身上監護とは?成年後見制度の概要や身上「保護」との違いを解説

身上監護とは、成年後見制度において成年後見人が対象者の代わりに行う法律行為です。この記事では、成年後見制度の概要や身上監護と身上保護との違い、注意点を解説します。被後見人の暮らしを保護するための各種契約などをまとめているので、成年後見制度を検討している人は、参考にしてみてください。

身上監護とは?成年後見制度の概要や身上「保護」との違いを解説

身上監護とは

身上監護とは

「身上監護」は「しんじょうかんご」と読み、「身上保護」と呼ばれることもあります。成年後見制度において対象者の暮らしの維持を目的とし、成年後見人が対象者の代わりに、生活・医療・介護などの契約手続きを進める法律行為を指しています。介護や食事の世話など、実際に暮らしを支援する行為は、身上監護の範囲には含まれません。

対象者が手術などの医療行為を受けるか否かの決定権は、成年後見人には委ねられておらず、対象者もしくは家族が決定します。ただし、対象者が適切な治療や介護を受けていることの確認したり、お見舞いのために成年後見人が対象者を訪問したりすることは問題ありません。

身上監護は成年後見人の役割

身上監護は成年後見人の役割

身上監護は、財産管理と併せて、成年後見人の義務として課されており、具体的には以下の行為が該当します。

【住居関連の契約】
持ち家であれば、固定資産税などの税金の支払及び増改築の契約を進めます。一方、賃貸であれば、家賃や更新料などの支払も業務の一つです。

【施設関連の契約】
施設へ入退所する際の契約締結及び費用の支払い、入所中の面会、施設側のサービス内容の確認などを引き受けます。

【医療関連の契約】
医療に関する契約の締結や医療費の支払などを進めます。 ただし、実際に健康診断・入院・手術などの医療行為を受けるか否かは、対象者又は家族の同意を得なくてはなりません。

【介護関連の契約】
「介護保険法」に基づき、介護保険の認定申請や介護サービスの契約締結、不服申し立て、費用の支払を進める業務を行います。

これらの業務を果たしながら、対象者の暮らしを保護・支援することが、成年後見人の特徴です。

成年後見制度とは

成年後見制度とは

「成年後見制度」とは、知的障害・精神障害・事故・認知症などが原因で、対象者(被後見人)の判断能力が常に欠如していると診断された際に、支援する人(成年後見人)を選任し、対象者を法的に支援する制度です。

判断能力が備わっていないと、財産管理や契約行為などを自ら進めることが難しいケースがあるほか、契約内容を理解しないまま、不利益な契約を締結してしまうおそれもあります。これらのトラブルを防ぐために、法的な保護や支援が必要な人をサポートすることが目的です。

成年後見制度は、以下の2つの分類に分かれます。

法定後見制度

対象者の判断能力が欠如しており、日常生活において支援が必要な場合、その程度に応じて、家庭裁判所が成年後見人等の保護者を選任する制度です。配偶者・子・孫などが成年後見人等の選任を申し立てると、手続きが進められます。対象者の状況に応じて、「補助類型」「保佐類型」「後見類型」の3類型に分かれます。

任意後見制度

対象者の判断能力が備わっているうちに、自ら成年後見人を選任して契約を行う制度です。対象者の判断能力が低下してきた際に、契約を締結した人(任意後見受任者)が家庭裁判所へ申し立てをすると、手続きが始まります。

もし、既に任意後見人になってもらいたい人が決まっているのであれば、早い段階で任意後見人受任者との間で、契約をするなど必要な手続きを済ませておくとよいでしょう。
任意後見人を選任する場合には、任意後見人を監督する立場である任意後見監督人が、家庭裁判所から選出されます。任意後見監督人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多く、任意後見監督人は任意後見人の業務が任意後見契約の内容に従って行われているかを監督し、家庭裁判所に報告するなどして家庭裁判所から監督されることになります。

成年後見人の仕事は「身上監護」と「財産管理」

成年後見人の業務には、前述した身上監護のほかに「財産管理」も含まれます。財産管理とは、預貯金・収入支出・金融証券などを管理し、対象者の財産を適切に管理することです。

銀行や証券会社などでの手続き、不動産などの売却、遺産分割協議などは、本来対象者がいないことには手続きを始められませんが、成年後見人が被後見人の代理人として代わりに手続きを進めることができます。
財産管理業務に関して、さらに詳しく解説します。

【預貯金の管理】
預貯金からの出金や定期預金の解約などを進める手続きは、対象者以外は対応できません。しかし、成年後見人は対象者の代わりに、預貯金の管理が可能です。

現金の管理は現金出納帳を活用し、対象者名義の預金は金融機関へ届出書を提出した上で管理します。もし、1,000万円を超える預金があれば、必要に応じてペイオフに向けた対策も検討すべきでしょう。

【収入支出の管理】
年金収入の管理や、各種年金の受給の手続きを進めます。また、アパートなどの賃料収入があれば、賃料の受領及び管理も行います。

全ての収入支出を出納帳に記録する必要があり、家庭裁判所から提示を求められた場合、迅速に対応しなければなりません。対象者以外が使うための支出は認められていないので、判断に迷う場合は、家庭裁判所へ相談しましょう。

【金融商品の管理】
証券などを保有している場合、成年後見人が財産管理を行うために、証券会社などへ届出書を提出します。

身上監護を行う上での注意点

身上監護を行う上での注意点

身上監護を担うためには、対象者が支障なく暮らせるように、注意すべき点があります。その注意点に焦点を当てて解説します。

本人の意思を尊重する

身上監護の最も重要な目的は、対象者の生活を「管理すること」ではなく「支援すること」です。ここでいう支援とは、対象者の意思を無視して成年後見人の考え方や主張を一方的に押し付けるものではありません。
ただし、対象者の同意が得られなくても、対象者の生命や身体に影響が及んだり、暮らしの安全が脅かされたりするなど、取り返しのつかない状態になる場合は例外です。制度の原則や契約内容に基づきながらも臨機応変に、財産管理や生活支援などを進めることが成年後見人の業務です。

成年後見人に求められる考え方として、対象者の状況を把握して、適切にサポートする「身上配慮義務」が挙げられます。対象者の意思を尊重し、被後見人の心身の状態及び生活の状況に配慮することが不可欠なのです。

医療行為の同意は必要ない

成年後見人は、医師から医療行為に対する同意を求められたとしても、原則として同意することはできません。なぜなら、成年後見人の業務は、あくまでも入院の手続きや契約の締結であり、医療行為に対する同意権は持っていないためです。

対象者による医療行為の同意を求められることがありますが、成年後見人からではなく対象者の親族からの同意を得て、医療行為を行うケースが多いようです。

身上監護を理解した上で成年後見制度を利用しよう

日常生活のサポートは身上監護に任せよう

身上監護は、成年後見制度において対象者が快適な暮らしを営めるよう、生活・医療・介護などの契約手続きを進める法律行為のことです。成年後見人の選任を検討している人は、身上監護の内容をきちんと理解しておきましょう。もし、不安な点があれば、弁護士や司法書士などの専門家に相談することが大切です。

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