先進医療とは?費用(技術料)や種類、保険特約をつける注意点を解説

先進医療とは、高度な医療技術を用いた治療や療養のうち、保険診療との併用が認められているもののことです。先進医療のなかには、陽子線治療や重粒子線治療など、がんをはじめとしたさまざまな病気の治療に効果が期待できるものがあります。この記事では、先進医療の定義や種類、費用の目安、一般的な保険診療との違いを解説します。

先進医療とは?費用(技術料)や種類、保険特約をつける注意点を解説

先進医療とは?

先進医療とは?

「先進医療」とは、厚生労働大臣の承認を受けた高度な医療技術を用いた治療のことです。先進医療と認められるには、特定の大学などで研究・開発された医療技術が、臨床実績を上げて確立したのち、厚生労働省内の先進医療会議で審査を受ける必要があります。

審査は治療の有効性だけでなく、安全性や倫理性などについても行われ、一定の評価が得られた場合、厚生労働大臣によって先進医療と定められます。

先進医療による治療を受けるためには、患者本人の希望に加えて、医師が必要性や合理性を認めなければなりません。

先進医療と通常の医療との違い

先進医療は一定の有効性などが立証されていますが、保険診療とは異なり、公的医療保険の対象ではありません。

公的医療保険の対象である診療(保険診療)を受けた時に負担する金額は、かかった医療費の最大3割ですが、先進医療を受ける際にかかる費用は全額自己負担となります。

また、先進医療はどの医療機関でも受けられるわけではありません。医療技術ごとに必要な施設水準が定められており、先進医療の提供が可能だと厚生労働省から認定された医療機関でのみ受けることができます。

先進医療の費用

先進医療の費用

日本の医療制度では、公的医療保険が適用される保険診療と、保険外診療(自由診療)の併用が認められていません。

保険診療ではかかった医療費の最大3割負担で済みます。しかし、自由診療を受けると、原則として保険診療も含むすべての医療費が全額自己負担となります。

一方、先進医療は保険診療との併用が可能です。先進医療の技術料は全額自己負担ですが、保険診療の部分には公的医療保険が適用されます。先進医療を受けた際には、診察料や投薬料、入院料など、一般の治療と共通する診療部分の、自己負担は最大3割となります。


では、先進医療を受けるといくらの費用がかかるのでしょうか。

厚生労働省の「第117回先進医療会議」の資料によると、2021年(令和3年)7月1日から2022年(令和4年)6月30日までの先進医療費実績から、先進医療を受けた場合の1件あたりの先進医療費は、以下の通りです。

・陽子線治療:約269万円
・重粒子線治療:約316万円

先進医療にかかる費用は治療を受ける医療機関によって異なりますが、保険が適用される一般治療と比較すると、非常に高額であることがわかります。

【参考】公益財団法人 生命保険文化センター「先進医療とは? どれくらい費用がかかる?|リスクに備えるための生活設計」詳しくはこちら

保険適用外となるのは先進医療の「技術料」

先進医療を受けた場合、先進医療に係る費用、つまり「技術料」には公的医療保険が適用されず、全額自己負担になります。

しかし「保険外併用療養費」として、前述の通り保険診療との併用が認められているため、診察や検査、投薬、入院費など、一般の治療と共通する部分は公的医療保険が適用されます。

例えば、かかった医療費の総額が100万円で、そのうち20万円が先進医療の技術料、残り80万円が健康保険適用分(診察・投薬・入院など一般治療と共通する部分)だった場合、自己負担額は次の通りです。

先進医療の技術料20万円(全額負担)+公的医療保険適用分24万円(80万円×3割自己負担)=44万円

公的医療保険が適用される24万円については「高額療養費制度」を適用することで、さらに負担を軽減できます。

【参考】厚生労働省「先進医療の概要について」詳しくはこちら

先進医療と認められないケース

先進医療と同じ内容の治療を受けたとしても、認定医療機関以外の病院だった場合は、先進医療とは認められず、診察料や検査料を含めて全額が自己負担となります。

また、先進医療には、承認された医療技術ごとに治療を受けられる適応症(疾患・症状など)が定められている点にも注意が必要です。対象となる適応症でない患者が治療を受けた場合も先進医療とは判断されません。

先進医療の種類

先進医療の種類

先進医療は大別すると「先進医療A」と「先進医療B」の2種類があります。それぞれの定義は、以下の通りです。

種類 定義
先進医療A 1.未承認等の医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の使用または医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の適応外使用を伴わない医療技術(4に掲げるものを除く。)
2.以下のような医療技術であって、その実施による人体への影響が極めて小さいもの(4に掲げるものを除く。)
(1)未承認等の体外診断薬の使用または体外診断薬の適応外使用を伴う医療技術
(2)未承認等の検査薬の使用または検査薬の適応外使用を伴う医療技術
(3)未承認等の医療機器の使用または医療機器の適応外使用を伴う医療技術であって、検査を目的とするもの
先進医療B 3.未承認等の医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の使用または医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品の適応外使用を伴う医療技術(2に掲げるものを除く。)
4.医療技術の安全性、有効性等に鑑み、その実施に係り、実施環境、技術の効果等について特に重点的な観察・評価を要するものと判断されるもの

【参考】厚生労働省「第123回先進医療会議の開催について」詳しくはこちら

先進医療Aの方が、保険診療に移行する可能性が高いといわれています。

先進医療として承認された医療技術は、先進医療Aが28種類、先進医療Bが54種類の合計82種類です(2023年8月1日現在)。


先進医療技術や実施できる医療機関、対象となる適応症は随時、見直しが行われています。最新の情報は厚生労働省のWebサイトなどで確認できます。

【参考】厚生労働省「第117回先進医療会議資料 令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について(PDF)」詳しくはこちら
【参考】厚生労働省「先進医療の各技術の概要」詳しくはこちら

先進医療は医療保険やがん保険の特約で備えることが可能

先進医療は医療保険やがん保険の特約で備えることが可能

先進医療は健康保険の対象外となっているため、治療を受ける際には高額の治療費がかかります。そこで、民間の保険会社で医療保険やがん保険に加入する時、先進医療特約を付けて備える方法があります。

保険の開始時期によっても保障が受けられない場合があるため、いざ先進医療が必要になったケースに備えて、保険の責任開始期間や保障内容を確認しておきましょう。

保障が開始されるのは責任開始日(期)以降

責任開始日とは、保険会社の契約上の責任が開始される日のことで、言い換えれば、この日以降、保険会社には保険金や給付金の支払い責任が発生します。

責任開始日は「告知・診査日」と、1回目の保険料を払い込んだあとのどちらか遅い日です。がん保険の場合には、さらに90日間程度責任開始期間が続くため、注意が必要です。

先進医療特約の保障範囲や上限額をよく確認して加入する

先進医療を受けるための費用(技術料)は、数万円程度から300万円を超えるものまであり、受ける先進医療によって大きく異なります。特に、陽子線治療や重粒子線治療など、がんに対する先進医療費は高額です。

各保険会社から発売されている医療保険やがん保険には、先進医療特約を付帯できる商品が多くあります。

先進医療特約を付けると、1,000万~2,000万円程度を上限として、先進医療を受けた時の技術料と同額の給付金が支払われます。被保険者の年齢や保険会社によっては、毎月数百円ほどの保険料で付けることが可能です。

保障の対象となるのは、手術や治療を受けた時点に認可されている先進医療です。先進医療特約に加入した時は先進医療に含まれていたとしても、治療を受ける時に削除されていた場合は、給付金の支払対象になりません。

がん保険に付帯される先進医療特約は、がん治療に関する先進医療のみを対象とした商品が多いため、対象となる先進医療はよく確認する必要があります。

ほかの保険の保障内容と被りがないかも確認が必要

先進医療を保障する特約は、医療保険やがん保険など、さまざまな商品に付帯することができます。ただし、同じ保険会社で先進医療特約の重複して加入することは基本的にできません。

例えば、すでに先進医療特約付きの医療保険に加入している保険会社で、がん保険に新規加入するとしましょう。この場合、がん保険にも先進医療特約を付けることはできないのが一般的です。

異なる保険会社で複数の先進医療特約を付加する場合、給付金が重複して支払われることがあります。ただし、複数の先進医療特約に加入したことで、給付金額が著しく過大になる場合、保険会社から契約を解除される可能性があります。

先進医療特約を新たに付加する時は、すでに加入している医療保険やがん保険などに同様の特約が付加されていないかをよく確認することが大切です。

もし複数の保険会社で先進医療特約を付ける時は「保険料を支払ってでも付ける必要があるのか」「重複して給付金が支払われるのか」を確認したうえで判断しましょう。

先進医療を受けるメリット

先進医療を受けるメリット

先進医療を受ける主なメリットは、以下の通りです。

・治療の選択肢が増える
・保険診療との併用ができる

保険診療に先進医療という選択肢を加えることで、より多くの治療方法から受けたいものを選べるようになります。

例えば、がんの治療に用いられる「陽子線治療」は、がんの病巣に対してピンポイントで高いエネルギーを照射することが可能です。そのため、ほかの正常な細胞へのダメージが小さく、身体への負担が少ないという特徴があります。

高齢者や体力に自信のない人など、身体への負担を減らしたい方にとって、陽子線治療は有効な選択肢の1つとなりえるでしょう。

また、先進医療は保険外診療でありながら保険診療との併用が認められています。

通常、保険外診療を受ける場合は、保険診療の部分も含めて医療費を全額自己負担しなければなりません。先進医療の技術料は全額自己負担ですが、保険診療の医療費については最大3割負担となるだけでなく、高額療養費制度も適用が可能です。

先進医療の注意点

先進医療の注意点

一方で、先進医療を受ける際は、以下の点に注意が必要です。

・技術料が全額自己負担
・先進医療を受けられる施設が限られている

先進医療は、公的医療保険の対象外であるため、技術料は全額自己負担しなければなりません。先進医療のなかには、数百万円の技術料がかかることもあります。

まとまった貯蓄がある人や、先進医療特約が付いた医療保険などに加入している人でなければ、先進医療を受けるのは難しいかもしれません。

また、先進医療を受けられる施設は限られています。例えば、2023年8月1日時点で陽子線治療を受けられる医療機関は、全国に19院しかありません。希望する先進医療を受けられる医療機関が自宅から離れていると、移動などに費用がかかる可能性があります。

具体的な先進医療の内容

具体的な先進医療の内容

主な先進医療には、陽子線治療や重粒子線治療などがあり、がん治療や子宮線筋症など、さまざまな病気の治療を可能にしています。

ここでは、代表的な先進医療の具体的な治療内容や適応症、年間の実施件数、技術料(1件あたりの平均額)などを紹介します。

1. 陽子線治療

「陽子線治療」は放射線治療の1つで、水素の原子核を加速させてできた陽子線をがん病巣に照射する放射線治療です。

従来の放射線治療であるエックス線やガンマ線といった光子線を用いた治療とは異なり、粒子線である陽子線はがん病巣をピンポイントで照射することが可能です。そのため、ほかの正常な臓器の細胞へのダメージを抑えて治療できます。副作用が少なく、身体への負担が少ないため、通院での治療が可能です。

先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、大腸がん、膀胱がん、腎がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がんなどです。

年間の実施件数は1,293件、技術料(1件あたりの平均額。以下同様)は約269万円、平均入院日数は14.9日です。

2. 重粒子線治療

「重粒子線治療」は、加速器で光速の約70%まで加速させた炭素イオン(重粒子線)をがん病巣に照射する放射線治療です。陽子線治療と同じ粒子線治療で、がん病巣に対して集中的に照射でき、身体の深部にあるがん病巣に対しても治療効果が期待できます。

陽子線治療に比べて1回の治療で得られる効果が高く、治療期間の短縮も可能です。先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、大腸がん、腎細胞がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がんなどです。

年間の実施件数は562件、技術料は約316万円、平均入院日数は5.3日です。

3. 細胞診検体を用いた遺伝子検査

3. 細胞診検体を用いた遺伝子検査

保険適用される肺がんの遺伝子変異検査では、がん組織の一部を採取する「組織診検体」が必要ですが、より簡単に検体を採取できる検査方法が「細胞診検体を用いた遺伝子検査」です。

「組織診検体」は、胸の皮膚の上から針を刺して肺のがん組織を採取するため、肺に穴が開き、気胸などの副作用が生じる恐れがあります。がん細胞の位置によっては採取が難しいケースもあります。

細胞診検体を用いた遺伝子検査では、気管支鏡(気管用の内視鏡)を使用して、体内に入れた内視鏡でがん細胞を採取するため、患者の身体にかかる負担が軽減されます。さらに、組織診検体では採取が難しい場所にあるがん細胞の採取も可能な精度の高い検査方法です。先進医療の対象となる適応症は、肺がんです。

年間の実施件数は493件、技術料は約8万円、平均入院日数は6.5日です。

4. 抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査

悪性脳腫瘍では、腫瘍の除去手術後に抗がん剤を使って治療します。「抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査」では、悪性脳腫瘍の手術で摘出された腫瘍組織を使用して、抗がん剤に対する感受性を調べることができます。腫瘍組織の複数の抗がん剤への耐性遺伝子を測定することで、治療効果の高い抗がん薬で効果的な治療を行えます。

治療効果が出にくい低感受性抗がん剤の使用リスクを避けたり、再発時に耐性ができた抗がん剤がないか検査したりすることも可能です。この検査によって適切な抗がん剤を選べるため、不要な副作用の発生も避けられます。先進医療の対象となる適応症は、悪性脳腫瘍です。

年間の実施件数は227件、技術料は約4万円、平均入院日数は44日です。

5. ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)

「ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)」は、ヒトヘルペスウイルスなどに感染した目を治療するために、ウイルスの存在や種類を調べる目的で行われます。目の感染症の場合、視力の低下や失明につながるケースもあり、迅速な検査が必要です。

従来の検査方法では、検査用に採取する目の中の液体部分(前房水・硝子体液)の検体量が十分ではないために、検査内容が限られたり、検査時間が長くかかったりしていました。

ところが、この検査によってわずかな検体量でも検査が可能になり、短時間で結果を確認して、治療を開始できるようになりました。先進医療の対象となる適応症は、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスなど、ウイルスが原因の眼感染症、ぶどう膜炎です。

年間の実施件数は764件、技術料は約3万円、平均入院日数は0日です。

【参考】厚生労働省「第117回先進医療会議参考資料」詳しくはこちら

まとめ

先進医療は、公的医療保険の対象外ではあるものの、保険診療との併用が認められています。先進医療の種類によっては高額な技術料がかかりますが、民間の保険会社が取り扱う医療保険やがん保険に特約を付けることで費用をカバーできます。

もしも重い病気をしてしまった時に、先進医療も治療の選択肢に含めたいのであれば、医療保険やがん保険に先進医療特約を付つけておくのも1つの方法です。

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