保険でよく聞く「先進医療」とは?保険の適用範囲や特約の注意点を解説
医療保険でよく耳にする「先進医療」とは、どのような治療なのでしょうか。この記事では、先進医療の概要、先進医療に健康保険は適用されるのか、先進医療の種類、陽子線治療・重粒子線治療等の具体的な先進医療の内容について解説しています。高度な医療技術が必要な病気に備えて、先進医療の知識をつけておきましょう。

先進医療とは?

「先進医療」とは、厚生労働大臣の承認を受けた高度な医療技術を用いた治療のことです。先進医療と認められるには、特定の大学等で研究・開発された医療技術が、臨床実績を上げて確立したのち、厚生労働省内の先進医療会議で審査を受ける必要があります。
審査は治療の有効性だけでなく、安全性や倫理性等についてもおこなわれ、一定の評価が得られた場合、厚生労働大臣によって先進医療と定められます。先進医療は一定の有効性等が立証されていますが、公的医療保険の対象ではありません。先進医療による治療は、患者本人の希望はもちろん、医師が必要性や合理性を認めた場合のみ受けることができます。
先進医療はどの医療機関でも受けられるわけではありません。医療技術ごとに必要な施設水準が定められており、先進医療の提供が可能だと厚生労働省から認定された医療機関でしか治療はおこなわれていません。
先進医療と同じ内容の治療を受けたとしても、認定医療機関以外の病院だった場合は、先進医療とは認められず、診察料や検査料を含めて全額が自己負担となります。先進医療には、承認された医療技術ごとに治療を受けられる適応症(疾患・症状等)が定められている点にも注意が必要です。対象となる適応症でない患者が治療を受けた場合も先進医療とは判断されません。
先進医療の費用

先進医療の技術料は健康保険の適用対象外です(将来的には健康保険が適用されることも期待できます)。日本の医療制度では、保険外診療(自由診療)の治療を受けた際には、かかった費用が保険で補てんされることはありません。入院時のベッド代や食事代等、通常では健康保険が適用される診療部分も含めて、全額自己負担になるため注意が必要です。
一方、先進医療の技術料以外には健康保険が適用されます。先進医療を受けた際には、診察料や投薬料、入院料等、一般の治療と共通する診療部分には健康保険が適用され、自己負担は一部になります。
厚生労働省の「第117回先進医療会議」の資料によると、2021年(令和3年)7月1日から2022年(令和4年)6月30日までの先進医療費実績から、先進医療を受けた場合の1件当たりの先進医療費は「陽子線治療」が約269万円、「重粒子線治療」が約316万円です(医療費の総額はそれぞれ約321万円、336万円です)。先進医療にかかる費用は治療を受ける医療機関によって異なりますが、保険が適用される一般治療と比較すると、非常に高額であることがわかります。
【参照】厚生労働省「第117回先進医療会議資料 令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について(PDF)」詳しくはこちら

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保険適用外となるのは先進医療の「技術料」
先進医療を受けた場合、先進医療に係る費用、つまり「技術料」には健康保険が適用されず、全額自己負担になります。しかし、「保険外併用療養費」として、前述の通り保険診療との併用が認められているため、診察や検査、投薬、入院費等、一般の治療と共通する部分は健康保険が適用されます。
例えば、かかった医療費の総額が100万円で、そのうち20万円が先進医療の技術料、残り80万円が健康保険適用分(診察・投薬・入院等一般治療と共通する部分)だった場合、自己負担額は次の通りです。健康保険適用分の24万円の負担分に対してはさらに収入に応じた高額療養費制度が適用されます。
先進医療の技術料20万円(全額負担)+健康保険適用分24万円(80万円×3割自己負担)=44万円
【参照】厚生労働省「先進医療の概要について」詳しくはこちら

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先進医療の種類

先進医療は大別すると「先進医療A」と「先進医療B」の2種類があります。先進医療Aは、薬機法(旧薬事法)上の承認・認証等がある治療や人体への影響が少ない治療です。一方、先進医療Bには、薬機法で承認されていない医薬品や医療機器等を使用する治療が該当します。
先進医療A
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術
・未承認・適応外の体外診断薬の使用を伴う医療技術等であって、当該検査薬等の使用による人体への影響が極めて小さいもの
先進医療B
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術
・未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術であって、当該医療技術の安全性、有効性等に鑑み、その実施に係り、実施環境、技術の効果等について特に重点的な観察・評価を要するものと判断されるもの
先進医療として承認された医療技術は、先進医療Aが26種類、先進医療Bが57種類の合計83種類です(2022年6月30日現在)。次に、代表的な先進医療の具体的な治療内容や適応症、年間の実施件数、技術料(1件当たりの平均額)等を紹介します。
【参照】厚生労働省「第117回先進医療会議資料 令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について(PDF)」詳しくはこちら
具体的な先進医療の内容

主な先進医療には、陽子線治療や重粒子線治療等があり、がん治療や子宮線筋症等、さまざまな病気の治療を可能にしています。
1. 陽子線治療
「陽子線治療」は放射線治療の1つで、水素の原子核を加速させてできた陽子線をがん病巣に照射する放射線治療です。従来の放射線治療であるエックス線やガンマ線といった光子線治療とは異なり、粒子線である陽子線はがん病巣をピンポイントで照射できるため、ほかの正常な臓器の細胞へのダメージを最小限に抑えて治療できます。副作用が少なく、身体への負担が少ないため、通院での治療が可能です。
先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、大腸がん、膀胱がん、腎がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がん等です。
年間の実施件数は1,293件、技術料(1件当たりの平均額。以下同様)は約269万円、平均入院日数は14.9日です。
2. 重粒子線治療
「重粒子線治療」は、加速器で高速の約70%まで加速させた炭素イオン(重粒子線)をがん病巣に照射する放射線治療です。陽子線治療と同じ粒子線治療で、がん病巣に対して集中的に照射でき、身体の深部にあるがん病巣に対しても治療効果が期待できます。
陽子線治療に比べて1回の治療で得られる効果が高く、治療期間の短縮も可能です。先進医療の対象となる適応症は、根治的治療が可能な肺がんや食道がん、大腸がん、腎細胞がん、肝細胞がん、膵がん、子宮頸がん等です。
年間の実施件数は562件、技術料は約316万円、平均入院日数は5.3日です。
3. 高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術
「高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術」は、子宮腺筋症の治療方法です。本来は子宮内部にあるはずの内膜組織が、子宮腺筋症では子宮筋層内に複雑に入り込んでしまうため、従来は子宮の全摘出しか治療方法がありませんでした。これまでできなかった腺筋症組織のみの切除(核出)を可能にした医療技術が、この治療方法です。開腹後に新しく開発されたリング型の高周波切除機を使用して病巣を切除します。適応症は、子宮腺筋症です。
年間の実施件数は82件、技術料は約30万円、平均入院日数は9.7日です。
4. 細胞診検体を用いた遺伝子検査

保険適用される肺がんの遺伝子変異検査では、がん組織の一部を採取する「組織診検体」が必要ですが、より簡単に検体を採取できる検査方法が「細胞診検体を用いた遺伝子検査」です。「組織診検体」は、胸の皮膚の上から針を刺して肺のがん組織を採取するため、肺に穴が開き、気胸等の副作用が生じる恐れがあります。がん細胞の位置によっては採取が難しいケースもあります。
細胞診検体を用いた遺伝子検査では、気管支鏡(気管用の内視鏡)を使用して、体内に入れた内視鏡でがん細胞を採取するため、患者の身体にかかる負担が軽減されます。さらに、組織診検体では採取が難しい場所にあるがん細胞の採取も可能な精度の高い検査方法です。適応症は肺がんです。
年間の実施件数は493件、技術料は約8万円、平均入院日数は6.5日です。
5. 抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査
悪性脳腫瘍では、腫瘍の除去手術後に抗がん剤を使って治療します。「抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査」では、悪性脳腫瘍の手術で摘出された腫瘍組織を使用して、抗がん剤に対する感受性を調べることができます。腫瘍組織の複数の抗がん剤への耐性遺伝子を測定することで、治療効果の高い抗がん薬で効果的な治療をおこなえます。
治療効果が出にくい低感受性抗がん剤の使用リスクを避けたり、再発時に耐性ができた抗がん剤がないか検査したりすることも可能です。この検査によって適切な抗がん剤を選べるため、不要な副作用の発生も避けられます。適応症は悪性脳腫瘍です。
年間の実施件数は227件、技術料は約19万円、平均入院日数は44日です。
6. ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)
「ウイルスに起因する難治性の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法)」は、ヘルペスウイルス等に感染した目を治療するために、ウイルスの存在や種類を調べる目的でおこなわれます。目の感染症の場合、視力の低下や失明につながるケースもあり、迅速な検査が必要です。
従来の検査方法では、検査用に採取する目の中の液体部分(前房水・硝子体液)の検体量が十分ではないために、検査内容が限られたり、検査時間が長くかかったりしていました。ところが、この検査によってわずかな検体量でも検査が可能になり、短時間で結果を確認して、治療を開始できるようになりました。適応症はヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス等、ウイルスが原因の眼感染症、ぶどう膜炎です。
年間の実施件数は764件、技術料は約3万円、平均入院日数は0日です。
【参照】厚生労働省「第117回先進医療会議参考資料」詳しくはこちら
先進医療を受ける上での注意点

先進医療は健康保険の対象外となっているため、治療を受ける際には高額の治療費がかかります。先進医療に対する備えとして、個人で民間の医療保険やがん保険に特約を付けて加入すれば、保険によって先進医療の高額な治療費の負担を軽減できます。
ただし、先進医療にもさまざまな種類があります。高額な先進医療を受ける場合は、保障対象となる保険に加入するか、特約を付けなければなりません。保険の開始時期によっても保障が受けられない場合があるため、いざ先進医療が必要になったケースに備えて、保険の責任開始期間や補償内容を確認しておく必要があります。
特約には責任開始日(期)がある
民間の医療保険やがん保険、先進医療特約には、責任開始日(期)が設定されている場合があります。責任開始日とは、保険会社の契約上の責任が開始される日のことで、言い換えれば、この日以降、保険会社には保険金や給付金の支払い責任が発生します。
保険会社によっても異なりますが、責任開始日は、保険を申し込んで告知・診査が終わり、1回目の保険料を払い込んだあとが一般的です。がん保険の場合には、さらに90日間程度責任開始期間が続くため、注意が必要です。
特約の補償内容を確認する
先進医療を受けるための費用(技術料)は、数万円程度から300万円を超えるものまであり、受ける先進医療によって大きく異なります。特に、陽子線治療や重粒子線治療等、がんに対する先進医療費は高額です。
各保険会社から発売されている医療保険やがん保険には、先進医療特約が付いている商品が多くあります。月額数百円程度のプラスで、上限1,000~2,000万円程度まで先進医療の技術料の実費の補償や療養一時金の給付等、先進医療の経済的なリスクに対して手厚い保障が受けられます。
保障が受けられる先進医療は、契約時に承認されていた先進医療ではなく、手術や治療を受けた時点の先進医療です。がん保険に付帯される先進医療特約は、がん治療に関する先進医療のみを対象とした商品が多いため、対象となる先進医療はよく確認する必要があります。
昔の先進医療特約は上限額が低かったり、一時金しか受け取れなかったりする等、現在の先進医療特約に比べて保障が十分でない場合もあります。保険に加入してからかなり経っている場合には、保険契約を一度確認してみましょう。
がんへの治療効果が期待できる陽子線治療と重粒子線治療の実施件数の合計は約2,000件であり、先進医療の中では実施件数は多いとはいえません。しかし、先進医療はがんだけでなく、アルツハイマー病、心筋梗塞等、対象となる疾患もさまざまです。気になる方は、万が一のリスクを考えて、先進医療特約の付帯を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
先進医療とは、健康保険適用外の医療技術を使用した治療法です。先進医療技術や実施できる医療機関、対象となる適応症は随時、見直しがおこなわれています。最新の情報は厚生労働省のWebサイト等で確認できます。
先進医療には、高い治療効果が得られるといったメリットがありますが、治療にかかる費用は大きな負担となります。先進医療の内容や費用についての理解を深め、万が一に備えて保険契約の見直し等を検討してみましょう。

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