2020年度分から変わった!公的年金控除とは?
老後に受け取れる老齢年金にも、実は所得税という形で税金が課せられています。そして、この税負担を軽くするための「公的年金控除」という制度が存在します。2020年度に改正されたこの公的年金控除制度について、具体的な計算式や確定申告の有無なども併せて確認していきましょう。

老後の年金には税金がかかる?

国が取り扱っている公的年金のうち、老後にもらえるものを老齢年金といいます。この老齢年金は雑所得という扱いになるため、所得税が課せられます。国民年金、厚生年金、共済組合による年金、過去に勤務した会社から支払われる年金など、老後受け取れるあらゆる年金が課税の対象です。
一方、同じ公的年金でも、遺族年金や障害年金は課税対象ではありません。また、老齢年金も一年間の受給額が65歳未満で108万円未満、65歳以上で158万円未満だった場合は非課税です。
公的年金にかかる税金とは?

ここでまず、用語の意味を把握しておきましょう。「所得」というのは収入から必要経費や各種控除を差し引いた額で、この額に所得税が課せられます。下記する速算表は年金(収入)から各種控除などを計算して、最終的に課税される雑所得がいくらなのかを求める表となります。
それでは具体的にどのように計算するのか、速算表を確認してみましょう。公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合(令和2年分以後)を抜粋します。
「公的年金等に係る雑所得」は、いわゆる老齢年金のことです。「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とはそれ以外の所得、例えば、給与所得や原稿料や個人年金などの雑所得、株や資産運用などの配当所得、保険金の満期額などの一時所得などが挙げられます。
■(65歳未満の方)公的年金等に係る雑所得の速算表1
(a)公的年金等の収入金額の合計額 | (b)割合 | (c)控除額 |
---|---|---|
600,001円から1,299,999円まで | 100% | 600,000円 |
1,300,000円から4,099,999円まで | 75% | 275,000円 |
4,100,000円から7,699,999円まで | 85% | 685,000円 |
7,700,000円から9,999,999円まで | 95% | 1,455,000円 |
10,000,000円以上 | 100% | 1,955,000円 |
※合計所得金額1,000万円以下の場合
※公的年金等の収入金額の合計額が600,000円までの場合は、所得金額はゼロ。
■(65歳以上の方)公的年金等に係る雑所得の速算表2
(a)公的年金等の収入金額の合計額 | (b)割合 | (c)控除額 |
---|---|---|
1,100,001円から3,299,999円まで | 100% | 1,100,000円 |
3,300,000円から4,099,999円まで | 75% | 275,000円 |
4,100,000円から7,699,999円まで | 85% | 685,000円 |
7,700,000円から9,999,999円まで | 95% | 1,455,000円 |
10,000,000円以上 | 100% | 1,955,000円 |
※合計所得金額1,000万円以下の場合
※公的年金等の収入金額の合計額が1,100,000円までの場合は、所得金額はゼロ。
【参考】国税庁:「No.1600 公的年金等の課税関係」詳しくはこちら
例えば、「65歳以上で、給与所得が400万円、年金受給額が350万円」の場合、(a)は350万、(b)は75%、(c)は275万円です。つまり、この人の年金に係る雑所得は、次のようになります。
3,500,000円 × 75% - 275,000円 = 2,350,000円
年金(収入)自体は350万円ですが、この表に従って控除を受けた結果、実際に課税される金額(所得)は235万円です。この額に税率5.105%をかけたものが納める税金額です。
2,350,000円 × 5.105% = 119,967円
以上のことから、この場合は年間約12万円の税金が年金から差し引かれているということになります。
税金は年金から天引きされる?
それでは年金に課せられる税金は、どのようにして納めればよいのでしょうか。実はこの税金は、給与から差し引かれていたように、源泉徴収という形で実際に受け取る分から天引きされます。そのため、年金受給者自らが納める必要はありません。
公的年金控除とは?

公的年金控除とは、その名の通り年金に課せられる税金に対する控除のことです。この控除は受給者が一律に対象となる控除です。これにあわせてさらに配偶者控除や扶養控除など、各種控除を受けられます。
2020年度分より公的年金等控除の額が変更に
公的年金控除の計算表は、2020年度(令和2年度)分より変更されました。主な変更内容としては、基礎控除額が一律10万円引き上げられたことにともない、公的年金控除は10万円引き下げられています。また、高所得者層においては限度額が設けられ、限度額が適用される所得は1,000万円超に変更されました。こうした変更の背景には、従来の控除では高所得者層ほど税負担が軽くなっていたという実態を是正するという意図が含まれています。
上記の件も含め、税金周りの制度は以前と変更になっている部分も多く、中には情報がアップデートされていないWebサイトがあるかもしれません。調べる際は、きちんと最新の情報に対応したものになっているか、更新日付などをチェックして十分に注意しましょう。
控除を受ける際の注意点
公的年金控除以外にも、配偶者控除など様々な控除を合わせて適用できます。きちんと適用されているか確認しましょう。また、老齢年金の他に給与を得ている場合は、確定申告を行う必要があるかもしれません。年金受給額と給与額によって控除額は変わってくるため、こちらもあわせて確認しておきましょう。
【年金生活者必見】確定申告は必要なの?

確定申告とは、一年間の所得とそれに課せられる税金を計算して国に報告する手続きのことです。会社員だと年末調整という形で会社がまとめて行うため、あまり馴染みがないという人も多いかもしれません。ただ、老齢年金を受給している人の中には申告しなければならないケースもあります。その基準がどうなっているのかを確認していきましょう。
確定申告しないと損をすることも!
確定申告の対象外だった人でも、医療費控除など各種控除を受けている場合は還付金を受け取れる可能性があります。申告する必要がなくても、申告を行うことで還付金を受け取れることがあるということを覚えておきましょう。特に、年間の医療費が10万円を超えている場合は要チェックです。
医療控除について詳しくは、【最新版】賢く使えば節税にもなる「医療費控除」とは?の記事もチェック
ただし、確定申告不要制度が定めている条件に該当すれば、確定申告の必要はなく、公的年金等による収入が400万円以下で一定の要件を満たす場合にも、確定申告をする必要はありません。
一定の条件とは、以下のいずれにも該当する場合です。
1. 公的年金等すべてが源泉徴収の対象となる場合
2. 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下の場合
確定申告はどうすればいいの?
確定申告は、例年およそ2月16日から3月15日までの期間に行われます。2020年(令和2年)は新型コロナウイルスの影響で期日が1ヶ月延長されました。今後も情勢に合わせて日程が変更される可能性もあるので、随時チェックしておきましょう。
確定申告は郵送や最寄りの確定申告会場に行って手続きをします。また、インターネット申告にも対応しているため、自宅でも行えます。
まとめ

老齢年金にも税金が課せられる以上、その控除額がいくらなのかは把握しておきたいところ。また、自分が申告を行う必要があるのかどうか、行く必要がなくでも還付金を受け取れるかどうかの確認も重要なポイントです。老後の資金を少しでも減らさないよう、改めてチェックしておきましょう。
ご留意事項
- 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
- 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
- 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
- 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
- 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。