延納?物納?相続税が払えない時の解決策を理解してペナルティを回避
相続税が高額で払えないときの解決方法に、延納や物納、相続放棄といった解決方法があります。どのような場合に相続税が払えないのかを踏まえて、解決方法や注意点を解説します。相続税が払えなかった場合、課税のペナルティを受けるので注意しましょう。

そもそも相続税が払えないケースとは

相続税が払えないケースでも多いのが、遺産分割が絡む場合と手元に動かせる現金がない場合です。以下のケースに当てはまるようであれば、弁護士や税理士、信託銀行などの金融機関に相談することをおすすめします。
遺産分割が進まないケース
まず、遺産分割協議がまとまらないケースが挙げられます。相続人が複数いる場合、相続税は各相続人が相続した財産価額の割合で納付します。相続税の納付期限は、相続があったことを知った日(基本的には死亡日)の翌日から10ヶ月と、あまり長くありません。この間に遺産分割協議がまとまらなければ納めるべき相続税の金額がわからず、支払えません。
また、遺産分割が済むまでは預金口座が凍結され、故人の預貯金を引き出せないという問題もあります。誰が相続するのかが決まらなければ、金融機関としても払い戻しができないためです。もっとも、相続法の改正により、遺産分割協議書がなくても金融機関ごとに一定額までは預貯金が引き出せる「仮払い制度」が2019年7月1日から創設されました。そのため、相続人たちは出金したお金で葬儀費用を出したり生活費を補ったりできるようになりました。

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支払うための現金がないケース
次に、支払うための現金が手元になく、相続財産の換金も難しいケースが挙げられます。
相続した財産が高額であればあるほど相続税も高くなるため、評価額の高い不動産を相続する場合には、納税額は多くなります。しかし、遺産の多くを不動産が占めている場合、手元に十分な現金がなく、不動産の換金にも時間がかかるため、相続税が払うことが難しいでしょう。

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相続税が払えない場合の対応方法

原則的として相続税は現金で一括納付をしなければなりません。価値が高い財産を相続した場合には高額な相続税が課され、払えなくなる恐れがあります。万が一相続税が払えないときの対応方法について紹介します。
相続財産を売却して現金化する
相続財産が資産価値の高い土地や建物、美術品であるケースでは、相続財産を売却して現金化して作ったお金で相続税の納付が可能です。ただしこの方法を行うには、遺産分割協議が終わって相続人それぞれの相続分が確定していなければなりません。
また土地や建物は、相続人に名義変更しないと売却してお金に変えられません。名義変更の手続きは、住所を管轄する法務局で戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、遺言書などの書類を提出して行うため、時間がかかります。
相続人の名義に変えてから不動産を売却すると、売却による所得が生じます。そこで所得税や住民税の納付も必要になるケースがあります。相続した不動産の売却には譲渡所得税などの軽減が可能な特例が使えるケースもありますが、申告期限までに売却を完了させなければならないなどの制約もあります。
相続財産を売るときには、期限までに希望する価格で売却できるか、売却後にどのような税金が生じるのかなども考慮しなければなりません。具体的な要件や手続きは、金融機関や税理士に確認してみるといいでしょう。

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金融機関から納税資金を借り入れる
不動産などの現金化が難しい場合には、金融機関からお金を借り入れる方法もあります。土地や建物などを急いで売却するには価格を下げなくてはいけない場合があります。売却に関する手続きなどにも時間がかかるため、無理をして不動産などの売却をしたくないときには、金融機関からお金を借り入れて相続税の納付を先に行うことも可能です。
金融機関からお金を借り入れるときには、原則として担保が必要です。相続した不動産を担保にすることが可能ですが、その際にも不動産は名義変更の手続きが済んでいることが前提です。
借入れには利息がかかりますが、相続税が完納できなかったときの延滞税よりも低い利率で借りられるケースが多いため、どちらが費用を抑えられるか、利息を計算して比較検討してから最適な方法を選ぶのがおすすめです。借入れには条件があり、金融機関によって借入れ可能な基準も異なるため、借入れが可能かについても事前に確認しておきましょう。

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延納で分割払いする

相続税を一括で納付するのが難しいときは、延納で分割払いするという選択肢もあります。延納は、一定の要件を満たしている場合に相続税の分割払いが認められる制度です。要件として「相続税額が10万円を超えている」「現金一括での納付が困難な金額である」「延納税額・利子税額相当の担保を提供する」「申告期限までに『延納申請書』と担保提供関係書類を提出する」の四つに該当する必要があります。
原則として延納可能な期間は5年以内ですが、相続財産に含まれる不動産などが50%以上あるケースでは、その割合に応じて10年から20年(特定の森林については40年)までの期間が認められることもあります。
延納となる場合には「担保提供関係書類」などを提出して手続きを行う必要があり、延納利子税が発生します。延納利子税は相続財産に含まれる不動産などの割合によって利率が異なり、原則は年利1.2%~6.0%です。ただし、その年度によって特例割合が設定されるケースがあり、適用されると1%未満の低い利率となる可能性があります。
【最終手段】相続を放棄する

相続税は相続によって財産の取得があった場合に課される税金なので、相続放棄をすればそもそも相続税を支払う必要がなくなります。また、相続する財産は必ずしもプラスのものとは限らず、借金やローンなどマイナスの財産も含まれます。相続放棄をすることで、そうしたマイナスの財産も引き継がなくて済みます。
もっとも、相続放棄は相続に関する一切の権利義務の放棄を意味するため、土地建物や現金といったプラスの財産だけを都合よく引き継ぐことはできません。遺産の内容や税金などの出費を踏まえ、本当に相続放棄が適切なのかをよく検討すべきです。

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注意!相続税申告のペナルティ

相続税の納付が申告期限までにできなかった場合、ペナルティとして無申告加算税や延滞税が課税されてしまいます。さらに申告額が少なかった場合には過少申告加算税、税額を偽った場合には重加算税が課税されるため、適切な時期に正しく申告しなければなりません。
無申告加算税
災害、交通・通信の途絶などの正当な理由がなく、相続税の申告を期限内に行わなかった場合に課税されるのが「無申告加算税」です。相続人間のトラブルや遺産分割協議が終了していないなどは、正当な理由に該当しません。期限が過ぎてから申告した場合には、追加納付した税金の5%が無申告加算税として加算されます。ただし、過去に無申告などがなく、期限から1ヶ月以内に自主的に申告したときには、無申告加算税は免除されます。
無申告加算税が課されないためには、早めに手続きを行うことが大切です。税務調査の事前通知を受けたあとや税務調査を受けたあとに申告をすると、税率が15%~20%に上がり、さらに高額の無申告加算税を支払わなければならない可能性があります。
延滞税
相続税を期限後に納めた場合、納付が遅れた日数にあわせて利息に相当する額を支払わなければなりません。これが「延滞税」です。延滞税の税率は、納付期限の翌日から2ヶ月までが「年7.3%」もしくは「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合、2ヶ月を超えた日以降は「年14.6%」もしくは「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合です。特例基準割合は毎年改定されているため、近年は延滞税率が毎年変化しています。なお、令和4年1月1日~12月31日の延滞税率は、納付期限の翌日から2ヶ月までが「年2.4%」、2ヶ月を超えた日以降は「年8.7%」、令和3年1月1日~12月31日の延滞税率は、納付期限の翌日から2ヶ月までが「年2.5%」、2ヶ月を超えた日以降は「年8.8%」です。
過少申告加算税
「過少申告加算税」とは、申告した相続税の金額が不足していた場合に課税される税です。税額を誤って過少に申告した場合、税務署からの事前通知が届く前に自主的に修正申告を行えば過少申告加算税は課されません。
しかし、税務署からの事前通知により指摘を受けて修正申告した場合には、追加の税金を納めるときに過少申告加算税が課税されます。
過少申告加算税の税率は、追加で納付した税額の10%です。また、追加納付した税金が50万円を超えているケースでは、50万円を超えた金額に15%の税率をかけて加算税額を計算します。このほか延滞税も課せられるため、正しく申告を行い、速やかに相続税を納付することが重要です。
重加算税
「相続税が課税される財産を隠していた」「事実とは異なる金額で申告した」など、相続税の税額を減らすため故意に虚偽の申告を行った場合、もしくは申告自体を行っていない場合は、悪質であるとみなされ「重加算税」が課せられます。
最も税率の高いペナルティが重加算税であり、申告したものの、申告書の内容に隠蔽や偽装が見受けられる場合は追加で納付した金額の35%が課せられます。また、申告自体を行っていない場合においては、税率が40%にもなります。重加算税は「意図的に」虚偽の申告した場合や無申告だったときに課せられるため、例えば遺産分割が進まず納付が遅れたというような理由がある場合においては該当せず、無申告課税の対象となることが多いです。
まとめ
相続財産のなかに現預金が少ない、また高額な不動産が含まれているなど相続税が支払えない場合でもさまざまな方法で対応することが可能です。相続税の納付が難しいからと無申告のまま放置したり、意図的に虚偽の申告を行ったりすればペナルティが発生することも考えられます。自分だけでは対応できない場合には、専門家へ相談してみるのもおすすめです。納付期限に間に合わせるため、早めに対応策を検討しましょう。
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