負担付贈与とは?具体例と課税内容、賢く贈与するポイントを解説

負担付贈与は、資産と合わせて債務も引き受けて欲しい時や、自身の生活を保障した上で家族に財産を譲りたい時に利用できる財産の贈与手段です。この記事では負担付贈与のメリットや税務上のポイントについて詳しく紹介します。家族に安心して財産を残すためにも、負担付贈与を上手く活用しましょう。

負担付贈与とは?具体例と課税内容、賢く贈与するポイントを解説

負担付贈与とは?

負担付贈与とは?

負担付贈与とは、受贈者(贈与を受ける人)が債務や負担も同時に引き受けることを条件として、贈与者(贈与をする人)から資産を譲り受けることです。

また負担付贈与は受贈者と贈与者のお互いの合意によって成立する契約であり、資産を譲り渡す際の条件である債務や負担については、双方の合意があれば自由に設定することができます。もし受贈者が当初合意した条件を履行しなかった場合、贈与者は契約解除ができます。

負担付贈与の具体例

実際に行われる負担付贈与には、次のような事例があります。

・住宅ローンの残りを支払うことを条件として、不動産を贈与する。
・借金を弁済することを条件として、財産を贈与する。
・贈与者の介護を引き受けることを条件として、財産を贈与する。
・譲渡後も建物の一部を無償で貸与したり、贈与者が同居したりすることを条件として、不動産を贈与する。

いずれの場合も、受贈者が何らかの負担を引き受けることを条件として、資産の贈与を受けることが出来ます。
なお、受贈者が引き受ける負担の内容は贈与者に対してではなく、第三者に対する内容でも成立します。例えば、父子関係である贈与者と受贈者が、母親の介護を引き受けることを財産贈与の条件として設定することができます。両者が了承していれば上記のような条件でも負担付贈与の契約は成立します。

負担付贈与にかかる税金

負担付贈与にかかる税金

負担付贈与は、贈与者と受贈者の双方に税金が課せられる可能性があるため、税額の計算の際は注意をしましょう。
贈与者の場合、資産を譲り渡すことで見返りとして借金(債務)を帳消しにできるという利益を得たと考えられます。譲渡した資産の価額よりも受贈者に譲り渡した債務の金額のほうが高かった場合、負担付贈与によって発生した経済的利益に対して譲渡益として所得税等の税金が課せられます。

一方受贈者の場合、引き受けた債務よりも贈与された資産の方に価値があった場合は、その差額分について利益を得たと考えられます。その差額分の金額については贈与税が課せられることになります。

実際に計算例をみてみましょう。


ケース1:贈与者が負担付贈与によって利益を享受した場合
かつて親が3,000万円で取得した土地を、子に対して5,000万円の借金の返済を条件として譲り渡す負担付贈与の契約を結びました。
この時贈与者である親は、土地を譲渡することで借金を返済することができた(経済的利益を得る)と考えられるため、(5,000万円-3,000万円)=2,000万円の譲渡益を得たことになります。この譲渡益2,000万円について、所得税や住民税の納税義務が発生します。

ケース2:受贈者が負担付贈与によって利益を享受した場合
かつて親が3,000万円で取得した土地を、子に対して2,000万円の借金の返済を条件として譲り渡す負担付贈与の契約を結びました。
この時受贈者である子は、(3,000万円-2,000万円)=1,000万円の贈与を受けたことになるため、この1,000万円について贈与税が課せられることになります。

ケース3:土地の価値が上昇していた場合
かつて親が2,000万円で取得した土地が、現在は5,000万円の価値が付いているとします。また父親は3,000万円の借金をしており、子に対して借金の返済を条件として土地を譲り渡す負担付贈与の契約を結びました。
この時贈与者である親は、2,000万円の土地を手放すことで3,000万円の借金を帳消しにすることができたと考えられるため、
(3,000万円-2,000万円)=1,000万円の譲渡所得について、所得税や住民税の納税義務が発生します。
一方で子は、3,000万円の借金の負担を条件として5,000万円の土地を取得したため、(5,000万円-3,000万円)=2,000万円について、親から贈与を受けたことになります。この2,000万円について、贈与税が課せられます。

負担付贈与のメリット

負担付贈与のメリット

負担付贈与はお互いの合意をもって成立するため、親から子へ財産の贈与をスムーズにおこなうことができます。

また、負担付贈与は相続時のトラブル回避に活用できます。負担付贈与は債務の負担や介護を引き受けることを条件とした資産の贈与であるため、負担付贈与の受贈者が資産を相続することに対して他の推定相続人にも説明がつきやすいでしょう。資産を相続する理由付けになるため、財産の分配を巡って相続人同士のトラブルが起きにくい環境を整備することができます。

さらに、相続税は相続時における資産の価値を基にして税額が計算されます。そのため、先々価値の上昇が見込まれる資産については、あらかじめ負担付贈与を行って現在の価値で贈与税を納付しておくことができ、結果的に相続税の負担を軽減できる場合があります。

負担付贈与のデメリット

負担付贈与のデメリット

一方、負担付贈与をおこなう際は、次のような点に気をつける必要があります。

借金の弁済等、金銭換算できる負担はその価値を算出できるため、贈与の際に評価額から相殺して贈与税を計算できます。しかし、負担付贈与の負担については、金銭換算できないものや、価値の評価が困難なものも存在します。

例えば、ペットの世話をしたり、作業を手伝ったりするといった条件については、その労力の金銭価値の評価が難しかったり、出来なかったりする場合があります。そのため、贈与された資産から価値を減算できずに贈与税の計算をすることになります。

支払うべき税金についても、結果的に相続税よりも高くなる場合があります。
先に解説した通り、贈与者も金銭的な利益が発生した場合、その利益について所得税等が課せられます。また、負担付贈与で不動産を取得した場合は、相続の場合では発生しない不動産取得税の支払いが発生します。登録免許税についても相続税よりも高い税率で納める必要があります。

さらに、主に不動産関連で適用される税額を控除できる相続税の各種特例についても、負担付贈与の場合は受けることができません。
このように、将来的な資産の価値の値上がりを見込んで相続税の負担を軽減させる目的で負担付贈与を行おうとすると、結果的に税金が高くなってしまう可能性があるので注意が必要です。

負担付贈与の契約書のポイント

負担付贈与の契約書のポイント

負担付贈与は贈与者と受贈者の口頭でのやり取りでも成立する契約ですが、実際に契約書を作成すると安心でしょう。契約した記録を書面に残しておくことで、後で口頭での契約内容に関するトラブルが発生することを防止できるほか、第三者に対しても贈与が行われたことの証明に利用できます。

不動産を負担付贈与する場合の、実際の契約書の文例については次のとおりです。

負担付贈与契約書(太字)
贈与者〇〇太郎(以下「甲」)と受贈者〇〇花子(以下「乙」)は次の通り贈与契約を締結した。

第1条 贈与の合意
贈与者が受贈者に対して贈与した資産と、その詳細について記します。

第2条 所有権移転登記手続
不動産を贈与する日時や、所有権移転登記手続の費用などをどちらが負担するかについて記します。

第3条 公租公課の負担
不動産の公租公課の負担について、所有権移転登記手続き完了前は贈与者が負担し、それ以降は受贈者が負担するといった内容を記します。

第4条 受贈者の負担
受贈者が贈与を受ける条件である、負担の内容について詳細を記します。

第5条 受贈者の不履行による契約の解除
贈与の条件が不履行となった場合に、贈与者が契約を解除できる旨について記します。

第6条 合意管轄
契約について当事者間で紛争が生じた場合に管轄となる裁判所について記します。

第7条 協議事項
契約の内容にない事態が生じた場合に、疑義を解決するためにお相互に誠意をもって協議し解決することについて記します。

出典 

2通作成した契約書の末尾に各自の氏名を記して印鑑を押印し、各自で1通ずつ保管・管理しましょう。

文面については必ずしもこうする必要はありません。インターネット上で検索すれば各種サイトでテンプレートを入手できます。使いやすい書類をテンプレートにして、実際の契約書を作成しましょう。記入内容について判断が難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

負担付死因贈与とは?

負担付死因贈与とは?

負担付贈与と似た制度として、負担付死因贈与という制度もあります。
贈与について条件(負担)を設けるという点については同じですが、負担付贈与との違いは、資産の贈与が贈与者の死亡時であるという点です。
負担付贈与に課せられるのは贈与税ですが、負担付死因贈与には相続税が課せられます。

負担付贈与と同様に贈与者の生前の介護をしたり、同居したりすることを条件として贈与者の死亡時に資産を贈与するといった使われ方をします。
契約した内容については、後で見解の相違を巡ってトラブルが起こることのないように、公正証書に契約の内容を明確に残しておくとよいでしょう。

負担付死因贈与の大きな特徴は、通常の遺贈とは違い、生前の被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)の契約であるということです。
一般的な相続の場合、相続の内容について遺言書を記しても相続人全員がその内容に反対した場合は、相続の内容が変わってしまう場合があります。必ずしも被相続人の生前の意思が反映されるとは限りません。
しかし負担付死因贈与は、被相続人の死亡時に贈与が行われるという契約であるため、被相続人の生前の意思に則って確実に資産の贈与が行えます。
通常の遺言書のように、弁護士等の専門家を執行者として指名することも可能です。相続の際にトラブルが起こらないように、あらかじめ負担付死因贈与の執行者を指名しておくとよいでしょう。

まとめ

負担付贈与や負担付死因贈与は、受贈者(贈与を受ける人)が債務や負担も同時に引き受けることを条件として、贈与者(贈与をする人)から資産を譲り受けることです。
贈与に条件を設けて最後まで安心して暮らせるようになるだけでなく、契約によって確実に贈与が行えるようにする財産の分配方法です。贈与に関するメリットやデメリットを理解した上で活用しましょう。

家族に安心して財産を残すためにも、より安心できる相続方法を選んでください。

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