後見人・保佐人・補助人の違いとは?役割や権限の違いをわかりやすく解説!

成年後見人制度の保護者には、後見人・保佐人・補助人の3種類があり、付与される権限も異なります。判断能力が低下した場合、判断能力のレベルによりどの類型の保護者(後見人、保佐人又は補助人)を選任するかを裁判所が判断しますが、利用にあたって理解を深めておきましょう。

後見人・保佐人・補助人の違いとは?役割や権限の違いをわかりやすく解説!

成年後見制度における後見人・保佐人・補助人の違い

成年後見制度における後見人・保佐人・補助人の違い

成年後見制度における保護者である「後見人・保佐人・補助人の違い」について知る前に、すべての保護者に共通することとして、以下のような点が挙げられます。

・本人の判断能力の程度に応じて、取消権・同意権・代理権などの権限が付与される
・保護者の選任等は、裁判所の審判でなされ、保護者による保護が開始する(家庭裁判所に対する申し立てのうち、一部の申し立てについては本人の同意が必要です)
・民法で定められている所定の行為を取り消す権限が付与されるものの、日常生活のことは取消し不可
・本人の意思を尊重する判断が求められる

それぞれの違いについては、以下の表をご覧ください。

保護者(後見・保佐・補助)の相違点

        後見人   保佐人   補助人  
◆同意権・取消権 取消権のみ あり 申し立てにより可能
保護者が持つ権限の範囲 日常生活以外の行為 民法第13条1項の所定行為すべて 民法第13条1項に列挙された行為のうち、裁判所が認めたもの
権限付与の手続き 審判により開始 審判により開始 審判+本人の同意により開始
◆代理権の付与 あり 申し立てにより可能 申し立てにより可能
代理人が持つ権限の範囲 財産に関する法律行為 申し立ての中で裁判所が認める特定の法律行為 申し立ての中で裁判所が認める特定の法律行為
権限付与の手続き 審判により開始 審判+本人の同意により開始 審判+本人の同意により開始
本人の意思の尊重責務 あり(民法第858条) あり あり

成年後見制度は判断能力が低下した本人の財産を適切に管理したり、不当な契約を防いだりするために利用されます。なお、制度について説明する際に使われる被後見人などの「被~」とつく用語は、サポートを受ける本人のことです。

法律行為の全てを行える後見人

後見人は、普段から判断能力が全く望めない被後見人に代わって、財産管理や生活で必要なことを代行します。主にやることは、日用品の購入費用の管理や必要な契約、治療・入院といった緊急時の対応などです。必要なら終末期の準備も含みます。

これらを行うのに必要な権限が後見人に与えられます。分かりやすいイメージとして、物事の適切な判断ができない小さな子どものために、必要なことを親が代わりにしている状態に例えられるでしょう。

慎重な判断のサポートを行う保佐人

保佐人は、判断能力が著しく不十分な被保佐人に代わって、特に金銭の借入や訴訟行為、重要な財産に関する契約など慎重な判断が求められる状況をサポートします。

そのため、取消権と同意権の2つの権限が与えられます。裁判所が認める範囲で代理権も付与されることがあります。中学生の子どもを保護する親をイメージすると分かりやすいでしょう。日常生活は一人でも問題ありませんが、重要な契約には親の助けが必要です。

保護者のような役割を担う補助人

補助人は、被補助人の判断能力が不十分であると認められる場合に選任されます。日常生活を送る上ではあまり支障がないため、補助の開始には被補助人の同意が必要です。
補助人の権限として、裁判所から特定の法律行為について、取消権・同意権、場合によっては代理権も与えられますが、いずれにしても補助人の権限は限られたものです。高校生くらいの未成年のようなイメージで、ある程度正しい判断ができますが賃貸契約などには親の同意が求められるのと似ています。

成年後見制度でできること

成年後見制度でできること

成年後見制度で保護者に付与される3つの権限の意味や、どの保護者にどの程度の権限が与えられるかを解説します。

重要な財産に関する行為への同意権

同意権とは、民法13条1項に定められている法的な手続きや不動産などの財産の購入などをするとき、本人の意思決定に加えて、代理人の同意を要するというものです。
保佐人は、民法13条1項で定められていることすべてに関して、同意権を持っています。重要な手続きをする場合、保佐人が本人に同行して行うことが多いです。

補助人にも必要に応じて同意権が一部与えられ、難しい手続きをサポートします。補助人に与えられる同意権は、家庭裁判所で審判され、認められたもののみに行使できます。

なお、後見人には同意権よりもさらに大きな権限である代理権を持つため、同意権はありません。被後見人は法律行為を一切できなくなるため、同意すること自体不要になるのです。

いずれの場合においても、保護者には、本人の意思を尊重するような判断をする責任が求められます。

民法13条1項で定められていることは、以下の通りです。

一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

出典 明治二十九年法律第八十九号 民法

簡単にまとめると、以下のような内容になります。
・お金の貸し借り、連帯保証の契約
・住宅の売却や改築、大幅な修繕
・訴訟行為
・和解、贈与契約
・財産分与の権利の放棄
・賃貸住宅の契約

上記の行為をする場合、本人だけで相手方とやりとりを行うと、本人に不利な結果が生じる可能性があるため、保護者が同席するなどの対応が必要になることが多いです。

誤った判断を行った場合の取消権

本人が保護者の同意なく単独で契約したものなどをあとから取り消せる権限のことです。取り消せる範囲は、保護者の種類によって異なります。

後見人の場合は、本人に関係する全部の法律行為を取り消せますが、日常生活に関わる行為は取り消せません。
保佐人の場合は、民法13条1項に定められている事項の取消権があります。また、記載以外の行為でも申し立てをして、家庭裁判所が同意権を付与した事項については、取消権が付与されることがあります。
補助人の場合は、民法13条1項のうち、家庭裁判所が同意権を認めた事項に限り、権限が付与されます。

家庭裁判所の審判により行使できる代理権

後見人には、本人の代わりにすべての法律行為を実行できる代理権が付与されます。本人の同席や委任状なしでも、家庭裁判所の監督下で後見人自身の名前、印鑑を使って本人のために重要な手続きを行います。
例えば、福祉サービスの契約や相続手続き、預貯金の解約などを本人の代わりに行うことが可能です。一方、被後見人は法律行為を一切できなくなります。

保佐人と補助人の場合、サポートされる本人には判断能力がそれなりに残っている状態のため、できる範囲のことは本人が行うことになります。代理権は、申し立てにより付与されることもありますが、本人が同意し、家庭裁判所が認める行為の範囲内に限られます。

判断能力はどのレベル?後見人・保佐人・補助人の選定基準

判断能力はどのレベル?後見人・保佐人・補助人の選定基準

どの保護者が選任されるかは、本人の判断能力がどれくらい低下しているかによって変わります。判断能力を評価するためには家庭裁判所の書式での医師の診断書が必要です。

かかりつけ医など本人をよく知る医師が診断を行い、診断書にチェックを入れていきます。チェック項目の主な内容は、本人が財産を管理・処分できるかどうかというものです。

イメージしやすいように簡単にいうと、
・自分で管理も処分もできない場合は、後見相当
・サポートがいる場合は、保佐相当
・一部の行為にサポートがいる場合があるなら補助相当
という判断になります。

成年後見制度の3類型比較表に照らし合わせると
・常に判断能力を欠く場合は後見相当
・著しく不十分な場合は保佐相当
・不十分な場合は補助相当
という分類になっています。

本人がどれに当てはまるかによって提出すべき書類も異なります。

成年後見制度を利用する時の流れ

成年後見制度を利用する時の流れ

成年後見制度を利用する際は、居住地を管轄する家庭裁判所に申し立ての手続きが必要です。書類を準備して提出した後に審判が行われ、保護者が選出されます。

必要な書類

必要書類として以下のものが求められます。

・申立書
・本人の戸籍謄本
・本人および代理人候補者の住民票または戸籍附票
・親族関係図
・医師による診断書
・健康状態に関係する資料(介護保険認定書、障害者手帳などの写し)
・財産関係の資料(預貯金通帳写し、不動産関係書類、ローン契約書写しなど)
・収支関係の資料(給与明細、確定申告書、家賃・地代領収書、納税証明書、介護保険料の決定通知書など)
・成年後見人などの登記がされてないことの証明書
・本人情報シートの写し
・契約書写しなど、同意権や代理権を要する行為

出典 

申し立て方法

後見・保佐・補助開始等申立書に、申し立て理由や必要事項を書き込みます。裁判所の公式ウェブサイトなどでダウンロードして入手してください。戸籍や住民票は、市役所、登記の証明書は法務局で入手できます。発行書類は直近3ヶ月以内のものを提出してください。

申し立てができるのは、本人以外に配偶者、4親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人・保佐人・後見人やその監督人、検察官、市区町村長です。任意後見契約をしている場合、任意後見人、任意後見受任者、任意後見監督人も申し立てられます。

裁判所に払う手数料(収入印紙800円分、権限の拡張・付与がある場合は加算あり)、本人の能力を確認する鑑定費用(5~20万)などがかかります。基本的には申し立てをした人が一旦は費用を負担しますが、裁判所の審判の結果、最終的に本人負担になることが多いです。なお、補助を開始したい場合は、本人の同意が必要です。

申し立ての準備が整ったら、書類を家庭裁判所に提出してください。

サポート後の対応

成年後見制度が開始されたら、保護者は家庭裁判所に年に1回定期報告をする必要があります。提出時期が近づいてきても特に通知は来ないため、自主的に忘れずに提出しなければなりません。
定期報告では、前年の財産・収支状況の変化を記載するため、提出する前に後見等事務報告書、財産目録を必ずコピーしておいて、来年の提出に備えましょう。書式が変更されることもあるので、必ず毎年最新のものかを確認してください。

後見人・保佐人・補助人やその監督人が申し立てをした場合、本人の財産から報酬を支払われることもあり、報酬額は裁判所が決定します。
報酬額は、管理する財産の額にもよりますが、一般の人が後見人になった場合は大体月額1万~2万円ほど、財産管理の代理権がある場合や司法書士や弁護士など専門家が後見人になった場合は月額3万~7万円ほどが目安です。家族が後見人を務める場合は、報酬に関する申し立てをせずに無報酬で行うこともあります。

後見人・保佐人・補助人の中で適切な人に支援してもらおう

後見人・保佐人・補助人の中で適切な人に支援してもらおう

どの保護者が適切かは、本人の判断能力がどれくらいあるかで変わってきます。身の回りのことが大体できるなら保佐人や補助人にサポートしてもらえるでしょう。重い認知症などで一切の判断能力が期待できない場合は、後見人に代理で契約や財産管理をしてもらうことになるでしょう。
いずれにしても、申立書や医師の診断書、その他必要な書類をそろえて裁判所に提出することで、審判により適切な保護者を選任してもらえます。

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