退職金1000万円の手取り額は?相場や受け取り方法による税金の違い

退職金として1000万円を受け取った場合、受け取り方によって税金が異なり、手元に残るお金も変わってきます。本記事では、大企業と中小企業における退職金の相場や業界別の退職金相場をはじめ、退職金の受け取り方法などについても解説します。1000万円の退職金で老後の資産形成をする、おすすめの運用方法もご紹介します。

退職金1000万円の手取り額は?相場や受け取り方法による税金の違い

大企業と中小企業の退職金の相場

大企業と中小企業の退職金の相場

ここでは大企業と中小企業の退職金の相場について、それぞれ紹介します。

大企業の退職金の相場

厚生労働省(中央労働委員会)が公表している「令和3年賃金事情総合調査」によると、学歴別での大企業における退職金平均額は、以下の通りです。

大企業における平均退職金額(男性)

学歴 大学卒 高校卒
平均退職金額 2,230万4,000円 2,017万6,000円

【出典】厚生労働省(中央労働委員会)「令和3年賃金事情総合調査(調査実施期間:2021年8月2日~9月13日)」詳しくはこちら
※大学卒は22歳、高校卒は18歳で入社し、同一企業に定年退職するまで勤務した場合(満勤勤続)の平均退職金額とする

なお、同調査では226社を対象としており、大企業を「資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上」と定義しています。

中小企業の退職金の相場

つづいて、東京都産業労働局が公表した「中小企業の賃金・退職金事業(令和2年版)」より、中小企業の退職金相場についてみていきましょう。

同調査では東京都内の中小企業1,407社を対象としており、学歴別に見た中小企業での「モデル退職金」(同一企業に定年で退職するまで勤務した場合)は、以下の通りです。

中小企業における平均退職金額

学歴 大学卒 高校卒
平均退職金額 1,118万9,000円 1,031万4,000円

【出典】東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」詳しくはこちら

大学卒、高校卒ともに、どちらも1,000万円程度の退職金をもらっていることが分かります。
ここでいう「中小企業」は従業員数や資本金によって決まるものの、業種によって基準が異なります。詳しくは、中小企業庁が「中小企業・小規模企業者の定義」で言及しているので、参考にしてください。

業界別の退職金の相場

業界別の退職金の相場

退職金の相場は、業界によっても異なります。先ほど紹介した「中小企業の賃金・退職金事業(令和2年版)」をもとに、業界別のデータについて下表にまとめました。

業種別・学歴別の平均退職金額

大学卒 高校卒
建設業 1,313万8,000円 1,177万円
製造業 1,148万7,000円 1,080万4,000円
情報通信業 1,154万5,000円 864万9,000円
運輸業
郵便業
893万2,000円 821万9,000円
卸売業
小売業
1,088万4,000円 1,019万4,000円
金融業
保険業
1,725万5,000円
不動産業
物品賃貸業
1,353万7,000円
学業研究
専門・技術サービス業
1,007万1,000円
生活関連サービス業
娯楽業
1,104万2,000円 1,129万6,000円
教育
学習支援業(除、学校教育)
656万9,000円
サービス業
(他に分類されないもの)
996万円 1,019万2,000円

業種別にみると、多くの業種で平均退職金額が1,000万円を超えていることが分かります。また学歴別では、サービス業(他に分類されないもの)のみ高校卒が大学卒を上回っています。

勤続年数別の退職金の相場

勤続年数別の退職金の相場

「令和3年賃金事情総合調査」と「中小企業の賃金・退職金事業(令和2年版)」より、企業規模別に勤続年数ごとの退職金相場についてもみていきましょう。

大企業

大企業に勤めている人の勤続年数別の退職金相場は、以下の通りです。

勤務年数別の退職金相場(会社都合)

大学卒 高卒
勤続3年 69万円 52万2,000円
勤続5年 118万円 95万円
勤続10年 310万2,000円 240万1,000円
勤続15年 577万9,000円 403万5,000円
勤続20年 953万1,000円 664万7,000円
勤続25年 1,393万8,000円 1,005万円
勤続30年 1,915万4,000円 1,365万3,000円
勤続35年 2,364万9,000円 1,726万9,000円

【出典】厚生労働省(中央労働委員会)「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査(調査実施期間:2021年8月2日~9月13日)」詳しくはこちら
※大学卒は22歳、高校卒は18歳で入社し、同一企業に定年退職するまで勤務した場合(満勤勤続)の平均退職金額とする

勤続年数が長くなるほど退職金相場も上昇し、大学卒では勤続20年、高卒では勤続30年あたりから退職金額が1,000万円を超えることが分かります。

中小企業

中小企業に勤めている人の勤続年数別の退職金相場は、以下の通りです。

勤務年数別の退職金相場(会社都合)

大学卒 高卒
勤続10年 148万3,000円 114万8,000円
勤続15年 266万円 209万1,000円
勤続20年 425万円 333万2,000円
勤続25年 598万円 471万9,000円
勤続30年 785万6,000円 622万7,000円

【出典】東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」詳しくはこちら

中小企業の場合、大企業と比較して退職金相場が半分以下にとどまることが分かります。

退職金の受け取り方法は3種類

退職金の受け取り方法は3種類

退職金の受け取り方は、以下の3通りです。

・「一時金」としてまとめて受け取る
・「年金」として分割で受け取る
・「一時金」と「年金」を併用して受け取る

出典 

退職金の受け取り方は、企業によって指定しているケースもあるため、事前に就業規則などで確認しておくようにしましょう。

退職金1,000万円を一時金で受け取る場合

受け取りの際に一時金を選んだ場合、退職時に1,000万円がまとめて支給されます。通常であれば所得に対して課税されますが、退職金の場合は「退職所得」となり税制優遇を受けられるのがメリットです。

退職所得は、以下の計算式で求められます。

退職所得=(収入金額(源泉徴収される前の金額)ー 退職所得控除額) × 1/2

出典 

また、退職所得控除額は勤続年数が長いほど増え、計算式は以下の通りです。

勤続年数 退職所得控除の計算式
20年以下 40万円 × 勤続年数※
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20)

※80万円に満たない場合には80万円

【出典】国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」詳しくはこちら

仮に退職金が1,000万円で20年勤務した場合、800万円が退職所得控除となります。ほかの所得と分けて税金が計算されることから、税負担の軽減が期待できるでしょう。
後述する年金形式よりも一時金で受け取った方が、税金面では有利となります。

一方で、年金で受け取った場合と比較して、一時金で受け取った方が総額が少なくなる点に注意が必要です。年金で受け取る場合、受け取っていない分の退職金については金融機関が運用してくれることから、一般的には受取額が増える傾向にあります。

退職金1,000万円を年金で受け取る場合

退職金を年金で受け取る場合、受け取るまで会社が運用をしてくれるため、退職金の運用益が加算されるのが最大の特徴です。長期間にわたって受け取ることを希望した場合、受取総額が増える可能性が上がります。

ただし、退職金を年金で受け取る場合には「雑所得」に該当し、総合課税の対象となります。公的年金やパート・アルバイト代といった、ほかの収入との合計所得が増えてしまうことから、結果として税金や社会保険料が高くなる恐れがある点に注意しなければなりません。
また、健康保険や介護保険の自己負担割合は、所得金額に応じて大きくなる可能性があることも覚えておきましょう。

退職金1000万円を一時金と年金を併用して受け取る場合

企業によっては、退職金を一時金と年金を併用して受け取れるケースがあります。
例えば、退職時に明確な使い道が決まっている場合、その金額のみを一時金で受け取り、残りは年金で受け取るのも1つの手でしょう。

受け取り方ごとのメリットとデメリットを考慮したうえで、ライフプランに合わせた受け取り方を検討するようにしましょう。

退職金1000万円にかかる税金に注意!

退職金1000万円にかかる税金に注意!

退職金は受け取り方によって「所得税」「住民税」「復興特別所得税」といった3つの税金の課税方法が異なります。ここでは、それぞれの税金についてみていきましょう。

所得税

所得税とは、毎年1月1日から12月31日までに得た所得に対して課税される税金のことです。所得税は、一般的に以下の計算式によって求められます。

■所得税
所得税額=(所得-控除)×税率
※所得税は収入の種類によって税率および計算方法が異なる

■所得
所得=収入-経費

また、所得税には総合課税と分離課税があり、退職金を一時金で受け取る場合は「分離課税」となります。そのため、ほかの所得と分けて所得税が計算される点に注意しましょう。
税率は、以下のページを参考にしてください。

【参考】国税庁「No.2260 所得税の税率」詳しくはこちら

住民税

住民税は、毎年1月1日に現在住んでいる都道府県と市区町村に対して納める税金です。
住民税には前年の所得に応じて負担する「所得割」と、一定の所得を上回る場合に収める「均等割」があります。
こちらも、退職金を一時金として受け取った場合には分離課税の対象です。

復興所得税

復興所得税は、東日本大震災の復興に向けた財源確保を目的として創設された税金であり、所得税の付加税のことです。復興所得税は2013年に始まったものの、期限が2037年までと決められています。

そのため、2037年以前に受け取った退職金には復興特別所得税が課税されますが、それ以降の退職金について復興所得税はかかりません。なお、復興特別所得税の税額は所得税額の2.1%となっています。

退職金は運用して増やすのがおすすめ

退職金は運用して増やすのがおすすめ

運用の経験がない人のなかには「失敗するのが怖い」と退職金を貯蓄にまわす人も多いかもしれません。
しかし、超低金利時代と呼ばれる近年において、銀行に預けているだけでは資金を増やすことは困難でしょう。

老後2000万円問題がたびたび話題に上がるように、退職後に安定した暮らしを求めるのであれば、十分な資金を確保しておくことが欠かせません。
従来であれば、貯蓄や退職金、年金だけで老後資金を確保することができましたが、平均寿命が男女ともに延びている昨今では、不足してしまうケースが多く見受けられます。将来長生きした場合には、老後の資金が足りなくなるケースも少なくありません。

そのため、安定した老後の生活を送るためにも退職金の一部、もしくは半分程度を資産運用に回すことをおすすめします。
運用をする際はローリスク・分散投資を心がけるほか、いつ解約や売却をするのかといった出口戦略をきちんと考えるようにしましょう。

退職金のおすすめの運用方法

退職金のおすすめの運用方法

ここでは、退職金のおすすめの運用方法として、3つ紹介します。

退職金定期預金

退職金定期預金とは、退職者を対象とした定期預金です。一般の定期預金と比べて満期までの期間が短く、高金利の利息が設定されていることが特徴です。元本割れのリスクがないことに加えて、身近な銀行に預けられるため安心と感じる人も多いでしょう。

ただし、なかには投資信託の運用も同時に契約しなくてはならないケースもあり、退職金定期預金の契約詳細について十分に確認することが大切です。

投資信託

投資信託とは、複数の投資家から集めた資金を元にプロが運用する仕組みのことです。投資信託を1つ購入するだけで投資先を分散できるため、リスクを抑えつつ運用できるのがメリットといえます。

投資信託を購入する際、あわせてNISAを検討するのもよいでしょう。
NISAは少額投資非課税制度のことで、投資で得た利益に対して税金がかからない税制優遇が認められています。なお、NISAは「一般NISA」と「つみたてNISA」に大別され、このうち初心者には「つみたてNISA」がおすすめです。
つみたてNISAは非課税保有期間が20年、年間非課税枠が40万円と合計で800万円の資金を運用に回すことができます。投資対象は金融庁から認可を得た金融商品に限られているため、初心者であっても比較的安心して始められるでしょう。

2024年からは投資枠が拡充された「新NISA」がスタートすることが決まっています。新NISAは現行の一般NISAとつみたてNISAをあわせた制度となっており、主な特徴は以下の通りです。

現行のNISA制度

仕組み
(どちらか一方)
一般NISA つみたてNISA
年間投資上限額 120万円 40万円
生涯非課税限度額 600万円 800万円
非課税保有期間 5年間 20年間
投資枠の再利用 不可 不可
対象商品 株式・ETF
投資信託
投資信託
制度が使える期間 ~2023年末 ~2042年末
新規買付
~2023年

新NISA制度

仕組み
(併用可)
成長投資枠 つみたて枠
年間投資上限額 240万円 120万円
生涯非課税限度額 1,200万円 成長投資枠を使用している場合、合算して
1,800万円
非課税保有期間 無期限 無期限
投資枠の再利用
対象商品 投資信託 株式・ETF
投資信託
制度が使える期間 2024年~(恒久化) 2024年~(恒久化)

上記から、新NISAは恒久化に伴って非課税保有期間が無期限となるほか、年間投資額が大きく増加していることが分かるでしょう。
現行のNISA制度ではNISA口座で保有している金融商品の換金手続きをした場合において、その金額を再利用することは認められていませんでした。しかし、新NISAでは再利用が可能となるため、これまで以上に柔軟な投資がしやすくなることが期待されています。

個人向け国債・社債

個人向け国債・社債とは、銀行や証券会社などが個人向けに発行している債券のことです。
購入金額は1万円からと少額に設定されているほか、一定期間が経過した場合には国に請求することで国債を買い取ってもらうことができます。

また、個人向け国債は経済環境の悪化などで金利が変動しても、元本部分の価格が変動することはありません。そのため、満期時には元本が満額返還される点で、安心といえるでしょう。

一方で、個人向け国債は発行後1年間は換金できないほか、投資商品としては金利が低く設定されている点に注意が必要です。そのため、退職金を運用して増やしたいと考えている方にとっては物足りなく感じる恐れがあります。
昨今では、比較的金利が高く設定されている投資商品も多く出回っているため、リスク許容度を踏まえたうえで自分に見合った商品を選択してみてもよいかもしれません。

まとめ

退職金を1000万円もらっても、手取り額は1000万円ではありません。
退職金には所得税、住民税、復興所得税(2037年まで)が課されるほか、受け取り方によって生じる税金が異なります。一時金と年金、どちらで受け取るのが正解なのか明確な答えはありませんが、自身の置かれている状況やライフプランを考慮したうえで最適な受け取り方を検討するようにしましょう。

また、退職金は源泉徴収がなされるため、原則として確定申告は必要ありません。しかし、所得控除で利用できるものがある際は、申告をすることで税負担を軽減できます。

定年後退職金を受け取るのはまだ先のことと考えている方も多いかもしれませんが、お金の準備は早くから意識しておくにこしたことはありません。
退職金を受け取る前から、どう活用していくのがベストなのか、考え始めることをおすすめします。

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