保険でよく聞く「先進医療」って何?特約は入るべき?
医療保険のCMなどでよく耳にする「先進医療」。具体的には、どんな医療なのでしょうか。今回は、先進医療とは何か、かかる費用はどのくらいか、どんな種類があるのかなど、先進医療の基本を解説します。

先進医療とは?

「先進医療」とは、簡単に言えば「厚生労働省の承認を受けた高度な医療技術を用いた治療」のことです。特定の大学などで研究・開発された医療技術が先進医療として認められるためには、厚生労働省内の先進医療会議において、有効性だけでなく、安全性や倫理性などについて審査を受ける必要があります。なお先進医療は、患者本人の希望はもちろん、医師が療養の必要性や合理性を認めた場合のみ行われます。
また、先進医療として承認を受けた医療技術は、どの医療機関でも受けられるというわけではありません。医療技術ごとに、実施できる医療機関について一定の施設水準が設定されており、厚生労働省から認定された医療機関でしか受けることはできません。つまり、先進医療と同じ内容の治療を受けても、認定された医療機関でなければ先進医療と認められないのです。また、医療技術ごとに治療を受けることのできる適応症(疾患・症状など)が設定されています。
先進医療は全額自己負担

先進医療は基本的に健康保険の適用対象外ですが、将来的には健康保険の適用が期待される医療技術です。健康保険では保険外診療(自由診療)を行った場合は、健康保険が適用される診療部分も含めて全額自己負担となります。一方先進医療は保険診療との併用が認められており、診察や入院など一般の治療と共通する診療部分については、健康保険が適用されます。
保険適用外となるのは先進医療の「技術料」
先進医療を受けた場合は、先進医療に係る費用、つまり「技術料」には健康保険が適用されず、全額自己負担です。しかし、「保険外併用療養費」として保険診療との併用が認められているため、診察や検査、投薬、入院費など一般の治療と共通する部分については、健康保険が適用されます。
例えば、医療費の総額が100万円、そのうち20万円が先進医療の技術料、残り80万円が健康保険適用分(診察・投薬・入院など一般治療と共通する部分)だった場合の自己負担額は次のようになります。
先進医療の技術料
20万円(全額負担)
+
健康保険適用分
24万円(80万円×3割自己負担)
=44万円
【参考】厚生労働省「先進医療の概要について(令和2年9月)」 詳しくはこちら
先進医療にはどんなものがある?

先進医療は、次のように先進医療Aと先進医療Bに振り分けられています。
■先進医療A
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術
・未承認・適応外の体外診断薬の使用を伴う医療技術などであって当該検査薬などの使用による人体への影響が極めて小さいもの
■先進医療B
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術であって、当該医療技術の安全性、有効性等に鑑み、その実施に係り、実施環境、技術の効果などについて特に重点的な観察・評価を要するものと判断されるもの
先進医療として承認された医療技術の種類は、先進医療A(24種類)、先進医療B(61種類)の合計85種類です(2020年9月17日現在)。中でも代表的な先進医療について、具体的な治療内容や適応症、年間の実施件数、技術料(1件当たり平均額)などを紹介します。
1. 陽子線治療
「陽子線治療」は、放射線治療の一つで水素の原子核を加速させた陽子線をがん病巣に照射する放射線治療です。従来の放射線治療であるエックス線やガンマ線といった光子線治療と違い、粒子線である陽子線はがん病巣をピンポイントで照射できるので、他の正常な細胞へのダメージを最小限に抑えることができます。先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、直腸がん、膀胱がん、腎がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がんなどです。
年間の実施件数は1,295件、技術料(1件当たり平均額)は2,697,658円、平均入院日数は19.8日です。
2. 重粒子線治療
「重粒子線治療」は、加速器で高速の約70%まで加速させた炭素イオン(重粒子線)をがん病巣に照射する放射線治療です。陽子線治療と同じ粒子線治療で、がん病巣に対して集中的に照射することができ、身体の深部にあるがん病巣に対しても治療効果が期待できます。また、陽子線治療に比べて1回の治療で得られる効果が高いため、治療期間の短縮も可能です。先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、直腸がん、腎がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がんなどです。
年間の実施件数は720件、技術料(1件当たり平均額)は3,089,343円、平均入院日数は9.6日です。
3. MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法

「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法」とは、MRI撮影と超音波検査の融合画像を用いて、がん病巣のある場所をより正確に把握して、その部位の組織を採取して診断をする「生検」を行うことができる医療技術です。前立腺がんが疑われるが、超音波による病変の確認が困難な場合に適応されます。
年間の実施件数は821件、技術料(1件当たり平均額)は107,661円、平均入院日数は2.5日です。
【参考】厚生労働省:第81回先進医療会議資料「令和元年度先進医療技術の実績報告等について」 詳しくはこちら
先進医療は保険の特約でカバーできる?

先進医療に係る費用(技術料)は、数万円程度から300万円を超えるものまであり、受ける先進医療によって大きく異なります。特に、陽子線治療や重粒子線治療など、がんに対する先進医療は高額です。
各保険会社から発売されている医療保険やがん保険には、先進医療特約が付いている商品が多くあります。月額数百円程度のプラスで、上限1,000~2,000万円程度まで先進医療の技術料の実費の補償、療養一時金の給付など、先進医療の経済的なリスクに対して高い保障が付けられるのが魅力です。
なお保障が受けられる先進医療は、契約をした時点での先進医療ではなく、「先進医療を受けた時点で厚生労働省から承認された先進医療」が対象です。
一度自分の保険を確認してみよう
ただし、がん保険に付帯される先進医療特約の場合はがん治療に関する先進医療のみを対象とした商品が多いため、注意が必要です。また、昔の先進医療特約は、上限額が低かったり一時金しか受け取れなかったりするなど、現在の先進医療特約に比べて保障が十分でない場合があるので、先進医療特約が付いていても保険契約を一度確認してみましょう。
がんに効果が期待できる陽子線治療と重粒子線治療の実施件数の合計は約2,000件であり、先進医療を受ける確率はあまり高いとはいえません。しかし、先進医療はがんだけでなく、アルツハイマー病、心筋梗塞など、対象となる疾患もさまざまです。気になる方は、万が一のリスクや健康状態を考えて、先進医療特約の加入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
先進医療とは何か、先進医療に係る費用、保険商品の先進医療特約など、先進医療に関する基本的な知識について解説しました。承認された先進医療技術や実施できる医療機関、対象となる適応症は随時見直しが行われています。最新の情報については、厚生労働省のWebサイトなどで確認しましょう。
先進医療は、高い治療効果が得られるなどのメリットがありますが、高額な費用が大きな負担となります。先進医療の内容や費用についての理解を深め、保険契約の見直しなどを検討してみましょう。
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