親の認知症に備える財産管理方法!メリット・デメリットを徹底比較!

家族が認知症になってしまったとき、その財産をどのように管理すればいいのか不安な人も多いのではないでしょうか。本記事では、「法定後見制度」「任意後見制度」「家族信託」「財産管理委任契約」の紹介を通して、認知症に備えた財産管理方法を解説します。

親の認知症に備える財産管理方法!メリット・デメリットを徹底比較!

高齢者の財産管理の重要性

高齢者の財産管理の重要性

高齢者、特に認知症にかかった人については、次のような観点から財産管理対策を考えることが重要です。

・財産管理が適正にできなくなる
・詐欺などの被害に遭いやすくなる
・相続などの親族トラブルにつながる
・本人の銀行口座が凍結されてしまう

こうした諸問題を予防するには、本人の判断能力がしっかりしているうちに、事前に財産管理の方法について考えることが必要です。

認知症になったときの財産管理の4つの方法

認知症になったときの財産管理の4つの方法

では、家族が認知症になった場合、どのように財産管理をすればよいのでしょうか。その際の選択肢としては、主に以下の4つの方法が考えられます。

1.法定後見制度
本人の判断能力が欠いた状態になった後に、財産管理の後見人を家庭裁判所が選任する制度です。

2.任意後見制度
判断能力があるうちに本人自身で財産管理の後見人を指名し、公正証書によって法的契約を結ぶ方法です。

3.家族信託
判断力があるうちに本人の意思で信託契約を行い、財産を家族に預け、その管理を任せる方法です。

4.財産管理委任契約
判断能力は残っている一方で、身体的な不自由から生活上必要な支払いが困難な場合などに、その代行を第三者に委任する方法です。

【4つの財産管理方法の比較表】

          本人の判断能力の有無 利用方法 法的な監督機関の定め
法定後見制度 不要 家庭裁判所に申請 家庭裁判所
任意後見制度 必要 公正証書で契約 任意後見監督人
家族信託 必要 当事者間で契約(私文書でも可) なし
財産管理等委任契約 必要 当事者間で契約(私文書でも可) なし

判断力が欠く状態の場合は法定後見制度

法定後見制度は、成年後見制度の一つで、判断能力の低下の度合いに応じて3つのタイプがあります。本人の判断能力・認知能力の低下が最も著しい場合は「成年後見」となり、次に「保佐」「補助」と続きます。

成年後見人、保佐人、補助人によって与えられる権限が異なります。代理権、同意権、取消権など与えられた権限の範囲で財産の管理や本人の利益の保護を行います。

法定後見制度のメリット

法定後見制度のメリットは、本人の判断能力が欠く状態になった後に利用できる唯一の制度であることです。また、後見人に取消権があることも大きな利点です。取消権とは、法律行為の取り消しができる権利のことをいいます。これによって、判断能力を欠く本人が、詐欺の被害に遭ったり、不適切な契約・出費をしたりしても事後対応がしやすくなります。

法定後見制度のデメリット

法定後見制度の主なデメリットは、後見人や後見内容が家庭裁判所の判断や制度に縛られ、自由度が低いことが挙げられます。後見人も家庭裁判所が選任した人に限られます。

法定後見制度の利用の流れ

法定後見制度の利用は以下の流れで進めます。

1.家庭裁判所に申し立て
2.家庭裁判所が審理・審判
3.審判の確定および後見登記
4.法定後見事務の開始

判断力があるうちは任意後見制度

任意後見制度も法定後見制度と同様に成年後見制度の一つですが、本人の判断能力が健在ならば、任意後見制度を利用することができます。財産の管理や本人の利益の保護が開始されるのは、本人の判断能力が低下してからですが、本人の意向を反映させやすい制度です。

任意後見制度のメリット

任意後見制度のメリットは、法定後見制度と比べて自由度が高いことです。本人の判断能力があるうちに、後見人や保護内容など多くのことを当事者間で柔軟に決めることができ、公正証書によりその契約に法的な効力を与えられます。

任意後見制度のデメリット

任意後見制度の主なデメリットは、法定後見制度には存在する取消権が認められないことが挙げられます。後述する家族信託や財産管理委任契約と比較すると、手続きが煩雑という点もデメリットでしょう。

任意後見制度の利用の流れ

任意後見制度の利用は以下の流れで進めます。

1.任意後見人受任者の選定・契約内容を決定する
2.公証役場で公正証書によって契約締結
3.判断能力の低下
4.家庭裁判所で任意後見監督人の選任を申し立て
5.任意後見監督人の選任
6.任意後見事務の開始

財産の活用の自由度が高い家族信託

財産の活用の自由度が高い家族信託

財産管理という点では、家族信託も選択肢の一つです。民事信託ともいわれ、家族以外の信頼できる人に財産管理を任せることもできます。
本人の判断能力が低下する前から、財産の管理を任せることができる点も特徴の一つです。

家族信託のメリット

家族信託のメリットは、財産の管理や運用に関する信託内容を自由に決められることです。財産の承継の仕方を指定したり、不動産相続をスムーズにしたりすることもできるので、認知症対策だけでなく、相続対策としても効果的といえるでしょう。

家族信託のデメリット

家族信託のデメリットは、家族に託せる内容が財産管理に関する事項のみに限られることです。受託者が本人に代わって介護施設への入居契約などの療養看護にかかわる法律行為を代行する権利は認められていません。したがって、財産管理以外にも代理権を与えたい場合は、法定後見制度や任意後見制度との併用が必要です。

家族信託利用の流れ

家族信託の利用の流れは以下の通りです。

1.受託者・受益者・信託契約の内容を決定する
2.信託契約書を作成・締結する
3.財産の名義を受託者に移す(不動産の名義変更なども含む)
4.信託による財産管理の開始

認知症の場合には利用しにくい財産管理委任契約

財産管理委任契約とは、身体的な不自由がある場合などに、私的な契約において、支払いの代行などを第三者に委任するものです。本人の判断能力があるうちに第三者に財産管理を託すという点で、財産管理委任契約は任意後見制度と一見似ています。

しかし、財産管理委任契約では判断能力の低下の有無に問わず受託者による財産管理が開始しますが、任意後見制度では判断能力低下後、監督人が選任されてから財産管理が始まる点が異なります。加えて、財産管理委任契約には家庭裁判所による監督がなく、監督の有無による違いもあります。

これらの違いから、財産管理委任契約は任意後見制度と比べ、認知症対策としてはあまり適していません。その理由は、財産管理委任契約の以下の特性によります。

財産管理委任契約のメリット

財産管理委任契約のメリットは、任意後見制度のように法律に準拠せずに委任内容を自由に決定することができる点です。私文書による契約でよいので煩雑な手続きも不要です。

また、任意後見制度と異なり本人の判断能力が低下する前から財産の管理を行うことができます。制度の開始にあたって家庭裁判所への申し立ても不要なので、契約後すぐに利用することができるのもメリットでしょう。

財産管理委任契約のデメリット

上記のようなメリットは、財産管理委任契約には法的な後ろ盾が乏しいということの裏返しでもあります。財産管理委任契約に対応していない金融機関もあり、受任者が何らかの手続きを代行しようとしてもその権利が認められない場合や、本人自身の意思確認を求められる場合があるのです。

したがって、財産管理委任契約は認知症対策としては不安が残ることになります。

また、財産管理委任契約においては、財産を管理する受任者を監督する人がいません。そのため、委任者である財産所有者が認知症になり判断能力が低下した際、受任者の財産管理を適切に監督することができません。このような場合に備えて、任意後見制度も併用するとよいでしょう。

財産管理委任契約の利用の流れ

財産管理委任契約の利用の流れは以下の通りです。

1.受任者・委任内容を決定する
2.委任契約書を作成・締結する
3.財産管理の開始

認知症になったら銀行口座が凍結してしまう?!

認知症になったら銀行口座が凍結してしまう?!

認知症によって本人の判断能力が著しく低下している事実を銀行が知った場合、銀行側で口座取引に制限をかけてしまうことがあります。
従来通りの自動引き落としや振り込みは継続される一方で、契約変更や払い戻しなど、本人の判断能力を要する取引はできなくなることが多いです。この口座凍結状態は基本的に本人(名義人)が亡くなり、相続手続きが完了するまで解除されません。

銀行口座が凍結してしまったときの解決方法

口座取引の制限解除は、いくつかの条件付きで銀行が対応してくれる場合もあります。しかし、こうした柔軟な対応は必ずしも期待できるものではありません。したがって、口座凍結を解除するには、法定後見制度の利用が唯一確実な手段でしょう。

法定後見制度で後見人が選任された場合には、その凍結された口座のみならず本人の財産は全て後見人に管理されることになります。それだけ、本人の判断能力の有無は重要であり、判断能力が低下した場合には後見人の担う役割が大きいということも分かるでしょう。

認知症で銀行口座が凍結される理由

認知症によって銀行が口座凍結措置をするのは、名義者の財産を守るためです。

例えば、本人の判断能力が低下しているのをいいことに、第三者が詐欺などの手法で口座を悪用してしまうかもしれません。たとえ家族であっても、本人の意思確認がないまま自由に口座を利用させてしまっては、後で相続問題などのトラブルに発展してしまう可能性もあります。銀行としても口座凍結はやむを得ない対応といえるでしょう。

認知症になる前にやっておくべきこと

口座取引の制限解除には法定後見制度の利用が解決策になりますが、それも万能の手段ではありません。すでに紹介したように法定後見制度は法的な制限が強いため、本人または親族などの意向を完全に反映できるとは限らないからです。

したがって、認知症になる前、あるいは軽度認知障害の段階で本人の判断能力が十分残っているうちに、任意後見制度や家族信託の利用を検討することをおすすめします。

認知症に備えて財産管理を考えよう!

認知症に備えて財産管理を考えよう!

本人のためにも、家族のためにも、財産管理は認知症になる前から考えるのがベストです。本記事を参考に、本人や家族の意向に適した制度の利用を検討することをおすすめします。

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