退職金のお得な受け取り方は?一時金と年金の受取額や税金の違いを解説

会社を退職した際にもらえる退職金の受け取り方は、大きく分けて「一時金」と「年金」の2パターンあります。退職金の受け取り方によって、受取額や税金が異なります。この記事では、退職金をお得に受け取るための方法について紹介します。受け取り方によるメリットデメリットを踏まえて、自分にあった方法を選びましょう。

退職金のお得な受け取り方は?一時金と年金の受取額や税金の違いを解説

退職金の受け取り方の2パターン

退職金の受け取り方の2パターン

退職金は、必ずしも一度に全額受け取る必要はありません。会社によっては、退職金の支給方法を選べることがあります。主な2つ「一時金」と「年金」の退職金の受け取り方を紹介します。

一時金としてまとめて受け取る

1つ目の受け取り方は、退職金を一括で受け取る「一時金」というものです。
定年退職なら、一度に1,000万〜2,000万円以上の金額の退職金がもらえることもあります。転職などの理由で若いうちに会社をやめる際には、基本的に一時金で受け取ることが多いようです。

年金として分割で受け取る

2つ目の受け取り方は、分割払いで「年金」として受け取るというものです。毎月一定額を受け取る仕組みになっており、公的年金とあわせて老後資金にあてることができます。
会社員時代に毎月得ていた給与がなくなる定年退職後は、老後の資金計画を考えながら、年金方式で受け取るのも選択肢の1つです。

このほかに、一時金と年金を組み合わせて受け取る方法もあります。
退職直後にある程度まとまった金額を受け取り、さらに毎月少しずつお金を受け取るというものです。どの退職金制度を取り入れているかは、会社によって異なります。自分の会社の退職金制度が分からない方は、就業規則を確認するか、人事や総務に相談してみるとよいでしょう。

退職金にかかる税金は「所得税」「住民税」「復興特別所得税」

退職金にかかる税金は「所得税」「住民税」「復興特別所得税」

普段もらう給料にも税金がかかるように、退職金にも税金がかかります。退職金にかかるのは、所得税、住民税、復興特別所得税(2037年12月31日まで)です。それぞれ所得または所得税に一定の税率をかけて算出することができます。計算式は以下の通りです。

・所得税=所得×税率-控除額
・住民税=所得×税率(一律10%)
・復興特別所得税=所得税×2.1%

住民税、復興特別所得税の税率は、それぞれ10%、2.1%と定められていますが、所得税の税率は累進課税制度を取っているため、所得金額によって異なります(控除額も同様)。
2023年(令和5年)分の所得税の税額は、次のように定められています。

所得税の税率と控除額

課税対象所得金額 税率 控除額
1,000~194万9,000円 5% 0円
195万~329万9,000円 10% 9万7,500円
330万~694万9,000円 20% 42万7,500円
695万~899万9,000円 23% 63万6,000円
900万~1,799万9,000円 33% 153万6,000円
1,800万~3,999万9,000円 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

先の計算式とこの表を使って、退職金にかかる税金を算出するには、まず所得を計算しなければなりません。
この所得の計算方法が一時金で受け取る退職金と年金で受け取る退職金では異なります。

【参考】国税庁「退職金と税」 詳しくはこちら
【参考】地方財政審議会「市町村税課における所管事項について」 詳しくはこちら

一時金として受け取る退職金は「退職所得」として計算

一時金として受け取る退職金は「退職所得」として計算

一時金の場合は、所得が「退職所得」として扱われ「退職所得控除」が適用されます。退職所得の計算方法と退職所得控除の規定は、以下の通りです。

■所得の計算方法
(退職金-退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額の規定

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

※勤続年数の端数は1日であっても1年とカウントする
※控除額が80万円未満の場合、80万円が控除額となる
※障害が原因で退職となった場合、上記で算出した金額に100万円を加算する

退職所得にかかる税金の計算方法

では、勤続年数43年(22歳で入社し65歳の定年退社を想定)、退職金2,694万円という設定で、実際にかかる税金を計算してみましょう。


・退職所得控除額
=800万円+70万円×(43年-20年)=2,410万円

・所得
(退職金-退職所得控除額)×1/2
=(2,694万円-2,410万円)×1/2=142万円

・所得税
所得×税率-控除額
=142万円×5%-0円=7万1,000円

・住民税
所得×税率(一律10%)
=142万円×10%=14万2,000円

・復興特別所得税
所得税×2.1%
=7万1,000円×2.1%=1,491円
※1,000円以下切り捨て

【参考】国税庁「退職金と税」 詳しくはこちら
【参考】政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」13- 1(大学卒、事務・技術労働者、総合職相当、会社都合) 詳しくはこちら

退職金を一括で受け取る「退職一時金」のメリットとデメリット

退職金を一時金として受け取る場合のメリットは、退職所得控除による税金制上有利になる点です。
累進課税である所得税法上、所得が多いほど高い所得税が課せられます。
しかし退職金を一時金で受け取る場合は、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引くことが出来るため、税負担が少なくなります。

一方でデメリットは、退職金を一時金として受け取らず、金融機関側が運用して年金形式で受け取る「退職年金」に比べて受取総額が少なくなることです。金融機関に頼らず、受け取った退職一時金を自分で運用したがうまくいかず、結果的に退職金総額が減ってしまうという可能性もあります。

また、一度に大きな金額を手にすることで不安や戸惑いを感じたり、気持ちが大きくなり使い過ぎてしまうことも考えられます。

年金として受け取る退職金は「雑所得」として計算

年金として受け取る退職金は「雑所得」として計算

退職金を年金として受け取る場合は、公的年金と同様に「雑所得」の扱いとなり、公的年金などとあわせて計算され「公的年金等控除」が適用されます。雑所得の計算方法と公的年金等控除の規定は以下の通りです。

所得の計算方法
(a)収入金額の合計額×(b)割合-(c)公的年金等控除額

■公的年金等控除額の規定(65歳未満・公的年金等以外の合計所得金額が1,000万円以下)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
60万円以下 (所得0円とみなす)
60万円~130万円未満 100% 60万円
130万円~410万円未満 75% 27万5,000円
410万円~770万円未満 85% 68万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 145万5,000円
1,000万円以上 100% 195万5,000円

■公的年金等控除額の規定(65歳以上・公的年金等以外の合計所得金額が1,000万円以下)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
110万円以下 (所得0円とみなす)
110万円~330万円未満 100% 110万円
330万円~410万円未満 75% 27万5,000円
410万円~770万円未満 85% 68万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 145万5,000円
1,000万円以上 100% 195万5,000円

■公的年金等控除額の規定(65歳未満・公的年金等以外の合計所得金額が2,000万円以下)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
50万円以下 (所得0円とみなす)
50万円~130万円未満 100% 50万円
130万円~410万円未満 75% 17万5,000円
410万円~770万円未満 85% 58万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 135万5,000円
1,000万円以上 100% 185万5,000円

■公的年金等控除額の規定(65歳以上・公的年金等以外の合計所得金額が2,000万円以下)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
100万円以下 (所得0円とみなす)
100万円~330万円未満 100% 100万円
330万円~410万円未満 75% 17万5,000円
410万円~770万円未満 85% 58万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 135万5,000円
1,000万円以上 100% 185万5,000円

■公的年金等控除額の規定(65歳未満・公的年金等以外の合計所得金額が2,000万円超)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
40万円以下 (所得0円とみなす)
60万円~130万円未満 100% 40万円
130万円~410万円未満 75% 7万5,000円
410万円~770万円未満 85% 48万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 125万5,000円
1,000万円以上 100% 175万5,000円

■公的年金等控除額の規定(65歳以上・公的年金等以外の合計所得金額が2,000万円超)

(a)収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金等控除額
90万円以下 (所得0円とみなす)
90万円~330万円未満 100% 90万円
330万円~410万円未満 75% 7万5,000円
410万円~770万円未満 85% 48万5,000円
770万円~1,000万円未満 95% 125万5,000円
1,000万円以上 100% 175万5,000円

雑所得にかかる税金の計算方法

公的年金による所得と、不動産所得、給与所得、その他雑所得などを合わせた合計が所得として扱われます。所得税・住民税・復興特別所得税の計算方法は、先ほどと同じです。

【参考】国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」 詳しくはこちら

退職金を年金で受け取る「退職年金」のメリットとデメリット

退職金を年金としてもらう場合のメリットは、受取総額が一時金よりも多くなる可能性があることです。
受け取り前の退職金を金融機関側が運用することで運用益が上乗せされ、一時金よりも受取総額が増えることになります。受け取り期間が長いほど運用期間が長くなるため、受取総額が増える可能性は高くなります。

また、年金の場合は定期的に収入があるため、特に公的年金の受給までの間は安心感を得ることができるでしょう。一時金のように気持ちが大きくなり、使い過ぎてしまうリスクも少なくなります。

一方でデメリットは、税金面での負担が大きくなる可能性があることです。
退職年金で受け取る場合は優遇措置がなく、年金額に応じた公的年金等控除の対象となり、雑所得として毎年課税されます。
ほかの収入の状況によっては、国民健康保険や介護保険等の保険料の負担や自己負担割合が大きくなる可能性があります。

退職金のお得な受け取り方とは

退職金のお得な受け取り方とは

退職金にかかる税金の計算方法から、2つの受け取り方のうち、どちらがお得といえるのか、解説します。

控除のみを考えると一時金の方がお得といえる

一時金は、非課税枠である退職所得控除が大きく、さらに所得を計算する際に半分となります。そのため、控除のみを考えれば一時金の方が手取り額が多くなり、年金よりお得といえます。具体的な控除額は、先に示した表にあてはめて確認してみてください。

実際のお得な受け取り方は人それぞれ

退職金のお得な受け取り方とは

しかし、必ずしも一時金で受け取る方法がお得とはいえません。
退職年金の場合、受け取り前の退職金の運用結果によっては受取総額が大きく増える可能性もあります。また企業によっては一時金と年金を併用しているケースもあるので、受け取り方が必ず2パターンになるわけではありません。

さらに、お得かどうかという観点だけで退職金の受け取り方を検討するのは不十分だともいえます。
なぜなら退職金は、退職後の生活に深く関係してくるからです。退職後すぐにまとまったお金が必要なら一時金、長く生活費のために使う予定なら年金など、退職金の使い道によっても最適な受け取り方が異なります。
退職金の受け取り方に困ったら、一度自分のこれからのライフプランと資産形成について考えてみるのがよいでしょう。

まとめ

退職金の受け取り方には、一時金として一括で受け取る方法と、年金として毎月受け取る2つの方法があります。
一般的には一時金として受け取った方がお得といえますが、場合によっては年金で受け取った方がよいこともあります。それぞれの控除額を計算してみたり、自身の将来の生活を想像してみたりして、適切な受け取り方法を選択出来るとよいでしょう。

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