定期贈与とは?暦年贈与で生前贈与を行う時に注意するポイントも紹介

暦年贈与には、毎年110万円の基礎控除額があり、非課税で生前贈与することができます。しかし、贈与の仕方によっては定期贈与とみなされ、贈与税の対象になってしまいます。この記事では、定期贈与と見なされないための生前贈与のポイントや注意点について解説します。連年贈与との違いや税制改正の内容も参考にしてみてください。

定期贈与とは?暦年贈与で生前贈与を行う時に注意するポイントも紹介

定期贈与とは?

定期贈与とは?

「定期贈与」とは、定期金給付契約に基づいて贈与することの通称です。例えば「10年間にわたって毎年100万円を贈与する」というように、あらかじめ定めた期間内に定期的に同じ金額を贈与する場合などが該当します。この場合、1,000万円の贈与を10回に分割したことになり、毎年の贈与額ではなく総額の1,000万円に対して贈与税がかかります。

贈与税の税率は、以下の通りです。

一般税率の場合(※1)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

特例税率の場合(※2)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

※1:一般税率とは一般贈与財産用の税率で、特例贈与以外の贈与に適用します。例えば、兄弟間、夫婦間、親から未成年者(18歳未満)の子へなどの贈与の場合が該当します。
※2:特例税率とは特例贈与財産用の税率で、父母や祖父母などの直系尊属からの贈与により18歳以上の者が財産を取得した場合に該当します。

生前贈与と定期贈与

相続税の負担軽減のために、自身が生存している間に子孫に財産を渡しておく場合があります。これを一般的に生前贈与といいます。

生前贈与の方法にはいくつかありますが、贈与税がかからないように財産を渡していく方法を取られる方が一般的です。これは、暦年課税による贈与税の基礎控除という仕組みを利用したもので、一般には「暦年贈与」と呼ばれています。「暦年贈与」は、次章で詳しく説明します。

ただ、暦年贈与を利用し、生前贈与を行ったつもりでも、財産の渡し方や渡す時期によっては「定期贈与」と判断され、多額の贈与税を納めることになる場合があります。

暦年贈与の仕組み

暦年贈与(暦年課税制度を利用した贈与)とは、一人につき1年間に贈与された財産が110万円以下であれば、贈与税がかからないという仕組みを活用した生前贈与の通称です。贈与税は、一人に対し1月1日から12月31日までの1年間(これを暦年といいます)に贈与された財産から110万円の基礎控除を引いた額に課税されます。したがって、年間に贈与する総額を110万円以下にすれば全額非課税となり、贈与税の申告も必要ありません。

この基礎控除は贈与を受ける人(以降、受贈者)一人あたりに適用されます。もし、複数の人から贈与を受けた場合は総額から110万円を控除します。

贈与する側(以降、贈与者)の立場からは、受贈者が複数いる場合は、それぞれに110万円ずつまで非課税で財産を渡せる制度ともみえます。
例えば、5人の推定相続人がいる場合に生前に暦年贈与を行えば、相続財産を毎年550万円ずつ非課税で圧縮できる可能性があります。ただし、基礎控除できる年間の贈与額は受贈者一人あたり110万円なので、ほかに贈与を行う人がいないことが条件です。

このような仕組みのため、暦年贈与で相続税対策をしようとすると、相続財産が多額で相続人が少ない場合は、長い期間が必要になります。さらに、贈与者が死亡する前3年以内に相続人が贈与を受けていた場合、その贈与分は相続人の相続財産として加算されてしまいます。詳しくは後述しますが、令和5年度(2023年)税制改正大綱によって対象期間が「贈与者が死亡する前7年以内」に変更されたので注意しましょう。

連年贈与と定期贈与の違い

連年贈与と定期贈与の違い

連年贈与とは、毎年贈与を行うことの通称です。贈与の額や年数に決まりがあるわけではなく、単に連年にわたって贈与を行うことを意味する言葉です。そのため、連年贈与という言葉に法律的・税務的な意味はありません。

なお、連年贈与が暦年贈与の積み重ねであると判断されれば、基礎控除の範囲内で行われる各年の贈与について課税されることはありません。

しかし、暦年贈与を行うつもりであった連年贈与が定期贈与と見なされた場合は、各年の贈与が基礎控除の範囲内であっても、連年の贈与合計額について課税される可能性があります。

暦年贈与が定期贈与とみなされないためのポイント

暦年贈与が定期贈与とみなされないためのポイント

暦年贈与を行っていたつもりでも、税務署に定期贈与だとみなされてしまうと、高額な贈与税を納めることになります。定期贈与とみなされないためには、定期贈与の定義に当てはまらない贈与を行う必要があります。ここでは、具体的な4つの対策について解説します。

毎年違う「金額」を贈与する

毎年同じ額を長い年月にわたって贈与すると「当初合意した贈与額を毎年分割して贈与しているのでは」という観点から、定期贈与とみなされる可能性が高まります。そのため、贈与額が毎年同額とならないように贈与を行うとよいでしょう。
例えば、1年目は100万円、2年目は105万円、3年目は90万円というように、年ごとに贈与額を変えて贈与するのです。

毎年違う「時期」に贈与する

毎年同じタイミングで贈与を行なっていると、あらかじめ贈与されることが決まっていたように思われます。そのため、贈与のタイミングが毎年同時期とならないような工夫も有効です。例えば、1年目は4月に贈与し、2年目は6月と8月の2回に分けて贈与するなどです。

あえて贈与税の申告をする

あえて毎年110万円以上の贈与を行い、贈与税を申告して納付してしまうのも、のちのち定期贈与と疑われないために有効です。例えば111万円を贈与した場合、基礎控除110万円を引いた1万円に対し10%が課税されるため、税額は1,000円にとどまります。

このように基礎控除額をわずかに上回る程度であれば、毎年の贈与税額は少額となります。のちのち定期贈与とみなされて大きな課税をされるリスクを最小限にとどめることができるでしょう。
既に、贈与税が納付された毎年の贈与について、税務署が暦年贈与であることを否定して定期贈与として追徴するということは考えにくいので、このような処理もリスク回避の方法としては有効です。

贈与税の申告を毎年行うのは億劫に思う人もいると思いますが、一度申告書を作ってしまえば、翌年以降はほぼ同じ内容で申告するだけなので、それほど大きな負担にはなりません。
なお、総額1,000万円(基礎控除後で890万円)の贈与を行う場合、定期贈与では一般税率を適用すると贈与税は231万円となります。一方、2年間に分けて毎年500万円(基礎控除後で390万円)の暦年贈与を行うと税額は計106万円となります。このように基礎控除の範囲内に収まらない場合でも、何年かに分割することで贈与税の負担は大きく軽減されるでしょう。

贈与契約書を作成する

毎年行っている贈与を、定期贈与ではなく暦年贈与であると証明するために、贈与の度に贈与契約書を作成するのもよい方法です。そうすることで、毎年の贈与が当初の一回の合意で決まったものではなく、贈与行為の都度合意された個別の契約であることの証拠となります。

贈与契約書は、税理士や弁護士などの運営するホームページなどで雛形が多数提示されているので、検索してみましょう。

税務署はどのように定期贈与を見つけるのか

税務署はどのように定期贈与を見つけるのか

では、税務署に定期贈与とみなされてしまうのは、どのような状況なのでしょうか。
これまでのポイントにあるように、同じタイミングで同じような金額を長年にわたって贈与しており、契約書等もない場合、税務署から定期贈与であるとみなされる場合があります。

一例として、子供の住宅ローンや奨学金を親が返済しているというケースがあります。これは、見方を変えれば「ローン残額や奨学金返済額という決まった金額を親が贈与する」という約束のもとに行われた贈与とみなされる危険があります。

暦年贈与と定期贈与の判断は困難ですが、客観的に定期贈与だとみなされる状況では、定期贈与で課税されるということは十分あり得ます。

暦年贈与を行ううえでの注意点

暦年贈与を行ううえでの注意点

定期贈与とみなされること以外にも、暦年贈与をするうえで注意すべきポイントがあります。
この章では、暦年贈与をする際に、注意すべきポイントを紹介します。

相続発生の3年前までの贈与は相続税の対象(※7年に延長あり)

暦年贈与をしていても、贈与者が亡くなった場合、亡くなる3年前までに受けた贈与分は相続財産に加算されます。これには、基礎控除内で行った暦年贈与も対象となります。

つまり、贈与税は免れても、相続が発生すると直近の3年分は相続税が課税される可能性があります。これを回避するために、暦年贈与は余裕をもって早めに開始するとよいでしょう。

さらにここで重要なのが、この3年という期間は令和5年(2023年)12月31日までの贈与に適用されるものです。令和5年度(2023年度)税制改正により、相続財産に加算される期間が3年から7年に延長されることが決定しました。これにより、令和6年(2024年)1月1日以後に受けた贈与から7年間の加算期間が適用されることとなります。なお、経過措置として、延長された4年間の贈与総額から100万円控除することができます。

送金の記録を残す

暦年贈与を行ううえでの注意点

先述した通り、贈与を行う当事者間で贈与の証拠として、贈与契約書を作成することが有効です。
また、贈与契約に基づく金銭給付も手渡しではなく銀行送金を行うことで、合意が履行されたことの証拠となります。

送金を行う口座にも注意が必要です。詳細は「贈与を受けた人が口座を管理する」の章にも記載しておりますが、必ず受贈者が管理する口座に送金するようにします。

贈与を受けた人が口座を管理する

贈与者である親や祖父母が、受贈者の子供・孫名義の口座に暦年贈与として財産を振り込んでいる場合があります。この場合、子供が振込先口座を把握・管理していなければ贈与とは認められず、単に親が自分の財産を移動したに過ぎないとみなされます。

贈与は、贈与者と受贈者の双方が贈与があったと認識しており、贈与した財産は受贈者が自由に使用できる状態でなければいけません。しかし、口座の名義が子供や孫であっても、その口座の存在を把握していなければ、実質的な財産の管理者は贈与者本人であると判断されてしまいます。
結果として、贈与の条件を満たしておらず、贈与がなかったと税務署に判断されてしまうのです。口座に振り込む形で暦年贈与を行う場合は、贈与を受ける相手が把握・管理する口座に送金するようにしましょう。

暦年贈与が廃止される可能性も

暦年贈与が廃止される可能性も

相続税対策の有効な手段として活用される暦年贈与は、将来的には廃止されるという見方もあります。「令和5年度税制改正」で相続税と贈与税を一体的に捉えることが述べられていることによるものです。

相続税と贈与税の一体化の背景は、高齢者から若い世代へ資産を受け渡すタイミングによって税率に差が出ないことを目指したものです。高齢者が多額の資産をもつ現在、若い世代に資産を受け渡すことが経済活発化につながると考えられます。しかし、現在の税制では相続税より贈与税の方が税率が高いことが多く、若い世代へ資産を渡しにくくなっていると考えられています。

贈与税と相続税の一体化方針に関連して、暦年贈与の制度変更や、廃止される可能性もなくはありません。そのため、暦年贈与を検討される方は早めに取り掛かる必要があるでしょう。

まとめ

定期贈与は、定期金給付契約に基づいて贈与することです。特徴としては、毎年同額を決まった期間贈与する契約です。
暦年贈与の基礎控除を利用した贈与も、贈与の仕方によっては、定期贈与とみなされてしまうことがあります。
定期贈与とみなされると、相続税よりも重い贈与税が課せられます。相続税の負担を減らすために暦年贈与を行う場合は、最終的に定期贈与とみなされるリスクを回避するための工夫が重要です。

暦年贈与、定期贈与のそれぞれの考え方を理解し、適切な方法で処理するようにしましょう。自分だけで処理するのが不安な場合、税理士など専門家に相談するとより安心です。

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