みなし贈与とは?贈与税が発生する例や活用したい非課税枠を徹底解説

無償で財産を譲渡していないにも関わらず贈与とみなされる「みなし贈与」は、贈与税の対象となります。この記事では、具体的事例とともにみなし贈与とみなされた場合のペナルティの内容を解説します。贈与税の負担軽減や相続対策になる非課税枠も紹介するので、参考にしてみてください。

みなし贈与とは?贈与税が発生する例や活用したい非課税枠を徹底解説

みなし贈与とは?

みなし贈与とは?

みなし贈与とは、民法上の贈与にはあたらなくても、税負担の公平性を保つために「贈与があった」と判断される行為のことです。当事者に贈与のつもりがあるかどうかに関わらず、みなし贈与と判断される場合があり、一般的な贈与と同様に贈与税の課税対象となります。

みなし贈与と判断される例としては、極端に安い価格で相手に財産を提供する場合です。相続税や贈与税の負担を軽減させるために、相手が有利になるような取引をしたりする場合も当てはまります。場合によっては、ペナルティとして贈与税に加えて追徴課税が課される可能性があります。

「みなし贈与」と「贈与」の違い

「みなし贈与」と「贈与」の違い

本来、贈与とは財産の全部または一部を「無償で」譲渡する行為です。現金や不動産をはじめ、自動車や家財、株券などの有価証券、著作権などの権利も対象です。
一方、みなし贈与とは、財産を「有償で」提供しているにも関わらず、贈与とみなされる行為です。典型的な例として、極端に安い価格で相手へ財産を譲り渡す行為が該当します。

例えば、1億円の価値がある財産を相手へ1円で譲った場合です。無償で相手へ財産を譲渡することだけが贈与にあたるのなら、この例では贈与に該当しないので贈与税が発生しません。

しかし、この方法で贈与税が避けられるのなら、誰もが同様の手段で課税を免れるようにするでしょう。また、きちんと納税している人からすると、不公平になるのはいうまでもありません。

このようなことを防ぐためにも、みなし贈与によって贈与税の課税となる行為対象を広くしているのです。

みなし贈与が発生する具体的な事例

みなし贈与が発生する具体的な事例

それでは、実際にどんなケースでみなし贈与と判断されるのでしょうか。具体的な例を紹介します。

財産を無償で譲渡した場合

不動産や株式などを無償で譲渡した場合、贈与の意図がなくてもみなし贈与と判断されます。
家を親から譲り受けたり、高額な財産、株式の権利を受け継いだ場合もみなし贈与に該当する可能性が高いです。

このほか、中小企業が事業承継のために後継者に対し、非上場株式を無償で譲渡するような場合もみなし贈与とみなされます。事業承継において株式の承継が必要ですが、無償で株式を承継する行為は「財産が贈与された」と判断されるためです。

また、一時的にお金を預けたという場合も、贈与でもらった場合と見分けがつかなくなり、贈与と判断されてしまう可能性があります。
介護などで自分の財産を第三者に管理してもらう時など、お金を預けているだけの場合は、その事実を書面などで残して証明出来るようにしましょう。

極端に安い価格で財産の一部を相手に提供した場合

先述のとおり、本来の価格と比較して極端に安い価格で財産の全部または、一部を相手へ譲渡すると、みなし贈与と判断されます。
親が子供に不動産や株式を市場価格よりも大幅に安い価格で売却した場合、その差額がみなし贈与とされることがあります。

「極端に安い」といえる目安は、時価の80%を下回るくらいと考えればよいでしょう。

借金を免除してもらった場合

相手にお金を貸していて、その返済を免除してあげた場合、債務免除行為がみなし贈与と判断される可能性があります。また、家族の借金(住宅ローン・奨学金など)を肩代わりした場合も、みなし贈与と判断される可能性があるため、注意をする必要があります。

自宅の名義変更をした場合

親が所有する自宅の名義を、無償で子に変更した場合もみなし贈与と判断されます。名義変更することによって、自宅の所有権が親から子へ移転した(贈与された)と判断されるためです。

生命保険の名義変更をした場合

生命保険の契約者を配偶者や子に変更すると、保険金を受け取る際にみなし贈与と判断される可能性があります。
贈与税が課税対象となるかは「誰が保険料を払って」「誰が保険金を受け取るのか」が判断基準になります。

生命保険は、一定期間保険料を支払った後、解約や満期を迎えると返戻金や保険金が受け取られます。このため、生命保険の名義変更を行い、保険料を負担していない人が保険金を受け取った場合に贈与税の課税対象となります。

離婚による財産分与でいずれかが取得した割合が多過ぎる場合

離婚による財産分与の場合には、基本的に贈与税がかかることはありません。これは、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産は夫婦共有の財産と考え、財産分与は夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のために行われます。
相手方から贈与を受けたものではなく、財産分与請求権に基づき二人のものを分けたといえるのです。

しかし、離婚による財産分与においても、夫・妻いずれかが取得する財産の割合が多過ぎると、みなし贈与があったと判断される場合があります。婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額など、諸般の事情を考慮して、財産分与を行いましょう。

みなし贈与にならないための対策方法

みなし贈与にならないための対策方法

贈与税においては、さまざまな非課税枠を活用することによって、税負担を軽減させることができます。どのような非課税枠が存在するかチェックして、みなし贈与となるリスクを減らしましょう。

暦年贈与の基礎控除110万円

暦年贈与(暦年課税制度を利用した贈与)とは、一人につき1年間に贈与された財産が110万円以下であれば、贈与税がかからないという仕組みを活用した生前贈与の通称です。多額の贈与をしたい時には、暦年贈与の基礎控除を利用して、複数年にわたって110万円以下の贈与を行うことができます。

ただし「毎年(定期的に)」「同じ人から」「同じ金額が」「同じ時期に」贈与されていると定期贈与としてみなされ、課税対象となる可能性があります。税務署に暦年贈与であることを認めてもらうためには、年ごとの贈与が別の贈与であることを明確にしなくてはなりません。また、不動産の部分的な贈与の場合はその都度登記を書き換える必要があります。

【参考】国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」詳しくはこちら

相続時精算課税の特別控除2,500万円

相続時精算課税制度は、生前贈与の際には軽減された贈与税を支払い、相続時に精算する制度です。相続時精算課税制度には2,500万円の特別控除があり、2,500万円までは贈与税がかかりません。限度額に達するまで何度でも控除が可能です。ただし、相続時には、相続時精算課税制度を利用した受贈分も含めて、相続税額を計算することになります。

相続時精算課税制度を利用するには以下の条件があります。

・60歳以上の父母または祖父母が贈与者であること
・18歳以上の子・孫が受贈者であること

相続時精算課税制度は、一度選択をすると暦年課税制度に変更することはできません。そのため、これまで相続時精算課税制度を選択した際には、贈与税の基礎控除110万円を併用することはできませんでした。

しかし、2024年1月以降の相続時精算課税制度を利用した贈与に関しては、基礎控除が新設され、同額の毎年110万円まで基礎控除を利用することが出来ることになります。

【参考】国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」詳しくはこちら

住宅取得資金の贈与における非課税枠

子供・孫が親や祖父母からマイホームの購入や、リフォームにかかる資金の贈与を受けた場合、最大1,000万円(震災特例法に該当する場合は1,500万円)まで非課税にできます。これを「住宅取得資金の贈与における非課税枠」といいます。

ただし、適用するためには所轄の税務署にて別途手続きが必要です。非課税枠は住宅の種類や契約時期によって異なるので注意しましょう。2023(令和5)年1月現在、2023(令和5)年12月31日まで非課税措置を受けられます。

【参考】財務省「税制改正の概要」詳しくはこちら

結婚や子育てにおける資金贈与の非課税枠

みなし贈与にならないための対策方法

18歳(※)以上50歳未満の子供や孫に対し、親や・祖父母が結婚・子育ての費用を贈与する場合、子供や孫一人につき最大1,000万円(結婚に関する資金については300万円が限度)までは非課税にできます。

適用するためには金融機関などとの間で、別途契約手続きが必要です。契約期間終了などの時点で贈与金に残高がある場合、その残高に対して課税がなされます。

2023(令和5)年1月現在の非課税制度については、2023(令和5)年3月31日まで利用が可能です。もっとも、既に閣議決定された税制改正の内容によると、当該非課税制度は、所要の見直しがなされたうえで、2025(令和7)年3月31日までの2年間が延長されることになっています。
※2022(令和4)年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

【参考】内閣府「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について ※PDF」詳しくはこちら
【参考】総務省「令和5年度税制改正の大綱 ※PDF」詳しくはこちら

夫婦間贈与の非課税枠

婚姻期間20年以上の夫婦間では、居住用の住宅の贈与は2,000万円まで非課税になります。これを「おしどり贈与の特例」といいます。

住宅を取得するための費用も対象となり、暦年贈与の非課税枠110万円と合わせると、2,110万円を非課税にすることができます。
ただし、贈与の翌年の3月15日までに住み始めなくてはなりません。おしどり贈与の特例を適用して贈与税がかからなくても、申告は必要なので注意しましょう。

また、夫婦には互いに扶養義務があるため、生活費・教育費のやりとりも非課税です。とはいえ、目的外の使用をすると課税される可能性があります。

【参考】国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」詳しくはこちら

教育資金の一括贈与における非課税枠

30歳未満の子供・孫に対し、親や祖父母が教育を受けるための資金を贈与する場合、最大1,500万円(学習塾など学校と見なされないものに対して支払う資金については500万円)までは非課税にできます。

ただし、適用するためには金融機関などとの間で別途契約手続きが必要です。また、契約期間終了などの時点で贈与金に残高がある場合、その残高に対して課税がなされます。

2023(令和5)年1月現在の非課税制度については、2023(令和5)年3月31日まで利用が可能です。既に閣議決定された税制改正の内容によると、当該非課税制度は、所要の見直しがなされたうえで、2026(令和8)年3月31日までの3年間が延長されることになっています。

【参考】国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」詳しくはこちら
【参考】総務省「令和5年度税制改正の大綱 ※PDF」詳しくはこちら

みなし贈与のペナルティ

みなし贈与のペナルティ

みなし贈与にあたると判断される場合は、通常の贈与と同じ扱いになります。すなわち、基礎控除の110万円を超える金額に対して、贈与税を支払わなくてはなりません。
贈与税の税率は贈与金額の10~55%で、贈与金額が大きいほど税率も上がります。

一般税率

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

特例税率(※1)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

※1:18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合

例えば、26歳の子供が父親から500万円の贈与を受けたケースでは、以下のような計算式になります。

基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円
贈与税額の計算 390万円×15%(特例税率)-10万円=48.5万円

【参考】国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」詳しくはこちら

みなし贈与にあたる行為をしたにも関わらず、申告をしなかった場合はペナルティの対象となります。
贈与税の申告期限(贈与があった翌年2月1日から3月15日まで)を過ぎても申告しなければ「申告漏れ」と判断され、追徴課税の対象となります。ただし、申告期限を過ぎても、税務署から指摘を受ける前に申告すれば、指摘を受けた後で申告するよりも税率は軽く済みます。

追徴課税とは、本来納めるべき贈与税に加えて、ペナルティとして延滞税や無申告加算税、重加算税が課せられることです。さらに、意図的な無申告・過少申告など悪質な隠ぺいがあった場合は、刑事罰の対象となる可能性もあります。

財産の譲渡がみなし贈与にあたるかどうか判断できない時は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。なお、非課税枠を利用してみなし贈与にあたらない場合でも、手続きや申告が必要な場合があります。

税務署が「申告漏れ」を見つけるきっかけ

では、税務署はどのようにして贈与税の「申告漏れ」を見つけ出すのでしょうか。

みなし贈与が判明する主な原因としてあげられるのが、税務署から送られる「お尋ね」というアンケートです。
このアンケートには複数の項目があり、一例として不動産の名義変更が発生した場合に「どのように資金調達したか」を聞かれます。この時の回答を参考にして、税務署がみなし贈与を察知している可能性があるのです。

なお、不動産の名義が変更された場合には、法務局から税務署に通知がなされます。そのため、税務署は不動産の所有者が変更したことを把握しています。

その他、相続税の税務調査時にみなし贈与が判明する場合もあるでしょう。なぜならば、被相続人から相続人への財産の流れをチェックする過程で、被相続人が生前に相続人に対して財産を渡した内容もチェックされることがあるためです。

贈与税は特に申告漏れが多いことから、税務署もその調査に注力していると考えられます。

まとめ

無償の時だけでなく有償で相手へ財産の一部を提供する時も、みなし贈与と判断され贈与税の対象となる場合があります。仮に、贈与税や相続税の負担を軽減させるための故意の贈与でなかったとしても、判断は税務署に委ねられています。
みなし贈与に当たる行為に気づかずに申告しなかった場合、高額な追徴課税がなされる可能性もあるでしょう。

贈与税の基礎控除や相続時精算課税制度、マイホーム取得、結婚・子育て、教育については非課税枠が設けられているので、うまく活用しましょう。ケースバイケースで判断する必要があるため、不安がある方は、専門家に相談するとよいでしょう。

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