生前贈与にかかる費用はどのくらい?不動産の贈与に課される税金とは?

相続税の負担を軽減させることができる「生前贈与」には、さまざまな手続きや費用が発生します。特に不動産を取得した際の税金や生前贈与で起こりがちなトラブルには注意しましょう。生前贈与に加え、相続税の負担を軽減できる方法も紹介しているので、参考にしてみてください。

生前贈与にかかる費用はどのくらい?不動産の贈与に課される税金とは?

そもそも、生前贈与とは?どんなメリットがあるの?

そもそも、生前贈与とは?どんなメリットがあるの?

生前贈与とは、生存している間に自分の財産を他者に無償で贈与することです。生前贈与には、主に次のようなメリットがあります。

相続税の課税対象となる財産を減らすことができる

生前贈与を行い、自分名義の財産を減らすことによって相続税の課税対象となる財産を減らせます。例えば、5,000万円の財産を持ったまま亡くなった場合、5,000万円が課税対象(控除を除く)となりますが、生前に2,000万円を贈与しておけば課税対象は3,000万円となり、相続人の負担を減らすことができるでしょう。

自由に財産を贈与できる

生前贈与では贈与する相手に制限がないため、自分が望む相手に財産を贈与できます。民法が定める「法定相続」を行う場合、財産を相続できる人が決められており、遺言状を作成しない限りは自分で相続人を選ぶことができません。例えば、配偶者と子供がいる場合、配偶者と子供が法定相続人となるため、本人が財産の一部を兄弟に相続させたくても、兄弟を相続人にすることは不可能です。こうした点から、生前贈与を活用することで本人の意思が反映しやすくなります。

基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからない

財産の贈与を受けた側(受贈者)には贈与税がかかりますが、贈与税には基礎控除(110万円/年)が設けられているので、年間110万円以下の贈与については課税されません。例えば、年に100万円ずつ、20年間にわたって贈与を受け続けた場合、受贈者は贈与税を支払うことなく計2,000万円の贈与を受けられることになります。

生前贈与を受けるには?

生前贈与を受けるには?

原則、生前贈与には法定の手続きなどは存在しません。そのため、特に契約などを交わさずとも贈与者と受贈者の合意があれば、いつでも生前贈与をすることができます。ただし、土地や不動産、多額の現金などを生前贈与する場合は、後々のトラブルを避けるためにも、契約書を交わして贈与の事実を記録しておくほうがよいでしょう。

なお、生前贈与の受贈者となって何らかの財産の贈与を受ける際は、受け取り方を以下2つの方法から選べます。

暦年課税で受け取る

1月1日~12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合、110万円を超えた額に対して贈与税が課されます。現行制度では被相続人の相続開始前3年以内に行った贈与財産は、相続財産に加算したうえで相続税の課税対象となりました。しかし、令和5年の税制改正によって2024年1月からは以下の点が変更となっています。

・加算期間が3年から7年に延長
・延長した4年間に受けた贈与については総額100万円まで相続財産に加算しない

出典 

相続時精算課税で受け取る

18歳以上(2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の子や孫が、60歳以上の親や祖父母から生前贈与を受ける場合、相続時精算課税制度を選ぶことができます。相続時精算課税制度を選ぶと、贈与財産の合計が2,500万円に達するまでは贈与税がかかりません。なお、2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税が課税されます。

また、令和5年の税制改正によって、2024年1月から特別控除の2,500万円とは別に年間110万円までの基礎控除が認められることになりました。よって、110万円に満たない金額の贈与であれば以下の恩恵を受けられます。

・贈与税が課税されない
・贈与税の申告が不要
・相続税が課税されない

出典 

なお、この制度を選択する場合、贈与を受けた年の翌年3月15日までに税務署に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。この申告を行わない場合は、自動的に暦年課税を選択したものとみなされ、110万円を超える贈与について贈与税が課税されてしまうので、注意しましょう。

今回の改正によって、年間110万円の基礎控除を超える部分は期間に関係なく相続財産に加算されることになった一方、どこからが基礎控除の範囲で、どこからが相続税の対象になるのかを把握するのが困難になったともいえます。相続が発生した際、相続財産の計上で混乱しなくて済むよう、きちんと記録しておくことが大切です。

また、いったん相続時精算課税の申告をすると、暦年課税に戻すことができません。十分に考えたうえで申請するようにしましょう。

生前贈与にかかる費用とは?

生前贈与にかかる費用とは?

次に、生前贈与にかかる費用についてみていきましょう。原則として生前贈与を行うにあたって贈与者と受贈者の間に特別な手続きは必要なく、それに伴う事務的な費用も発生しません。したがって、生前贈与にかかる費用は、受贈者に課される以下の税金と、納税手続きを専門家に頼んだ場合の費用のみと考えておけばよいでしょう。

1.贈与税

1年間に110万円を超える贈与を受けた場合は、超えた分について贈与税が課税されます。贈与税の税率は「一般贈与財産」と「特例贈与財産」とに区分されており、特例贈与財産の方が一般贈与財産よりも税率が低く、控除額も多く設定されています。

① 一般贈与財産の税率(一般税率)
例えば、兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が18歳未満(2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳未満)の場合などに適用されます。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【参考】国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」 詳しくはこちら

<計算例>贈与額が500万円の場合
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税の計算 390万円✕20%-10万円=53万円

② 特例贈与財産の税率(特例税率)
直系尊属(祖父母や父母など)から、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与に適用されます。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

【参考】国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」 詳しくはこちら

<計算例>贈与額が500万円の場合
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税の計算 390万円✕15%-10万円=48万5,000円

なお、相続時精算課税の場合は税制改正に伴い、2024年1月から次のように計算式が異なります。

・現行:(贈与額-2,500万円)×20%
・改正後:((贈与額-年間110万円)-2,500万円)×20%

出典 

上記の計算式における2,500万円の特別控除について、前年以前にすでに特別控除を利用している場合、2,500万円からすでに利用した特別控除額を控除した金額となるので注意しましょう。

2.不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した者に対して、その不動産が所在する都道府県が課す税金です。生前贈与によって土地や家屋などの不動産を贈与された受贈者も、当然、不動産取得税を収めなくてはなりません。
不動産取得税の税率は、土地・建物ともに原則4%ですが、2021年3月31日までは、土地及び住宅取得にかかる税率が3%に軽減されています(住宅以外の建物は4%のまま)。

また、同じく2021年3月31日までは「宅地の課税標準の特例」が適用されており、同日までに宅地を取得した場合は、その評価額の2分の1を不動産所得税の標準額とすることができます。
したがって、2021年3月31日までに、例えば評価額3,000万円の宅地を取得した場合の不動産取得税は、
(3,000万円÷2)✕0.03=45万円となります。

3.登録免許税

生前贈与で不動産を贈与された場合、その不動産の名義変更(贈与者から受贈者)を行う必要があります。不動産の名義変更を行う際に受贈者が国に納めなくてはならないのが登録免許税で、生前贈与による登録免許税はその不動産の固定資産評価額の2%です。
例えば、贈与された不動産の固定資産評価額が5,000万円の場合、登録免許税は5,000万円✕0.02=100万円になります。

4.専門家への支払いにかかる費用

不動産登記や不動産取得税の申告は手続きが煩雑で、慣れていない人には難しいものです。手続きに時間と労力がかけられない人は、司法書士や税理士など専門家に依頼するとよいでしょう。費用は専門家によって異なりますが、概ね5万円~10万円でサービスを提供しているケースが多いです。

生前贈与のデメリットや起こりがちなトラブルは?

生前贈与のデメリットや起こりがちなトラブルは?

工夫次第では相続税の節税に有効な生前贈与ですが、次のようなデメリットもあります。

死亡前の一定期間に行われた贈与は、相続税の対象になる

令和5年までの贈与分については、故人の死亡前3年以内に相続人が贈与を受けていた場合、その相続人の相続税課税価格に3年分の贈与額が加算されます(生前贈与加算)。3年分の贈与について支払った贈与税は、全額が相続税額から差し引かれます。

また、税制改正により令和6年以降に贈与される財産については相続開始前7年以内の贈与が相続税の対象です。ただし、これには経過措置が設けられており、令和12年末までに相続が始まる場合には、令和6年1月1日以降の贈与が相続税の対象となります。相続開始前7年以内の贈与が相続税の対象となるのは、令和13年1月1日以降に開始した場合となるでしょう。

なお、生前贈与加算が行われるのは、受贈者が相続人となった場合のみであり、相続人でない受贈者は生前贈与加算の対象外です。

定期贈与とみなされ、贈与税が加算されるおそれがある

定期贈与とは、贈与者と受贈者が「一定期間、一定の財産を贈与すること」を契約または取り決めたうえで、贈与することです。定期贈与は「年に80万円ずつ10年間贈与していたら結果として800万円を贈与したことになった」という連年贈与とは違い、契約や取り決めをした時点で「800万円を贈与すること」が決まっています。
そのため、受贈者は「800万円を受け取る権利」を贈与されたとみなされ、契約や取り決めをした年に800万円が贈与税の課税対象になるおそれがあります。

税務署に生前贈与と認められないおそれがある

生前贈与には贈与者・受贈者双方の合意が不可欠です。仮に、受贈者の同意なしに贈与者が一方的に贈与を行った場合、例えば孫の名義で祖父母が定期預金やへそくりをしている場合などは、税務署に生前贈与として認められないおそれがあります。

こういったトラブルを避けるためには、贈与者と受贈者がしっかりと贈与の内容や条件を確認し、合意のうえで贈与を行うことが大切です。確認や合意なしに贈与が行われた場合、受贈者が想定外の贈与税を納めなければならない事態に陥ってしまいます。できれば以下の内容を盛り込んだ契約書を交わしておくと、トラブルの予防に役立つでしょう。

<契約書に盛り込みたい内容>
贈与の相手
贈与の時期
贈与の内容
贈与の方法
贈与の条件

生前贈与以外にもある!相続税の節税対策

生前贈与以外にもある!相続税の節税対策

生前贈与以外にも、相続税の負担を軽減するのに有効な方法があります。より効果的に生前贈与を行いたい場合は、以下の方法を併用して行うとよいでしょう。

お墓などの非課税財産を賢く活用する

お墓や仏壇をはじめとした祭祀財産(さいしざいさん)は相続税の非課税財産と定められています。お墓を購入する際、墓石や墓牌の代金および工事費用はもちろん、墓地使用料や管理費などが生じますが、これらもすべて祭祀財産です。

よって、生前にお墓や仏壇、墓地といった祭祀財産を購入しておくことで遺産総額自体を減らせるほか、相続税の節税対策にも繋がるでしょう。とはいえ、社会通念上著しく高価な祭祀財産は非課税財産とみなされない恐れがあることから、購入金額が相場と大きく離れないように注意が必要です。

生命保険の非課税枠を利用する

被相続人が保険料を支払っていた場合、生命保険金は相続財産とみなされ、相続税が課税されます。ただし、生命保険には非課税枠が設けられており、非課税枠以内の生命保険に関しては相続税が課税されません。非課税枠の算出方法は以下のとおりです。

生命保険頭の非課税枠=500万円✕法定相続人数

例えば、法定相続人が4人の場合は500万円✕4=2,000万円分が非課税枠となり、2,000万円以下の生命保険金に関しては相続税が課されません。2,000万円を超えた場合は、2,000万円を超えた分に関してのみ課税されます。

このほかにも、相続税の負担を軽減させる方法が知りたい場合は、税理士に相談するのも選択肢の1つです。料金はかかりますが、より効率的な方法を提案してくれるはずです。

まとめ

相続税の負担を軽減させる方法として有効な生前贈与ですが、贈与を受けると贈与税、不動産所得税、登録免許税を納付しなければなりません。また、不動産の名義の移動や不動産所得税の算出などを専門家に依頼する場合は、そのための費用も必要です。

なお、生前贈与だけでなく教育資金贈与信託や生命保険の非課税枠の利用など、さまざまな方法によって税金の負担を軽減させることができます。より効率的に相続税の負担を軽減させたい場合は、費用をかけてでも、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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