認知症になる前に対策できる「家族信託」とは?仕組みや手続きをわかりやすく解説!

万が一、認知症になってしまったら、財産の管理をどうすればいいのか不安に思っている人も多いのではないでしょうか。今回は、自分で自分の財産の管理ができなくなったときに備えて、家族に財産の管理や処分ができる権利を与えておく「家族信託」の仕組みや、メリット・デメリット、実際の手続きについて解説します。

認知症になる前に対策できる「家族信託」とは?仕組みや手続きをわかりやすく解説!

家族信託とは「財産の管理や処分ができる権利を家族に与えておく方法」

認知症などのために判断力が低下し、自力で財産管理ができなくなってしまったときの財産管理法としては、「成年後見制度」がよく知られています。しかし、成年後見制度には法的な制約が多く、コストもかかることから利用率が低く、近年では、より柔軟で使いやすい制度として「家族信託」が注目を集めています。

家族信託とは、認知症などによって自分で自分の財産の管理や処分ができなくなったときのために、家族に財産を管理・処分できる権利を与えておく方法です。

財産の管理をする受託者になれる家族の範囲は?

家族信託に関与するのは、原則として以下の三者になります。

①委託者(財産の所有者)
②受託者(委託者と信託契約を結び、財産の管理を受託する家族)
③受益者(信託財産から得た利益を受け取る人、多くの場合は委託者本人)

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高齢の親(委託者)が自らを受益者として、子供(受託者)に財産管理を委託するケースが最も一般的です。信託契約をすると信託された財産の名義は委託者から受託者に移るので、受託者の権限で管理したり処分したりすることができるようになります。

受託者になることができる家族の範囲には制限は設けられておらず、兄弟姉妹や子供はもちろん、甥や姪も受託者になることができます。ただし、未成年や成年被後見人、被保佐人(判断力が不十分であるとして、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人)は受託者になることができません。

家族信託できる財産は?

家族信託できる財産は?


家族信託では、家族信託の対象とできる財産にも特に制限が定められておらず、一般的に金銭的価値に置き換えることができるものであれば、信託契約に定めることにより信託財産とすることができます。現金や有価証券、不動産はもちろん、債権(請求権、貸付債権など)やペット、知的財産権(特許権、著作権など)も、信託契約で定めれば信託財産とすることが可能です。
逆に、金銭的価値に置き換えられないもの、例えば生命や名誉、一身専属権(生活保護や年金の受給権など)や借金(債務)などは委託者に専属する権利のため財産とすることができません。

家族信託のメリット

家族信託には、主に次のようなメリットがあります。

①判断力が低下する前に、財産管理を委託できる
②柔軟な財産管理ができる
③委託者本人の死後の財産管理も信託できる
④二次相続対策ができる
⑤倒産隔離機能がある

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以下でそれぞれについて、解説していきます。

①判断力が低下する前に、財産管理を委託できる

成年後見制度では、後見人が被後見人の財産管理ができるのは被後見人の判断力が低下したときであり、被後見人の判断力が正常なうちは、財産管理を後見人に任せることはできません。一方、家族信託では委託者と受託者間で信託契約が締結されれば、すぐに財産管理を委託することができます。つまり、委託者は自身の判断力が正常なうちに、自身の財産の管理を、自身の選んだ受託者に任せることができるということです。

②柔軟な財産管理ができる

成年後見制度では家庭裁判所が法定後見人を選任することになっているので、被後見人本人やその家族の希望する人が選任されるとは限りません。被後見人の財産が多い場合や事業収入が多い場合は、第三者の弁護士や司法書士が後見人に選任されることも増えています。

また、後見人は被後見人本人の利益にならない財産管理は行えないことになっているため、たとえば家族にメリットが大きい相続対策などは行うことができません。その点、家族信託では委託者と受託者が財産の管理内容を含めて信託契約を結ぶことができるので、より柔軟な財産管理をすることができます。

③委託者本人の死後の財産管理も信託できる

家族信託では、委託人の死後の財産の管理についても契約内容に盛り込むことができます。例えば、委託者の妻や子供が病気や障害のために自力で財産管理ができない場合、委託者は自分の死後も受託者に財産の管理を任せることによって、妻や子供の生活を支えることができるのです。

④二次相続対策ができる

法定相続や遺言による相続は、いずれも一次相続(1回目の相続)にしか対応していません。しかし、家族信託であれば、最初の相続で遺産を受け取った人が亡くなった際の相続=二次相続についても、信託契約で定めておくことができます。

⑤倒産隔離機能がある

信託財産の名義は受託者のものになり、受託者が管理・処分などをできるようになりますが、受託者の財産になるわけではありません。信託財産は委託者からも受託者からも独立した財産として扱われ、委託者や受託者が倒産した場合や差し押さえを受けた場合も、その影響を受けないことになっています。

家族信託のデメリット

一方、家族信託には下記のようなデメリットもあります。特に受託者になるよう頼まれたときは、デメリットを十分に理解した上で引き受けるか否かの判断をするようにしましょう。

①信託財産による赤字は損益通算できない
②受託者に権限が集中するためトラブルになりやすい

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どういうことか、それぞれ見てみましょう。

①信託財産による赤字は損益通算できない

信託財産は赤字が出ていても他の損益と通算することができないため、節税効果は期待できません。

②受託者に権限が集中するためトラブルになりやすい

家族信託では受託者に信託財産の管理に関する権限が集中するため、他の家族や関係者から不満が出てトラブルになることもあります。また、受託者が委託者と事前に契約した内容とは異なる方法で、勝手に財産を管理したり処分したりしてしまうおそれもあります。

【目的別】家族信託の活用例

【目的別】家族信託の活用例

以上のようにメリット・デメリットを併せ持つ家族信託ですが、一般的には①認知症への備え、②事業承継の目的で活用されることが多いようです。ここでは、目的別に家族信託の活用例を紹介します。

①認知症への備え

将来、認知症などが原因で自分の財産の管理ができなくなった場合に備え、家族を受託者にして財産を信託しておき、生活費や医療費、介護費などを支払ってもらうことができます。また、家族信託の受託者は信託財産の管理だけでなく、運用や処分をすることも可能です。したがって、たとえば受託者である家族に不動産を信託して売却してもらい、その売却益を自身が受益者として受け取ったり、賃貸アパートを信託して家賃収入を受け取ったりすることもできます。

②事業継承

企業のオーナーを委託者兼受益者、後継者(家族)を受託者にして、会社の株式を家族信託することもできます。株式の形式的な所有者は受託者である後継者に移りますが、信託財産から利益を得る人は受益者であるオーナーのままであるため、後継者に贈与税は課されません。また、信託契約時に「指図権」を設定しておけば、株式の所有権は後継者に移っても、オーナーが実質的な経営権を維持することが可能に。元気なうちはオーナーが実質的に経営の指揮を執り、後継者が独り立ちできるのを見極めた上で経営から手を引く……という戦略を立てるケースもあるようです。
なお、上記のような形で事業承継に家族信託を活用した場合、一般的には受益者であるオーナーの死後は受益権が後継者に移転され、後継者に相続税が課されます。

家族信託の手続き

家族信託の手続き

では、実際に家族信託を行うには、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、一般的な家族信託の手続きの流れをご紹介します。

STEP1:信託内容を決める

家族信託をすることに決めたら、信託内容として以下の項目を決める必要があります。

・信託目的(家族信託を行う目的)
・委託者(信託する財産の所有者)
・受託者(委託者から財産を預かって管理する人)
・受益者(信託財産から得られる利益を受け取る人)
・第二受託者(受託者が亡くなったときなどに、財産の管理を引き継ぐ人)
・第二受益者(受益者の次に利益を受け取る権利のある人)
・信託財産(委託者が受託者に管理を任せる財産)
・信託期間(信託契約の有効期間。「受益者が死亡するまで」などと定めることが多い)
・残余財産の帰属先(信託期間終了後に残っている財産を取得する人)

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STEP2:信託契約書を作成する

信託内容が決まったら、すべての信託内容を文書にして「信託契約書」を作成し、委託者・受託者がそれぞれ署名捺印します。

STEP3:信託契約書を公正証書にする

信託契約書ができたら、公正証書にしておきましょう。これは義務ではありませんが、公正証書にしておくと、公正人による本人の意思確認が受けられるので、後々の紛争を防ぐ効果があります。また、信託財産を管理する口座開設の手続きがスムーズに行えるというメリットもあります。

STEP4:不動産の名義を変更する

信託財産の中に不動産が含まれている場合は、不動産の名義を委託者→受託者に変更します。名義変更はその不動産のある地域を管轄している法務局に申請することによって行うことができます。手続きには委託者の印鑑証明、受託者の住民票、当該不動産の固定資産評価証明書など様々な申請書類が必要となります。必要書類と詳細な手続きについては、法務局のホームページなどで確認してください。

【参考】法務局ホームページ」詳しくはこちら

STEP5:信託専用口座を作る

信託財産の中に現金や預金がある場合、それらを委託者もしくは受託者の預金口座で管理することはできません。かならず信託財産専用の口座を開設し、この口座に信託財産である現預金を移動した上で、管理する必要があります。

以上のように、家族信託を始めるための手続きは難しく、委託者・受託者のみで行うと、かなりの時間を要してしまいます。手数料はかかりますが、信託に詳しい専門家(司法書士など)のサポートを受けることをおすすめします。

家族信託にかかる費用は?

家族信託にかかる費用は?

家族信託には、主に以下のような費用がかかります。

①信託証明書を公正証書にする費用

信託財産の価格により異なります。例えば信託財産が5,000万円以下の場合は2万9,000円です。詳しくは、日本公証人連合会のホームページで確認できます。

②不動産登録免許税

不動産の名義を変更すると、不動産登録免許税が課されます。課税額は当該不動産の固定資産評価額に応じて異なりますが、土地の場合は固定資産税評価額の0.3%、建物の場合は0.4%が原則です。したがって、たとえば5,000万円の土地を名義変更した場合は、受託者に15万円の登録免許税が課されることになります。

③その他実費

このほかにも、財産の種類によっては様々な公的証明書(住民票、戸籍謄本など)の取得が必要になり、それらの申請にかかる費用が数千円~数万円程度かかることがあります。

また、申請にかかる手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、その報酬も考慮しておく必要があります。報酬額は依頼する専門家によって、あるいは信託財産の額や依頼内容に応じて異なりますが、一般的には信託財産の中に不動産が含まれる場合は50万円以上となるケースが多いようです。かなり高額に感じるかもしれませんが、前述のとおり家族信託の手続きはかなり煩雑で難易度も高いので、時間や体力に余裕のない方、こういった手続きになれていない方は、専門家のサポートを受けることをお勧めします。費用はかかりますが、よりスムーズに信託による財産管理を受けることができるはずです。

まとめ

認知症などで判断力が低下する前に、家族に財産の管理をまかせることができる、家族信託。成年後見制度に比べて、より柔軟に希望通りの財産管理を委託できる制度として注目されています。元気なうちに家族信託契約をしておけば、万が一、認知症などで判断力が低下してしまっても、信頼できる家族に生活費の管理や医療費・介護費などの支払いをしてもらうことができます。家族信託は自分でも行うことができますが、信託財産の内容や額によっては手続きが煩雑になります。

また、家族信託の仕組みとして、先述のようなメリット・デメリットもあり、家族信託以外も含めご家族に合った財産管理をしっかり検討するためにも、信託銀行や司法書士などの専門家に一度ご相談するのがよいでしょう。

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