生前贈与にかかる費用はどのくらい?不動産の贈与に課される税金とは?

相続税の節税に有効とされる「生前贈与」。実際に生前贈与を行うには、どんな手続や費用が必要なのでしょうか? 今回は、生前贈与をする際に必要な手続きや費用、贈与を受けた際に課される税金について解説します。

生前贈与にかかる費用はどのくらい?不動産の贈与に課される税金とは?

そもそも、生前贈与とは?どんなメリットがあるの?

そもそも、生前贈与とは?どんなメリットがあるの?

生前贈与とは、生存している間に自分の財産を他者に無償で贈与すること。生前贈与には、主に次のようなメリットがあります。

1.相続税の課税対象となる財産を減らすことができる
生前贈与を行って自分名義の財産を減らすことによって相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。例えば、5,000万円の財産を持ったまま亡くなった場合、5,000万円が課税対象(控除を除く)となりますが、生前に2,000万円を贈与しておけば課税対象は3,000万円となり、相続人の負担を減らすことができます。

2.自由に財産を贈与できる
民法が定める「法定相続」を行う場合は財産を相続できる人が決められており、遺言状を作成しない限り、自分で相続人を選ぶことができません。例えば、配偶者と子供がいる人の場合は、配偶者と子供が法定相続人になるので、本人が財産の一部を兄弟に相続させたくても、兄弟を相続人にすることはできません。しかし、贈与に関しては贈与する相手が制限されていないので、自分望む相手に財産を贈与することができます。

3.基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからない
財産の贈与を受けた側(受贈者)には贈与税がかかりますが、贈与税には基礎控除(110万円/年)が設けられているので、年間110万円以下の贈与については課税されません。例えば、年に100万円ずつ、20年間にわたって贈与を受け続けた場合、受贈者は贈与税を支払うことなく計2,000万円の贈与を受けることができることになります。

生前贈与を受けるには?

生前贈与を受けるには?

では、生前贈与を受けるにはどうすればよいのでしょうか?
原則的に生前贈与には法定の手続きなどはなく、特に契約等を交わさずとも、贈与者と受贈者の合意があれば、いつでも生前贈与をすることができます。ただし、土地や不動産、多額の現金などを生前贈与する場合は、後々のトラブルを避けるためにも、契約書を交わし、贈与の事実を記録しておくほうがよいでしょう。

なお、生前贈与の受贈者となって何らかの財産の贈与を受ける場合は、その受け取り方を次の2つから選ぶことができます。

1.暦年課税で受け取る
1月1日~12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合、110万円を超えた額に対して贈与税が課されます。

2.相続時精算課税で受け取る
20歳以上の子や孫が、60歳以上の親や祖父母から生前贈与を受ける場合は、相続時精算課税を選ぶことができます。相続時精算課税を選ぶと、2,500万円までの贈与に関しては贈与税が非課税となり、それを超えた分には贈与税が課されます。暦年課税の場合に比べて短期間に財産の贈与ができますが、贈与者が亡くなると、相続時精算制度で贈与した財産を相続財産に加えて相続税が計算されるため、相続税の節税効果はあまり期待できません。
なお、この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日~3月15日の間に税務署に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。この申告を行わない場合は、自動的に暦年課税され、110万円を超える贈与について贈与税が課税されてしまうので、注意が必要です。いったん相続時精算課税の申告をすると、暦年課税に戻すことができないため、十分に考えた上で利用するようにしましょう。

生前贈与にかかる費用とは?

次に、生前贈与にかかる費用について見ていきましょう。前述のとおり、原則として生前贈与を行うにあたって贈与者と受贈者の間に特別な手続きは必要なく、それに伴う事務的な費用も発生しません。したがって、生前贈与にかかる費用は、受贈者に課される以下の税金と、納税手続きを専門家に頼んだ場合の費用のみと考えておけばよいでしょう。

1.贈与税

前述のとおり、1年間に110万円を超える贈与を受けた場合は、超えた分について贈与税が課税されます。贈与税の税率は「一般贈与財産」と「特例贈与財産」とに区分されており、特例贈与財産の方が一般贈与財産よりも税率が低く、控除額も多く設定されています。

① 一般贈与財産の税率(一般税率)
例えば、兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が20歳未満の場合などに適用されます。

一般税率の一覧

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

【参考】国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」 詳しくはこちら

<計算例>贈与額が500万円の場合
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税の計算 390万円✕20%-25万円=53万円

② 特例贈与財産の税率(特例税率)
直系尊属(祖父母や父母など)から、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与に適用されます。

特例税率の一覧

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

【参考】国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」 詳しくはこちら

<計算例>贈与額が500万円の場合
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税の計算 390万円✕15%-10万円=48万5,000円

なお、相続時精算課税の場合は、前述のとおり、限度額である2,500万円を超えた分に一律20%の贈与税が加算されます。

2.不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した者に対して、その不動産が所在する都道府県が課す税金です。生前贈与によって土地や家屋などの不動産を贈与された受贈者も、当然、不動産取得税を収めなくてはなりません。不動産取得税の税率は、土地・建物ともに原則4%ですが、2021年3月31日までは、土地及び住宅取得にかかる税率が3%に軽減されています(住宅以外の建物は4%のまま)。

また、同じく2021年3月31日までは「宅地の課税標準の特例」が適用されており、同日までに宅地を取得した場合は、その評価額の2分の1を不動産所得税の標準額とすることができます。

したがって、2021年3月31日までに、例えば評価額3,000万円の宅地を取得した場合の不動産取得税は、
(3,000万円÷2)✕0.03=45万円となります。

3.登録免許税

生前贈与で不動産を取得した場合、その不動産の名義変更(贈与者→受贈者)を行う必要があります。不動産の名義変更を行う際に受贈者が国に納めなくてはならないのが登録免許税で、生前贈与による登録免許税はその不動産の固定資産評価額の2%です。
例えば、贈与された不動産の固定資産評価額が5,000万円の場合、登録免許税は5,000万円✕0.02=100万円になります。

4.専門家への支払いにかかる費用

不動産登記や不動産取得税の申告は手続きが煩雑で、慣れていない人には難しいものです。手続きに時間と労力がかけられない人は、司法書士や税理士など専門家に依頼するとよいでしょう。費用は専門家によって異なりますが、概ね5万円~10万円でサービスを提供しているケースが多いようです。

生前贈与のデメリットや起こりがちなトラブルは?

工夫次第では相続税の節税に有効な生前贈与ですが、次のような注意すべきポイントがあります。

1.死亡前3年間分の贈与は、相続税の対象になる
故人の死亡前3年以内に相続人が贈与を受けていた場合、その相続人の相続税課税価格に、3年分の贈与額が加算されます(生前贈与加算)。3年分の贈与について支払った贈与税は、全額が相続税額から差し引かれます。
なお、生前贈与加算が行われるのは、受贈者が相続人となった場合のみであり、相続人でない受贈者は生前贈与加算の対象外です。

2.定期贈与とみなされ、贈与税が加算されるおそれがある
定期贈与とは、贈与者と受贈者が「一定期間、一定の財産を贈与すること」を契約または取り決めた上で、贈与することを指します。定期贈与は、「年に80万円ずつ10年間贈与していたら結果として800万円を贈与したことになった」という連年贈与とは違い、契約や取り決めをした時点で「800万円を贈与すること」が決まっており、受贈者は「800万円を受けとる権利」を贈与されたことになります。このため、契約や取り決めをした年に800万円が贈与税の課税対象になってしまうおそれがあります。

3.税務署に生前贈与と認められないおそれがある
生前贈与には贈与者・受贈者双方の合意が不可欠です。仮に、受贈者の同意なしに贈与者が一方的に贈与を行った場合、例えば孫の名義で祖父母が定期預金やへそくりをしている場合などは、税務署に生前贈与として認められないおそれがあります。

こういったトラブルを避けるためには、贈与者と受贈者がしっかりと贈与の内容や条件を確認し、合意の上で贈与を行うことが大切です。確認や合意なしに贈与が行われた場合、受贈者が想定外の贈与税を納めなければならない事態に陥ってしまいます。できれば以下の内容を盛り込んだ契約書を交わしておくと、トラブルの予防に役立ちます。

<契約書に盛り込みたい内容>
・贈与の相手
・贈与の時期
・贈与の内容
・贈与の方法
・贈与の条件

また、年間110万までの非課税枠を活用した「暦年贈与信託」を利用すると、贈与取引の履歴が確実に残せたり、贈与契約等面倒な手続きも不要だったりするなど、非常に便利な商品もありますので金融機関のホームページなども確認するとよいでしょう。

相続税の節税対策

相続税の節税対策

相続税の節税に有効な方法があります。より効果的に節税を行いたい場合は、以下の方法を併用して行うとよいでしょう。

1. 教育資金贈与信託を利用する
教育資金贈与信託は、信託銀行等に30歳未満の子や孫の教育資金を信託すると1,500万円まで贈与税が非課税になるという制度です。2019年の税制改革で受贈者の前年の所得が1,000万円を超える場合は利用できなくなりましたが、申込期限が2年延長されて2021年3月31日までに延長されました。本制度を使うと1,500万円まで非課税となるため、短い期間で子や孫に教育資金を贈与したい場合には最適です。

【参考】国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」 詳しくはこちら

2.生命保険の非課税枠を利用する
被相続人が保険料を契約していた場合、受け取った死亡保険金は相続財産とみなされ、相続税が課税されます。ただし、生命保険には非課税枠が設けられており、非課税枠以内の死亡保険金に関しては相続税が課税されません。非課税枠の算出方法は以下のとおりです。

生命保険の非課税枠=500万円✕法定相続人数

例えば、法定相続人が4人の場合は500万円✕4=2,000万円分が非課税枠となり、2,000万円以下の生命保険金に関しては相続税が課されません。2,000万円を超えた場合は、2,000万円を超えた分に関してのみ課税されます。

この他にも、相続税の節税方法が知りたい場合は、税理士に相談を。料金はかかりますが、より効率的な節税方法を提案してくれるはずです。また、信託銀行などでも無料で相談にのってもらえます。

まとめ

相続税の節税対策として有効な生前贈与ですが、贈与を受けると贈与税、不動産所得税、登録免許税を納付しなければなりません。また、不動産の名義の移動や不動産所得税の算出などを専門家に依頼する場合は、そのための費用も必要です。
なお、相続税の節税には教育資金贈与信託や生命保険の非課税枠の利用など、様々な方法があります。より効率的に相続税を節税したい場合は、税理士や信託銀行などに相談することをおすすめします。

ご留意事項
  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。

RANKING

この記事もおすすめ