相続にかかる費用とは?相続財産別の手続きや必要書類、注意点を解説
相続には「相続税」以外にも、さまざまな費用がかかります。相続する財産の種類によっても、必要な手続きやかかる費用の内訳が異なります。いざというときに慌てずに済むよう、どんな費用がどのくらいかかるのか、目安を確認しておきましょう。

目次
相続財産によって相続にかかる費用が異なる

「相続」とは、ある人が死亡したときにその人(被相続人)の財産を特定の人(相続人)が引き継ぐことをいいます。相続財産には主に次のようなものがあり、相続にかかる費用は財産の種類によって異なります。
・現金
・預金
・有価証券
・不動産(家や土地など)
・動産(美術品、貴金属、宝石、自動車、船舶など)
・その他(ゴルフ会員権、リゾート会員権など)
今回は、一般的に相続されることが多い財産である預金と不動産について、相続にかかる費用や相続の流れについてみていきましょう。
預金の相続に必要な費用一覧

預金の相続には、書類代と専門家に委託した際の委託料がかかります。
被相続人が名義人となっている銀行口座は、法定相続人(民法で定められている相続人)が申請して所定の手続きをすれば、口座の名義を変更して口座を引き継いだり、解約したりすることができます。ただし、預金は相続財産なので、遺言書がない場合は、法定相続人が遺産分割協議を行い、預金をどう分配するか決める必要があります。そして、被相続人の口座の名義を変更したり口座を解約したりする際には、遺産分割協議の結果を記載した遺産分割協議書をそのほか必要な書類などとともに金融機関に提出しなくてはなりません。
金融機関に提出が必要な書類などは次の通りです。
・金融機関の「預金名義書換依頼書・相続届」
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・被相続人の死亡の記載のある住民票の除票
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
・被相続人の預金通帳、キャッシュカード
・被相続人の届出印
・手続きをする人の実印
・遺産分割協議書

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必要な費用①:書類代
預金口座を名義変更・解約して相続する手続きを相続人自らが行う場合にかかる費用は、原則として戸籍謄本と印鑑証明書など公的書類の交付手数料のみです。交付手数料は自治体によって異なります。ここでは渋谷区役所の窓口に出向いて収集した場合の金額を例示します。
■相続人に関するもの
・相続人全員の現在の戸籍謄本(被相続人と同じ戸籍の人は不要):450円/通
・相続人全員の住民票:300円/通
・相続人全員の印鑑証明:300円/通
■被相続人に関するもの
・出生から死亡までの全ての戸籍謄本:750円/通
・被相続人の死亡の記載のある住民票の除票(住民票記載事項証明書):300円/通
戸籍謄本は、原則として本籍地である市町村の窓口に出向いて請求します。住所地と本籍地が遠い場合は、移動の交通費がかかることも頭に入れておきましょう。
窓口に行けない場合は郵送で請求することもできますが、その場合は別途、郵送料が必要です。郵送の場合、上記の費用を定額小為替証書で支払わねばならない場合が多く、その手数料(100円/1枚)もかかります。
いずれの書類も1通当たりの手数料は小額ですが、口座や相続人の数が多い場合は、手数料だけでもまとまった金額になるでしょう。
必要な費用②:専門家への委託料
手続きを司法書士などの専門家に委託した場合は、書類代のほかに専門家への委託料がかかります。委託料は専門家によって異なりますが、1口座あたり概ね2~10万円が目安とされています。
預金の相続の流れ

預金の相続の流れは次の通りです。
【STEP1】名義人死亡の届出
預金口座の名義人が亡くなったことを金融機関に届け出ます。届け出をすると、金融機関から今後の手続きについての説明があり、その時点で口座は凍結されます。
【STEP2】必要書類の準備
銀行からの案内に従って手続きに必要な書類を準備します。
【STEP3】必要書類の提出
必要書類が揃ったら、銀行に提出します。
【STEP4】名義変更、預金の払い戻し
提出した書類に不備がなければ、口座の名義変更、解約に伴う預金の払い戻しなどが行われます。
預金の相続までにかかる期間は名義人死亡の届出をしてから、1週間~1か月程度かかると見込んでおくとよいでしょう。ただし、書類に不足や不備がある場合は、書類の修正や再提出が必要となるため、余計に時間がかかってしまうことに注意が必要です。
不動産の相続に必要な費用一覧

不動産を相続する場合は、相続不動産の所有権を被相続人から相続人に移転するために、「所有権の移転の登記」を行う必要があります。所有権の移転の登記には、以下の書類の提出が求められ、それぞれ費用がかかります。
必要な費用①:書類代
■相続人に関するもの
・相続人全員の現在の戸籍謄本(被相続人と同じ戸籍の人は不要):450円/通
・相続人全員の住民票:300円/通
・相続人全員の印鑑証明:300円/通
■被相続人に関するもの
・出生から死亡までの全ての戸籍謄本:750円/通
・被相続人の死亡の記載のある住民票の除票(住民票記載事項証明書):300円/通
■登記にかかるもの
・登記申請書 法務局のサイトで無料ダウンロード可能
・相続不動産の登記事項証明書(登記簿謄本) 600円/通
※戸建て住宅等の場合は土地と建物それぞれ1通ずつ必要
・固定資産評価証明書 400円/通(東京都の場合)
※戸建て住宅等の場合は土地と建物それぞれ1通ずつ必要
必要な費用②:不動産登録免許税
また、不動産登記の申請にあたっては、必ず登録免許税を納付しなければならず、納付しない場合、申請が却下されます。登録免許税の金額は原則として以下の計算式で算出します。
登録免許税=固定資産評価額✕登録免許税率(=0.004)
つまり、固定資産評価額が3,000万円の不動産であれば、登録免許税として12万円を納付する必要があります。
必要な費用③:専門家への委託料
一方、手続きを司法書士などの専門家に委託した場合は、書類代や登録免許税に加えて専門家への委託料がかかります。委託料は専門家によって異なりますが、不動産1件当たり概ね5~10万円が目安とされています。
不動産の相続の流れ

【STEP1】不動産についての情報を集める
被相続人の固定資産税納税通知書などから、被相続人が所有している不動産について地番や家屋番号を確認します。
【STEP2】遺言または相続協議で相続人を決める
遺言書がある場合は、その遺言で不動産を引き継ぐ人を確認します。遺言書がない場合は、相続人による遺産分割協議で遺産の分け方を話し合い、不動産を誰が相続するかを決めます。決めた内容に全員が合意したら、それを遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の署名・捺印をします。
【STEP3】登記に必要な書類を収集、作成する
前述した登記に必要な書類を収集、作成します。
【STEP4】管轄の法務局へ申請する
対象の不動産の住所地を管轄する法務局の不動産登記窓口で登記申請書と添付書類一式を提出して申請します。なお、登記申請には登録免許税の納付が必要で、先に法務局内の別の窓口でその分の収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて提出します。
【STEP5】登記完了
法務局での書類審査と登記にかかる期間は、書類に不備や不足がない場合は1週間~10日程度。登記が済んだら、登記識別情報の通知や登記完了証を受け取ります。

【義務化】「相続登記」とは?不動産の相続に必要な手続きや費用について

もちろん、預金や不動産以外の財産の相続にもそれぞれ費用がかかります。たとえば、有価証券、自動車の場合はそれぞれ次のような費用がかかります。
有価証券の相続にかかる手続きと費用
基本的に預金の相続と同様の書類(戸籍謄本、印鑑証明など)を証券会社に提出する必要があるため、その交付手数料が必要です。証券会社の相続手続きでは、同じ証券会社に相続人名義の管理口座を新たに開設し、その口座に被相続人の有価証券を移動します。
その後、名義変更の手続きが完了すれば管理口座に移した有価証券の売却が可能になります。
一連の手続きを司法書士などの専門家に委託した場合の委託料は、1件あたり数万円~10万円程度です。

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自動車の相続にかかる手続きと費用
被相続人が所有していた自動車を相続した人が乗り続ける場合も、売却・廃車する場合も、必ず運輸局に届け出て名義変更をする必要があります。
相続に伴う自動車の名義変更には、次の書類の提出が必要です。
・自動車検査証
・車庫証明書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、または除籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・自動車の新たな所有者となる相続人の印鑑証明書
・車の新たな所有者となる相続人の実印
・遺産分割協議書
自動車の相続には、これらの書類の交付手数料に加え、次のような費用もかかります。
・移転登録手数料 2,500円
・車庫証明取得費用 2,500円~3,500円(都道府県によって異なる)
・ナンバープレート購入費 約1,500円(ナンバー交換する場合のみ)
なお、自動車相続の手続きを行う運輸局は平日しか業務を行っていないため、司法書士などの専門家に手続きを委託する人も多く、その場合の手数料の相場は2万円~5万円とされています。

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相続手続きの注意点

相続の手続きには、細かい注意点があり、守れていないとさらに費用がかさむ可能性があります。
自筆遺言の場合は検認が必要
被相続人による遺言書がある場合は、原則として、その内容に沿って相続が行われます。ただし、遺言が公正証書遺言(公証人が被相続人の依頼に基づいて作成した遺言)ではなく、個人的に作成した自筆遺言だった場合は、家庭裁判所の検認(遺言書の内容の確認)が必要です。
不動産の相続登記にあたって、家庭裁判所の検認を受けなくてはならず、検認を受けていない遺言書では登記の手続きができないためです。なお、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立ち会いの上で開封することが民法で定められており、家庭裁判所以外の場所で開封してしまうと5万円以下の過料が課されることになります。

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遺産分割協議書は専門家に依頼
遺言書がない場合は、法定相続人が遺産分割に関する協議をし、その結果を遺産分割協議書にまとめます。遺産分割協議書には、「パソコンで作成可能だが、署名だけは手書きにする」「被相続人の最終本籍地と住所地を記載する」など、いくつかのルールがあり、不備があると相続に関する手続きができなくなる可能性があります。
スムーズに手続きを進めるために、遺産分割協議書は司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。その際の手数料は3~5万円が目安です。

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相続の手続きには期限がある
自力で手続きを行うことは不可能ではありません、ただし、相続手続きには期限があることに注意してください。
ここまで見てきた通り、相続には様々な書類を準備せねばならず、手続きも煩雑です。そのため、自力での手続きをあきらめ、司法書士などの専門家に代行を委託する人も少なくありません。手続きにかかる費用や時間の観点から相続手続きの進め方を検討する上で以下の、期限を参考にしてみてください。
■期限がある手続きの例
・相続放棄:相続があることを知ってから3ヶ月以内
・準確定申告(被相続人に代わって行う確定申告):相続開始から4ヶ月以内
・相続税の申告:相続開始から10ヶ月以内
・遺留分の減殺請求(法定相続人として遺留分を取り戻すための請求):相続があったことを知ってから1年以内
これらの期限を過ぎてしまうと大きな不利益を被る恐れがあるので、相続の手続きは常に早めを心がけることが大切です。
困ったときは専門家に依頼しよう!

財産の種類を問わず、相続の手続きは煩雑で時間がかかります。特に相続税の申告や相続税の算出は難解なため、自分で行うには一定の知識が必要な上、膨大な時間と労力を要します。また、役所は基本的に平日昼間しか窓口業務を行っていないので、手続きのために何度も仕事を休まねばならない人も出てくるでしょう。また、相続人が多い場合は、全員が納得する形で円滑に相続を進めるためのコミュニケーションも大きな負担になります。
こういった労力と時間をかけることが難しい場合は、税理士や司法書士、信託銀行といった専門家に代行を依頼することをおすすめします。
できれば、実際に相続が発生する前に、以下のような点を専門家とよく確認し、話し合っておくと、よりスムーズに相続手続きを行うことができます。
①税制の変化(時代に合った商品の活用)
②民法の改正(居住権などの活用)
③不動産の将来に向けた活用方法の検討
④目的に沿って計画的な贈与の実施
⑤信託商品や保険の活用
⑥想いを伝えるための遺言の活用
相続手続き代行サービスを提供している専門家はインターネットなどで簡単にみつけることができます。まずは複数の専門家に見積りをとって、費用の相場をつかみましょう。ホームページなどで費用の自動見積もりサービスを提供しているところもありますが、見積額に交通費や面談費、各種書類取得費などの実費が別途加算されるケースが多いことに注意してください。また、相続は相続人同士のもめごとが起きるなどして、手続きが長丁場になることも珍しくありません。専門家を選ぶ際には費用だけでなく、実績や人柄も含めて比較検討し、自分と相性の良い人、信頼できる人を慎重に選ぶことが大切です。

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まとめ
相続は、相続税の他にも各種手続きに伴う費用がかかります。税金も手続きの費用も、相続する財産の内容や種類、相続人の数によって異なりますが、いざというときに概ねどのくらいかかるのかの目安を知っておくことが大切です。
手続きの中でも不動産の登記や相続税の申告は手続きが複雑で難しいので、十分な労力と時間が割けない場合は、税理士や司法書士など専門家に代行を依頼することをおすすめします。代行にかかる費用もケース・バイ・ケースなので、できれば複数の専門家に見積もりを取って比較・検討の上、選定するようにするとよいでしょう。
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