孫に生前贈与をする方法を解説!非課税制度を活用して相続税の負担を減らそう

「孫に学費を渡してあげたい」「孫への贈与・相続で節税したい」など孫への生前贈与を検討している方もいるのではないでしょうか。そもそも生前贈与とは何なのか、生前贈与するメリット、生前贈与する際の注意点や「教育資金贈与信託」などを解説します。

孫に生前贈与をする方法を解説!非課税制度を活用して相続税の負担を減らそう

そもそも生前贈与とは?

そもそも生前贈与とは?

生前贈与とは、生前に個人から別の個人に対して財産を無償で提供することです。
生前贈与によって、相続時の財産の量を減らし、結果的に相続税の負担を軽減できる可能性があります。相続税はかからなくても、贈与税がかかるのでは?と気になられた方もいるかもしれませんが、贈与税には相続税とは別の非課税枠があり、税金の負担なく財産を贈与できるケースがあるのです。
ただし、生前贈与をするうえで注意点もあります。生前贈与について理解を深めていきましょう。

孫に非課税で生前贈与する方法

孫に非課税で生前贈与する方法

孫に非課税で生前贈与したい場合、どのような方法があるのでしょうか? 孫への生前贈与で活用できる方法は、主に以下の5つです。

・暦年(れきねん)贈与
・相続時精算課税制度
・教育資金一括贈与の特例
・結婚・子育て資金一括贈与の特例
・住宅取得等資金贈与の特例

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それぞれの方法について詳しくみていきましょう。

暦年(れきねん)贈与

暦年贈与とは、贈与税の原則的な課税方法である「暦年課税制度」の基礎控除額を活用した方法の俗称です。贈与税の暦年課税は、暦年(1月1日~12月31日)の贈与額が110万円以下であれば、贈与税が生じない制度となっています。贈与税を算出する際の計算式は、以下の通りです。

(1年間の贈与額の総額-基礎控除額)×税率-その他の控除額

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贈与税の基礎控除額は年間110万円であるため、年間110万円の範囲に収まる贈与であれば贈与された側は非課税となります。贈与者と受贈者の関係に決まりはないので、孫に対して年間110万円以下で贈与をすることで、非課税で生前贈与をすることができます。

なお、後述する相続時精算課税制度を選択した場合は、暦年課税制度(暦年贈与)の基礎控除と併用できません。ただし、令和5年度税制改正により「年間110万円の基礎控除枠」が利用できるようになったため、2024年1月1日の贈与分からは相続時精算課税制度を利用した人でも、年間110万円の贈与税がかからなくなります。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、申告することで贈与の際に2,500万円まで贈与税の特別控除額が認められる制度です。この制度を利用するには、贈与する人が60歳以上の父母または祖父母、贈与される人が18歳以上の子または孫であるという条件を満たしている必要があります。

暦年課税制度(暦年贈与)の基礎控除は贈与を受ける人一人あたりに対する控除額ですが、相続時精算課税制度は贈与をする人ごとに適用されます。例えば、祖父母ともに相続時精算課税制度を選択した場合、祖父2,500万円、祖母2,500万円で、贈与を受ける孫からすると合計5,000万円の特別控除額が利用できます。

相続時精算課税制度の申告後、贈与者が亡くなるまで何度も制度の利用が可能ですが、控除額の限度を超過した場合は超えた額に対して一律20%の贈与税が課税されます。また、本制度を利用すると、それ以降は暦年課税制度(暦年贈与)を選択できなくなる点に注意が必要です。

なお、贈与者が亡くなった時は、この制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を相続税に加算して計算します。また、相続時精算課税制度で納めた贈与税がある場合は、その贈与税額を相続税から差し引いて精算します。

【参考】国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」詳しくはこちら

教育資金一括贈与の特例

教育資金一括贈与の特例とは、30歳未満の子や孫が教育資金の一括贈与を受けた場合に、最大1,500万円まで(そのうち習い事の場合は500万円まで)非課税になる制度です。この教育資金一括贈与の特例を利用するには、信託銀行などに教育資金を信託するなどの手続きが必要です。これまでの法改正によって申告期限が延長されており、令和5年度税制改正では、2026年3月31日までが新たな適用期間となっています。

教育資金一括贈与の特例で対象となる教育資金は幅広く、入学費用、教科書代、修学旅行費用といった学校に直接支払う費用だけではなく、学校以外の教育活動に必要な学習塾やスポーツなどの習い事、その他一部の認可外保育所の費用や留学の渡航費も当てはまります。使用した教育資金は領収書を提出する必要があり、使用用途に問題がないか証明しなくてはなりません。

令和5年度税制改正により、非課税枠に変更がありました。詳細は注意点のパートで解説します。

結婚・子育て資金一括贈与の特例

結婚・子育て資金一括贈与の特例とは、20歳~49歳までの結婚や子育ての資金に対する援助が最大1,000万円まで(そのうち結婚費用は300万円まで)非課税になる制度です。贈与者は受贈者の直系尊属(父母や祖父母)なので、孫への生前贈与に有効です。

この結婚・子育て資金一括贈与の特例を利用する場合も、教育資金一括贈与の特例と同じように信託銀行などで結婚・子育て資金を信託するなどの手続きが必要です。2023年3月31日までの適用期限が定められていましたが、税制改正によって2025年3月31日まで2年期限が延びました。

この制度で対象となる結婚費用は挙式費用や披露宴に関する費用のほか、新居の敷金や家賃、引っ越し費用も含まれます。子育ての費用は、子供医療費、幼稚園や保育所などの保育料、ベビーシッター代も含まれます。育児だけでなく妊娠出産費用も含まれており、不妊治療から妊婦健診、分娩費用や産後ケアに関する費用にもこの制度を活用できます。

【参考】国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」詳しくはこちら

住宅取得等資金贈与の特例

住宅取得等資金贈与の特例とは、親や祖父母などの直系尊属から自宅の取得、または増改築等のための資金を受け取った場合に適用される特例です。この特例が申請できる期限は2023年12月31日が期限となっていますのでご注意ください。

省エネ等の基準を満たした高性能な住宅は1,000万円、それ以外の住宅は500万円までの贈与が非課税となります。この特例を利用するには、子や孫が18歳以上に達しているといった一定の要件を満たしていなければなりません。

【参考】国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」詳しくはこちら

孫に生前贈与するメリットは?

孫に生前贈与するメリットは?

孫に生前贈与するメリットは何があるのでしょうか?

相続税などの負担を軽減することができる

1つ目のメリットは、生前贈与をうまく活用すると相続の負担を軽減できることです。通常、相続時に子供がいる場合に孫へ遺産を遺す方法として、遺言で意思表示をしたり生命保険の受取人を孫にしたりする方法があります。

財産などを相続する場合、相続を受ける人のことを「相続人」といいますが、相続時に子供がいると孫は相続人に該当しないため、生命保険金の非課税枠が適用されない、相続税が2割加算されるなど、相続人と比較して相続税の負担が大きくなります。そのため、生前贈与をうまく活用することによって税金の負担を軽減することができるのです。

また、相続税は亡くなった時に個人が所有していた財産に対して課税されます。そのため、所有していた財産が多いほど相続税も多くなります。さらに、亡くなる前の一定期間中に行った相続人への贈与は相続税の対象となります。

しかし、相続人に該当しない孫への生前贈与であれば、相続税へ持ち戻しされません。贈与税が発生しない範囲で毎年孫へ生前贈与すれば、相続時の財産を圧縮できるため、相続税を減らせる可能性があります。

タイミングよく贈与ができる

続いてのメリットは、贈与したいタイミング、つまり贈与される相手が必要とするタイミングで財産を受け渡せることです。相続の場合は、被相続人が亡くなるまで相続人や遺言書の対象者にお金は渡りません。しかし、贈与の場合は、いつでもお金を受け渡せます。

孫の進学費用・塾費用などを必要なタイミングで贈与する場合は生活費用の援助とされ、贈与とはみなされません。したがって、贈与税の基礎控除額の年間110万円に含む必要もなくなります。

贈与の相手を自由に決められる

生前贈与であれば受贈者に決まりはありませんので、贈与する相手を自由に決められることもメリットです。相続時は、原則として法定相続人が財産を引き継ぐことになります。相続時に子供がいると孫は法定相続人ではないので、財産を受け取ることができません。
可愛い孫にも財産を分けてあげたい......そんな時に生前贈与を活用するとよいでしょう。

孫に生前贈与する時の注意点は?

孫に生前贈与する時の注意点は?

孫への生前贈与は、税金の負担の軽減になる、必要な時にお金を渡せるなどのメリットがありますが、何か注意点はあるのでしょうか?生前贈与を孫にする時の注意点は以下の3つです。

・亡くなる前の7年間(3年間)は相続税の対象になる
・定期贈与・連年贈与とみなされないようにする
・必要資金と認められるかどうかに留意する

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それぞれの注意点についてみていきましょう。

亡くなる前の7年間(3年間)は相続税の対象になる

贈与者が亡くなる前3年間もしくは7年間の贈与は、相続税の対象になります。これまで、相続税の対象になる贈与した財産は3年間の期間が対象でしたが、令和5年度税制改正により2024年1月1日からは7年間に拡大されていますので注意が必要です。なお、増えた4年の期間中の贈与には別途合計100万円の非課税枠が設けられています。

ちなみに、結婚・子育て資金一括贈与の特例や教育資金一括贈与の特例といったケースや既に贈与税を支払っている部分については対象にはなりません。しかし、相続がいつ訪れるかは誰にも予想できません。相続税の負担を減らすためには、万が一に備えて早めに生前贈与を進めることが重要といえるでしょう。

定期贈与・連年贈与とみなされないようにする

贈与には、毎年贈与を行う「連年贈与」と、あらかじめ決められた金額を毎年分割して贈与する「定期贈与」と呼ばれるものがあります。毎年110万円の基礎控除内でお金を贈与していても、それが「定期贈与」とみなされた場合、一定期間の贈与合計額に贈与税が課税されることがあります。

例えば、5年間毎年100万円贈与していて、定期贈与とみなされれば合計額の500万円に対して贈与税が課税される恐れがあります。定期贈与とみなされないための対策として、毎年贈与の金額を変える、定期的に贈与しないようにする、贈与するたびに贈与契約書を作成するなどの方法があります。

必要資金と認められるかどうかに留意する

子や孫のために支払われる生活費や教育費などの必要資金は、基本的に贈与とはみなされず、贈与税の課税対象ではありません。親や祖父母などが扶養をするうえで、当然と認められるものだからです。必要資金であれば、年間110万円の贈与税の基礎控除枠をあてる必要もありません。

ただし、将来的な教育費を一括で贈与した場合、直近必要でないと判断されたものは贈与税の対象となりますので、贈与税の非課税の特例などを活用して税金が課せられないように注意しましょう。

受贈者の要件がある

上記で述べた贈与税が非課税となる特例を利用するにあたり、受贈者の要件を調べておきましょう。例えば「結婚・子育て資金一括贈与の特例」であれば、受贈者である孫の前年の合計所得金額が1,000万円を超えている場合は利用はできません。

また「住宅取得等資金贈与の特例」では、受贈者である孫が18歳以上であることだけでなく、贈与財産を取得する年において孫の合計所得金額が2,000万円以下(一定要件の場合には、1,000万円以下)であること、贈与された翌年3月15日までにその住宅に住むかなど、複数の条件があります。

教育資金の非課税要件がある

教育資金にも同様に受贈者の要件があるため、細かくみておきましょう。受贈者が23歳以上になると非課税の対象外となるものが出てきます。具体的には「学校等に支払われる費用」「学校等に関連する費用」「教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練の受講費用」が基本的に教育資金の範囲となり、これ以外の習い事などは非課税でなくなります。

また、教育資金の一括贈与の特例は30歳で契約終了となります。残額には贈与税が課税されるため注意しましょう。さらに、令和5年度税制改正では、相続税の課税価格が5億円を超える場合は原則いかなる受贈者であっても、残額に相続税がかかるようになります。

遺留分を侵害しない範囲で贈与する

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人のために保障されている相続分の一定割合を指します。孫に行った生前贈与により、孫以外の法定相続人の遺留分を侵害しているとされた場合には、孫(受贈者)に対して遺留分侵害額請求をされてしまいます。

遺留分の請求をされると、生前贈与分が受贈者以外に相続される場合があるだけでなく、相続人同士でトラブルになりかねません。場合によっては、弁護士などの専門家にご相談することも考慮するとよいでしょう。

孫の特別受益には例外がある

一定の条件の相続人が生前贈与などの方法で特別に受けた利益を特定受益といいます。
原則、孫への生前贈与は特別受益に該当しませんが、いくつかの例外があります。「孫と養子縁組をしていて、孫が法定相続人に該当する場合」「孫の親が扶養義務をしておらず、祖父母が通常の教育費や生活費を超える生前贈与をしている場合」「祖父母から孫名義の口座に振り込みをしているが、実態は孫の親への生前贈与の場合」です。

特別受益の額は、相続財産額と合算して各相続人に相続されてしまいますので注意しましょう。

まとめ

孫に生前贈与をすることで相続税の負担を軽減できる可能性があります。可愛い孫へ財産を渡したい場合には、非課税制度も上手く活用するとよいでしょう。孫への生前贈与を検討している人は、相続税と贈与税がそれぞれいくら課税される可能性があるのかよく考えてから生前贈与を行うことをおすすめします。
また、令和5年度税制改正により非課税枠や要件が変更されていることがありますので、注意が必要です。もし、自分ではよく分からない場合には、相続に強い税理士や弁護士、信託銀行などの専門家に相談してから生前贈与を行いましょう。

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