死後事務委任契約はどんな人が誰に依頼する?費用や依頼内容を解説

死後事務委任契約は、自身の死後に行うべき事務手続きを生前に第三者に依頼する契約です。この記事では、死後事務委任契約の概要や依頼の流れ、費用の目安を解説します。成年後見制度(任意後見・法定後見)や遺言(遺言執行人)など他の制度との違いを理解して、死後事務委任契約を結び、終活を進めましょう。

死後事務委任契約はどんな人が誰に依頼する?費用や依頼内容を解説

死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは

「死後事務委任契約」とは、自身が亡くなった後の事務手続きを、第三者に委任する契約です。例えば、生前に何らかのサービスを契約していた場合、死後は自身で解約ができません。このような自身の死後に行うべき事務手続きを、生前において第三者に依頼する契約です。

死後事務の7つの内容

死後事務の内容としては、主に、葬儀や埋葬に関する手続き、親族・知人などへの連絡、生前における未払料金の支払い、サービスの解約などが内容となります。

葬儀や埋葬の手続き

人が亡くなった際には、葬儀や埋葬を行うため、葬儀社への連絡をはじめ、葬儀内容の決定や埋火葬許可申請などの手続きが必要です。そのため、事前にこれらの手続きを行う人や内容を決めておくことで、スムーズに手続きを進めることが可能となります。

親族や知人などへの連絡

親族と離れて暮らしていたり、疎遠だったりすると、訃報が行き渡らず、亡くなったことに気付かない、あるいは気付くのが遅くなってしまうことがあります。このようなことを防ぐために、事前にこれらの連絡事務を委任にしておくことが重要になります。また、亡くなった後に伝言がある場合にも、生前に内容をまとめて委任しておけば、代わりに伝えてもらうことができます。

医療費などの清算

生前に、病気や怪我などで医療機関を利用していた場合は、本人の死亡により医療費が未納状態になってしまうことがあります。あらかじめ、契約に医療費の清算を盛り込んでおくことで、自身の死後にきちんと清算することができるでしょう。

遺体の引き取り

通夜や葬儀、埋葬の前に、病院などから遺体を引き取らなくてはなりません。ただ、親族がなかなか見つからないような場合には、しばらく遺体が引き取られない状況に陥ることがあります。このような状況を回避するため、前もって遺体の引き取り先を決めておくのです。

住まいや家財に関すること

アパートやマンションなどで暮らしていた場合、家賃が未納状態になってしまいます。また、家財がそのまま残された状態では、大家や管理会社が処分に困ってしまうので、事前に処分方法などについて決めておけば、手続きがスムーズです。

生前における未払い料金

未払いの料金としては、友人や知人から借りているお金や飲食店のツケ、水道光熱費などが挙げられます。本人が亡くなっても、これらの債務が消えるわけではありません。自身の死後に親族や周囲の人たちがトラブルに巻き込まれないように、どのような債務があるかを明確化しておいた方が望ましいでしょう。

サービスの解約

生前に、携帯電話や動画のサブスクリプションサービス、月極めの駐車場などの契約をしている場合には、死後にこれらの契約の解約手続きが必要になります。そのことを考え、事前にサービスや解約方法などを整理した上で、手続きを委任しておくことにより、死後の料金の発生を防ぐことができます。

死後事務委任制度を利用すべき人

死後事務委任制度は、親族がいない人や疎遠で頼れない人、又は、親族はいるものの、できるだけ迷惑や負担をかけたくないと考える人が、利用されるとよいでしょう。

自身が望む葬送がある場合でも、この制度を利用した方がよいでしょう。日本の一般的な葬送は火葬であるため、生前に望んでいた葬送を、親族が必ずしも採用してくれるとは限りません。死後事務委任契約を交わしておけば、望みを叶えられるでしょう。

死後事務の委任に相応しい人

親族以外の第三者に委任をする場合、死後事務の委任に相応しい人として、まず弁護士が挙げられます。法律の専門家である弁護士なら、死後事務の法的な手続きや、相続の問題が発生した場合にも適切な対処が期待できます。また、司法書士や行政書士などにも、死後事務を請け負っている事例があり、法的知識に基づくアドバイスを受けながら進められるでしょう。

なお、死後事務の委任先に制限はなく、友人や知人、事実婚の相手など、誰に対しても依頼が可能です。

他の制度との違い

他の制度との違い

死後事務委任制度に似た制度として「成年後見制度」や「遺言」、「財産管理委任契約」などが挙げられますが、それぞれの特徴が異なるので把握しておきましょう。

成年後見制度(任意後見・法定後見)との違い

成年後見制度とは、知的障害や認知症などによって判断能力が欠如している人が、本人にとって不利な契約や手続きを行わないようにサポートする制度です。制度の利用により、後見人が被後見人の代わりに、さまざまな手続きを行います。

成年後見制度には、「任意後見」と「法定後見」の2種類に分類され、前者は任意で後見人を選ぶことができ、後者は家庭裁判所によって後見人が選定されます。

遺言(遺言執行人)との違い

遺言は、生前において、死後の財産の処分や相続に関する内容を、文書に残しておくことです。遺言として残すことで、スムーズな相続やトラブルの回避に役立ちます。しかし、遺言では、法律上遺言事項として認められている財産の処分や相続に関する事項に関しては法的効力を発揮しますが、それ以外の未払料金の支払いやサービスの解約などについては効力が発揮されません。

死後事務委任契約であれば、未払料金の支払いやサービスの解約などについても、法的に有効な委任をすることができます。

財産管理委任契約との違い

財産管理委任契約とは、自己の財産を管理できなくなったときのために、第三者へ管理を委任する契約です。怪我や病気、加齢などによって、将来的な財産の管理が不安な場合に利用されます。契約者の生存しているうちに効力を発揮する点が、死後事務委任契約との大きな違いです。

死後事務委任契約の流れ

死後事務委任契約の流れ

死後事務委任契約は、委任先を選定した上で委任内容を決定し、委任先の方と契約書を作成します。契約書の作成が難しいと感じる人は、法律の専門家へ相談しながら進めるとよいでしょう。

契約をするタイミング

まずは、死後の手続きを誰に委任するかを決めます。契約を締結するタイミングとしては、健康状態や判断能力に問題ない時期がベストです。判断能力が不十分になってから契約を進めると、後々契約の有効性が争われたり、盛り込むべき内容に不備が生じるおそれがあります。

また、認知症が突如発症し、判断能力が著しく低下する可能性も否めません。心配な人はできるだけ早めに手続きを行うことをおすすめします。

委任内容を決定する

死後に何をどうしてほしいのか、詳細を決定するプロセスです。

【葬儀や埋葬の手続き】
依頼する葬儀社や希望する葬送の方法など

【親族や知人などへの連絡】
死後に連絡してほしい親族や知人、友人などの連絡先や連絡方法

【医療費などの清算】
現在通院又は入院中の医療機関名や既に医療費の未払いがある医療機関名、金額、支払方法

【遺体の引き取り】
遺体を引き取ってもらう相手の氏名や連絡先など

【住まいや家財に関すること】
賃貸借契約をしている物件名や住所、管理会社の名称及び連絡先、家財の処分方法、権限を委任している旨を記載

【未払料金】
未払料金の支払先と金額、支払方法

【サービスの解約】
契約しているサービスの名称と解約方法、解約を委任している旨

必要書類をそろえる

死後事務委任契約の締結に、公正証書を作成する場合には、必要な書類は以下のいずれかです。

・印鑑登録証明書と実印
・自動車運転免許証と認印
・写真付き住民基本台帳カードと認印
・写真付き個人番号カードと認印

出典 

すべてをそろえるわけではなく、いずれか1つのセットで問題ありません。なお、印鑑登録証明書は3ヶ月以内に取得したものが必要です。これらは、委任者と受任者それぞれが準備します。

公正証書で契約書を作成

「公正証書」は、公証人が内容を証明する文書であり、証明力と執行力を備えた文書であるため、死後事務委任契約の契約書も公正証書で作成するのが安全です。また、契約書の作成前に、公証人が本人の前で内容を確認することから、漏れやミスを防ぐ効果も期待できるでしょう。

不安な人は専門家に相談

死後事務委任契約は、自身でも行えますが、きちんと締結できるか不安であれば、司法書士や弁護士など、法律の専門家へ相談しながら作成することがおすすめです。法的な観点や死後によくある問題などを踏まえてアドバイスしてもらえるため、漏れやミスのない契約書を作成できます。

契約にかかる費用

契約にかかる費用

契約で発生する費用には、公正証書を作成する場合には公証役場に支払う手数料、受託者に預ける「預託金」のほか、専門家への依頼料などがあります。預託金は、死後の事務手続きをスムーズに執り行うためのお金で、受託者の報酬と一緒にして受託者に預けておきます。

また、専門家への依頼料には、司法書士や弁護士などに支払う相談料、書類の作成費用、各種手続きに発生する報酬などが含まれます。

死後事務委任契約での注意点

死後事務委任契約の注意点として、トラブルの発生や法的有効性の検討が挙げられます。また、自治体が行う死後事務に関しても注意すべきです。

トラブルが発生する可能性がある

死後事務委任契約では、委任先の倒産や廃業などのトラブルの発生が考えられます。例えば、自身が亡くなる前に、契約を締結していた法律事務所が廃業してしまうと、最悪の場合、預けていた資金が返ってこないおそれがあるでしょう。

また、家財の処分を委任されていた友人が作業をしている際に、故人の親族から「勝手なことをするな」と責められ、受任者と親族が揉める可能性もあります。

法的有効性の検討が必要

委任契約は民法により、委任者の死亡で契約が終了するとされているため、死後事務委任契約を締結していても、契約書の内容次第では、契約が無効になるおそれも否定できません。

上記のリスクを避けるため、死後事務委任契約は司法書士や弁護士など、法律の専門家からサポートを受けながら進めることがよいでしょう。

自治体が行う死後事務

自治体は、身寄りがない人の火葬や埋葬を行っています。ただ、火葬や埋葬を行うだけなので、家財の処分やサービスの解約など、死後事務の手続きにはノータッチです。

ただ、近年は終活支援を行う自治体も登場しています。例えば、横須賀市では葬儀や家財処分の契約先、緊急連絡先、遺言書の保管先、お墓の所在地などを、生前にまとめて登録できるサービスを提供しています。あくまで終活支援の一環であり、死後事務を約束するサービスではない点に要注意です。

まとめ

死後事務委任契約の締結により、死後の手続きを滞りなく進めてもらえます。親族がいない、疎遠である、頼りたくないなど、家庭の事情を抱える人は、この制度の利用を検討してみるとよいでしょう。自身で進めることが不安な人は、司法書士や弁護士への相談をお勧めします。

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