民事信託とは?家族信託や商事信託との違いや活用事例をご紹介

財産の管理や相続に向けて、民事信託を活用する人が増えています。生前から自由度を高く財産の管理を委託することができる民事信託について解説します。民事信託の概要や家族信託・商事信託との違い、活用する際のメリット・デメリット、活用事例などを参考にしてみてください。

民事信託とは?家族信託や商事信託との違いや活用事例をご紹介

民事信託とは?

民事信託とは?

「民事信託」とは、財産の管理や運用、相続について信頼できる特定の人に任せる委託契約のことです。民事であるため、信託商品や投資信託のような信託銀行が営利目的で行うものではなく、信託報酬の対象にはなりません。

民事信託の目的と背景

民事信託において重要な信託法は、1922年(大正11年)に制定されましたが、信託銀行による商事信託(信託を用いた金融商品の開発)を除き、ほとんど活用されていませんでした。

2006年(平成18年)12月、高齢化の加速をきっかけに信託法が改正され、民事信託への活用も増えました。民事信託と同様に、高齢者や認知症者、障がい者などに対する財産の管理や重要な手続きを支援する制度として「成年後見制度」があります。

しかし、成年後見制度は民事信託と比較して、手続きが煩雑で柔軟性もあまり高くありません。
そのため、より自由度が高く、財産の管理や相続が可能な民事信託がここ数年で注目を集めています。

民事信託の仕組みと登場人物

民事信託の仕組みは、委託者(財産の所有者)が受託者(財産の管理人)に財産を預け、受益者(利益の受取人)が財産から発する利益を受け取ります。

委託者と受益者が同一人物で、財産の管理や運用のみを受託者に任せて、利益を受け取るケースもあります。また、受託者と受益者を複数の人に設定できることも特徴です。
信託契約により、財産の所有権は委託者ではなく受託者となる点が信託の最も特徴的な点です。こちらは財産隔離機能として、民事信託のメリットの部分で説明します。

民事信託でできること

民事信託を取り交わすと、自身の意思を最大限に尊重した財産の管理や相続が可能です。

健康なうちから死後までの管理方法を定める

民事信託では、生前の健康なうちから死後においても、財産の管理や運用方法、利益の譲渡先などを設定することができます。成年後見制度では、判断能力が衰えてからでないと財産の管理を行ってもらえないので、その点が大きな違いでしょう。

財産の管理と利益の受取を分ける

財産の管理者(受託者)は、委託者が自由に選ぶことができ、利益を受け取る人(受益者)も委託者が選定できます。そのため、遺産分割などで相続人同士が揉める可能性が低くなるでしょう。

財産相続の分配を細かく定める

不動産や株式、金銭など財産相続の分配を、生前に定めることができます。委託者が自由に定めることができるものの、死後に相続同士で揉め事が起こらないよう、事前に相続人と相談した方がよいでしょう。

将来を見据えて相続人を定める

信託財産の受益者が死亡した際、誰に受益権を承継するか定めることができます。委託者が受益者であった場合は、希望する者に相続させることと同じだといえるでしょう。

例えば、①委託者の死後は、配偶者が受益者となり、②配偶者の死後は、自身の孫が受益者となることも可能です。
この場合、委託者が希望する孫に相続させた場合と同様の効果を生じさせることができます。

残された人に確実に財産を譲渡する

民事信託を利用していない場合、財産を巡って争いが起きる可能性も少なくありません。しかし、民事信託を利用すれば、受託者が責任を持って管理するため、確実に財産を希望者へ譲渡できます。例えば、受益者が管理能力のない、高齢の両親や配偶者、障がいを持つ子どもなどでも、確実に財産から生じる利益を委託者から受益者に譲渡できます。

民事信託と家族信託の違い

民事信託と家族信託の違い

「家族信託」は民事信託の一種で、民事信託と法的な違いはなく、受託者が家族である場合に家族信託と呼ぶことがあります。
家族信託という言葉は、一般社団法人家族信託普及協会が商標登録している造語であり、正式な言葉ではありません。しかし、大切な財産の管理を家族に委託する人が多いため、家族信託という言葉を耳にすることも多いでしょう。

民事信託と商事信託の違い

「商事信託」は、営利を目的とし、信託銀行や信託会社が受託者を担う制度です。商事信託の受託者を担うためには、国の認可が必要で、信託報酬が発生します。
民事信託は営利目的ではないので、国の許可も受託者への報酬も発生しません。

民事信託と成年後見制度の違い

成年後見制度は、財産所有者の保護が目的なので、資産運用や相続税対策など所有者の利益を損なう恐れがある行為はできません。民事信託では、委託者の意思が尊重されるため、委託者が希望する範囲(委託の趣旨の範囲内)で受託者が財産を自由に扱うことができます。

また、成年後見制度は本人の判断能力が衰えてから成年後見人による保護が始まります。保護の開始には、家庭裁判所への申し立てが必要であり、成年後見人が選出されるなど民事信託より手続きが煩雑です。

民事信託の3つのメリット

民事信託の3つのメリット

民事信託は、財産管理の自由度が高いこと以外にも、さまざまなメリットがあります。

生前の財産管理の自由度が高い

死後に効力を発揮するのが遺言ですが、生前から財産の管理や運用、相続について任せることができるのが民事信託のメリットです。また、成年後見制度も生前から利用できますが、本人の財産を減らさないという点が重要であるため、積極的な運用や生前贈与はできません。
民事信託では、死亡時や認知症などの事態に備えつつ、投資信託や生前贈与、死後の受益者の指定などを行うことができます。

倒産隔離機能によって財産を守ることができる

委託された財産の名義は、委託者ではなく受託者になるため、委託者が破産しても財産は没収されません。また、財産は受託者名義になるものの、受託者自身の財産とは個別として管理されるため、受託者が破産した場合も財産は守られます。
これが信託特有の「倒産隔離機能」です。

死後の柔軟な相続が可能

民事信託の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を活用すると、受益者が死亡した場合に順次承継される者を定めることができます。

遺言では、相続人の指定はできますがその先の相続の内容まで指定することができないので、第1次受益者が亡くなった先の受益者も選べる点は民事信託の大きなメリットでしょう。

民事信託の4つのデメリット

民事信託にはメリットだけではなく、当然デメリットも存在します。

損失が出ても損益通算ができない

損益通算とは、一定期間の所得のうち、各種所得の赤字と黒字を合算して最終的な所得を算出することをいいます。損益通算ができる場合には、ある所得の利益から他の所得の赤字額を控除することが可能となり、所得金額の総額を少なくすることができたり、支払うべき所得税も抑えられます。通常の資産運用はこの損益通算を用いることが可能ですが、民事信託で発した損失は、他の所得の利益と相殺できません。そのため赤字計上ができず、所得の黒字がすべて課税対象となってしまいます。複数の民事信託を運用している場合は、他の民事信託とも損益通算はできないので、要注意です。

受託者に身上保護権がない

民事信託では、受託者には、住居や福祉施設への入居、病院の手続きなどを行える「身上保護権」が適用されません。受託者が家族であれば問題ありませんが、家族以外の人が受託者を担っている場合は、成年後見制度を併用し、身上保護権を補填するとよいでしょう。

適任の受託者を決めるのが難しい

民事信託は、一定の場合を除いて報酬を支払うことができないため、受託者として弁護士や行政書士、司法書士などの専門家を選べないことが難点です。そのため、信頼のおける受託者の指名が困難な可能性があります。

信託財産の利益は別途申告する必要がある

損益通算ができないことは前述しましたが、信託財産で利益が発生した場合も別途申告が必要となります。
信託財産である不動産で家賃収入が発生したり、株式などで運用益が出たりした場合、確定申告を行いましょう。年間3万円以上の収益は、必ず税務署に申告が必要です。

民事信託の利用の流れ

民事信託の利用の流れ

民事信託を行うには、まず信託契約書を作成します。委託者と受託者、できれば受益者も交えて、委託の内容について協議し、納得してから契約を取り交わしましょう。

必須ではありませんが、信託契約書は公正証書で作成した方が安心です。また、信託財産を扱う専用の銀行口座が必要になるケースも考えられます。

個人間でも取り交わせますが、民事信託には不動産登記や税金などの問題が絡んでくることが多く、内容が複雑になりがちです。揉め事を避けるためにも、予め弁護士や司法書士、税理士など、知識のある専門家に相談するとよいでしょう。

民事信託の活用事例

民事信託の活用事例

民事信託がどのような場合に効果的なのか、具体的な事例を紹介します。

柔軟に事業承継や資産承継を行いたい

会社の経営権や株式などの財産を妻に譲渡した後、経営力のある次男に継がせたいと思っている場合、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用すれば、二次相続が可能です。

また、子どものいない夫婦において、受託者に自身の甥を、受益者に配偶者を指名することで、配偶者の生活を保障しつつ、先祖代々の土地を直系の親族に継承できます。

認知症になる前に財産の管理を任せておきたい

認知症を発症すると、生活や介護などに必要なお金を引き出せなくなることがありますが、民事信託で受託者に娘や息子を指名し金銭を渡しておけば、委託者の財産を使用することができます。
財産の管理を任せられるので、詐欺に遭う危険性も減らせるでしょう。

不動産の管理や相続対策をしたい

不動産の管理を長子に任せたいが、自分の死後は長子と次子に平等に相続させたい場合は、民事信託で受託者に長子を、受益者に自分を、第2次受益者に長子と次子を指名しておきます。

不動産の所有者は、受託者である長子のみなので、自由に売買や運用を行えるほか、不動産から発する利益は平等に分配できます。

老後に備えて民事信託を活用しよう

高齢化が進み、認知症になるリスクも高まっている現代では、健康なうちに将来を見据えた財産の管理を行う必要があります。
民事信託は、財産管理の自由度が高く、二次相続が可能であるなど、とても役立つ制度です。個人で信託契約を取り交わすことが難しい場合も多いので、一度専門家に相談してみてください。

ご留意事項
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