後見人・保佐人・補助人の違いとは?役割や権限を分かりやすく解説!

成年後見人制度の支援者には、後見人・保佐人・補助人の3種類があり、付与される権限も異なります。後見人・保佐人・補助人の選定は、家庭裁判所が要支援者の判断能力をもとに行います。どの種類がどのようなサポートができるか、利用にあたって理解を深めておきましょう。

後見人・保佐人・補助人の違いとは?役割や権限を分かりやすく解説!

成年後見制度における後見人・保佐人・補助人の特徴

成年後見制度における後見人・保佐人・補助人の特徴

成年後見制度は判断能力が低下した本人の財産を適切に管理したり、不当な契約を防いだりするために利用されます。「後見人」・「保佐人」・「補助人」は成年後見制度で支援を行う人のことで、権限の違いによって区別されます。なお、サポートを受ける人は「被後見人」のように「被~」と表されます。

「後見人・保佐人・補助人の違い」について知る前に、すべての支援者に共通することを理解しておきましょう。3種類の共通する特徴は次の通りです。

・要支援者の判断能力の程度に応じて、契約の取り消しや、要支援者に代わって契約を結ぶことなどができる
・支援者の選任や種類決定などは、家庭裁判所の審判で決まる
・成年後見制度の利用を始めると、基本的に利用をやめることができない
・支援者は要支援者の意思を尊重する判断が求められる
・家事代行、介護など生活に密着した行為はできない

3種類の違いは、次の表のようになります。

後見人・保佐人・補助人の違い

後見人 保佐人 補助人
本人の状態の目安 契約や手続きを一人で行うことが難しく、日常的に支援が必要 日常的な契約や手続きは一人でできるものが多いが、財産管理などが難しい 日常的な契約や手続きは一人でできるものが多いが、財産管理などは不安
与えられる権限 日常的な買い物以外の契約・手続きの代行や取り消し
(代理権・取消権)
財産などに関する契約の承認や取り消し
(民法で決められた行為の同意権・取消権)
-
申立により与えられる権限 - 財産などに関する契約
日常的な買い物以外の契約・手続きの代行や取り消し
(民法で決められた行為の代理権、日常的な買い物以外の取消権)
財産などに関する契約の承認や契約、取り消し
(民法で決められた行為の同意権・代理権・取消権)

後見人:法律行為の全てを行う

後見人:法律行為の全てを行う

後見人は、一人で物事を判断することが難しい要支援者に代わって、財産管理や生活で必要なことを代行します。例えば、生活費や預貯金の管理、治療・入院の手続きといった被後見人が安全に暮らすためのサポート全般です。また、不動産などの財産がある場合は、管理や売却などの契約も行います。

後見人はこれらの契約を行うために、日用品の購入以外の全ての契約の取り消しや代行ができる権限を与えられます。

保佐人:慎重な判断のサポートを行う

保佐人:慎重な判断のサポートを行う

保佐人は、日常的な契約や手続きは一人でできること多い一方、財産に関する判断など慎重に検討することが難しい人のサポートを行います。例えば、金銭の借り入れや訴訟行為、重要な財産に関する契約などです。

これらの契約や手続きを行う場合は保佐人の同意が必要です。もし、被保佐人が一人で結んだ契約が被保佐人の利益にならない場合は、保佐人が契約を取り消すことができます。また、保佐人は裁判所の判断で権限が追加される場合があり、申立により同意が必要な対象を増やしたり、契約の代行ができるようになるケースがあります。

補助人:特定の契約のサポートを行う

補助人:特定の契約のサポートを行う

補助人は、日常生活を送るにはほぼ支障がないものの、財産に関わるものなど慎重に判断すべきことを一人で行うのが不安な人をサポートします。補助人は開始時に本人同意のうえ、家庭裁判所に申立を行います。

補助人は、家庭裁判所に認められた契約や手続きの取り消しができます。なお、契約などをする時に補助人の許可を必要とすることや、補助人が契約などの代行ができるようにすることも可能ですが、被補助人の同意のうえ、家庭裁判所の認可が必要です。

成年後見制度で与えられる権限でできること

成年後見制度で与えられる権限でできること

成年後見制度で支援者に付与される3つの権限の意味と、支援者に与えられる権限によってなにができるかを解説します。

重要な財産に関する行為への同意権

同意権とは、民法13条1項に定められている法的な手続きを行う場合、支援者の同意が必要ということです。本人の意志だけで法的な手続きはできません。
後見人には、この権限はありません。後見人は全ての契約や手続きの代行や取り消しができるため、事前の同意が不要なのです。
保佐人には、同意権が与えられます。また、民法13条1項に定められている事項以外でも、申立により家庭裁判所が認めた事項について同意権が与えられます。
補助人には同意権がありません。ただし、申立により、家庭裁判所に認められた場合には、必要な対象のみ同意権が与えられます。
いずれの場合においても、支援者には、要支援者の意思を尊重して行動しなければなりません。

民法13条1項で定められていることは、以下の通りです。

一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

出典 民法 第十三条

簡単にまとめると、以下のような内容になります。
・お金の貸し借り、連帯保証の契約
・住宅の売却や改築、大幅な修繕
・訴訟行為
・和解、贈与契約
・遺産分割、相続放棄
・賃貸住宅の契約

誤った判断を行った場合の取消権

取消権は、要支援者が単独で契約したものなどをあとから取り消せる権限のことです。
後見人には、取消権があります。日用品の買い物など、日常生活に関わる行為は取り消せませんが、その他の契約・手続きなどの法律行為は全て取り消せます。
保佐人には、民法13条1項に定められている事項の取消権があります。また、民法13条1項の事項以外でも、申立により家庭裁判所に必要性が認められた事柄については、取消権が与えられます。
補助人には、取消権がありません。ただし、民法13条1項のうち、家庭裁判所が必要性をを認めた事項に限り、取消が与えられます。

本人に代わって契約などを行う代理権

代理権は、要支援者の代わりに契約や手続きなどの法律行為を実行できる権限です。要支援者の同席や委任状なしでも、代理権をもつ人が行った契約は要支援者が行った契約と見なされます。
後見人には、代理権があります。福祉サービスの契約や相続手続き、預貯金の解約などを本人の代わりに行えます。一方、被後見人は法律行為を一切できなくなります。
保佐人と補助人には、代理権がありません。ただし、要支援者の同意のうえ、申立を行い、家庭裁判所に認められた行為の範囲で、保佐人と補助人に代理権が与えられます。

判断能力はどのレベル?後見人・保佐人・補助人の選定基準

判断能力はどのレベル?後見人・保佐人・補助人の選定基準

後見人・保佐人・補助人の種類選定は、要支援者の判断能力によって決まります。要支援者の判断能力は家庭裁判所で評価されます。

選定基準を簡単にまとめると、次のようになります。

後見相当:日常的な手続きなどにも支障があり、財産の管理処分が一人ではできない
保佐相当:日常的な手続きは一人でできるものが多いが、財産の管理処分にサポートが必要
補助相当:日常的な手続きは一人でできるものが多いが、財産の管理処分の一部にサポートが必要

これらの判断には、要支援者の主治医などの診断書や、要支援者の介護などを行っているケアマネージャーなどが日常の様子をまとめた本人情報シートを活用します。診断書や本人情報シートは家庭裁判所指定の書式で、ホームページなどから入手できます。チェック項目は、本人の判断能力を問うもので、日常生活に支障がないか、財産を管理・処分できるかどうかなど複数の項目から総合的に判断されます。また、必要に応じて鑑定が行われる場合があります。

成年後見制度を利用する時の流れ

成年後見制度を利用する時の流れ

成年後見制度を利用する際は、居住地を管轄する家庭裁判所に申立の手続きが必要です。書類を準備して提出した後に審判が行われ、支援者が選出されます。

申立に必要な書類

必要書類として一般的に以下のようなものが求められます。なお、要支援者の状況によって必要になる書類が変わる場合がありますので、不明な点は管轄の家庭裁判所に問い合わせてみましょう。


・申立書
・本人の戸籍謄本
・本人および後見人など候補者の住民票または戸籍附票
・親族関係図
・医師による診断書
・健康状態に関係する資料(介護保険認定書、障害者手帳などの写し)
・財産関係の資料(預貯金通帳写し、不動産関係書類、ローン契約書写しなど)
・収支関係の資料(給与明細、確定申告書、家賃・地代領収書、納税証明書、介護保険料の決定通知書など)
・成年後見人などの登記がされてないことの証明書
・本人情報シート
・契約書写しなど、同意権や代理権を要する行為の一覧

開始申立方法

後見・保佐・補助開始等申立書とその他の必要書類、申立費用を準備し、家庭裁判所に提出します。申立には事前に予約が必要な場合がありますので、管轄の家庭裁判所に確認をしておきましょう。

申立書や記入例は裁判所の公式ウェブサイトなどでダウンロード可能です。なお、保佐や補助の申立の場合は、代理権や同意権の付与申立も同時に行います。付与希望の対象を目録にまとめ、申立時に提出します。

制度開始の申立ができるのは、要支援者以外に配偶者、4親等以内の親族、検察官、市区町村長です。ただし、補助人の制度開始申立てには要支援者の同意が必要です。

申立に必要な費用

申立には、制度開始申立費用と、書類の送付費用ががかります。制度開始申立費用は収入印紙800円分ですが、保佐人や補助人の同意権や代理権の付与申立を行う場合は、費用が加算されます。後見人の場合は登録料として2,600円分の収入印紙を納めます。書類の送付費用は、4,000円前後を切手で準備しますが、指定の金額を指定の枚数準備しなければなりません。詳しくは管轄の家庭裁判所に確認しましょう。

なお、申立に関した要支援者の能力鑑定が必要になると、鑑定費用がかかります。鑑定費用は内容にもよりますが、20万円未満とされています。

後見人・保佐人・補助人になれる人

後見人や保佐人、補助人には必要な資格などはありません。要支援者の家族や親族だけでなく、福祉などの法人、弁護士・司法書士などの法律の専門家などが選ばれることがあります。

一方、後見人・保佐人・補助人になれないのは次の人です。
・未成年
・家庭裁判所に法定代理人、保佐人、補助人などを解任されたことがある人
・破産した人
・要支援者に対して公訴したことがある人、もしくはその配偶者や直系血族
・行方不明の人

後見人・保佐人・補助人が行う事務報告

後見人・保佐人・補助人が行う事務報告

成年後見制度が開始されたら、支援者は家庭裁判所に年に1回定期報告をする必要があります。提出時期が近づいてきても通知は来ないため、自主的に提出しなければなりません。
定期報告では、収支状況の変化を調査するため、前年の財産を記載します。翌年の定期報告のために、後見等事務報告書、財産目録の記録を残すようにしておきましょう。また、書式が変更されることもありますので、毎年最新のものか確認が必要です。


なお、要支援者には家庭裁判所が決めた額の報酬が支払われます。家庭裁判所では、支援者からの申立てにより報酬額を決めますが、管理する財産の額によって決まるのが一般的です。通常の事務のみであれば、月額2万円前後が相場で、管理財産が高額であるケースや、要支援者の身体保護が必要な場合は報酬額が高額になる傾向があります。

なお、月額報酬は、制度利用中ずっと支払い続けることになります。長期に渡ってサポートを受ける場合は、その分費用もかかりますので、留意しておきましょう。

制度利用前に後見人・保佐人・補助人の特徴を把握しておきましょう

制度利用前に後見人・保佐人・補助人の特徴を把握しておきましょう

成年後見制度で支援を行う人は、要支援者の判断能力に合わせて「後見人」「保佐人」「補助人」の3種類に分かれます。申立時にサポートを受ける種類の希望を伝えますが、家庭裁判所が最終決定を行います。

適切な支援者が選定されるためには、要支援者の様子を正確に伝えることが大切です。また、場合によっては長期に渡ってサポートを受けることになりますので、サポート内容や費用についても可理解しておくことが重要です。後見人・保佐人・補助人に与えられる権限を把握し、要支援者が安全に暮らせる環境を整えられるようにしましょう。

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