熟年離婚のメリット・デメリットは?財産分与や老後生活を考えよう

近年、増加傾向にある熟年離婚。一方で、熟年離婚を考えているものの、離婚後の生活が不安でなかなか踏み切れない人もいるかもしれません。今回は熟年離婚をした場合、お金や生活面ではどんなメリット・デメリットがあるのか、そして財産分与請求についての注意点等、経済的に不安なく熟年離婚をするためのヒントをご紹介します。

熟年離婚のメリット・デメリットは?財産分与や老後生活を考えよう

増加する熟年離婚

増加する熟年離婚

厚生労働省の「令和4年度 離婚に関する統計の概況」によると、離婚の件数自体は2002年以降、減少傾向にあり、2020年の離婚件数は前年より1万5,243件少ない19万3,253件でした。特にかつては全離婚件数の約40%を占めていた「同居期間5年未満」の夫婦の離婚は減少傾向が続いています。一方、「同居期間20年以上」の夫婦の離婚は増加傾向にあり、2020年は全離婚件数のうち21.5%にも上りました。つまり、離婚する夫婦の5組に1組は熟年夫婦ということに。熟年世代に入ってから長い結婚生活にピリオドを打ち、別々の道を歩み始める夫婦が増えていることがみて取れます。

熟年離婚が増えている背景としては、経済的に自立した仕事をもつ女性が増えていること、年金制度が変わり、婚姻期間中の夫の年金の一部を妻が受け取れるようになったこと等が指摘されています。

【参考】厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況 離婚の年次推移(PDF)」詳しくはこちら

熟年離婚のきっかけは?

熟年離婚のきっかけは?

では、熟年夫婦が離婚に踏み出すきっかけは何なのでしょうか?もちろん、夫婦によって事情が異なるので一概にはいえませんが、熟年離婚のきっかけとしてよく挙げられるのが、以下の7つのタイミングです。いずれの場合も、どちらか一方が密かに離婚を考えて準備を進めており、タイミングを見計らって突然離婚を切り出す……ということも珍しくないようです。

子供の自立

夫婦仲が悪くても、「子供のために」と離婚を踏みとどまっていた夫婦が、子供の就職や結婚を機に熟年離婚するケースは少なくありません。子供が自立して扶養から外れたタイミングや家を出ていくタイミングで、夫婦の関係や今後の二人の生活を見直す方が多いでしょう。

配偶者の定年退職

配偶者の定年退職も熟年離婚のきっかけになりやすいといわれています。よくあるのは、以前から離婚を考えていた妻が退職金でまとまった資金を手にした夫に離婚と財産分与を求めるケース。また、現役時代は仕事で家を留守にすることの多かった配偶者が1日中自宅にいることによるストレスに耐え切れず、離婚を切り出すケースもあります。

自分の定年退職

自分自身が定年退職を迎え、退職金等まとまった資金を手にしたタイミングで離婚に踏み切るケースもみられます。定年退職という人生の節目に婚姻関係を解消し、新たなライフステージを迎えたいと考える人が多いのかもしれません。

経済的自立

経済的に配偶者に依存しているために離婚できず我慢していた人が、就職したり遺産を相続したりする等して経済的に自立でき、離婚後の生活の見通しが立ったタイミングで離婚に踏み切ることも多いようです。近年では働き方の多様化が進み、副業を始める主婦の方も増えています。配偶者からの経済的な支えが不要になれば、婚姻関係を解消したいという方もいるようです。

価値観の違い

同居生活を続けているうちに「価値観の違い」(お金の使い方、余暇の過ごし方、子育ての方針等の違い)がストレスや喧嘩の原因になり、離婚に至るケースもあります。価値観の違いを自覚してすぐに離婚に至るケースはあまりなく、「ずっと我慢していたが耐えきれなくなった」「理解しようとしたけど、無理だった」ということで熟年離婚を決断する夫婦も珍しくありません。

身近な人が熟年離婚をした

前述のとおり、近年は熟年離婚が増加傾向にあるため、友人や親戚等身近な人が熟年離婚したという人も多いのではないでしょうか。以前に比べて離婚自体に社会が寛容になり、離婚の負のイメージが払拭されつつあります。身近な人が熟年離婚によって悠々自適なセカンドライフを送っていると聞くと、触発されて離婚を決める熟年夫婦もいるようです。

不倫

熟年夫婦に限らず、不倫が離婚の原因になることは珍しくありません。不倫が露呈して、すぐに離婚に至ることが多いですが、熟年離婚の場合は、経済的理由や世間体を考慮して「不倫は知っていたが、子供が大きくなるまでは離婚を我慢していた」というケースもあります。

とはいえ、熟年離婚は決して簡単なことではなく、特に経済的にはさまざまなメリットとデメリットがあります。「なんとかなるだろう」と軽く考えて熟年離婚をしてしまうと、離婚後、経済的に行き詰まってしまう可能性は大いに考えられます。熟年離婚の経済的なメリットとデメリットの両方を十分に理解した上で冷静な判断をすることが大切です。

熟年離婚の経済的メリット

熟年離婚の経済的メリット

まずは熟年離婚の経済的なメリットについてみていきましょう。熟年離婚をすると、以下のような経済的なメリットを享受できる可能性があります。

相続した遺産や独身時代の財産を分与しなくて済む

離婚の際には、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を分割する「財産分与」が行われます。民法第768条でも「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と定められており、原則として相手から財産の分与を求められた際には、財産分与に応じなくてはなりません。

しかし、この場合の「財産」はあくまでも婚姻期間中に夫婦で築いたと認められる財産であり、民法第762条第1項で定める「婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産」、つまり独身時代に得た財産や自分の名義で得た財産は分与の対象となりません。これを「特有財産」といい、具体的には以下のようなものが該当します。

・独身時代に取得した現金や預貯金
・独身時代に取得した不動産や株式等の財産
・婚姻後に自己名義で相続した財産
・配偶者からの贈り物

婚姻関係を保ったまま死亡すると、これらの特有財産も原則として配偶者に相続されることになりますが、離婚することによってそれを防ぐことができます。熟年離婚と呼ばれるような年齢であれば、それぞれの両親等から不動産等の財産を相続するケースも珍しくありません。そういった大切な財産を配偶者に相続させたくないという理由で離婚を選ぶ人もいるようです。

相手の借金の返済義務を免れる

夫婦のどちらか一方に借金がある場合、離婚をすれば、原則として元配偶者が債権者に対して返済責任を負うことはありません。老後も借金返済に追われる生活を続けることへの不安から、熟年離婚に踏み切る人も少なくないようです。
ただし、住宅や車のローン、子供の学費等夫婦の共同生活のための負債は、夫婦で連帯してその責任を負わねばならないという規定があるため(民法第761条)、離婚する場合は財産から負債を差し引き、残りを二人で分割することになります。もし負債が財産を上回る場合は、財産の分割請求はできず、負債分は契約者が返済していくことになります。

年金の受取額が増える可能性がある

離婚後に「年金分割制度」を利用すると、婚姻期間中の配偶者の厚生年金保険料の支払い実績の一部を、自分の年金の支払い実績に移すことができ、結果として年金の受取額を増やすことができます。ただし、年金分割制度を利用するにはさまざまな要件を満たす必要があり、必ずしも年金の分割を受けられるわけではないことに注意が必要です。

熟年離婚の生活面でのメリット

熟年離婚の生活面でのメリット

熟年離婚には経済的なメリットだけでなく、生活面でも次のようなメリットがあるでしょう。理想的なセカンドライフを送るために熟年離婚のメリットをみていきましょう。

自分のペースで生活できる

配偶者の生活リズムや都合に合わせる必要がないので、食事時間や就寝時間を自分のペースで決めることができるようになります。特に定年退職後はお互いに自由な時間が増えるため、生活ペースが合わなくなった夫婦にとって熟年離婚は、自分の生活ペースを確保する良い機会でしょう。

自由時間が増える

配偶者のために使っていた時間が要らなくなるので、自分の仕事や趣味等に使える時間が増えます。掃除や洗濯、食事の世話等どちらかが多く負担している夫婦は、自分の分だけ時間を使えばよくなります。

ストレスが減る

配偶者の言動にイライラしたり、夫婦喧嘩したりせずに済むようになり、ストレスなく暮らせるようになります。定年退職を迎え一緒に過ごす時間が長くなったり、子供が家を出ていき二人きりになったりして、夫婦仲が悪化する方もいます。そのような方は、熟年離婚で精神衛生的に良い環境を築くことができるでしょう。

介護の負担がなくなる

配偶者やその親の介護をする負担がなくなります。自分の親の介護でさえ精一杯なのに、配偶者やその親の介護の負担までのしかかってくると、自分のセカンドライフに大きな影響があるでしょう。熟年離婚によって将来のしかかってくる介護負担を減らすことができるでしょう。

自由に恋愛や再婚ができる

熟年離婚に限らず、離婚後は自由に恋愛や再婚をすることができます。長年、配偶者しか関わっていなかった方や子育てに精一杯だった方もいるでしょう。何歳になっても素敵な異性との出会いがあります。

熟年離婚の経済的デメリット

熟年離婚の経済的デメリット

続いて、熟年離婚のデメリットについてみていきましょう。熟年離婚は、一般的に経済的なデメリットが多いといわれています。現実から目をそらさず、自分が熟年離婚によってこれらのデメリットを被るリスクがないかどうか、冷静に見極めるようにしてください。

再就職が難しい場合がある

熟年世代になると、特に資格や実績がない限り、若年世代に比べて条件の良い仕事に就ける可能性は低いのが現実です。特に長年専業主婦(夫)をしていて実務経験に乏しい熟年世代は、正規雇用での就職が難しく、思うような収入が得られない可能性は低くないでしょう。

年金の受取額が減る可能性がある

上述したとおり、離婚後に「年金分割制度」を利用すると、婚姻期間中の厚生年金保険料の支払い実績の一部が、夫婦のうち実績の多い側から少ない側に移されます。つまり、支払い実績が少ない方は年金分割制度を利用することによって年金の受給額を増やすことができますが、多い方は受給額が減ってしまうおそれがあるということです。

原則として元配偶者の遺産を相続できない

熟年離婚をして籍を抜いてしまうと、元配偶者が死亡しても原則として遺産を相続できなくなります。元配偶者との間に子供がいる場合は子供が元配偶者の遺産を相続することになりますが、元配偶者が再婚をした場合は、再婚相手も相続権を得ることになり、子供が受け取る分が減ってしまいます。

熟年離婚の生活面でのデメリット

熟年離婚の生活面でのデメリット

熟年離婚すると、配偶者の都合やペースに関係なく自由に暮らせるようになる一方、次のような生活面のデメリットが指摘されています。

家事の負担が増える

これまで夫婦で分担していた家事をすべて自分でしなくてはならなくなります。特に重い物の運搬や高所での作業等を夫に頼っていた妻、料理や掃除等日常的な家事を妻に頼っていた夫が苦労するケースが多いようです。

病気やけがをした時のサポートがない

離婚して一人暮らしになると、病気やけがをした時や体調不良の時に看病してくれる人がいません。介護が必要になった時も子供や知人、民間のサービス等に頼らざるを得なくなります。

孤独を感じることが増える

熟年離婚の場合、子供がすでに成人して独立していることが多く、離婚後に一人暮らしを始めるケースが珍しくありません。一人暮らしは気ままな反面、孤独を感じてしまいがち。特に年末年始や誕生日等、これまで家族と過ごすのが当たり前だった時間を一人で過ごすことに、寂しさを感じる人が多いようです。

熟年離婚をする前に注意すべきことは?

熟年離婚をする前に注意すべきことは?

ここまでみてきたとおり、熟年離婚には経済面・生活面共にメリットだけでなくデメリットもあります。特に経済的に自立できない状態で離婚をしてしまうと、離婚前と同じ生活レベルを保つのはおろか、生計を維持すること自体、難しくなってしまいます。熟年離婚を考えるなら、まずは以下のポイントを確認し、離婚後の経済基盤の準備を始めることが大切です。

財産分与でどのくらいの財産が受け取れるか

財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げた財産(現金や不動産、退職金や年金等)を、離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて分配することを指し、民法でも離婚の際には、相手方に対して財産の分与を請求することができると定められています。

夫婦の収入にもよりますが、一般的には婚姻期間が長ければ長いほど財産分与額は多くなるといわれており、婚姻期間が20年を超える夫婦の場合、財産分与額が2,000万円を超えるケースも珍しくありません。

なお、財産分与は2分の1ずつという考え方が普及していますが、実は分与の割合は法律で定められているわけではなく、協議すればより多くの財産分与を受けることができる可能性もあります。
ただし、婚姻生活中に二人で築いた財産の金額を算出するのは、容易ではありません。貯金や不動産の金額の目安は比較的容易に算出できますが、相手が受け取る予定の退職金や年金の額を算出するには複雑な計算が必要になります。どのぐらいの財産を請求できるのか、事前に具体的な目安が知りたい場合は、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

なお、財産分与を求めることができるのは離婚成立後2年間のみで、これを過ぎてしまうと財産分与を請求できなくなってしまうので、注意が必要です。

慰謝料の有無

どちらか一方の浮気や不倫、暴力等が原因で離婚する場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。どのぐらいの額を請求するのが妥当か弁護士等に相談してみましょう。

収入はどのくらい望めるか

離婚後、仕事や年金でどのくらいの収入が望めるのか、それで生活費がまかなえるのかどうかを確認しましょう。持ち家から賃貸に移り家賃負担が増える場合には、今までと同じ水準での生活が難しくなることも。将来的な収支の計画を立てる必要があります。

家族や友人のサポートは受けられるか

離婚後に子供や兄弟、友人と一緒に生活できるかどうか、万が一の時にサポートを受けられるのかどうかを確認しておきましょう。熟年離婚に踏み切るほど冷めきった夫婦関係とはいえ、長年支えあってきたパートナーという拠り所を失うダメージは大きいです。
パートナーという存在を失ったのちに、家族や友人のように夫の代わりにサポートしてくれる存在は重要です。

借金の有無

住宅や車のローン、教育費等の負債がどのくらいあるのか計算しましょう。負債が財産を上回る場合、財産分与の請求はできません。熟年離婚の話し合いのタイミングで多額の借金が見つかるという可能性もあるかもしれません。

まとめ

離婚率全体は減少傾向にあるのに反し、婚姻期間が20年以上の熟年夫婦の離婚率は上昇傾向にあります。長年の違和感や不安から解放され、自由な生活を手に入れられる反面、熟年離婚には経済的にみるとさまざまなデメリットもあります。

特に収入の目処が立たないまま不用意に熟年離婚に踏み切ってしまうと、離婚後に経済的に自立できず生活が行き詰まってしまうおそれも十分考えられます。財産分与や慰謝料、そして年金分割はどのくらいもらえるのか、誰からどのようなサポートが受けられるのかを確認した上で、弁護士等専門家に相談して慎重に離婚するか否かの判断するようにしてください。

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