【特集セカンドライフ】第16回 「本当にやりたいこと」で心豊かなセカンドライフを〜正岡利之さん〜

「特集 セカンドライフ」は、経営者・リーダー・役員等社会で活躍するさまざまな人のセカンドライフ(第二の人生)についての考え方を聞く特集企画。今回は新卒で三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社以来、長く資産運用業務に携わり、投資教育の調査研究を担当するMUFG資産形成研究所長を務めた正岡利之さんにお話を伺いました。

【特集セカンドライフ】第16回 「本当にやりたいこと」で心豊かなセカンドライフを〜正岡利之さん〜

ミッションは資産運用の経験と知見を社会に還元すること

ミッションは資産運用の経験と知見を社会に還元すること

―2022年3月で、新卒以来40年間務めた三菱UFJ信託銀行を定年退職されました。今、どんな感慨を抱いていらっしゃいますか?

正岡利之さん(以下、正岡):あっという間の40年間でした。改めて振り返ってみると、新卒で配属された地方の営業店での集金業務を皮切りに、いろいろな仕事を担当させていただきましたが、常に「今、自分がやっている仕事は会社にとってどんな意味があるんだろうか」と考え、自分なりの答えを探しながら働くよう心がけてきました。逆にいうと、どの仕事も会社という土台がなければ経験し得なかったことばかりです。そう考えると、40年もの長い間、仕事を通じて私を成長させてくれた会社に、心から感謝しています。

入社3年目の終わりからは資産運用業務を行う部署に異動し、先輩のみなさんに教えてもらいながら、債券のファンドマネージャーとして債券を短期的に売買する業務に従事しました。数千億円単位のファンドに携るので、最初のうちは緊張と興奮で眠れない夜もありましたね。

入社5年目の1987年10月にはいわゆる「ブラックマンデー」と呼ばれる世界的な株価の大暴落が起き、ものすごい勢いで株価が落ちていく様子をリアルタイムで見ていました。当時は今ほど相場の動きが大きくなかった分、衝撃も大きかったですね。その直後にちょうど、渡米してUCバークレーで研修を受ける機会があり、投資の研究をしている教授の話を聞くことができたのもよい経験になりました。その後も、湾岸戦争等歴史的な有事が起こるたびに相場が大きく変動する場面を何度か経験し、例えば「下がる時に売ると損をする。むしろ、そこで買える人が後に儲かる」というような運用の基本を、身をもって実感したものです。

時間をかけてお金を増やす「長期投資」の大切さを発信

時間をかけてお金を増やす「長期投資」の大切さを発信

―2018年に設立されたMUFG資産形成研究所の所長に就任されました。この研究所は、どのような目的で設置されたのでしょうか?

正岡:一言で申し上げると、「資産形成の手段としての投資を身近でなじみやすいものにするために、中立的な立場で実践的かつ効果的な情報提供を行うこと」を目的としています。というのも、今、私たちの暮らす社会では、人口減少や高齢化の進展、長期にわたる低金利政策等、さまざまな変化が起きており、国の年金制度だけでは長い老後の生活を豊かに過ごすことが難しくなっているからです。つまり、国民の自助努力による資産形成が求められる時代になっているんですね。
しかし、日本では資産形成の手段として預貯金を選ぶ人が多く、投資は敬遠されがちです。「投資は短期的な売買で利益を得ることであり、ハイリスク・ハイリターンだ」という印象をもつ人も少なくありません。もちろん、そういった方法もありますが、投資の方法は短期の売買だけではありません。じっくり時間をかけてお金を増やす「長期投資」を上手く取り入れれば、短期の売買に頼らなくても、老後に必要な資産を形成することが可能です。

長期投資というのは、端的に言ってしまえば「お金の置き場所を変える」ということです。例えば、私が1,000万円の資産を持っているとしましょう。その1,000万円をすべて預貯金にしてしまうと、将来、物価が上がってお金の価値が下がると、資産としての価値は目減りしてしまいます。今の1,000万円に、20年後も同じ1,000万円の価値がありつづけるとは限らないのです。

一方、1,000万円のうち300万円を「つみたて投資」等の長期投資に回しておくと、途中で値動きはあるにせよ、長い目で見ると利益を上げることが期待できます。ただし、資産の全額を投資に充てるのはリスクが高すぎるので、数年以内に使う予定のある資金は元本保証の預貯金として持っておき、それ以外を長期投資に充てることが大切です。長期投資に充てる金額は「途中で値動きがあっても耐えられる」と思える金額をベースに判断するとよいでしょう。

こういった長期投資の基本的な考え方や、具体的な投資の方法について、セミナーや出版物、あるいは調査研究の結果公表を通じて発信していくことが、MUFG資産形成研究所の主な役割です。私自身、初代所長として約4年間、この役割の一端を担い、自分が業務を通じて得た運用の経験や知見を広くみなさまに還元できたことを、とても嬉しく思っています。

「自分が本当にやりたいことは何か?」に即答できますか?

「自分が本当にやりたいことは何か?」に即答できますか?

―定年を迎えられましたが、ご自身のセカンドライフは、どのようにして過ごす予定ですか?また、そのために準備してきたことはありますか?

正岡:かのピーター・ドラッガーや大前研一さんらも、退職後の暮らしの方針を決めるのには数年かかると書いておられたので、私も55歳を過ぎたくらいから、退職後のことを意識して本を読んだり人の話を聞いたりするようにしていました。そんな時、渡部昇一さんの本で「あなたが本当にやりたいことは何か、内なる声に耳を澄ましてみなさい」という趣旨の文章に出会いました。この「自分が本当にやりたいことは何か?」という問い、実はすごく難しいですよね。私は即答できませんでした。自分が本を読んだり学んだりするのが好きなことは自覚していましたが、何を学びたいのかわからなかったのです。

そんな私に学びのきっかけをくれたのが、高校の先輩です。この先輩の紹介で仏教に興味を持ち、築地本願寺の通信講座を受講しました。そして、もっと仏教を学びたいと思っていたタイミングで、大学の教授であり、都内のあるお寺のご住職を紹介いただきました。今では、そのお寺が主催する活動にボランティアで参加し、檀家のみなさんが抱えるお金に関する悩み(資産管理や相続の悩み等)にアドバイスする活動をしています。

勤めていた会社のことは伏せて、単に「金融関係の仕事をしていた人」としてアドバイスをしているのですが、予想以上に喜んでもらえるんですよ。「ありがとう」と言ってもらうたびに、自分が40年間、仕事で取り組んできたことが人の役に立つことが実感できて、すごく励みになります。定年後もしばらくはこのような活動にも力を入れ、「利他」の精神で、自分の経験や知識を世のため人のために活かしていきたいと考えています。

目の前の仕事に全力を尽くし、フットワークを軽くする

目の前の仕事に全力を尽くし、フットワークを軽くする

―最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。

正岡:私自身もそうでしたが、仕事以外で「本当にやりたいこと」を見つけるのは、簡単なことではありません。定年になってから慌てて探すのではなく、若いうちから、できるだけ仕事関係以外の人ともかかわりを持って、いろんな意見を聞き、フットワーク軽く行動して人付き合いの輪を広げましょう。それが、思いがけない形で「やりたいこと」との出会いに繋がるかもしれません。

同時に、先のことばかりにとらわれず、目の前の仕事に懸命に取り組むことも大切です。一生懸命働いて経験を積み、知識を蓄え、人脈を築きましょう。定年を迎える頃には、それらはみなさんにとって何物にも代えがたい貴重な財産となっているはずです。そして、その財産を人のため、社会のために役に立たせることができれば、結果として、定年後の暮らしがより心豊かなものになるのではないでしょうか。

※この記事は2022年4月現在の情報をもとに作成しております。

今回お話を聞いた人

正岡 利之(まさおか としゆき)さん

正岡 利之氏プロフィール

【正岡 利之氏プロフィール】
MUFG資産形成研究所 前所長。
1982年三菱信託銀行(当時)入社。1985年より一貫して運用業務に従事し、2018年から2022年3月の退職までMUFG資産形成研究所長を務める。
内外債券のファンドマネジャー、国内株式のリサーチ、年金資産の運用管理、また投信会社での運用や商品開発など、運用に関する幅広い経験を有する。
日本証券アナリスト協会検定会員。行動経済学会会員。

出典 

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