年金受給者は確定申告が不要?控除によってお得になる場合を解説
年金を受給しても「公的年金等の確定申告不要制度」によって、所得税及び復興特別所得税については確定申告は不要です。この記事では、確定申告が必要な場合、不要な場合を解説します。確定申告不要でも、医療費や社会保険料の支払いによって、控除が受けられお得なケースもあります。
目次
公的年金受給者の定義
公的年金受給者とは、国民年金や厚生年金を受給している人のことです。日本の公的年金制度は、20歳以上60歳未満の全ての方が加入する国民年金と、会社員や公務員の方が加入する厚生年金があります。
公的年金には3種類あり、受給者と受給要件は以下の通りです。
年金の種類 | 受給者 | 受給要件 |
---|---|---|
老齢年金 | 被保険者本人 | 65歳に達した方(60歳からの繰上げ受給または75歳までの繰下げ受給を選択可) |
障害年金 | 被保険者本人 | 病気や怪我で障害認定を受けた方 |
遺族年金 | 被保険者の遺族 | 生計を維持していた被保険者が死亡した時 |
障害年金と遺族年金は非課税で確定申告の対象ではありません。確定申告の対象となる公的年金は老齢年金ですが、その他、公的年金等に該当するものに企業年金やiDeCo、国民年金基金などがあります。
公的年金受給者で確定申告が不要な場合
公的年金受給者は、所得が一定以上ある場合に確定申告が必要です。年金収入も所得の一種であり「雑所得」として課税対象になるからです。
ただし年金受給者の負担を減らすため、所得が一定以下である場合は「確定申告不要制度」を利用して申告の手間を省くことが可能です。
確定申告が不要となるのは、公的年金等の受け取りが400万円以下であり、かつそれ以外の所得が20万円以下の方です。
例えば、アルバイトによる収入や株式投資などによる利益や配当が該当します。「確定申告不要制度」の詳しい条件については、次で説明します。
確定申告不要制度とは?
公的年金受給者は原則確定申告が必要ですが、毎年確定申告をするとなると手続きが大変です。その負担を減らす目的で作られたのが「確定申告不要制度」です。
確定申告不要制度を利用できるのは、次のいずれにも該当する方です。
①公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる方
②公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である方
なお、公的年金等とは、次の年金などです。
・国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法などの法律の規定に基づく年金
・恩給(一時恩給を除く)や過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金
・確定給付企業年金契約に基づいて支給される年金
公的年金受給者で確定申告が必要な場合
「確定申告不要制度」の利用条件に当てはまらない一定以上の収入金額がある方は、確定申告をする必要があります。
公的年金等の受け取りが400万円を超える場合や、アルバイトによる収入や株式投資などによる利益や配当が20万円を超える場合です。また、外国の公的年金の支給を受けている方は、源泉徴収の対象とならないため、この場合も確定申告が必要になります。
「確定申告不要制度」の対象者であっても、確定申告をした方がいい場合があります。住宅ローンを利用してマイホームを取得した場合や、一定額以上の医療費を支払った場合、災害や盗難にあった場合などには、確定申告をすることで所得税の還付を受けられる可能性があります。
これらの還付を受けるためには、確定申告書を提出する必要があります。
確定申告が不要でも申告した方がお得な場合
公的年金等から所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されている方は、確定申告書を提出することによって、所得税の還付が受けられる可能性があります。
扶養家族の人数が変わったり、配偶者が亡くなったりした場合
配偶者控除や扶養控除、寡婦(夫)控除は「公的年金等の受給者の扶養控除等申告書」を提出していれば適用されます。
しかし、年の途中で扶養家族の人数に変更があると扶養控除等申告書に反映されていない場合があります。その場合、確定申告をすることで還付金を受け取ることが出来ます。
医療費を多く支払った場合
1年間に支払った医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超える場合には、確定申告をすることで医療費控除を受けることが出来ます。なお、生命保険契約などで支給される入院費給付金などがある場合は、実際に支払った医療費の合計から差し引いて計算します。
医療費控除の対象となる医療費の要件は以下のとおりです。
・納税者本人または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること。
・その年の1月1日から12月31日のあいだに支払った医療費であること(未払いの医療費は実際に支払った年の医療費控除の対象となります)。
【最新版】医療費控除とは?確定申告をすることで得られる節税効果
社会保険料を支払った場合
年金から天引きされる社会保険料のほかに、ご自身や配偶者、生計を一にする子や孫の介護保険料、後期高齢者医療保険料、国民健康保険料、国民年金保険料などを支払った場合には、確定申告をして社会保険料控除を受けることが出来ます。
生命保険料や損害保険料を支払った場合
生命保険料や損害保険料を支払った場合には、確定申告をすることで生命保険料控除や損害保険料控除の適用を受けることが出来ます。
生命保険料には、介護医療保険も含まれ、契約の種類や控除額も異なるので、以下の記事も参考にしてみてください。
「介護医療保険料控除」とは?控除の仕組みや計算方法、注意点を解説
ふるさと納税や寄付をした場合
ふるさと納税や国や自治体、公益社団法人や認定NPO法人などに一定の寄付をした場合には、確定申告をすることで寄付金控除を受けることが出来ます。
年金受給者もできる!年金でふるさと納税を行うポイントと注意点
ローンを組んで自宅を購入・リフォームした場合
住宅ローンを組んで自宅を買ったりリフォームをしたりした場合には、確定申告をすることで、住宅借入金等特別控除の適用を受けることが出来ます。
詳しくは、以下の記事で解説しているので参考にしてみてください。
住宅ローン控除で住民税が戻ってくる「住宅ローン控除」とは?
災害や盗難にあった場合
災害や盗難により損害を受けた場合には、確定申告をすることで雑損控除の適用を受けることが出来ます。修繕などの領収書や被害届の証明書は必ず取っておきましょう。
「公的年金等の受給者の扶養控除等申告書」を提出していない場合
「公的年金等の受給者の扶養控除等申告書」とは、年金から源泉徴収される所得税及び復興特別所得税について、配偶者控除などの各種控除を受けるために必要な書類で、日本年金機構などから送られてきます。
「公的年金等の受給者の扶養控除等申告書」を提出していない場合には、源泉徴収税額に配偶者控除などの所得控除が反映されていないため、税金が多く天引きされています。
確定申告をすることで、引かれすぎた税金の還付を受けることが出来ます。
確定申告が必要か源泉徴収票で確かめる方法
自分の年金が確定申告不要かどうかは、翌年の1~2月に日本年金機構などから送られてくる「公的年金等の源泉徴収票」で確認します。
【参考】日本年金機構「令和4年分公的年金等の源泉徴収票」の発送について 詳しくはこちら
チェックするのは、この票の(1)の「支払金額」です。この金額が400万円以下であれば、確定申告をする必要がありません。複数の公的年金等を受け取っている場合には、各源泉徴収票の支払金額の合計が400万円以下であるかどうかで判定します。
ただし、公的年金等の支払金額が400万円以下であっても、例えば給与所得や家賃収入があるなど、公的年金等以外の所得金額が20万円を超えている場合には確定申告が必要になります。
公的年金受給者の確定申告の方法
確定申告をする際には、いくつか必要な書類があります。確定申告をスムーズに行うためにも、事前に書類を揃えておくことが大切です。
確定申告の手続きの流れは以下のとおりです。
1.必要な書類を準備する
2.申告書などを作成する
3.申告書を提出する
詳しくみてみましょう。
確定申告に必要な書類
全員に共通して必要な書類
・マイナンバーカード(通知カード)、運転免許証などの本人確認書類
・通帳などの銀行口座がわかるもの
・確定申告書
公的年金等やそれ以外の収入がある人
・公的年金等の源泉徴収票
・所得のわかる書類(給与所得者の源泉徴収票など)
各種控除を受けるための書類(該当があるもの)
・医療費控除の明細書
・社会保険料控除証明書
・生命保険や地震保険の支払証明書
・寄附金の受領書など
確定申告の手順
確定申告書を自身で作成する場合は、国税庁のWebサイト「確定申告書等作成コーナー」で、必要事項を入力することで、確定申告書を作成することができます。作成した確定申告書を印刷して税務署へ直接提出する方法のほか、郵送やe-Taxで提出する(インターネット経由で税務署へ送信する)方法があります。
パソコンがない人や操作方法がわからない人は、確定申告書に手書きで書いて提出する方法もあります。確定申告書などの用紙は、税務署や確定申告会場のほか、市区町村役場の担当窓口や指導相談会場でも受け取ることができます。
確定申告書の提出方法は以下の3つがあります。
・e-Taxで申告する
・郵便または信書便により、住所地などの所轄税務署または業務センターに送付する
・住所地などの所轄税務署の受付に提出する
確定申告書類の提出期限は2月16日〜3月15日となります。確定申告書を自分自身で作成することが難しい場合は、所轄税務署や市区町村役場で相談することも可能です。確定申告の時期には、相談会場が設けられることもあります。予約が必要な場合もありますので、まずは電話で問い合わせてみるとよいでしょう。
住民税の申告が必要な場合もある
住民税には「公的年金等の確定申告不要制度」がありません。したがって、所得税等の確定申告不要な場合に該当しても、住民税のみ確定申告が必要な場合があります。
住民税の確定申告が必要かどうかは、公的年金等の支払金額や年齢、扶養人数などによって異なります。雑所得以外の所得があれば、20万円以下であっても住民税の申告が必要になるので、詳しくはお住まいの自治体にご確認ください。
なお、所得税等の確定申告は住民税の確定申告を兼ねているため、所得税等の確定申告をしていれば、住民税の確定申告をする必要はありません。
まとめ
公的年金等の受給者は、
①公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象である
②公的年金以外の所得金額が20万円以下
という2つの要件を満たせば、所得税等の確定申告の必要がありません。
しかし、確定申告をすることで所得税の還付が受けられるなどお得なケースもあります。
「確定申告は難しい」と思われるかもしれませんが、分からないことがあれば税務署に相談することも出来ます。何らかの控除がある場合は、余裕を持って確定申告を迎えられるよう、公的年金等の源泉徴収票のハガキが届いたら内容を確認してみましょう。
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