退職金が少ない?!中小企業と大企業を比較解説!転職時の退職金についても

「転職や定年退職した際に受け取った退職金が予想より少ない」という事態はよくあるトラブルです。本記事では、退職金の一般的な相場や仕組み等を分かりやすく解説します。退職金額は勤続年数や退職事由等によって変動するので、実際にいくら支給されるのかは、よく確かめておきましょう。

退職金が少ない?!中小企業と大企業を比較解説!転職時の退職金についても

退職金は本当に少ないのか?

退職金は本当に少ないのか?

転職や定年退職をする際に、自分が退職金をいくらもらえるのか、気になる人は多いでしょう。また、実際に受け取った退職金が予想より少なすぎてガッカリした人もいるかもしれません。しかし、その退職金が本当に少ないのかを判断するために、企業規模別・勤続年数別・業種別の退職金の相場を紹介します。

企業規模別の退職金

大企業と中小企業では退職金額がいくら違うのでしょうか。大企業の平均的な退職金は厚生労働省の「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」で確認できます。この調査によると、令和3年の大企業の定年退職金額の平均は、高卒の場合で2,017万6,000円、大卒の場合で2,230万4,000円です。なお、このデータは満勤勤続の場合になります。

また、高校や大学等の学校を卒業後すぐに入社し、平均的な昇進をして定年退職したと仮定した場合の「モデル退職金」では、高卒の総合職の場合で1,971万2,000円、大卒の総合職の場合で2,563万9000円です。

中小企業の退職金は、東京都産業労働局が都内の中小企業を対象に調査した資料「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」が参考になります。この資料によると、中小企業のモデル退職金額の平均は、高卒の場合で1,031万4,000円、大卒の場合で1,118万9,000円です。先の大企業のモデル退職金と比べると、中小企業のモデル退職金は高卒・大卒共に非常に少ないことが分かります。

企業規模別のモデル退職金比較表

最終学歴 大企業 中小企業
高卒 1,971万2,000円 1,031万4,000円
大卒 2,563万9,000円 1,118万9,000円

【参照】厚生労働省「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査(PDF)」詳しくはこちら
【参照】東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)(PDF)」詳しくはこちら

勤続年数別の退職金

退職金額は勤続年数によっても変わります。この部分が気になる人も多いでしょう。先に示した厚生労働省及び東京都産業労働局の調査資料には、勤続年数別のモデル退職金も記載されています。下記の表は、この2つの資料を基にした大企業・中小企業の勤続年数別のモデル退職金です。

勤続年数別の退職金(会社都合)

勤続年数 大企業(大卒) 中小企業(大卒)
5年 118万円 60万3,000円
10年 310万2,000円 148万3,000円
20年 953万1,000円 425万円
30年 1,915万4,000円 785万6,000円
定年 2,563万9,000円 1,118万9,000円

【参照】「厚生労働省「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査 調査結果の概要(PDF)」詳しくはこちら
【参照】「厚生労働省「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査 モデル退職金(PDF)」詳しくはこちら

この表からも分かるように、勤続年数が短いほど退職金は少なくなります。また、退職事由が自己退職の場合は会社都合の場合よりも退職金額が減額されるのが一般的です。

業種別の退職金

業種によっても退職金額は異なります。東京都産業労働局の調査資料による、業種別の退職金は下記の通りです(※中小企業の場合、定年時)

業種別の退職金

業種         高卒      大卒      
建設業 1,177万円 1,313万8,000円
製造業 1,080万4,000円 1,148万7,000円
情報通信業 864万9,000円 1,154万5,000円
運輸業・郵便業 821万9,000円 893万2,000円
卸売業・小売業 1,019万4,000円 1,088万4,000円
金融業・保険業 1,725万5,000円
不動産業・物品賃貸業 1,353万7,000円
学術研究。専門・技術サービス業 1,007万1,000円
生活関連サービス業・娯楽業 1,129万6,000円 1,104万2,000円
教育・学習支援業(学校教育を除く) 656万9,000円
サービス業(他に分類されないもの) 1,019万2,000円 996万円

【参照】東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)(PDF)」詳しくはこちら

この表では、退職金額が最も高いのは「金融業・保険業」で、最も低いのは学校教育を除いた「教育・学習支援業」になります。

そもそも退職金の仕組みは?

そもそも退職金の仕組みは?

退職金とは、退職した従業員に対して企業が支給する後払い賃金のことです。多くの大企業で導入されていますが、退職金の支払いは法律上義務づけられているものではありません。つまり、退職金制度は各企業の自由裁量で設置されている賃金なのです。

支給額や支給要件等に対しても法的な縛りはなく、細かな規定も企業ごとに異なります。そのため、自社の退職金制度の詳細を知りたい場合は、就業規則や賃金規定等を確認しましょう。

退職金の種類

退職金制度は大別すると以下の4種類に分けられます。細かなルールは企業によって異なる部分が多いので、ご注意ください。

退職一時金制度

退職一時金制度は、退職時に一括で退職金を支給する制度です。一般的な退職金のイメージはこの制度になるでしょう。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度は、企業が掛金を拠出して運用した資金を定期的に年金として給付する制度です。企業によっては、掛金の一部を従業員が負担する場合や、一時金として受け取れる場合もあります。

企業型確定拠出年金制度

企業型確定拠出年金制度は、企業が拠出した掛金を従業員自身が運用し、その運用実績に応じた年金を退職後に受け取る制度です。掛金額を自分で上乗せできる場合もあります。

退職金共済制度

退職金共済制度は、企業が契約を結んだ共済から退職金が支給される制度です。独自に退職金制度を導入するのが困難な企業がよく採用しています。

退職金の算出方法は?

退職金の算出方法は一般的に、以下の4つの方法に区分できます。

1. 基本給連動制

基本給連動制は、退職時の基本給を算定基礎額に置いて、そこに勤続年数や退職事由等の係数を掛け合わせて支給額を計算します。

2. 定額制

定額制は、勤続年数のみを考慮して一定額を支給します。

3. ポイント制

ポイント制は、勤続年数や役職、退職事由、人事考課等にポイントを設定し、その総合ポイントとポイント単価を掛け合わせて支給額を決定する方法です。

4. 別テーブル制

別テーブル制は、役職に応じて算定基礎額を設定し、そこに勤続年数や退職事由等の係数を掛け合わせて支給額を計算します。

いずれの場合も、退職金額は勤続年数や退職事由によって変動します。すでに紹介したように、退職金額は勤続年数の長さに比例して高くなるのが一般的です。また、自己都合退職よりも会社都合退職の方が退職金額は高くなります。

退職金の支給時期

退職金は退職後、上記の算出方法で支給額を決定された後に支払われます。支給開始時期の目安としては、1ヶ月~半年くらいを想定しておくとよいでしょう。ただしこの期間は会社によって異なり、「退職金共済」等の中間組織を挟んでいる場合は時間がかかることが多いので注意が必要です。

退職金の支給方法

退職金は主に「一時金受け取り」と「年金受け取り」の2通りの支給方法があります。
一時金受取りは退職金の総額を一度にすべて支給する方法です。
年金受け取りは退職金を「企業年金」として分割して支給する方法です。

先に紹介した退職金制度の種類と対応させると、「退職一時金制度」及び「退職金共済制度」が一時金受け取りに該当します。「確定給付企業年金制度」及び「企業型確定拠出年金制度」が年金受け取りに該当します。

企業によってはこの2つの支給方法を組み合わせ、退職金のうちの一定割合を最初に支給し、残った分を年金として支給していく方式を採用しているところもあります。

転職時の退職金に関する注意点

転職時の退職金に関する注意点

続いては、転職の際に注意するべき退職金の考え方について解説していきます。

そもそも全ての会社に退職金制度があるわけではない

退職金の支払いは、法律で会社に義務づけられているわけではありません。そのため、退職金制度を設けていない企業もあるので注意が必要です。厚生労働省の中央労働委員会による令和3年の調査結果では、退職一時金制度がない企業は10.2%存在します。

この割合は調査対象企業を中小企業に限定するとより顕著です。東京都産業労働局による令和2年の調査では、退職金制度がない中小企業は20.9%存在すると報告されています。

自社の退職金制度の有無について知りたい場合は、就業規則や賃金規定等を確認しましょう。

【参照】厚生労働省「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査(PDF)」詳しくはこちら
【参照】東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)(PDF)」詳しくはこちら

転職時の退職金は想像以上に少ない

前述の通り、基本的に退職金は「勤続年数」と「退職事由」によって大きく左右されます。

勤続年数の面からみると、同じ企業で数年働いた人は定年まで勤めた人よりも支給額は低くなるのが一般的です。したがって、転職によって給与がいくらか上がっても、退職金と合算した場合の生涯収入は期待より低くなる可能性もあるので注意しましょう。

転職の理由がリストラ等の会社都合によるものではなく、自らの希望である場合、退職金の支給額は下がってしまいます。

例外的に退職金がもらえないこともある

退職金制度があっても、支給条件や退職事由によっては退職金がもらえないケースもあります。特に注意が必要なのは、企業が退職金の支給条件に一定の勤続年数(最低勤続年数)を設けている場合です。

厚生労働省による前掲調査をみると、会社都合退職の場合は最低勤続年数を1年未満に設定している企業が55.5%なのに対して、自己都合退職の場合は50.7%の企業が3年以上を最低勤続年数と設定しています。

また、競合他社への転職に対して制限を設けている企業もあり、そうした場合は退職金の額や支給の有無に影響が出る場合もあります。その他、不祥事を起こしたり、就業規則に著しく反する行いをしたりして懲戒免職処分を下された場合は、退職金がもらえないケースも考えられます。

さらに、退職金制度に「企業型確定拠出型年金」を採用している企業から転職する場合にも注意が必要です。転職先の企業も同制度を採用している場合はそのまま移管できますが、そうでない場合は個人型確定拠出型年金(iDeCo)に加入し直さないと積立を継続できなくなります。

【参照】厚生労働省「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査(PDF)」詳しくはこちら

退職金が未払いのトラブル

退職金を巡って、企業と従業員のあいだでトラブルが発生する場合もあります。具体的には、以下のようなケースです。

ケース1:「会社が退職金を支払う能力を喪失してしまった」
企業が倒産したり、著しい業績不振に陥って資金支払い能力がなくなったりした場合、本来もらえるはずの退職金が支払われないケースが起こりえます。

厚生労働省はこうした状況に陥ってしまった労働者に対して、「未払賃金立替払制度」という救済策を用意しています。この制度は、賃金が支払われないまま自社が倒産してしまった労働者に対して、本来支払われるはずだった賃金の一部を行政が立て替え払いしてくれるというものです。

もし自社が倒産してしまい、退職金をもらい損ねてしまった場合は、最寄りの労働基準監督署に相談してこの制度の利用を申請しましょう。

ケース2:「会社との関係が悪化して退職金の支給を拒否された」
企業と従業員の認識の違いによって、退職金の減額や不支給がトラブルに発展する場合があります。例えば、就業規則違反等によって懲戒免職処分を受けて退職した場合等は、こうしたトラブルが多発しやすいです。

厚生労働省によれば、一定の事由があれば、企業が規定の退職金を減額したり不支給したりすることは認められます。しかし、それはあくまでも、該当の労働者がこれまでの功績を帳消しにしてしまうほどの過失を起こしてしまった場合に過ぎません。

つまり、解雇の理由が退職金を支給しないほど重大なものなのかどうかという点が、従業員側と会社側の認識の違いであり、裁判等での争点になります。

退職金の減額や不支給に納得がいかない場合は、最寄りの労働局に相談してみるのがおすすめです。この場合、労働調整委員会による斡旋を受けて労働者と企業のあいだで解決の方途を探ることになるでしょう。

【参考】厚生労働省「退職金不払い」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性」詳しくはこちら

まとめ

退職金は、企業規模別・勤続年数別・業種別にみると平均の金額はさまざまです。また、退職事由も退職金額の多寡や支給の有無を決める大きなポイントだといえるでしょう。

自分の退職金が一般的な相場と比べて多いか少ないかは、これらのデータを基準に判断するとよいでしょう。転職前や、定年退職後の資金計画を考える際は、自分がいくら退職金をもらえるのかしっかり把握しておくことが大切です。

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