【特集 セカンドライフ】第1回「上手に死ぬため」の30年を楽しむ〜平井 文夫さん〜

「特集 セカンドライフ」は、さまざまなフィールドで活躍する人のセカンドライフ(第二の人生)を聞く特集企画。第1回は、株式会社フジテレビジョン・上席解説委員の平井 文夫さんにお話を聞きました。

【特集 セカンドライフ】第1回「上手に死ぬため」の30年を楽しむ〜平井 文夫さん〜

株式会社フジテレビジョンに入社後、海外特派員や政治部長などを経験しながら長年報道の世界を渡り歩き、2019年に定年を迎えた平井さんは、現在どんなセカンドライフを過ごしているのでしょうか。これまでの人生を振り返って頂き、人生哲学やこれからの展望などもお聞きしました。

定年後、子育て・介護・仕事を同時進行で

定年後、子育て・介護・仕事を同時進行で

―2019年8月に60歳でフジテレビを定年退職されました。今はどんな生活を送っていますか?
平井文夫さん(以下、平井):フジテレビには定年後も契約社員として籍を置いていて仕事も続けていますが、これまでの約40年間とは全く違う生活を送っています。22歳でフジテレビに入って以来、50歳過ぎまでは文字通り「仕事一筋」の毎日でした。仕事は大好きでしたから苦にはなりませんでしたが、きつい仕事をひたすら続けて、疲れたら寝る。それ以外は二の次……という生活だったのです。

それが一変したのは、54歳のとき。初めての子供(娘)を授かったのがきっかけでした。妻も仕事を持っているので、子育てや家事は2人で分担。おかげで、おむつ替えから保育園の送り迎え、料理に洗濯、ママ友とのお付き合いまでひと通りできるようになりました。今日もこのあと、電動自転車で保育園のお迎えに行く予定です(笑)。

男性が育児や介護をやらないのは「もったいない」

平井:同時に、故郷の山口県に住む80代後半の母の介護も、今の僕にとって大切な役割のひとつです。離れて暮らしているので、毎日何かをしてあげることはできませんが、母が少しでも快適に過ごせるように地元とこまめに連絡を取り、役所や施設の手続きなど、できる限りのことをしています。
普通は子育てが一段落してから親の介護を……というパターンが多いのでしょうが、僕の場合は、図らずも2つが同時期にやってきました。実際にやってみてわかったのですが、育児は自分の過去を、介護は自分の未来を見ることなんです。娘も母も、僕に顔や行動パターンが似ているので余計に身にしみますね。正直、育児は大変なことも多いし、介護は弱っていく親を目の当たりにするので気が滅入りますが、自分の人生、過去と未来を見つめるという意味で、この2つは大きな意味があると思っています。だから、育児や介護を奥さんに押し付けている男性諸氏は、実にもったいないことをしているんですよ。だって、人生の一部を放棄してしまっているわけですから。

価値あることには思い切りよく使う。父から受け継いだ金銭感覚

価値あることには思い切りよく使う。父から受け継いだ金銭感覚

―定年後の子育てと介護に、経済的な不安はありませんか?
平井:妻も僕もまだ働いていて収入がありますし、退職金は年金で受け取る方法を選んだので、今のところ特に不安はありません。そもそも、僕は物欲も強くなくて特に贅沢な暮らしをしたいとも思わないタイプ。60歳を過ぎて今さら大金が欲しいとも思いませんが、娘の将来に関わるお金だけはしっかり確保しておきたいので、そのための貯蓄や資産運用はしています。だって、もし娘が「お父さん、私、ハーバードに行きたい!」と言い出したときに、お金を理由に諦めさせたくないですから(笑)。ハーバードじゃなくても、娘には自分で何か好きな道をみつけて、しっかりとその道を歩んで欲しい。そのためのサポートは惜しまないつもりです。

この「浪費はしないけど、価値あることにはしっかりお金を使う」という考え方は、亡くなった父ゆずりです。山口県で医者をしていた父は近江商人の家系の出だったためか、経済観念がしっかりしていて、堅実な資産運用もしていました。僕を含め3人の子供には贅沢こそさせませんでしたが、それぞれの得意な分野・好きな分野については惜しまずお金を使ってくれました。僕の場合は、本が大好きでしたから、本だけはよく買ってもらったものです。幼い頃からたくさん本を読んでいたことが、結果として記者という職業につながったので、父には感謝しかありません。長く記者を続けたおかげで定年後の今もコラム執筆や講演の仕事ができますし、政治系のシンクタンクでの仕事も始めることができました。

介護も一般的には「すごくお金がかかる」と言われていますが、実はそうとも限りません。日本の医療・福祉制度は実に手厚くて、うまく利用すれば、さまざまな公的サービスや控除が受けられるので、実際の出費はかなり抑えられるはずです。

漠然とした不安の理由は「居場所がないから」

漠然とした不安の理由は「居場所がないから」

―経済的な不安がなくても、働き続ける理由は何でしょうか?
平井:定年間近のサラリーマンなら誰しも一度は考えることだと思うのですが、定年は仕事や収入を失うことであると同時に、居場所を失うことでもあるんです。僕も58歳くらいの頃に「会社を辞めたら自分には何が残るんだろうか」という不安に襲われました。それまで40年近く、ずっと会社に紐付いた生活をしていたのに、その紐がプッツリと切れてしまったら、何をすればいいのか見当もつかないわけです。僕の場合はまだ子育てと介護がありますが、それもいずれ終わりが来ますよね。娘はどんどん大人になって手がかからなくなるだろうし、母はおそらく僕より先に天に召されるでしょう。その時、僕は何をしたらいいんだ?と悩みました。いくらお金があっても、誰からも必要とされない・居場所のない人生って虚しいんじゃないか? だったら、自分で居場所を作ろう。そう思って、定年後も仕事を続けることにしたのです。

定年したら「ただの人」。だからこそ挑戦して居場所を作る

平井:ただし、もう若い頃のように無理な働き方はしません。これからは好きな人たちと好きな仕事だけをしていきたいと思っています。でも、それだと人間が緩んでしまうので、ときには新しいことや難しいことにもあえて挑戦して、いろんな「居場所」を作っていきたいですね……と言うと、なんだかカッコいいですが、実はこんな風に考えられるようになったのは、子育てや介護を経験したからこそなんです。子育てや介護を通じて、会社で働いているだけでは気づかなかった自分の役割や存在価値に気づくことができました。だから「定年になったら、会社とは別の居場所や役割を見つければいい」という発想に上手く転換できたのだと思います。

会社でそれなりのポジションにいた人も、定年したら「ただの人」です。定年後に新しい世界に飛び込んだら、何の役職もないところから再スタートかもしれません。それが嫌で、定年後は家に引きこもってしまう人も多いと聞きますが、そんな老後を過ごすために僕たちは頑張って働いてきたわけではないはずです。だから僕は自戒を込めて、若い人に子育てや地域の活動など、あえて仕事とは直接関係のないことをするようすすめています。会社の看板がなくても楽しめる場が多ければ多いほど、セカンドライフは豊かになるはずですから。

これからの30年は、「上手く死ぬため」の準備期間

これからの30年は、「上手く死ぬため」の準備期間

―子育てに介護に仕事にと、しばらくは忙しいセカンドライフが続きそうですが、これからやってみたいことはありますか?
平井:たくさんあります。まずはテニスとスキー。娘が習っているので僕も始めたのですが、これがなかなか面白い。娘にはすでに負けていますが、付き合ってくれる間は一緒に楽しみたいですね。あとは、娘がもう少し成長して手がかからなくなったら、落語や音楽、芝居の鑑賞など、ここ数年控えていた「遊び」を再開しようと思っています。そう考えると、僕の人生は「昭和で育ち、平成で働き、令和で遊ぶ」ってことになるのかもしれません。

こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、僕は少なくとも90歳まで生きて、娘が一人前になるのを見届けるつもりなんです。父は90歳過ぎまで生きましたし、90歳近い母もまだ元気なので、2人の血を引いている僕もそのくらいまで生きられると踏んでいます。90歳で死ぬと仮定して逆算すると、あと30年もあるわけですが、その先には必ず死が待っています。とすると、今からの目標は上手く生きることというより、上手く死ぬことなんじゃないかと思うんですよ。上手く死ぬのって、意外と難しい。長患いしないように健康には気をつけないといけないし、妻や娘に負担をかけないようにある程度のお金は準備しておきたい。何より、死ぬ間際に「ああしておけばよかった、こうしておけばよかった」と後悔しないように、やりたいことは全部やっておきたい。そう考えると、ここから先の30年は何かと忙しいことになるんじゃないかと、実はすごく楽しみにしているんです。

逆算思考でセカンドライフへの備えを

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―これからセカンドライフを迎える方々へのアドバイスをお願いします。
平井:まだ僕自身がセカンドライフの初心者なのでアドバイスなどおこがましいのですが、ひとつ言えることは「セカンドライフ」といっても結局は、それまでの人生の延長に過ぎないということです。だからセカンドライフを豊かなものにしたいのなら、若いうちから準備をしておくに越したことはありません。資産にせよ健康習慣にせよ、友人関係にせよ、一朝一夕にできるものではありませんから。例えば、老後資金を増やしたいのなら、早めに資産運用なり貯蓄なりを始めたほうが賢いですよね。

おすすめするのは、ゴールから逆算してものごとに取り組むことです。仕事も、締め切りや納期が明確だと「この日までにあれをやっておかないと……」という意識が働くのでスムーズに進みますよね。同じように「娘が20歳になるまでに15年あるから、その間に◯◯万円を生前贈与しよう」「死ぬまでの30年間で◯◯冊、本を読もう」という具合に逆算して目標を据えると、常に先のことを見据えて計画的に生活できるようになるのではないでしょうか。

実は自分が死んだ後に妻や娘が困らないように自分のお墓を購入しようと思っていて、現在、近所の納骨堂と公園墓地の2か所に候補を絞って検討中です。「計画的すぎる」と笑われそうですが、これも「上手く死ぬため」の準備のひとつです。こんなふうに、自分の死後に想いを馳せることができるようになったのは、娘が生まれてからのこと。「自分がこの世からいなくなったあとも、娘がみんなと楽しく生きてくれたらいい」と思えるようになってから、死ぬのがそんなに怖くなくなり、逆に娘のためにも、自分が今できることをしっかりやっておこうという前向きな気持ちで、セカンドライフと向き合えるようになりました。

2020年の春からは、フジテレビやシンクタンクでの仕事に加えて、母校・立命館大学で客員教授の職に就くことになりました。教育・研究の世界は初めてなので、どんな出会いがあるのか、どんな新しい経験ができるのか未知数ですが、その分、とてもワクワクしています。これからも「遊」「自由」「楽」「好」をキーワードに、セカンドライフを貪欲に楽しんでいきたいと思っています。

※この記事は2020年2月に行った取材をもとに作成しております。

今回をお話を聞いた人

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【平井 文夫氏 プロフィール】
1959年長崎県生まれ、山口県育ち。1982年立命館大学経済学部卒業後、株式会社フジテレビジョン入社。ワシントン特派員、政治部首相官邸キャップ、「ニュースJAPAN」プロデューサー等を経て、報道センター編集長、政治部長、専任局長、解説副委員長を経て現職。
2009年から2017年まで「新報道2001」のコメンテーター。最近はネットのFNNプライムオンラインでコラム「永田町4コマ劇場」や政治家対談週「聞かねばならぬ」、「平成プロファイル忘れられない取材」を発信中。「日本記者クラブ」企画委員も務める。

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