年金の繰り下げ・繰り上げ制度とは?受給時期で異なる年金額の計算方法

一般的に65歳から受給できる老齢年金は、手続きをすれば60歳以降の任意の時期に受給開始を繰り下げ・繰り上げることができます。本記事では、年金の繰り下げ・繰り上げ受給制度の概要、メリットとデメリット、繰り下げ・繰り上げ受給の手続方法について解説しています。自分に最適な年金の受け取り時期を考えましょう。

年金の繰り下げ・繰り上げ制度とは?受給時期で異なる年金額の計算方法

年金の「繰り下げ」「繰り上げ」受給制度って?

年金の「繰り下げ」「繰り上げ」受給制度って?

一般的に年金は、65歳から受け取るものですが、希望すれば60歳から64歳の間の任意の時期に受給開始を変更できます。
これを年金受給の「繰り上げ」といいます。逆に、65歳になっても受け取らず、66歳以降に受け取りを開始することも可能で、こちらは年金受給の「繰り下げ」といいます。

どのタイミングで年金を受け取るのが最適なのかは、その人の働き方や資産状況等ライフスタイルによるところも大きいので一概にはいえません。まずは、年金の繰り下げ・繰り上げ受給制度のメリットとデメリットを把握して、自分のライフスタイルと照らし合わせて考えることが大事です。

年金の繰り下げによる増額率

年金の繰り下げによる増額率

年金を繰り下げ受給する場合は、1ヶ月繰り下げるごとに「0.7%」が増額されます。1年間に換算すると0.7×12で「8.4%」の増額です。

年金の繰り下げできる最高年齢は、誕生日が「1952年(昭和27年)4月2日」を境に変わり、この日付より前に生まれた方は70歳です。一方、この日付以降に生まれた方は75歳です。

例えば、65歳時の老齢基礎年金が「78万円(月額6万5,000円)」の方が4ヶ月、5年、10年繰り下げをした場合のそれぞれの受給額は以下の通りです。
・65歳4ヶ月に繰り下げ:年額80万1,840円、月額6万6,820円(増減率2.8%)
・70歳に繰り下げ:年額110万7,600円、月額9万2,300円(増額率42%)
・75歳に繰り下げ:年額143万5,200円、月額11万9,600円(増額率84%)

年金の繰り上げによる減額率

年金の繰り上げによる減額率

年金の繰り上げでは、1ヶ月繰り上げるごとに「0.4%」または「0.5%」が減額されます。0.1%の違いがあるのは、生まれた年によって減額率が変わるからです。
・1962年(昭和37年)4月2日以降:1ヶ月につき0.4%の減額
・1962年(昭和37年)4月1日以前:1ヶ月につき0.5%の減額

年金の繰り上げは最高で60歳までなので、減額率は「24%」または「30%」です。例えば、上記と同様に65歳時の老齢基礎年金が「78万円(月額6万5,000円)」の方が5年繰り上げした場合の受給額は以下の通りです。
・60歳に繰り上げ(月0.4%減額の方の場合):年額59万2,800円、月額4万9,400円
・60歳に繰り上げ(月0.5%減額の方の場合):年額54万6,000円、月額4万5,500円

繰り下げ・繰り上げ制度の対象年金

繰り下げ・繰り上げ制度の対象年金

繰り下げ・繰り上げ制度では、対象となる年金に若干の違いがあります。それぞれどのような違いがあるのかを解説します。

繰り下げ受給できる年金・できない年金

繰り下げできる年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金です。ただし、「特別支給の老齢厚生年金」は繰り下げできません。

また、老齢年金の受給が開始されなければ受け取ることができない加給年金や振替加算は増額対象にはなりません。単に加給年金・振替加算の受給開始を遅らせるだけになるので注意が必要です。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができ、申請時の増額率で計算されます。

繰り上げ受給できる年金・できない年金

繰り下げできる年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金(振替加算額や加給年金額を除く)です。繰り上げの申請には、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時におこなう必要があり、一度決まった年金額は一生変わりません。

特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢の特例に該当する方が、特別支給の老齢厚生年金の受給前に老齢基礎年金の繰り上げ請求をした場合は、老齢基礎年金の一部繰り上げとなり、計算が変わります。

年金の繰り下げ制度のメリット

年金の繰り下げ制度のメリット

年金の繰り下げ制度のメリットは、支給される年金が生涯増額されることです。上述した65歳時の老齢基礎年金が「78万円(月額6万5,000円)」の方の支給額をみると、70歳への繰り下げで「年額110万7,600円、月額9万2,300円」、75歳への繰り下げで「年額143万5,200円、月額11万9,600円」です。65歳での受給開始に比べると、それぞれ年額で「32万7,600円」と「65万5,200円」もの差があります。最高で月額「5万4,600円」となり、大きな違いです。

70歳で受給を開始した場合、65歳で開始した時と比較すると、81歳を超えた時点で、繰り下げ受給をした方が、受給総額が大きくなります。ただし、年金収入が増えたがゆえのマイナス面もあるので、しっかり把握しておきましょう。

年金の繰り下げ制度のデメリット

年金の繰り下げ制度のデメリット

年金の繰り下げ制度のデメリットとして、第一に考えられるのが、繰り下げ期間中に受給資格者が亡くなってしまった場合です。65歳から亡くなるまでに支給されるはずだった年金は、未支給年金として遺族が受け取れますが、繰り下げ期間は考慮されず、増額もされません。

繰り下げ受給を把握するうえで知っておきたいのが「加給年金」です。加給年金とは、厚生年金に20年以上加入している方が特定の条件を満たしている場合、加入者の配偶者や子供等の人数に応じて年金額が加算される制度のことです。

加給年金額は受給権者の生年月日に応じて変わります。昭和18年4月2日以降生まれの方の場合、特別加算額は16万5,100円です。配偶者の加給年金と合計すると、年額38万8,900円です(2023年2月現在)。

この金額は加入者の年金額に増額して支払われます。受給開始を繰り下げた場合、老齢年金を受け取っていない間は加給年金も受け取ることができません。
例えば、加入者の夫(昭和18年4月2日以降生まれ)が65歳で妻が60歳だった場合、夫が65歳で受給を開始すると妻が65歳になるまでの5年間、毎年39万円弱が加算されます。しかし、68歳に受給開始を繰り下げた場合は、その時点で63歳の妻が65歳になるまでの2年分しか支加算されません。70歳に繰り下げると夫が老齢年金を受給しはじめる頃には妻が65歳を迎えてしまい、加算額はゼロです。200万円近い金額を損失してしまうのと同じです。

受給できる年金額が増えれば、税金や社会保険料、医療費等の負担が重くなる場合もあります。年金収入が高くなるがゆえに起こる事態もしっかり把握しておきましょう。支給額や条件等は今後改正される可能性があるため、厚生労働省の最新情報を確認しておくことをおすすめします。

年金の繰り上げ制度のメリット

年金の繰り上げ制度のメリット

年金の繰り上げの最大のメリットは、年金をいち早く受け取れることです。就業状況や体の不調等、事情によって65歳まで働くのが厳しいケースでは、たとえ受給できる額が減ったとしても、収入を確保できるのは大きなメリットです。

無理をして65歳まで働こうとした結果、体を壊してしまっては元も子もありません。単純に受給できる金額にのみ着目するのでなく、現在の収入や健康状況と照らし合わせて、より長く健やかに老後を過ごせるかどうかに目を向けることも大切です。

年金の繰り上げ制度のデメリット

年金の繰り上げ制度のデメリット

年金の繰り上げ制度のデメリットは前述の通り、受給できる年金が減額されてしまうことです。減額率は、1ヶ月当たり0.4%または0.5%です。つまり0.5%の方が5年分早めた場合は、減額率は0.5%×60ヶ月(5年)で30%になります。
60歳で受給を開始した場合と65歳で開始した場合を比較すると、およそ76歳を超えた時点で、60歳で繰り上げ受給をした方の総支給額が65歳受給開始の方より少なくなる計算になります。

さらに必ず把握しておきたいのが、老齢年金以外の年金との兼ね合いです。例えば障害年金は、障害認定日の時点では障害等級に該当しなかったものの、その後症状が悪化して障害等級に該当するようになった場合、65歳前なら障害年金を請求できます(障害年金の事後重症請求)。しかし、老齢年金を繰り上げ受給していると請求できなくなってしまうので注意が必要です。

夫が老齢基礎年金を受け取る前に亡くなった場合、妻が60歳から65歳までの間に受給できる寡婦年金も、老齢年金の受給を繰り上げた場合は請求できなくなります。

繰り下げ・繰り上げの手続き方法

繰り下げ・繰り上げの手続き方法

年金の受給権が発生するのは、支給が開始される60歳に到達した日、すなわち誕生日の前日です。請求の手続きはこの日以降におこなう必要があります。手続きに必要な戸籍や住民票も、支給開始年齢の到達後に発行されたものでなければなりません。

年金の受給申請手続きは年金事務所でおこないます。必要な書類は下記の通りです。

・住民票や戸籍謄本
・年金振込先となる通帳
・世帯全員の住民票の写し
・配偶者、子の収入が証明できる書類
・その他年金を受給している場合は年金手帳や年金証書など

出典 

まとめ

一口に年金といっても、個人の置かれた状況によって受給の最適なタイミングは大きく異なります。年金の繰り上げ制度によって受給開始時期を早めることもできますし、繰り下げ制度によって受給開始時期を遅らせることもできます。

年金の繰り上げ制度や繰り下げ制度のメリット・デメリットを踏まえて、実際の受け取る年金額も計算してみてください。どの時期に受け取るのが最適なのか、自分だけでなく配偶者、子供の状況等も踏まえてよく考える必要があるでしょう。

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