定年退職後に確定申告は必要?申告が必要な場合と手続き方法を解説

公的年金受給者も確定申告をしなければならないケースがあることをご存知でしょうか。本記事では、年金の受給に関して確定申告が必要となるケースや、該当した場合の申告方法を解説します。知らないまま過ごしているうちにペナルティを受ける場合もあるので注意しましょう。

定年退職後に確定申告は必要?申告が必要な場合と手続き方法を解説

定年退職の場合、確定申告は基本的に不要

定年退職の場合、確定申告は基本的に不要

定年退職の場合、退職金制度がある会社に勤めていれば退職金を受け取りますが、確定申告する必要はありません。会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、納めるべき所得税を過不足なく精算してくれるためです。
多くの場合「退職所得の受給に関する申告書」は、会社側から提出を求めてきます。しかし、企業によっては自ら申し出なければならないこともあるため、退職金を受け取る場合は確認しておきましょう。
退職金以外の所得に関しては、退職した年の年末調整を会社で行っていない場合や給与以外の所得がある場合等、一定の条件に当てはまる人は、確定申告が必要なケースがあります。

定年退職後でも確定申告が必要な場合

定年退職後でも確定申告が必要な場合

退職金は、会社が手続きを行ってくれるため確定申告は不要ですが、以下の1から4のケースに該当する場合は、個人で確定申告の手続きが必要です。

1. 年の途中で退職した場合

月々の給与からは所得税が源泉徴収されていますが、あくまでも月ごとの概算であり、年末に各種の控除を計上して正しい税額を算定します。これを「年末調整」と呼び、会社は毎年12月に社員に対して年末調整をおこないます。
この時所得税を払い過ぎている場合は、還付金として精算します。この処理をすることにより、給与所得者は原則として確定申告の必要がありません。しかし、年末調整をおこなう12月までに退職してしまった場合は、年末調整を受けられなくなります。そうなると税金を納め過ぎている可能性があります。

そのままでは、税金の還付が受けられないばかりか、翌年の住民税や社会保険料が高くなってしまうかもしれません。定年後、無職で年金以外の収入がない場合、住民税や社会保険料が重くのしかかってくることも考えられます。そのため、自分で確定申告をして所得税を正しく計算し直す必要があります。

2. 公的年金等の収入が400万円以上

公的年金等による収入が400万円以上を超える場合は、確定申告を行わなければなりません。

公的年金「等」とあるように、複数種類の年金を受け取っていて年間400万円以上を超えてしまう場合も確定申告が必須です。
例えば、厚生年金を月25万円受け取っていて厚生年金の年間の総額は300万円だとしても、加えて確定拠出年金を年間に100万円以上受け取っている場合は、400万円を超えてしまうので確定申告をしなければなりません。
このように聞くと公的年金等で400万円以上の収入があることで確定申告の手間を感じるかもしれませんが、確定申告の際に各種控除を利用することで所得税の還付を受けられる可能性もあります。確定申告が必要な方は積極的に活用することをおすすめします。

【参照】国税庁「公的年金を受給されている方へ」詳しくはこちら

3. 年金以外の所得が20万円を超える

公的年金等の合計収入が400万円以下の場合でも、公的年金等にかかる雑所得以外に20万円を超える所得がある場合は、確定申告が必要です。

この場合の所得とは、生命保険や共済から支給される個人年金または満期返戻金、給与所得等があります。

【参照】国税庁「公的年金を受給されている方へ」詳しくはこちら

4. 控除等を受ける場合

定年退職後に再就職したり、年金を受けとったりと、所得税が源泉徴収されている場合、確定申告で還付手続きをすることにより所得税が返還される場合があります。
例えば、1月から12月までの1年間に、自分もしくは生計を一にする家族が支払った合計の医療費が10万円を超える場合は、医療費控除の対象になります。医療費控除は、上限200万円まで適用可能です。

また、住宅ローンを組んでマイホームを取得した時やリフォーム等をおこなった時も、所定の要件を満たせば住宅借入金等特別控除の対象となり、所得税の還付が受けられます。そのほか、自然災害や火災、盗難等の不慮の災害に遭った時も、雑損控除が適用されます。

ただし、詐欺や恐喝等は対象外で雑損控除は認められません。この制度は、年金受給者に限らず給与所得者や個人事業主も対象とする一般的な制度です。マイホームを取得した時やリフォーム等をおこなった時、病気や災害等で多額の出費があった時等、所定の要件を満たせば、確定申告によって納税額の一部が戻ってきます。

【参照】国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」詳しくはこちら

定年退職後も働き続ける場合

定年退職後も働き続ける場合

定年退職後にほかの企業へ再就職したり、アルバイトを始めたりした場合には、就業先の企業が年末調整をおこなってくれます。この場合は、確定申告をする必要はありませんが、場合によっては、確定申告が必要な場合もあるので注意しなければなりません。どのようなケースで確定申告をしなければいけないのかをご紹介します。

再就職・転職する場合

定年退職後に再就職をした場合は、就業先の企業が年末調整を行います。この時、退職した企業が発行した源泉徴収票が必要になりますので、年末調整の時に提出しましょう。
また、退職したのが11月ですぐに再就職した場合には、源泉徴収票の発行が年末調整に間に合わないケースがあります。この場合は、翌年に確定申告を行いましょう。

アルバイトをする場合

定年退職後にアルバイトをする場合も、再就職と同様に就業先で年末調整を行ってくれます。そのため、確定申告の必要はありません。ただし「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要となります。
また、アルバイト先が2社以上ある場合は、確定申告が必要です。定年退職した年度に掛け持ちでのアルバイトを行った場合は、前就業先の給与所得とアルバイト先の所得を合算して確定申告書に記載しなければなりません。

確定申告手続きの方法

確定申告手続きの方法

確定申告をする場合には、納税地を所轄する税務署、または市町村の税務課に所定の書類を提出しなければなりません。確定申告は時期が決まっているので、期限内に確定申告をしましょう。

確定申告をする時期

1月1日から同年12月31日までの所得に対する確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に手続きをします。過去には新型コロナの感染対策等で期間が延長されたこともありましたが、基本的にはこの1ヶ月の間に確定申告書を提出することになります。
もしこの時期を過ぎてしまった場合でも、確定申告は可能です。しかし、期限後申告となるためいくつかのペナルティが発生します。
まず1つ目のペナルティが無申告加算税です。本来支払うべき税金額に以下のような税額が上乗せされます。

・自主的に期限後申告をした場合:税額から5%プラス

・税務調査の事前通知から調査までの間に期限後申告をした場合:税額50万円未満では10%プラス、税額50万円以上では15%プラス

・税務調査後に期限後申告をした場合:税額50万円未満では15%プラス、税額50万以上では20%プラス
(無申告課税額が5,000円未満、または元となる税額が1万円未満の場合は免除となります。)

出典 

また、以下の要件を全て満たしている場合は、無申告加算税は発生しません。
・法定申告期限から1ヶ月以内に期限後申告をしている
・納付する税金を法定期限までに全額納付している
・期限後申告の前日から過去5年間に無申告加算税と重加算税を支払ったことがない

上記以外にも、期限後申告では延滞税がかかります。これは納税が遅れた分だけ利息のように延滞税が加算されるシステムです。詳しい計算方法については国税庁のサイトで説明があり、加えて必要事項を入力すれば自動で計算できるようになっています。

もし納付する税金がなく還付金のみの手続きなら、該当する年の翌年1月1日から5年の間の手続きが有効です。
つまり、過去に高額の医療費を支払ったり、盗難にあったりした時は、5年を経過していなければ手続き次第で税金が返ってくる可能性があります。

【参照】国税庁「申告と納税」詳しくはこちら
【参照】国税庁「確定申告を忘れたとき」詳しくはこちら
【参照】国税庁「延滞税の計算方法」詳しくはこちら

確定申告をする手段

確定申告の手段として以下の3つの方法があります。
・e-Tax
・郵送・信書便
・直接提出

この中で一番簡単なのは、e-Taxによるネット上での申請です。ただし、マイナンバーカードを用意するか、「ID・パスワード方式の届出」をしなければなりません。
マイナンバーカードを発行しておらず、ID・パスワード方式の届出も行っていない場合は、郵送か直接提出となります。確定申告書は信書扱いとなるので、第一種郵便・信書郵便のどちらかでの送付が必要です。これら以外では送付できないので気をつけましょう。直接提出する場合は、自身の住所地を管轄する税務署の受付か外にある収受箱への投函します。

確定申告に必要な書類

確定申告をする場合には、以下の書類を用意します。

・会社や公的年金等の機関が発行した源泉徴収票
・私的年金受給者は支払金額がわかるもの
・控除証明書や領収書等控除に必要なもの
・確定申告書A

出典 

確定申告書の用紙は、税務署や確定申告特設コーナー等で準備しています。
また、国税庁のホームページからダウンロードして印刷して使うこともできます。もしインターネットで申告する場合は、用紙は不要です。

還付の申告をする場合

還付申告は、年度途中での退職によって年末調整を行っていない場合や控除するものがある場合に行います。例えば、控除では以下のようなさまざまなものがあります。

■所得控除
「医療費控除」「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」「寄附金控除」「生命保険料控除」「地震保険料控除」「ひとり親控除」「寡婦控除」「雑損控除」等

■税額控除
「配当控除」「分配時調整外国税相当額控除」「外国税額控除」「政党等寄付金特別控除」等

出典 

このように控除にはさまざまな種類があります。還付申告をする場合は、これら控除を受けるために控除証明書や領収書といったものが必要です。何が必要になるかはそれぞれ受ける控除によって変わり、制度自体も異なります。そのため、確定申告を提出する年に国税庁等のWebサイトを調べて、何が必要であるかを確認しましょう。

例えば、医療費控除を受ける場合は領収書の提出が不要で、1年間にかかった金額をまとめた明細書を作成して提出できます。ただし、明細書に記載された金額を支払っているか確認される場合があります。そのため、5年間は領収書を保管しておくことが求められています。
医療機関や薬局、ドラッグストア等が発行した領収書、交通費の領収書、電車やバス等領収書が発行されない場合は通院日と費用のメモ書き等を作成して、まとめて保管しておいてください。

また、控除の記入方法は、国税庁のホームページにある「記載方法の手引き」等で確認できます。税理士等が参加する相談会では、記入方法の指導も受けることができます。手続きが不安な場合は、こうしたものを積極的に活用して確定申告手続きを進めましょう。

定年退職後は住民税の支払いや各種の手続きにも注意

定年退職後は住民税の支払いや各種の手続きにも注意

定年退職後は、今まで会社が行ってくれていた手続き関係を自分で行わなければなりません。手続きを忘れて期限を過ぎるとペナルティを受けることもあるので注意が必要です。

また、定年退職後は住民税を自分で納めなくてはなりません。自治体から郵送される納付書を期限までに提出しましょう。

65歳未満の定年退職者なら、再就職先を探すまでの間、失業保険の給付が受けられます。無保険期間をなくすため、健康保険をどうするかについても検討しておく必要があります。

まとめ

定年退職後は、タイミングや条件次第で確定申告が必要になることがあります。例えば、年末調整前に退職してしまった場合や、退職後に2社以上のアルバイト先を掛け持ちした時等です。退職後に働かず公的年金を受給している方も、公的年金等の年間合計額が400万円以上の場合は確定申告をしなければなりません。

これまで企業で働いていた方は、確定申告をあまり行ったことがないかもしれません。
その場合、最初はやり方がわからず面倒だと感じるかもしれませんが、還付金が戻ってくる可能性があります。また、一度経験しておくと所得税の仕組みが理解できるというメリットもあります。次回からは簡単に申告できるようにもなるので、確定申告が必要な場合は必ず提出しましょう。

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