財産管理委任契約とは?成年後見制度との相違点について解説!

財産管理委任契約は、財産の管理や手続き、事務処理をほかの人に委任できるものです。この記事では、成年後見制度との違いやメリット・デメリットを解説します。自分で財産が管理できない場合や手続き、事務処理を代理で行ってもらいたい場合に活用しましょう。

財産管理委任契約とは?成年後見制度との相違点について解説!

財産管理委任契約とは?

財産管理委任契約とは?

財産管理委任契約とは、病気や事故などで身体が動かなくなり自分で財産を管理できなくなったときなどに、家族や親戚など信頼できる人に管理を任せるという契約です。老化に伴って足腰が弱った、入院・療養中により外出がままならないといった状態でも重要な手続きや事務処理を代理で行ってもらうことができます。

財産管理委任契約で依頼できる内容は、契約当事者間の合意により自由に設定することができます。契約において定められる委任内容としては、預貯金の引き出しや各種支払いの代理などの財産の管理、介護施設への入居手続きや介護サービスの契約手続きといった事務などがあります。

通常では、金融機関からの入出金や介護施設・介護サービスの手続きなどは本人しか行えず、代理者による手続きが可能な場合でも各手続きについて委任状が必要になります。しかし、この契約を結んでおけば、一つひとつの処理ごとに委任状を作る手間を省くことができます。

あくまでも、財産管理委任契約は、当事者間のみに法的拘束力を及ぼす契約です。手続き先の金融期間や介護施設によっては、対応してもらえない場合もあるので、注意が必要です。

財産管理委任契約と成年後見制度の違い

財産管理委任契約と成年後見制度の違い

財産管理委任契約と成年後見制度の違いは、委任者に判断能力があるときから利用できるという点です。本人と依頼を受ける人が合意し、契約内容を書面にすれば、財産の管理や手続きの代理を行ってもらうことができます。

これに対して成年後見制度は、委任者の判断能力が低下している状態になったときに利用できる制度です。
成年後見制度を利用するには、親族など周囲の人が家庭裁判所に「後見開始審判」の申し立てを行う必要があります。家庭裁判所が「後見人」(本人を保護・支援する人)を選任し、審判内容は法務局に登記されます。

選任された後見人は財産管理や身上監護に関する事務を行い、その内容は全て家庭裁判所または後見監督人(後見人を監督する人)に報告しなければなりません。後見人には、本人が行った契約(法律行為)をキャンセルできる「取消権」や、利用した本人は会社役員などの職業に就けないといった特徴もあります。

財産管理委任契約と成年後見制度の違い

財産管理委任契約 成年後見制度
利用可能な人 制限なし 判断能力が不十分な人
契約方法 当事者間の合意 家庭裁判所の「後見開始審判」で認められる
代理人 委任者が信頼できる人を選任可能 家庭裁判所に選任された後見人
代理可能な内容 委任者が希望する手続き 財産管理と身上監護に関する全ての事項
契約の登記 なし 有り
取消権 なし 有り
監督人 なし(選任可能) 有り

成年後制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。

財産管理委任契約のメリット

財産管理委任契約のメリット

成年後見制度と比較して自由度の高い財産管理委任契約には、多くのメリットがあります。自分にサポートが必要になった際には、そのメリットを活かして有効に使うことが大切です。

判断能力が低下する前から財産の管理を委任できる

成年後見制度とは異なり、判断能力がある状態でも財産の管理を委任することができます。病気・ケガなどで外出が不可能といった身体上の問題だけでも、財産管理委任契約を活用することで必要な手続きや事務処理を任せられます。

財産管理の委任内容を自由に決めることができる

委任する財産管理の範囲について本人が自由に決められるのもメリットの1つです。特定の手続きや生活に必要な支出の管理のみ任せたいといったパターンや、日常生活のサポートも合わせて頼みたいなど、必要な内容だけを定めることができます。

委任状の作成や事務手続きも代理してもらえる

本人でなければできない手続きや事務処理は、通常は誰かに代理をしてもらう度に委任状を書く必要があります。しかし、「財産管理委任契約書」に代理してもらう旨を記載しておけば、個別に委任状を作成する必要はありません。

財産管理委任契約書を手続きの窓口で提示することにより、代理人として手続きや事務処理をしてもらうことが可能です。

判断能力の衰退後や死後も契約が継続できる

委任者の判断能力に問題がないケースでも使えるのが財産管理委任契約ですが、契約後に委任者が認知症などで判断能力が低下しても、そのまま契約を継続できます。

例えば、自分の子供のうち一人と契約しておくと、判断能力が低下して日常生活のサポートや病院などでの支払いが必要になった場合でも、ほかの子供と揉めることなく財産の管理が可能です。

また、委任者の死後は、葬儀や埋葬、市役所などでの事務処理、医療費の弁済などさまざまな手続きがあります。ただし、遺産相続とは異なり、各種手続きの依頼や事務処理の指示を遺言書に記載しても法的な効果がありません。

そこで、死後の事務内容を含めた委任契約書を作っておくと、生前から継続して同じ人に事務処理を任せることもできます。死後の事務内容に関しては、「死後事務委任契約」として「財産管理委任契約」と分けて記載をしておきましょう。

委任内容例

       財産管理委任内容 死後事務委任内容
財産管理(事務手続き) 金融機関の手続き、家賃や光熱費などの支払い、収入の受取り、生命保険の契約・保険金請求、日用品の購入、役所の手続き、税金の申告など 葬儀や埋葬の手続、医療費等の債務の弁済、その他事務に関する支払い、親族・関係者への連絡、行政官庁への届出など
療養看護 入院や入所手続き、要介護認定申請、介護サービスの契約・支払いなど なし

財産管理委任契約のデメリット

契約の自由度が高いからこそ財産管理委任契約には、取消権がないことや、監督者が存在しないなどのデメリットもあります。デメリットに注意し、必要に応じて利用を検討しましょう。

公的な手続きではないので社会的な信用に欠ける

財産管理委任契約では公的な書類が作成されることはなく、契約内容も登記されないことから、社会的な信用が低い点がデメリットです。
対策として、金融機関などでの手続きの際に、代理権を証する書類として判断されやすくするために、契約内容を公正証書にすることもできます。

しかし、公正証書を作成したからといって必ずしも有効であるとは限りません。あくまでも財産管理委任契約は、当事者間のみに法的拘束力がある契約です。

取消権がないため契約内容を取り消すことができない

成年後見制度(法定後見)では認められている取消権は、財産管理委任契約では認められていません。そのため、万一委任者が詐欺などの被害に遭っても、財産管理委任契約の受任者の権限で問題のある契約を取り消すことができません。

代理人を管理監督する機関がない

財産管理委任契約では、代理人(受任者)が契約内容を正しく遂行しているか確認する公的な監督機関がありません。受任者の業務をチェックできないため、選定には注意が必要です。

受任者は、本人の日常生活をサポートして財産を守る立場にあるため、信頼できる人を選ぶ必要があります。
受任者による不正が不安な場合は、受任者以外の親族や弁護士、司法書士などの専門家を「財産管理監督人」として指定し、受任者の業務をチェックしてもらうこともできます。受任者の負担を考慮して、報酬を渡すことも必要でしょう。

財産管理委任契約を結ぶ方法

財産管理委任契約を結ぶ方法

財産管理委任契約を結ぶ際には、よく話し合いをして必要事項を決めてから契約する必要があります。

【契約の流れ】
1.必要事項を定める
受任者、委任内容、管理する財産の範囲、受任者の報酬(金額・支払方法)、財産管理監督人など
2.金融機関の代理対応や手続き、事務処理の方法について確認する
3.財産管理委任契約書を作る
トラブル防止のため、公正証書の作成がおすすめです。委任者と受任者の実印・印鑑証明書・本人確認書類(免許証や保険証)などの必要書類を準備して公証役場に行くと、公正証書が作れます。

財産管理の代理対応が可能か金融機関に確認する

金融機関によっては、財産管理委任契約による代理対応が難しい場合があります。中には、一切の対応が不可能なところや代理人登録を求められるところもあるため、使っている口座の金融機関の対応については事前に確認が必要です。

財産管理の受任者への報酬を話し合う

受任者の報酬は、事務作業の量に応じて異なりますが、月額は数万円程度に定めているケースが一般的です。後日トラブルになるケースもあるため、契約の前によく話し合って決めておきましょう。

任意後見制度と併用することができる

公証役場では、財産管理委任契約と一緒に任意後見制度も締結できます。任意後見制度とは、将来自分の判断能力が低下したときに後見人になってもらうことを委任する契約のことです。

財産管理委任契約と任意後見制度との併用により、認知症などで判断力が低下した際にスムーズに契約の移行が行われます。任意後見制度では後見人を監督する任意後見監督人が選出されるため、本人の判断能力が低下しても安心して後見人に財産の管理を任せることができるでしょう。

ただし、移行するには判断能力が低下した際に裁判所への申し立てを行う必要があるため、財産管理委任契約の受任者のほかに委任者の判断能力を確認する人が必要です。委任者との連絡や面談を通じて判断能力の確認を行う「見守り契約」を追加するのが望ましいでしょう。見守り契約の受任者は任意後見制度の受任者とは異なる人、例えば推定相続人(相続の発生時に相続人になる予定の人)などが考えられます。

認知症に備えて財産管理委任契約を検討しよう

認知症に備えて財産管理委任契約を検討しよう

財産管理委任契約を利用すると、病気や事故などで身体が動かなくなり自分で財産を管理できなくなったときでも、ほかの人に財産の管理手続き、事務処理などを任せることができます。認知症など将来の判断能力低下に備えて任意後見制度との併用もできるため、早めに対策をとっておくと安心でしょう。

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