公的年金等控除とは?計算方法や確定申告が必要な場合について解説

個人の所得にかかる所得税は、年金に対しても課せられます。「公的年金等控除」は、年金にかかる税負担を抑えるために設定されている控除です。この記事では、2020年度に改正されて以降の控除内容や計算方法、確定申告が必要な場合などについて解説していきます。その他の控除制度も含めて、税負担を軽減できる制度を活用しましょう。

公的年金等控除とは?計算方法や確定申告が必要な場合について解説

公的年金等控除とは?

公的年金等控除とは?

公的年金等控除とは、その名の通り公的年金に課せられる税金に対する控除のことです。公的年金の課税所得額は、受け取った年金額から公的年金等控除額を差し引いて計算します。会社員の給与に課せられる所得税の負担を軽減するための給与所得控除と同様に、公的年金等控除によって年金にかかる所得税を軽減できます。

公的年金等控除は受給者全員が対象です。これと併せて、配偶者控除や扶養控除など該当する各種控除が受けられます。

2020年度分から公的年金等控除の額が変更に

公的年金等控除の計算方法は、2020年度(令和2年度)分より変更されました。税制改正により所得税の基礎控除額が一律10万円引き上げられたと同時に、公的年金等控除は10万円引き下げられています。

また、高所得者層においては公的年金等控除額の限度額として195万5,000円の上限が設けられました。限度額が適用される高所得者層は、受給額が1,000万円以上の者と変更されています。こうした変更の背景には、従来の控除の仕組みで高所得者層ほど税負担が軽くなってしまっている実態を改善する意図が含まれています。

2020年度分からの公的年金等控除の計算方法

公的年金等控除額は、受給者の年齢と受け取る金額に応じて変わります。金額と計算方法は定められているため、受給者の年齢と受け取る金額を「公的年金等に係る雑所得の速算表」に当てはめると計算が可能です。

控除額には、上限額と下限額が設定されています。65歳未満で受給額130万円未満の場合は控除額が60万円、65歳以上で330万円未満だと110万円です。受給額が1,000万円を超える場合においては年齢に関係なく上限額の195万5,000円が設定されています。

受け取る年金額が330万円超〜1,000万円未満である場合の公的年金等控除額は「その年に受け取る金額×金額ごとの割合+金額ごとに定められた額」の計算式で算出できます。


※計算例:65歳以上で、年金を360万円受け取っている場合
公的年金等控除額=360万円×25%+27万5,000円=117万5,000円

【参考】日本年金機構「所得金額の計算方法(PDF)」詳しくはこちら

公的年金等控除を受ける際の注意点

公的年金等控除は年齢や受け取る額に応じて細かく分類され、計算式も異なります。確認する際には速算表から自分に当てはまる箇所を探して、自身の控除額がどのくらいになるかを計算してみましょう。また、配偶者控除など所得控除についても適用されるものがないか確認してください。

【年金生活者必見】確定申告をしなければいけない場合、またはした方がいい場合

【年金生活者必見】確定申告をしなければいけない場合、またはした方がいい場合

確定申告とは、一年間の所得とそれに課せられる税金を計算して国に報告する手続きのことです。会社員だと年末調整という形で会社がまとめて行うため、あまり馴染みがない人も多いかもしれません。ただ、老齢年金を受給している人の中で一定の条件に該当する人以外は申告しなければなりません。

一定の条件とは、以下のいずれにも該当する場合です。

1. 公的年金等すべてが源泉徴収の対象となる場合
2. 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下の場合
3. 公的年金等による収入が400万円以下の場合

受給額合計が400万円を超えるケースや年金以外の所得が20万円を超えるケースでは、確定申告をしなければなりません。

確定申告義務がない場合でも、確定申告をすることで控除が受けられ、税金が戻るというメリットがあります。年金収入においても、給与所得と同様に公的年金等控除以外の配偶者控除などさまざまな控除が受けられます。控除が適用になる場合には確定申告を行うと還付を受けられる可能性があるため、受けられる控除がないか確認して申告を行うのがおすすめです。

老齢年金のほかに給与を得ている場合には、金額に応じて確定申告を行う必要があります。年金受給額と給与額によって控除額が変わってくるため、正しい控除額を計算するためにも申告する必要があります。

医療費控除が受けられる場合

医療費控除を受けている場合は、還付金を受け取れる可能性があります。年間の医療費から保険金などで補てんされた金額を差し引いた額が10万円を超えている場合、所得合計額が200万円未満の際には合計額の5%を超える場合には、超えた金額が控除額となります。

医療費控除の対象になる金額は、病院代だけではありません。条件を満たせば、電車代やバス代といった通院時の交通費も含むことができます。また医療費控除を申告しない場合でも「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)」で申告し、一般の薬局で購入した薬代などを所得控除とすることが可能です。

生命保険料控除・地震保険料控除を受けられる場合

生命保険料控除は、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料などを支払った場合に受けられる控除です。合計で最大12万円までの控除が受けられます。
地震保険料や、2006年12月31日までに契約して2007年1月1日以降に変更していない長期損害保険料を支払った際には、地震保険料控除が受けられます。控除額は、地震保険料控除が最大5万円、旧長期損害保険料だけの場合には最大1万5,000円です。

社会保険料控除を受けられる場合

健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料などの社会保険料を支払った場合には、社会保険料控除として税金の控除が受けられます。社会保険料として支払った金額は、全額を控除できます。

寄付金控除を受けられる場合

寄付金控除は、国や地方公共団体、認定NPO法人、公益社団法人など、特定の団体に寄付をした際に受けられる控除です。地方公共団体への寄付に該当する「ふるさと納税」も寄付金控除の対象になります。寄付した額の合計額もしくは総所得額の40%どちらか低い金額から2,000円を差し引いた金額が控除されます。

確定申告の方法や期限

確定申告の方法や期限

確定申告は、例年およそ2月16日から3月15日までの期間に行われます。2020年(令和2年)には新型コロナウイルスの影響で期日が1ヶ月延長されました。今後も情勢によって日程が変更される可能性もあるため、随時チェックしておきましょう。

確定申告は郵送や最寄りの確定申告会場に行って手続きをします。また、国税庁のWebサイト「確定申告書作成コーナー/e-Tax(国税電子申告・納税システム)」では申告書の作成や送信が可能です。郵送やインターネットで書類を提出する場合は、会場へ出向かなくても自宅で申告が完結します。

【参考】国税庁「確定申告書等作成コーナー」詳しくはこちら

老後の年金には税金がかかる?

老後の年金には税金がかかる?

国が取り扱っている公的年金のうち、老後にもらえるものを老齢年金といいます。この老齢年金は雑所得という扱いになるため、所得税が課せられます。国民年金、厚生年金、共済組合による年金、過去に勤務した会社から支払われる年金など、老後受け取れるあらゆる年金が課税の対象です。
一方、同じ公的年金でも、遺族年金や障害年金は課税対象ではありません。また、老齢年金も一年間の受給額が65歳未満で108万円未満、65歳以上で158万円未満だった場合は非課税です。

公的年金にかかる税金とは?

ここでまず、用語の意味を把握しておきましょう。「所得」というのは収入から必要経費や各種控除を差し引いた額で、この額に所得税が課せられます。後述する速算表は年金(収入)から各種控除などを計算して、最終的に課税される雑所得がいくらなのかを求める表となります。
それでは具体的にどのように計算するのか、速算表を確認してみましょう。公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合(令和2年分以後)を抜粋します。
「公的年金等に係る雑所得」は、いわゆる老齢年金のことです。「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とはそれ以外の所得、例えば、給与所得や原稿料や個人年金などの雑所得、株や資産運用などの配当所得、保険金の満期額などの一時所得などが挙げられます。

■(65歳未満の方)公的年金等に係る雑所得の速算表1

(a)公的年金等の収入金額の合計額 (b)割合 (c)控除額
600,001円から1,299,999円まで 100% 600,000円
1,300,000円から4,099,999円まで 75% 275,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 685,000円
7,700,000円から9,999,999円まで 95% 1,455,000円
10,000,000円以上 100% 1,955,000円

※合計所得金額1,000万円以下の場合
※公的年金等の収入金額の合計額が600,000円までの場合は、所得金額はゼロ

■(65歳以上の方)公的年金等に係る雑所得の速算表2

(a)公的年金等の収入金額の合計額 (b)割合 (c)控除額
1,100,001円から3,299,999円まで 100% 1,100,000円
3,300,000円から4,099,999円まで 75% 275,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 685,000円
7,700,000円から9,999,999円まで 95% 1,455,000円
10,000,000円以上 100% 1,955,000円

※合計所得金額1,000万円以下の場合
※公的年金等の収入金額の合計額が1,100,000円までの場合は、所得金額はゼロ
【参考】国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」詳しくはこちら

例えば、「65歳以上で、給与所得が400万円、年金受給額が350万円」の場合、(a)は350万、(b)は75%、(c)は27万5千円です。つまり、この人の年金に係る雑所得は、次のようになります。

3,500,000円 × 75% - 275,000円 = 2,350,000円

年金(収入)自体は350万円ですが、この表に従って控除を受けた結果、実際に課税される金額(所得)は235万円です。この額と給与所得の金額の合計額から所得控除額(基礎控除額48万円)を差し引き、所得税率(20%)をかけ、控除額の427,500円を引いた金額が納税額です。

[(2,350,000円+4,000,000円)- 480,000円(基礎控除のみと仮定)]×20%(所得税率)- 427,500円(所得税控除)
=746,500円

以上のことから、この場合は約75万円の税金を納めるということになります。

【参考】国税庁「No.2260 所得税の税率」詳しくはこちら

税金は年金から天引きされる?

年金に課せられる税金は、給与から差し引かれていたように、源泉徴収という形で実際に受け取る分から天引きされます。そのため、年金受給者自らが納める必要はありません。

まとめ

公的年金には控除が存在し、所得税の負担を軽減することができます。老齢年金にも税金が課せられる以上、その控除額がいくらなのかは把握しておきたいところ。

また、自分が申告を行う必要があるのかどうか、行う必要がなくても還付金を受け取れるかどうかの確認も重要なポイントです。老後の資金を少しでも減らさないよう、改めてチェックしておきましょう。

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