みなし相続財産 + 特定の贈与財産)
●非課税財産・債務・葬式費用(マイナスの財産)

相続財産の総額(プラスの財産 + みなし相続財産 + 特定の贈与財産)

相続財産の総額とは、相続税がかかる財産のすべての総額です。大きく3つで「相続財産」、「みなし相続財産」、「特定の贈与財産」が該当します。

種別      対象
相続財産不動産(土地・家屋)または不動産の上に存する権利、現金、預貯金、貸付金債権、社債・株式等、投資信託等、動産(自動車、貴金属、機械器具など)特許権等、著作権等、前記以外の営業上の権利、その他の財産。
みなし相続財産生命保険金、退職手当金・功労金、生命保険契約に関する権利、定期金に関する権利、保証期間付定期金に関する権利、契約に基づかない定期金に関する権利、その他の利益の授受、信託に関する権利など。
特定の贈与財産

※相続時精算課税にかかる贈与財産の価額
贈与時に贈与税を納付し、贈与者の相続発生時にはその贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算して計算した相続税から贈与時に納付した贈与税を控除した金額が納付すべき相続税となります。
特定の贈与財産

※相続開始前3年以内に贈与を受けた財産
相続等によって財産を取得した人がその相続の開始前3年以内に贈与を受けたものをその人の相続税の課税価格に加算することにしているもの。

相続財産

民法の規定にしたがって相続等によって取得した財産です。遺言が残されていなければ、遺産分割協議によってそれぞれの財産を取得する人を決めることになります。

相続によって取得した財産のうち、不動産、有価証券などは財産評価基本通達にしたがって評価しなければなりません。

土地に関しては「路線価」を調べ、間口奥行などの画地調整を施して評価額を求めます。評価方法は、以下のサイトから無料で確認できます。

■財産評価の計算方法と基準書リスト

・相続財産や贈与財産の評価|国税庁
相続等で財産を取得する場合、各種財産の評価方法が説明されています。

・財産評価基準書|国税庁
土地や土地の上に存する権利の評価が必要な場合、路線価や借地権割合を調べるときに使用します。

・月間相場表|日本取引所グループ 
上場株式や投資信託等の評価が必要な場合に使用します。

みなし相続財産

民法上の相続等により取得した財産ではありません。ただし実質的には相続等により財産を取得したことと同様な経済効果があると認められるため、相続税法では、課税の公平を図るために、その受けた利益などを相続等によって取得したものとみなして、相続税の課税財産としています。

特定の贈与財産

特定の贈与財産には2つあります。

(1)相続時精算課税にかかる贈与財産の価額
(2)相続開始前3年以内に贈与を受けた財産

(1)の「相続時精算課税にかかる贈与財産の価額」は相続時精算課税制度の適用を受けた者が被相続人から生前に贈与によって取得した財産の価額を、相続税の課税価格に加算することです。相続時精算課税制度は、贈与時には一定の式で計算した贈与税を納付するに留め、相続時に差額を相続税の計算に含めて精算するものです。

(2)の「相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産」は、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産を相続税の課税価格に加算することです。3年以内の贈与財産を相続財産と同等と扱うのは、相続税対策として駆け込み贈与を防ぐために設けられています。

非課税財産・債務・葬式費用(マイナスの財産)

「正味の相続財産」を算出するにあたり、相続税の総額から差し引く「非課税財産・債務・葬式費用(マイナスの財産)」についてそれぞれみていきましょう。

非課税財産

相続税の非課税財産とは、その性質、社会政策的な見地、国民感情などを考慮して、相続税の課税対象としないこととされている財産です。

相続税法では「墓地、仏壇、仏具など」、「公益事業用財産」、「相続人が受け取った生命保険金などのうち、一定の金額」、「相続人が受け取った退職手当金などのうち、一定の金額」などが限定列挙されています。

■非課税財産の主な例

・墓地、仏壇、仏具、祭具など日常礼拝しているもの
ただし、骨董的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは課税対象です。
【参考】No.4108 相続税がかからない財産|国税庁

・公益事業用財産
公益事業を行う人が、相続等によって取得した財産で、その公益事業の用に供することが確実なもの。

・相続人が受け取った生命保険金などのうち、一定の金額
死亡保険金の受取人が相続人である場合、非課税枠は500万円×法定相続人の数となります。
【参考】No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険|国税庁

・相続人が受け取った退職手当金などのうち、一定の金額
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金などを受け取る場合、非課税枠は500万円×法定相続人の数となります。
【参考】No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

法定相続人が配偶者、子2人の3人である場合、生命保険(死亡保険)金が2,000万円であれば、非課税枠は1,500万円(=500万円×3人)となり、2,000万円から非課税枠1,500万円を差し引いた500万円が課税対象となります。なぜ生命保険が相続税の節税策として利用されるのか?その理由はこの非課税枠にあります。

同じ条件で死亡退職金が2,000万円であれば、非課税枠は1,500万円となり、課税対象は500万円です。

債務

債務とは、金銭を支払ったり、物品を渡したりしなければならない義務のことです。

相続税法では、これらの債務を相続等により取得した財産の価額から控除して相続税の計算をします。これを債務控除といいます。債務控除できるものは、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含みます)に限られています。

項目           内容
差し引くことができる債務・未納公租公課(固定資産税、住民税、事業税等)
・借入金
・未払医療費(相続発生後に支払ったもの)
・クレジットカード使用金額
・水道光熱費など(振込手数料を含む)
差し引くことができない債務・墓所
・霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
・個人の公益事業用財産

債務控除を受けられる相続人は、実際に債務を負担する人に限定されます。債務を相続人間で分割して承継する場合は、各相続人はその承継した債務を債務控除することになります。対象者・条件は以下にて確認できます。

【参考】相続財産から控除できる債務|相続税 |国税庁

葬式費用

葬式費用も債務控除と同様に、相続等により取得した財産の価額から控除して相続税の計算をします。葬式費用は純粋に葬儀に掛かるものであり、法要(初七日、四十九日など)の費用は含まれません。葬式費用も領収書や明細書のエビデンスを保管する必要がありますが、お寺へのお布施など領収書がないものはメモ書きなどの記録を取っておくことをおすすめします。

葬祭に備えて互助会積立金を利用した場合、被相続人が契約者(互助会積立金負担者)であれば、積立金は資産とみなされるので、積立金充当額は葬式費用にはなりません。また通夜・告別式で親族が使用する喪服の購入費用や貸衣装代も葬式費用には該当しません。

被相続人が会社の代表者などの場合、葬儀を社葬形式で行うことがありますが、その場合、葬式費用として控除できるのは相続人が負担した部分となります。

項目   対象
控除対象①葬式や葬送に際し、又はそれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(死亡診断書、納骨費用、骨壺代などを含む)

②葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用(戒名料、喪主負担分の生花・供物、葬儀場までの旅費、係員への寸志(チップ)などを含む)

③上記①②に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの(通夜及びその際の食事代)

④死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
控除対象外①香典返戻費用

②墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料(位牌などを含む)

③法会に要する費用

④医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

葬式費用は全国的に大きなばらつきがあります。同じ県であっても、特定の宗派が強い地域もあり、葬式の規模が異なることは珍しくありません。最近は家族葬が増加しており、葬式費用は減少傾向であるようです。平均値に関しては以下のサイトが参考になります。

2. 「課税遺産総額」を算出

2. 「課税遺産総額」を算出

相続税の課税遺産総額とは、正味の相続財産額(課税価格)から基礎控除額を控除した金額です。課税遺産総額は相続税がいくらかかるかを計算する直接の課税標準です。正味の相続財産額が基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。

<課税遺産総額の計算式>

正味の相続財産 − 基礎控除額 = 課税遺産総額

相続の基礎控除の計算方法

相続の基礎控除とは、相続税の課税最低限度額であり、法定相続人の数によって額が決定します。

基礎控除額は、3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)で、法定相続人が増えることで金額が増加します。正味の相続財産額が基礎控除額以下の場合、課税遺産総額はマイナスとなり、相続税は課税されません。

<基礎控除額の計算式>

3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)= 基礎控除額

基礎控除額の早見表

法定相続人の人数基礎控除額
1名3,600万円
2名4,200万円
3名4,800万円
4名5,400万円
5名6,000万円
6名6,600万円
7名7,200万円

例えば、相続人が配偶者と子ども2人で、正味の相続財産が10億円と仮定した場合をみてみましょう。

基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円です。
となると課税遺産総額は10億円-4,800万円=9億5,200万円となります。

法定相続人とは民法に規定する相続人ですが、相続の放棄をした人があっても上記の法定相続人数に含むこととします。
ただし、被相続人に養子がいる場合は、法定相続人に含まれる養子の数は次のように制限されます。

(1)被相続人に実子がいる場合‥‥1人
(2)被相続人に実子がいない場合‥‥2人

相続人の範囲に関しては、相続人の範囲と法定相続分|国税庁が参考になります。

3. 「相続人ごとの課税遺産額」を算出

3. 「相続人ごとの課税遺産額」を算出

課税遺産総額が算出されたら、次は各相続人が民法に規定する法定相続分どおりで相続したと仮定して、各相続人の課税遺産額を求めます。法定相続分の計算式は、下記の表のとおりです。相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者が2分の1、子供は各4分の1です。

ここで使用する法定相続分は、あくまでも相続税を計算するための仮の分割割合であり、実際の分割割合や誰が何を相続するかは遺産分割協議で決定されます。

<相続人ごとの相続税額>

課税遺産総額 × 割り振り率(各人の法定相続分の割合)= 各人の相続税額

法定相続分とは

法定相続分とは、共同相続人が取得する相続財産の民法に定められた相続割合のことをいいます。法定相続人の順位により法定相続分は異なります。また、同順位の法定相続人が複数いる場合は、その人数で均等に分けます。

法定相続人が配偶者と子3名であった場合、子の法定相続分1/2を3人で均等に分けるため、子一人あたりの法定相続分は1/6となります。
また、被相続人の相続発生時に、相続人である子・兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その直系卑属(子が死亡している場合は、被相続人の孫)が代襲相続人となります。

配偶者がいる場合

法定相続人の状況配偶者 子   父母(※)兄弟姉妹
配偶者のみ       1---
子がいる        1/21/2--
父母(※)がいる2/3-1/3-
兄弟姉妹がいる     3/4--1/4

※:直系尊属等

配偶者がいない場合

法定相続人の状況配偶者 子   父母(※)兄弟姉妹
子がいる        -1--
父母(※)がいる--1-
兄弟姉妹がいる     ---1

※:直系尊属等

【参考】財産を相続したとき|国税庁

相続人が配偶者と子供2人であり、課税遺産総額が9億5,200万円であった場合の、各人の課税遺産額は下記の図式のとおりです。

法定相続分で分割した相続人ごとの相続税額を計算

4. 税率をかけて各人の仮の相続税額を計算

4. 税率をかけて各人の仮の相続税額を計算

「相続人ごとの課税遺産額(法定相続分に応じた取得金額)」が決まったら、それに応じた税率をかけた後に課税遺産額の範囲で設けられた控除額を差し引いて各人の仮の相続税額を計算します。

相続税率は所得税と同じように金額が多くなるほど税率が高くなる累進課税制度が採用されています。例えば、課税遺産額が5,000万円超1億円以下の場合、税率は30%が適用されますが、課税遺産額すべてに30%が適用されるわけではありません。1,000万円以下の部分は税率10%、1,000万円超3,000万円以下の部分は15%、3,000万円超5,000万円以下の部分は20%が適用されます。

下記の速算表の控除額は、その適用税率による差額を調整する金額です。

<「相続人ごとの仮の相続税額」の計算式>

課税遺産総額 × 法定相続分 × 税率 - 控除額 =「相続人ごとの仮の相続税額」

相続税の速算表

法定相続分に応じた取得金額税率 控除額  
1,000万円以下10%0円
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

【参考】相続税の税率|国税庁

先ほどの例では、正味の遺産総額10億円(課税遺産総額9億5,200万円)の場合、配偶者の課税遺産額は4億7,600万円となり、適用税率は50%、控除額は4,200万円となります。

子どもは9億5,200万円×法定相続分1/4で、それぞれ課税遺産額2億3,800万円となり、適用税率45%、控除額は2,700万円となります。その結果の各人に帰属する仮の相続税額は下図のとおりです。

相続人ごとの仮の課税遺産額を計算

5. 「全体の相続税額」を算出

5. 「全体の相続税額」を算出

相続税は、各相続人が法定相続分通りで課税遺産総額を相続したと仮定して、税額を試算する方式を採用しています。「相続人ごとの仮の相続税額」が算出されたら、それらの額を合算し、相続人全員の相続税額を求めます。

<相続人ごとの仮の相続税額合計の計算式>

相続人ごとの仮の相続税額を全て合計する

前段階で、配偶者の仮の相続税額は1億9,600万円、子どもの仮の相続税額はそれぞれ8,100万円と試算されました。したがって相続人すべての合計は下図のとおりとなります。

相続人ごとの仮の相続税額を合計する

6. 「相続人ごとの実際の相続税額」を算出

6. 「相続人ごとの実際の相続税額」を算出

各人が実際に負担する相続税額は、相続税の総額から実際の財産取得割合であん分して算出します。

なお実際の財産取得割合は、基礎控除額を控除する前の正味の相続財産(課税価格)をベースに算出します。

<「相続人ごとの実際の課税遺産額」の計算式>

全体の相続税額 ×(相続人ごとの課税価格 ÷ 課税価格の合計額)=「相続人ごとの実際の課税遺産額」

前段階で、相続人全体の相続税額は3億5,620万円と算出されました。配偶者と子ども2人で、それぞれの実際の財産取得割合が配偶者2分の1、子どもが各4分の1であった場合、「相続人ごとの実際の課税遺産額」は下図のとおりとなります。

相続人ごとの実際の相続税額を計算

未成年控除や障害者控除など、適用できうる税額控除がない場合は相続税の計算は以上となります。相続人はそれぞれ、配偶者1億7,810万円、子ども8,905万円ずつを相続税として納付・申告することになります。

法定相続人に配偶者がいる場合、配偶者は、配偶者の税額軽減措置(配偶者控除)が適用できるため、控除を適用して算出した金額が実際納付する相続税額となります。

7. 適用できる税額控除があればそれぞれ計算

7. 適用できる税額控除があればそれぞれ計算

各相続人の負担すべき税額が求められたら、最後に各相続人に適用される税額控除を計算し、各相続人の納付すべき相続税額を確定します。最も多く適用されるケースは、配偶者の税額軽減措置(配偶者控除)です。一次相続(夫が先に亡くなり、配偶者である妻が相続をする場合)では、この配偶者の税額軽減措置が利用できるので、妻の納付すべき相続税額は大きく減額されます。これは、残された妻の生活を保障するための政策的な配慮がなされているからです。

主な税額控除は以下のとおりです。税額控除は以下の順序で控除します。

控除種別           控除内容
暦年課税に係る贈与税額控除被相続人から相続開始前3年以内に財産の贈与を受けている場合、その財産の価額を相続税の課税価格に加算して、相続税を計算しています。そのため、贈与を受けた財産についてすでに納付済みの贈与税額は、その者の相続税から控除されます。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)配偶者の課税価格が配偶者の法定相続分相当額あるいは1億6,000万円のいずれか多い額までは税負担が生じないことになっています。
未成年者控除※1相続人が未成年者である場合は、その未成年者の年齢に応じて20歳になるまでの年数に10万円を乗じた額を控除します。
障害者控除相続人が85歳未満であり、障害者に該当する場合は、一定の式に基づいて控除額を計算します。
相次相続控除被相続人がその相続開始前10年以内に開始した相続により財産を取得し、相続税を納税している場合は、一定の式に基づいて控除額を計算します。
外国税額控除国外財産について、その所在地国で日本の相続税に相当する税が課せられた場合に、一定額を控除します。
相続時精算課税分の贈与税額控除相続時精算課税適用者に贈与税が課せられた贈与税がある場合にその贈与税額を控除します。

※1:令和4年4月1日以後に開始した相続の未成年者控除に関しては、18歳を成年年齢として適用

下図の場合、配偶者は課税価格5億円の財産を取得しています。配偶者の課税価格は1億6,000万円を超えていますが、法定相続分までの額であるため、配偶者の税額軽減措置がすべて適用され、納付すべき税額はありません。

14歳の子どもは、20歳に達するまで6年です。6年に10万円を乗じた60万円が未成年者控除額となります。8歳の子どもは、同様に20歳に達するまで12年であるため、12年に10万円を乗じた120万円が未成年者控除額となります。なお、年齢は相続開始時の年齢で判定し、20歳に達するまでの年数が1年未満であるとき、あるいは1年未満の端数があるときは、これを1年として計算します。

適用される税額控除を計算

国税庁の相続税計算シミュレーションを活用

国税庁のサイトでは、相続税がいくらかかるのかシミュレーションできるツールが用意されています。

下記参考サイトのトップ画面から「新規に申告要否の判定を開始する」をクリックし、順序に沿って法定相続人の数や相続財産等を入力すれば、相続税の申告の要否を判定してくれます。相続財産である土地が路線価評価方式適用エリアにある場合は、路線価と土地面積を入力すれば、簡易な評価額が算出されます。

また、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)及び配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用した場合の税額計算シミュレーションを行うことも可能です。

ただし、この判定コーナーによる相続税額はあくまで簡易な試算であり、実際に納付すべき相続税額とは異なる場合があります。あくまで申告の要否を検討するサイトであると理解しましょう。

【参考】国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」詳しくはこちら

相続税額の早見表

相続税額の早見表

課税価格は相続財産から債務・葬式費用を控除した正味の相続財産額です。配偶者有の場合、配偶者の税額軽減措置は法定相続分までの活用を前提としています。「-」は相続税が発生しないことを意味します。

相続税の早見表は、簡易に税額を試算する概算表です(万円未満端数調整)。実際の相続税申告時の税額と異なることがあり、あくまで目安としてご利用ください。

相続人に配偶者と子どもがいる場合

配偶者がいる場合は、配偶者の税額軽減措置により全体税額は抑えられます。

課税価格   配偶者+子ども1名配偶者+子ども2名配偶者+子ども3名
4,000万円
5,000万円40万円10万円
6,000万円90万円60万円30万円
7,000万円160万円113万円80万円
8,000万円235万円175万円137万円
9,000万円310万円240万円200万円
1億円385万円315万円262万円
1億5,000万円920万円748万円665万円
2億円1,670万円1,350万円1,217万円
2億5,000万円2,460万円1,985万円1,800万円
3億円3,460万円2,860万円2,540万円
3億5,000万円4,460万円3,735万円3,290万円
4億円5,460万円4,610万円4,155万円
4億5,000万円6,480万円5,493万円5,030万円
5億円7,605万円6,555万円5,962万円

相続人が子どものみの場合

配偶者がいない場合は、配偶者の税額軽減措置が受けられないので、相続税負担は大きくなります。

課税価格   子ども1名    子ども2名    子ども3名    
4,000万円40万円
5,000万円160万円80万円20万円
6,000万円310万円180万円120万円
7,000万円480万円320万円220万円
8,000万円680万円470万円330万円
9,000万円920万円620万円480万円
1億円1,220万円770万円630万円
1億5,000万円2,860万円1,840万円1,440万円
2億円4,860万円3,340万円2,460万円
2億5,000万円6,930万円4,920万円3,960万円
3億円9,180万円6,920万円5,460万円
3億5,000万円1億1,500万円8,920万円6,980万円
4億円1億4,000万円1億920万円8,980万円
4億5,000万円1億6,500万円1億2,960万円1億980万円
5億円1億9,000万円1億5,210万円1億2,980万円

相続税がいくらになるのか3つの事例を紹介

相続税がいくらになるのか3つの事例を紹介

相続税の計算例として以下、3パターンを紹介します。

●配偶者なし、子ども3人の場合
●配偶者あり、子ども1人の場合
●配偶者あり、子どもがいない場合

配偶者なし、子ども3人の場合

     
相続人子3人(長男、次男、三男)
※法定相続分は各1/3
相続財産等現預金2億円
不動産1億円
生命保険1億円
債務・葬式費用1,000万円

注1:生命保険(死亡保険)は相続人である子が受取人です。
注2:長男が1/2、次男と三男が各1/4の割合で相続します。

①正味の相続財産(課税価格)の計算

相続財産(現預金2億円 + 不動産1億円、生命保険1億円)- 債務・葬式費用(1,000万円)- 生命保険の非課税枠(1,500万円 = 500万円 × 3人)= 3億7,500万円

②課税遺産総額の計算

正味の相続財産(3億7,500万円)- 基礎控除額(4,800万円 = 3,000万円+600万円 × 3人)= 3億2,700万円

③相続人ごとの課税遺産額の計算

子いずれも:3億2,700万円 ÷ 3人 = 1億900万円ずつ

④相続人ごとの仮の相続税額の計算

子いずれも:1億900万円 × 40% - 1,700万円 = 2,660万円ずつ

⑤全体の相続税額の計算

2,660万円 × 3人 = 7,980万円

⑥「相続人ごとの実際の相続税額」を計算(納付すべき税額を確認)

■長男の課税価格を確認
課税価格の合計3億7,500万円 × 財産の取得割合(1/2)= 1億8,750万円

■次男と三男の課税価格を確認
課税価格の合計3億7,500万円 × 財産の取得割合(1/4)= 9,375万円ずつ

長男:7,980万円 ×(長男の課税価格1億8,750万円 ÷ 課税価格の合計3億7,500万円)= 3,990万円

次男:7,980万円 ×(次男の課税価格9,375万円 ÷ 課税価格の合計3億7,500万円)= 1,995万円

三男:7,980万円 ×(三男の課税価格9,375万円 ÷ 課税価格の合計3億7,500万円)= 1,995万円

この後、適用できる控除がないと判断した場合は、上記で算出された金額を納税・申告することになります。

配偶者あり、子ども1人の場合

    
相続人配偶者、子1人(10歳)
※法定相続分は配偶者1/2、子1/2
相続財産現預金1億円
上場有価証券2億円
不動産2億円
死亡退職手当金1億円
債務・葬式費用5,000万円

※注1:死亡退職手当金は配偶者が受取ります。
※注2:配偶者が預金と不動産、死亡退職手当金を相続し、子は上場有価証券を相続します。ただし債務・葬式費用は配偶者が負担します。

①正味の相続財産(課税価格)の計算

相続財産(現預金1億円 + 上場有価証券2億円 + 不動産2億円 + 死亡退職手当金1億円)- 債務・葬式費用(5,000万円)- 死亡退職手当の非課税枠(1,000万円 = 500万円 × 2人)= 5億4,000万円

②課税遺産総額の計算

正味の相続財産(5億4,000万円)- 基礎控除額(4,200万円 = 3,000万円+600万円 × 2人)= 4億9,800万円

③相続人ごとの課税遺産額の計算

配偶者:4億9,800万円 ÷ 2人 = 2億4,900万円
子ども:4億9,800万円 ÷ 2人 = 2億4,900万円

④相続人ごとの仮の相続税額

配偶者:2億4,900万円 × 45% - 2,700万円 = 8,505万円
子ども:2億4,900万円 × 45% - 2,700万円 = 8,505万円

⑤全体の相続税額の計算

8,505万円 × 2人 = 1億7,010万円

⑥相続人ごとの実際の相続税額」を算出

■配偶者の課税価格を確認
配偶者の課税価格:現預金(1億円)+ 不動産(2億円)+ 死亡退職手当金(1億円)- 債務・葬式費用(5,000万円)- 死亡退職手当の非課税枠(1,000万円)= 3億4,000万円

■子どもの課税価格を確認
子どもの課税価格:上場有価証券(2億円)

配偶者:1億7,010万円 ×(配偶者の課税価格3億4,000万円 ÷ 課税価格の合計5億4,000万円)≒ 1億710万円(端数は省略します。実際は100円単位で切捨)

子ども:1億7,010万円 ×(子どもの課税価格2億円 ÷ 課税価格の合計5億4,000万円)≒ 6,300万円(同上)

⑦適用できる税額控除があればそれぞれ計算

■配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用可否を確認
配偶者の課税価格は1億6,000万円を超えているため、法定相続分までが配偶者税額軽減措置の対象です。

配偶者の税額軽減措置:全体の相続税額(1億7,010万円)× 法定相続分(1/2)= 8,505万円

■未成年者控除の適用可否を確認
子どもが20歳に達するまでの年数は10年です。

未成年者控除:10年 × 10万円 = 100万円

■納付すべき税額
配偶者:1億710万円 - 配偶者控除(8,505万円)= 2,205万円
子ども:6,300万円 - 未成年者控除(100万円)= 6,200万円

配偶者あり、子供がいない場合

   
相続人配偶者及び被相続人の弟と妹
※法定相続分は配偶者3/4、兄弟は各1/8
相続人現預金2億円
上場有価証券1億1,000万円
債務・葬式費用1,000万円

遺言がある場合とない場合の2パターンを紹介します。

【1】すべての財産を配偶者に相続させる旨の遺言がある場合

相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合は、兄弟姉妹に遺留分(遺産を最低限相続できる権利割合)はありません。子がいない夫婦はお互いに遺言を作成しておくことが無難です。

①正味の相続財産(課税価格)の計算

相続財産(現預金2億円 + 上場有価証券1億1,000万円)- 債務・葬式費用(1,000万円)= 3億円

②課税遺産総額の計算

正味の相続財産(3億円)- 基礎控除額(4,800万円 = 3,000万円 + 600万円 × 3人)= 2億5,200万円

③相続人ごとの課税遺産額の計算

配偶者:2億5,200万円 × 3/4 = 1億8,900万円
弟  :2億5,200万円 × 1/8 = 3,150万円
妹  :2億5,200万円 × 1/8 = 3,150万円

④相続人ごとの仮の相続税額

配偶者:1億8,900万円 × 40% - 1,700万円 = 5,860万円
弟  :3,150万円 × 20% - 200万円 = 430万円
妹  :3,150万円 × 20% - 200万円 = 430万円

⑤全体の相続税額を計算

5,860万円 + 430万円 + 430万円 = 6,720万円

⑥「相続人ごとの実際の相続税額」を算出

今回は配偶者がすべての財産を取得するため、税額もすべて負担します。
弟・妹には負担すべき税額はありません。

⑦適用できる税額控除があればそれぞれ計算

■配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用可否を確認
配偶者の課税価格が1億6,000万円を超えているため、法定相続分までが配偶者税額軽減措置の対象です。

配偶者の税額軽減措置:相続税総額(6,720万円)× 法定相続分(3/4)= 5,040万円

■納付すべき税額
配偶者:6,720万円 - 配偶者控除(5,040万円)= 1,680万円

【2】遺言がない場合(遺産分割協議により法定相続分とおりで分割することになった)

遺言がない場合も上記①~⑤までは【1】と同様です。

⑥相続人ごとの実際の相続税額

配偶者:6,720万円 × 3/4 = 5,040万円
弟  :6,720万円 × 1/8 = 840万円
妹  :6,720万円 × 1/8 = 840万円

⑦適用できる税額控除があればそれぞれ計算

【1】と同様です。

■納付すべき税額
配偶者:5,040万円 - 5,040万円 = 0
弟  :840万円 × 1.2 = 1,008万円(兄弟姉妹は2割加算制度が適用されます)
妹  :840万円 × 1.2 = 1,008万円(同上)

※2割加算制度とは、通常の相続税に2割加算して相続税を納めなければならない制度です。被相続人の「配偶者及び一親等の血族(その代襲相続人を含む)」以外の人が対象となります。

まとめ

相続税の申告期限は、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。その間に財産・債務等の洗い出し、評価をし、相続人間で遺産分割協議を行い(遺言がない場合)、納税・申告しなければなりません。スケジュール的にはかなりタイトです。

また土地や土地の上に存する権利や、非上場株式などの評価は専門的な知識が不可欠であり、小規模宅地の課税価格の特例(被相続人所有の居住用宅地等は一定の評価減が受けられる)などは適用条件が複雑です。

最近の民法改正により、新たに「配偶者居住権」(配偶者が無償で居宅を居住する権利)や「特別の寄与」(相続人以外の親族が被相続人の財産維持等について寄与(貢献)した場合に、その寄与分が請求できる権利)が創設されているなど、相続財産の評価や相続税の仕組みに変更点があります。

ご自身の相続に対して奥さんやお子さんのために準備しておきたいこと、あるいはご両親の相続発生時にあわてないためにも事前の調査をお勧めします。相続が始まる前に税理士など専門家に相談することも有益です。

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