みなし贈与とは?贈与税が発生する例や活用したい非課税枠を徹底解説
無償で財産を譲渡していないにも関わらず贈与とみなされる「みなし贈与」は、贈与税の対象となります。この記事では、具体的事例とともにみなし贈与とみなされた場合のペナルティの内容を解説します。贈与税や相続税の負担を減らすための非課税枠も紹介するので、参考にしてみてください。

みなし贈与とは?

みなし贈与とは、民法上の贈与にはあたらなくても、税負担の公平性を保つために「贈与があった」と判断される行為のことです。当事者に贈与のつもりがあるかどうかに関わらずみなし贈与と判断される場合は、一般的な贈与と同様に贈与税の課税対象となります。
有償で相手に財産を提供した場合でも、極端に安い価格で取引をしたり、相続税や贈与税の負担を軽減させるために相手が有利になるような取引をしたりすると、みなし贈与と判断されるでしょう。場合によっては、ペナルティとして贈与税に加えて追徴課税が課される可能性があります。
「みなし贈与」と「贈与」の違い

本来、贈与とは財産の全部または一部を「無償で」譲渡する行為です。現金や不動産をはじめ、自動車や家財、株券などの有価証券、著作権などの権利も対象です。
一方、みなし贈与とは、財産を「有償で」提供しているにもかかわらず贈与とみなされる行為です。典型的な例として、極端に安い価格で相手へ財産を譲り渡す行為が該当します。
例えば、本来は1億円の価値がある財産を相手へ1円で譲った場合を例にあげましょう。無償で相手へ財産を譲渡することだけが贈与にあたるのなら、この例では贈与に該当しないので贈与税が発生しません。
しかし、この方法で贈与税が避けられるのなら、誰もが同様の手段で課税を免れるようにするでしょう。また、きちんと納税している人からすると、不公平になるのはいうまでもありません。
このようなことを防ぐためにも、みなし贈与によって贈与税の課税となる行為対象を広くしているのです。
みなし贈与が発生する具体的な事例

それでは、実際にどんなケースでみなし贈与と判断されるのでしょうか。代表的な例を紹介します。
極端に安い価格で財産の一部を相手に提供した場合
先述のとおり、本来の価格と比較して極端に安い価格で財産の全部または一部を相手へ譲渡すると、みなし贈与と判断されます。「極端に安い」といえる目安は、時価の80%を下回るくらいと考えればよいでしょう。時価の80%より低い価格での譲渡は、みなし贈与と判断される場合があります。
借金を免除してもらった場合
相手にお金を貸していて、その返済を免除してあげた場合、債務免除行為がみなし贈与と判断される可能性があります。また、家族の借金(住宅ローン・奨学金など)を肩代わりした場合も、みなし贈与と判断される可能性があるため、注意をする必要があります。
離婚による財産分与でいずれかが取得した割合が多過ぎる場合
離婚による財産分与の場合には、基本的に贈与税がかかることはありません。これは、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産は夫婦共有の財産と考え、財産分与は夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のために行われます。
相手方から贈与を受けたものではなく、財産分与請求権に基づき二人のものを分けたといえるのです。
しかし、離婚による財産分与においても、夫・妻いずれかが取得する財産の割合が多過ぎると「みなし贈与があった」と判断される場合があります。婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額など諸般の事情を考慮して、財産分与をおこないましょう。
自宅の名義変更をした場合
親が所有する自宅の名義を、無償で子に変更した場合もみなし贈与と判断されます。名義変更することによって、自宅の所有権が親から子へ移った(贈与された)と判断されるためです。
このほか、中小企業が事業承継のために後継者に対し、非上場株式を無償で譲渡するような場合もみなし贈与とみなされます。事業承継において株式の承継が必要ですが、無償で株式を承継する行為は「財産が贈与された」と判断されるためです。

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もし申告しなかったらどうなる?

みなし贈与にあたる行為をしたにも関わらず、申告をしなかった場合はペナルティの対象となります。財産の譲渡がみなし贈与にあたるかどうか判断できないときは、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。なお、みなし贈与にあたらない場合は、税務署への申告は不要です。
通常は贈与税がかかる
みなし贈与にあたると判断される場合は、通常の贈与と同じ扱いになります。すなわち、基礎控除の110万円を超える金額に対して贈与税を支払わなくてはなりません。
贈与税の税率は贈与金額の10~55%で、贈与金額が大きいほど税率も上がります。
一般税率
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例税率(※1)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
※1:18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合
例えば、26歳の子が父から500万円の贈与を受けたケースでは、以下のような計算式になります。
基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税額の計算 390万円×15%-10万円=48.5万円
【参照】国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」詳しくはこちら
申告漏れは追徴課税される
みなし贈与に該当するにもかかわらず、贈与税の申告期限を過ぎても申告しなければ「申告漏れ」と判断され、追徴課税の対象となります。申告期限は、贈与があった翌年2月1日から3月15日までの期間です。ただし、申告期限を過ぎても、税務署から指摘を受ける前に申告すれば指摘を受けた後で申告するよりも税率は軽く済みます。
追徴課税とは、本来納めるべき贈与税に加えて、ペナルティとして延滞税や無申告加算税、重加算税が課せられることです。さらに、意図的な無申告・過少申告など悪質な隠ぺいがあった場合は、刑事罰の対象となる可能性もあります。

【税制改正対応】贈与税申告が必要なのはどんなとき?申告手順も解説
税務署が「申告漏れ」を見つけるきっかけ
では、税務署はどのようにして「申告漏れ」を見つけ出すのでしょうか。
みなし贈与が判明する主な原因としてあげられるのが、税務署から送られる「お尋ね」というアンケートです。このアンケートには複数の項目があり、一例として不動産の名義変更が発生した場合に「どのように資金調達したか」を聞かれます。このときの回答を参考にして、税務署がみなし贈与を察知している可能性があるのです。なお、不動産の名義が変更された場合には、法務局から税務署に通知がなされます。そのため、税務署は不動産の所有者が変更したことを把握しています。
その他、相続税の税務調査時にみなし贈与が判明する場合もあるでしょう。なぜならば、被相続人から相続人への財産の流れをチェックする過程で、被相続人が生前に相続人に対して財産を渡した内容もチェックされることがあるためです。
贈与税は特に申告漏れが多いことから、税務署もその調査に注力していると考えられます。
みなし贈与にならないための対策方法

贈与税の非課税枠以外にも、さまざまな非課税枠を活用することによって、税負担を軽減させることができます。どのような非課税枠が存在するかチェックして、みなし贈与となるリスクを減らしましょう。
贈与税には暦年(1月1日~12月31日)ごとに110万円までの基礎控除があり、110万円までは贈与を受けても課税されません。例えば、300万円の贈与を受けたときは基礎控除110万円を引いた190万円が課税対象です。
注意しなければいけないのは、基礎控除の110万円は贈与を行った金額ではなく、1年間に贈与を受けた金額の合計額だということです。さらに、別の人から贈与を受けた場合も、合算しなくてはなりません。
多額の贈与をしたいときには、贈与税の基礎控除を利用して、複数年にわたって110万円以下の贈与を行う方法(暦年贈与)があります。ただし、税務署に暦年贈与であることを認めてもらうためには、年ごとの贈与が別の贈与であることを明確にしなくてはなりません。「毎年(定期的に)」「同じ人から」「同じ金額が」「同じ時期に」贈与されていると定期贈与としてみなされ、課税対象となる可能性があります。また、不動産の部分的な贈与の場合はその都度登記を書き換える必要があります。
【参照】国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」詳しくはこちら

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相続時精算課税の特別控除
相続時精算課税制度は、生前贈与の際には軽減された贈与税を支払い、相続時に精算する制度です。相続時精算課税制度には2,500万円の特別控除があり、2,500万円までは贈与税がかかりません。また、限度額に達するまで何度でも控除が可能です。ただし、相続時には、相続時精算課税制度を利用した受贈分も含めて、相続税額を計算することになります。
相続時精算課税制度を利用するには以下の条件があります。
・60歳以上の父母または祖父母が贈与者であること
・18歳以上の子・孫が受贈者であること
相続時精算課税制度は、一度選択をすると暦年課税制度に変更することはできません。なお、これまで相続時精算課税制度を選択した際には贈与税の基礎控除110万円を併用することはできませんでしたが、2024年1月以降の贈与に関しては、毎年110万円までの基礎控除を利用できることになります。
【参照】国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」詳しくはこちら

相続時精算課税制度とは?手続き方法やメリット・デメリットを解説
住宅取得資金の贈与における非課税枠
子供・孫が親や祖父母からマイホームの購入やリフォームにかかる資金の贈与を受けた場合、最大1,000万円(震災特例法に該当する場合は1,500万円)まで非課税にできます。これを住宅取得資金の贈与における非課税枠といいます。
ただし、適用するためには所轄の税務署にて別途手続きが必要です。また、非課税枠は住宅の種類や契約時期によって異なるので注意しましょう。2023(令和5)年1月現在、2023(令和5)年12月31日まで非課税措置を受けられます。
【参照】財務省「税制改正の概要」詳しくはこちら

住宅取得資金の贈与は課税される?非課税になるケースや注意点を解説
結婚や子育てにおける資金贈与の非課税枠
18歳(※)以上50歳未満の子供や孫に対し、親や・祖父母が結婚・子育ての費用を贈与する場合、子供や孫1人につき最大1,000万円(結婚に関する資金については300万円が限度)までは非課税にできます。
ただし、適用するためには金融機関などとの間で別途契約手続きが必要です。契約期間終了などの時点で贈与金に残高がある場合、その残高に対して課税がなされます。2023(令和5)年1月現在の非課税制度については、2023(令和5)年3月31日まで利用が可能です。もっとも、既に閣議決定された税制改正の内容によると、当該非課税制度は、所要の見直しがなされた上で、2025(令和7)年3月31日までの2年間が延長されることになっています。
※2022(令和4)年3月31日以前の贈与については、「20歳」となります。
【参照】内閣府「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について ※PDF」詳しくはこちら
【参照】総務省「令和5年度税制改正の大綱 ※PDF」詳しくはこちら

結婚資金の贈与は300万円まで?概要と非課税枠について解説
夫婦間贈与の非課税枠
婚姻期間20年以上の夫婦間では、居住用の住宅の贈与は2,000万円まで非課税になります。ただし、贈与の翌年の3月15日までに住み始めなくてはなりません。
また、夫婦には互いに扶養義務があるため、生活費・教育費のやりとりも非課税です。とはいえ、目的外の使用をすると課税される可能性があるので注意しましょう。
【参照】国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」詳しくはこちら

夫婦間贈与を非課税にする方法は?贈与税の対象や特例について解説!
教育資金の一括贈与における非課税枠
30歳未満の子供・孫に対し、親や祖父母が教育を受けるための資金を贈与する場合、最大1,500万円(学習塾など学校と見なされないものに対して支払う資金については500万円)までは非課税にできます。
ただし、適用するためには金融機関などとの間で別途契約手続きが必要です。また、契約期間終了などの時点で贈与金に残高がある場合、その残高に対して課税がなされます。2023(令和5)年1月現在の非課税制度については、2023(令和5)年3月31日まで利用が可能です。既に閣議決定された税制改正の内容によると、当該非課税制度は、所要の見直しがなされた上で、2026(令和8)年3月31日までの3年間が延長されることになっています。
【参照】国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」詳しくはこちら
【参照】総務省「令和5年度税制改正の大綱 ※PDF」詳しくはこちら

教育資金贈与の非課税制度の改正内容とは?特例の注意点もご紹介
専門家へ相談する
家族間でまとまったお金をやりとりする場合や、不動産購入時、金銭の貸し借りをする際など、みなし贈与に該当するケースは少なくありません。法律の専門家でない限り、正確にみなし贈与に該当するか否かの判断をすることは困難です。
そのため、基礎控除を超えるような年間110万円以上の贈与をする場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。万が一、みなし贈与と判断されてしまった場合、脱税の意思がなかったとしても、追徴課税が課され、本来支払うべき税金よりも高額の税金を支払わなければならない事態になりかねません。

相続の相談は誰にする?弁護士、税理士、司法書士、信託銀行で比較!
まとめ
有償で相手へ財産の一部を提供するときも、みなし贈与と判断され贈与税の対象となる場合があります。仮に、贈与税や相続税の負担を軽減させるための故意の贈与でなかったとしても、判断は税務署に委ねられています。
みなし贈与に当たる行為に気づかずに申告しなかった場合、高額な追徴課税がなされる可能性もあるでしょう。
贈与税の基礎控除や相続時精算課税制度、マイホーム取得、結婚・子育て、教育については非課税枠が設けられているので、うまく活用しましょう。ケースバイケースで判断する必要があるため、専門家に相談するのがおすすめです。
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