法定後見制度とは?制度の特徴や任意後見制度との違いをわかりやすく解説

認知症や障害などで判断能力に問題がある場合、適切に財産の管理や法的な手続きをするために、法定後見制度を活用することができます。法定後見制度の概要から利用の手順までを解説します。法定後見制度の種類や注意点も踏まえて利用を検討してみてください。

法定後見制度とは?制度の特徴や任意後見制度との違いをわかりやすく解説

法定後見制度とは

法定後見制度とは

法定後見制度は、成年後見制度のひとつです。認知症や心神喪失により認知・判断能力に問題がある人を守るための制度で、後見人等を立てて本人の代わりに契約を行ってもらいます。なお、以下では、法定後見の後見、保佐、補助の3類型のうち、後見の場合を基準に解説します。
通常、銀行口座から預貯金を引き出したり、定期預金や保険の解約といった手続きをしたりすることは本人以外できません。しかし、制度によって選ばれた後見人であれば、こうした手続きが可能です。
後見人に選ばれるためには、特に資格は必要ありませんが、家庭裁判所から選任される必要があります。そのため、親族のほかに社会福祉士、司法書士、弁護士などの専門知識を有し業務を遂行することができる信用性の高い職種の人が後見人に選任されることも珍しくありません。
ただ、信頼できる人とはいえ、赤の他人に自分の財産や契約を決められることに不安がある方もいるかと思います。そんな場合に、成年後見制度では被後見人自身が後見人を選択できる制度もあります。

法定後見制度は成年後見制度の1つ

成年後見制度には、すでに解説している法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。それぞれいくつかの違いがありますが、その目的は認知症や心神喪失などで認知・判断能力に問題がある人の重要な手続きや財産管理を支援するための制度であることに変わりありません。
例えば、知的障害や認知症といった問題を抱えていた場合、よくわからずに不当な契約を結んでしまったり、自分の財産を使用してしまったりという問題が起こる可能性があります。また、自分自身で生活を送ることが困難な場合には施設への入所などが必要ですが、手続きをすることも難しいでしょう。そこで、後見人が選任された後、被後見人の身の回りに関する手続きを代わりに行います。

任意後見制度と法定後見制度の違い

任意後見制度は、本人に認知・判断能力があるときに代理人(任意後見人)を立てる制度です。法定後見制度では、認知・判断能力がないときに家庭裁判所を通して代理人を立てる制度なので、本人の意思や代理人の選出に大きな差があります。

どのように始まるか

任意後見制度は、制度の対象となる人物(被後見人)に認知・判断能力があるときに、被後見人自らが後見人となる人を選定し、その後見人となる人と契約をすることで、いつでも後見人を立てることが可能です。一方、法定後見制度の場合は、認知・判断能力が欠ける状態になってからから利用されるので、家庭裁判所の審判があったタイミングで代理人が選出されます。
このように、ふたつの制度では代理人を選出するタイミングが大きく異なります。なお、どちらの制度も本人の認知・判断能力が低下してから後見が開始するため、制度開始のタイミングはそれほど大きくは変わりません。

本人の意思が反映されるか

法定後見制度では、後見人を被後見人に選ばせることはできません。もし本人に選出させても、認知・判断能力が衰えているため、不適切な人物を後見人に選んでしまうおそれがあるからです。そのため、後見人は、家庭裁判所によって選任されます。親族以外の第三者が後見人になることも多く、後見業務の内容も家庭裁判所の指針に合わせて後見人が考えるため、そこに本人の意思はありません。
一方、任意後見制度の場合は、後見人を被後見人となる人自身が選ぶので本人の意思が反映されます。このとき、選んだ後見人は任意後見人としてしっかりと登記されるので、本人の認知能力が低下しても事前に決めた任意後見人以外が選ばれることはありません。
さらに、任意後見制度では、後見する内容も任意後見契約内で本人の意思で決めることが可能です。このことから任意後見制度は、本人の意思が多く反映されるといって良いでしょう。

後見人に与えられている権限

すでに解説しているとおり任意後見制度は、被後見人本人と任意後見人が合意をすれば後見人の業務内容を自由に決めることができます。他方で、法定後見制度では、後見人は本人の利益になることしかできないため、この点に大きな違いがあります。
ただし、法定後見人には日用品の購入のような場合を除き取消権がありますが、任意後見人には取消権ありません。取消権とは、被後見人がした契約を後見人が取り消すことのできる権利です。たとえば、認知・判断能力が衰えた状態で本人が損失を被るような契約をしたとしても、任意後見人にはそれを取り消すことができません。そのため、任意後見人になった方は、被後見人が不必要な契約をしてしまわないように注意しなければなりません。

法定後見人にできること

法定後見人にできること

法定後見人は、被後見人の一身専属権を除き、財産管理と身上監護の権利を与えられます。一身専属権とは、決定権や権利などが本人にしかないものを指していて、養子縁組や遺言書作成などがこれに当たります。

財産管理

財産管理は、名前の通り被後見人の財産を管理する権利です。具体的には、銀行の預貯金、保険、有価証券といった財産の管理を行い、管理するために必要なキャッシュカード、有価証券、年金書類といったさまざまなものを取り扱うことが可能です。
とはいえ、後見人の自由にお金を使えるわけではありません。被後見人と後見人の財産は別々で管理して、被後見人の財産は本人の利益になること以外に使用はできないのです。もし被後見人のお金を後見人のために使用した場合には、横領と判断される可能性があります。財産管理の基本は、被後見人の財産内容を正確に把握し、被後見人が無くしたり無駄に使用したりしないよう預貯金通帳等を管理・保管することで、被後見人の財産が保たれるようにすることにあります。

身上監護

法定後見人にできること

身上監護(しんじょうかんご)は、被後見人の医療・介護に関する手続きや費用の支出を代理で行うことです。主に病院、介護、住居に関する手続きが一般的です。たとえば、自力での日常生活が困難になった場合には、介護や施設への入所が必要となりますが、このような場合に、介護サービスの利用契約や、施設への入所契約を代理で申請することが可能です。
また、医療に関しても、後見人は、入院の際の病院との契約やその際の費用の支出を代理して行うことができます。しかし、後見人であっても、手術等の治療行為への同意権はないため、このような同意を被後見人の代わりにすることはできません。

法定後見人にできないこと

法定後見制度と似たものに家族信託があります。家族信託は、財産管理を家族や親族にお願いするというもので、本人の認知・判断能力があるうちであれば柔軟に受託者を選ぶことが可能です。そのため、任意後見制度と似ている部分がありますが、後見人のように法定代理人としての権限はないため、身上監護を十分に行うことができない場合があります。
家族信託は、法定後見人よりも柔軟に財産管理を行うことができる側面もあります。例えば、法定後見人は被後見人の利益になることのみを行うため、株や投資信託といった資産運用はできませんが、家族信託では信託契約の内容となっている場合にはこれらのことも行うことができます。
また、不動産の処分についても後見人と扱いが異なります。後見人の場合は、被後見人が住んでいる家を売却や賃貸する場合には、家庭裁判所の許可を経る必要があります。一方、家族信託では、事前に不動産を信託財産にしておけば、契約内容の範囲内で売却・処分が自由にできます。

法定後見制度には3類型がある

法定後見制度には3類型がある

法定後見制度には、制度の対象者の状態に合わせて3つの類型があります。後見類型、保佐類型、補助類型の3つで、それぞれ代理人の名称や権利に多少の違いがあります。
特に、権利に関しては代理権、同意権、取消権の3つの権利があって、それぞれ微妙な違いがあるので注意が必要です。すでに解説しているものもありますが、それぞれの権利の意味合いは以下となっています。
・代理権:本人に代わって代理で手続きなどを行える権利
・同意権:本人の契約に関して同意できる権利
・取消権:本人の契約を取り消すことができる権利

後見類型

この類型は、最も症状が重い方に適用される類型です。認知・判断能力がなく、日常生活が困難な状態なため、後見人に被後見人の財産に関する事項のほとんどの管理をしてもらいます。
この類型では、後見人に代理権と取消権が与えられます。被後見人の認知・判断能力からすれば、本人が財産管理、法的手続き、契約といった行為をすべきではないため、これらの行為に関して、後見人は代理権を有しています。同様に本人が何かしらの契約を結んだとしても、正常な判断ができていないときに交わされたものと判断されるため、後見人はそのような契約を取り消すことが可能です。˙
他方で、被後見人には、認知・判断能力がなく、後見人が同意した通りの行動を期待することができないことから、後見人には、同意権はありません。

保佐類型

法制後見制度で本人の症状が2番目に重い場合に適用されるのが、保佐類型です。認知・判断能力を一切欠く状態ではないですが、著しく不十分な場合に必要となります。例えば、日常的な簡単な買い物などはできても、難しい契約や財産行為等を一人ですることが難しい状態などが考えられます。
保佐類型で立てられる代理人は保佐人と呼ばれ、保佐人には、主に民法13条1項に規定されている範囲で同意権が与えられ、この範囲で保佐人の同意なくした被保佐人の行為を取り消すことができます。この範囲外の行為について同意権が与えられるためには、家庭裁判所に申立てを行って認められる必要があります。

補助類型

補助類型は、本人の症状が一番軽い状態の時に選ばれる類型です。これは、認知・判断能力が著しく不十分とまではいえないものの、不十分と考えらえる場合に必要となります。例えば、本人で難しい契約や財産管理行為をできるものの、その行為に不安が残る場合や第三者の支援があった方がよいと考えられる場合です。
補助類型の代理人は補助人と呼ばれ、民法13条1項に規定されている事項のうち家庭裁判所に認められた範囲で同意権が与えられます。そのため、民法13条1項の範囲内で権限が与えられている保佐人とは権限の範囲が異なります。

法定後見制度を利用するときの流れ

法定後見制度を利用するときの流れ

法定後見制度開始までの一般的な流れ

1.申立先と申立人の確認
2.対象者の診断書取得
3.必要書類収集
4.申込書作成
5.本人書類の準備と収入印紙などの準備
6.家庭裁判所での面接日の事前予約
7.家庭裁判所に書類を提出
8.審査の開始
9.家庭裁判所での面接
10.親族への意向照会
11.医師による鑑定
12.後見開始と代理人の選出
13.後見人の登記
14.法定後見制度の開始

出典 

上記一連の流れは、場合によって省かれる工程があります。

申立先と申立人の確認について

申立先は、本人の住所地を管轄している家庭裁判所です。家庭裁判所のHPなどで場所を確認しましょう。また、法定後見開始の申立てができるのは、本人・配偶者・4親等内の親族・未成年後見人・未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・検察官です。ここでいう4親等内の親族とは、親・祖父母・子・孫・ひ孫・兄弟姉妹・甥・姪・祖父・祖母・従兄弟などが該当します。

申立てに必要な書類

法定後見制度の利用には、本人が病気や障害を患っていなければいけないので、事前に医師から診断書をもらいます。この診断書をもとに、補助・保佐・後見の3つの類型に分類するわけです。また、申立て書類として以下のものを用意します。

法定後見制度必要書類

必要書類
本人の財産に関する書類 ・不動産関連書類(不動産全部事項証明書、固定資産評価証明書・固定資産税納税通知書)
・預貯金等関連資料(通帳・残高証明書、預かり証、株式の財産額を証明するもの)
・保険資料(保険証書)など
・負債資料(金銭消費賃借契約書、返済明細書、請求書)など
・収支に関する資料の写し(給与明細、入院費等)
各市町村役場での取得資料 ・戸籍謄本
・住民票又は戸籍附票
申立書類 ・後見開始申立書
・申立事情説明書
・親族関係図
・財産目録
・収支予定表
・後見人等候補者事情説明書
・親族の意見書
その他 ・後見登記されていないことの証明書
・本人情報シート、診断書
・本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証、療育手帳等)

本人書類は、必要なものだけを取得します。これら書類を一式用意したら、家庭裁判所に持参、もしくは郵送で提出して申立ての完了です。

家庭裁判所での審理から制度開始まで

申立てをすると必要に応じて本人調査や親族照会、候補者照会等の手続きが開始されます。また、申立ての際に診断書を提出しますが、家庭裁判所が必要だと判断した場合には専門医による鑑定が行われます。こうした調査が必要となるため、審理には約1ヶ月から3ヶ月の時間を要する場合もあります。そして、審判が確定すると後見登記が行われて制度が始まります。

法定後見制度を利用するときの注意点

法定後見制度では、後見人の候補者を希望することもできますが、申立人が希望する後見人が必ずしも選ばれるとは限りません。そして、選ばれた後見人は簡単には変えることはできないので、その点を考慮して進める必要があります。
親族などで後見人をすることになった場合には、財産管理に注意が必要です。すでに前述しましたが、本人の利益になるもの以外に本人の財産を使用できません。例えば、少額でもコンビニなどで自分のものを購入すれば横領となる可能性があり、後見人の解任や刑事事件にまで発展してしまうことがあります。そのため、しっかりとした財産管理をすることが求められます。

法定後見制度に必要な費用

申立てまでに必要な費用として、以下の料金がかかります。

申立て費用表

費用内容 料金
申立て手数料 800円
戸籍謄本の発行 450円
住民票の発行 300円
登記されていない証明書の発行 300円
医師の診断書 5,000〜1万円
登記手数料 2,600円
医師の鑑定料 5〜10万円
切手代 3,000〜5,000円

また、制度開始後に発生する費用として、法定後見人への報酬が月額約2〜6万円、成年後見監督人がいる場合には、その報酬が月額約1〜3万円が必要となります。
その他、下記のように複雑な事情がある場合には基本報酬額が加算されることもあります。
・本人が複数の不動産を所有していて管理が複雑な場合
・親権者での意見対立によりその調整が必要な場合
・成年後見人の不正があり、後任の成年後見人がその対応をする場合

この場合には、成年後見人の基本報酬額の50%の範囲内で加算した額を基本報酬額とすることが可能性であり、案件によっては40〜150万円もの支払いが発生することもあるため注意しなくてはいけません。

なお、その他にも訴訟等の特別な後見事務をする場合には、上記の基本報酬に加えて、付加報酬が必要となる場合もあります。

まとめ

認知・判断能力が低下した場合には、自分の財産管理や身上監護をどのようにすべきか悩む方も多いかと思います。そんな時は成年後見制度を利用して、安心した老後生活を送りましょう。また、親や祖父母が認知症などの病気になった時も、法定後見制度を利用することで財産管理や身上監護の悩みを解決できます。自身や親族の負担を減らすためにも、積極的に利用を考えましょう。

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