【特集セカンドライフ】第3回 60歳からは「雇われない働き方」を~大杉 潤さん〜

「特集 セカンドライフ」は、経営者・リーダー・役員など会社で活躍するさまざまな人のセカンドライフ(第二の人生)を聞く特集企画。第3回は、著書「定年後不安 人生100年時代の生き方」や同書をサブテキストにした研修で人気の研修講師・コンサルタント・ビジネス書作家の大杉 潤さんにお話を伺いました。

【特集セカンドライフ】第3回 60歳からは「雇われない働き方」を~大杉 潤さん〜

57歳で自ら会社員生活に終止符を打ち、フリーランスの道を歩む大杉さんが描く「人生の設計図」とは? 定年後の三大不安(カネ・孤独・健康)を解消するための具体的な行動や考え方についても教えていただきました。

45歳で最初の転職。57歳でフリーランスへ

45歳で最初の転職。57歳でフリーランスへ

―まずは、これまでのキャリアと現在のお仕事について教えて下さい。
大杉 潤さん(以下、大杉):子供の頃から本が好きだったので、なにか「書く」仕事に就きたいと思っていました。そこで大学はマスコミに強いと言われる早稲田大学に進学。就職活動もマスコミを本命にして、大手放送局や新聞社からの内定を頂きました。ところが、なんと面接の練習のつもりで受けた大手都市銀行にも内定をもらってしまったんです。

当時はまだ「銀行員=安定」と考えられていた時代だったため、両親に銀行への就職を懇願され、少し不本意な気持ちを抱えながら入行しました。とはいえ、いざ働いてみると銀行の仕事は予想外に面白かったですし、優秀な同僚たちにも恵まれて、貴重な経験をたくさんさせてもらいました。今では銀行員としての経験がなかったら今の自分はないと思うほど、感謝しています。ただし、ずっと「書くことを仕事にしたい」という気持ちを持ち続けていたこと、そして定年後の人生設計が描けないことに危機感を覚えていたこともあって、在職中は常に転職を意識していました。

最初の転職を果たしたのは、45歳のときのこと。新卒以来22年間働いた銀行を辞めて、東京都が設立した新銀行東京に創業メンバーとして参画、その後2回転職をして、人材関連会社とメーカーで人事責任者を経験しました。そして2015年、57歳からフリーランスの研修講師、コンサルタント、ビジネス書作家として活動をしています。最近は、40歳代以上を対象にした「定年後を見据えたキャリアや人生設計」に関する研修やコンサルティングの依頼が増え、おかげさまで忙しいながらも充実した日々を送っています。自著も出版でき、新卒時に一度はあきらめた「書くことを仕事にしたい」という夢も、実現することができました。

85歳まで働き続けることが、老後の3大不安「カネ・孤独・健康」を解消する

85歳まで働き続けることが、老後の3大不安「カネ・孤独・健康」を解消する

―定年後を見据えて転職をする、という発想はどこから生まれたのでしょうか?
大杉:私は銀行員時代、定年後の生活に「カネ・孤独・健康」の不安をいだいていました。頭文字が全部Kなので、「老後不安の3K」として研修などで紹介すると、同じような不安を抱いている方が多いのか、「わかる、わかる」と共感してくれる方が多いですね。

<老後不安の3K>
・カネの不安
人生100年時代と言われ、定年後の人生が30年以上になるケースも珍しくない中、年金収入だけで暮らしていけるのだろうか? という不安。

・孤独の不安
定年すると仕事上で付き合っていた人たちとの交流が途絶えてしまい、行動範囲や人間関係が縮小してしまうのではないか、一人で寂しく過ごす時間が増えてしまうのではないか? という不安。

・健康の不安
果たして自分にはいつまで自立した生活が送れるのだろうか、病気や寝たきりになってしまうのではないか? という不安。

でも、大丈夫。実は、この3Kを一度に解決できる方法があるんです。
それは「85歳まで働き続けること」。定年後もずっと働き続ければ年金+αの収入が確保できますし、仕事相手やクライアント、お客様等との付き合いがあるので孤独に陥る心配もありません。また働き続けることが心身にプラス効果を及ぼし、認知症リスクの低減にも繋がります。このことに気づいてから、働き続けるためのスキルや経験、知識や人脈を今のうちに身につけておきたいと考えるようになり、転職を決めたのです。

結論から言うと、その決断は正しかったと思います。おかげで、私は今62歳で、世間一般で言えば定年退職後の年齢ですが、こうして毎日楽しく働き、老後の3Kとは無縁の生活を送っています。

人生100年時代は「トリプルキャリア」で生き抜く

―しかし、85歳まで働き続けるのは、体力的になかなか難しいのではないでしょうか?

人生100年時代は「トリプルキャリア」で生き抜く

大杉:もちろん、若い頃と同じ様に働くのは難しいですよね。そこで私は社会人としてのキャリアを「第1のキャリア」「第2のキャリア」「第3のキャリア」の3つに分けて考える「トリプルキャリア戦略」を提唱しています。

① 第1のキャリア
第1のキャリアは、会社員として企業などに「雇われる働き方」です。収入が安定しているというメリットはありますが、一般的には担当する仕事の内容や仕事仲間、働く場所や時間を選ぶことはできません。ただし、与えられた仕事をこなすことを通じてスキルやノウハウ、経験や実績を蓄積することができます。

② 第2のキャリア
第2のキャリアは、フリーランスや自営業者、起業家のように、誰かに「雇われない働き方」です。私の場合は会社員を辞めてフリーランスになった57歳に、第2のキャリアをスタートさせました。会社員のように月々の給与やボーナスがあるわけではないので収入は安定しませんが、定年がなく、ずっと働き続けられるというメリットがあります。

③ 第3のキャリア
第3のキャリアは、自分の好きなことを仕事にして、時間も場所も仕事仲間も自由に選ぶ働き方、いわば理想の働き方です。どこで誰といつどんな仕事をしても自由、もちろんどのくらいの収入を目指すのかも自由です。私自身は70歳になったら大好きなハワイに移住して、執筆業のみに絞って働くのが理想です。

健康状態や家庭環境には個人差があるので一概に年齢で区切るのは難しいですが、概ね60代で会社を定年退職したタイミングで、第1のキャリアから第2のキャリアへ、体力が衰えてくる70代で第2のキャリアから第3のキャリアへシフトチェンジすることを念頭に3つのキャリアを計画的・戦略的に作っていくと、高齢になっても自分らしく働き続けることができるのではないでしょうか。

50代になったら「人生の棚卸し」をしてみよう

―とはいえ、それまで普通の会社員だった人が定年を機に「雇われない働き方」を始めるのは、特別な才能や資格がない限り、難しいのではないでしょうか?
大杉:決してそんなことはありません。60歳まで仕事をしてきた人なら、何かしらの知識や経験、スキルといった専門性があるはずです。まずは、その専門性に自分の好きなこと・得意なことを組み合わせて、自分だけのビジネスモデルを考えてみましょう。ここで大事なのは、3つ以上の得意分野を「組み合わせること」です。というのも、なにか単独の分野で希少な存在になるのは至難の技ですが、3つ以上の組み合わせならぐっと希少価値が上がり、競合相手の少ない分野で勝負できる可能性が大きいからです。

私の場合は、銀行員としての22年のキャリアで培った経営管理のスキル、転職後の会社員時代、人事・採用・研修の責任者を長く経験しましたので、この分野のスキルや知識は持ち合わせています。そしてビジネス書を読むのが大好きで、社会人になってからずっと年間300冊以上のビジネス書を読み続けており、ビジネス書から実に多くのことを学んできました。そこで、57歳でフリーランスとして働き始めるにあたって、➀銀行員としての経営管理のスキル、②人事・採用・研修~、③ビジネス書~の3つを自分の強みとすることにしました。そして、その強みを活かして研修講師・コンサルティング・ビジネス書の執筆という3本柱のビジネスモデルを描き、実践しています。最近では、相手に最適なビジネス書をその場で3冊推薦する個別コンサルティングが人気になるなど、2つの強みの相乗効果で、創業当時は思いもよらなかった展開が始まっています。

皆さんも50代になったら、まずは人生の棚卸しをして自分の好きなこと・得意なものを明確にしておきましょう。そして、定年もしくは独立するまでの時間を使って、できるかぎりスキルを磨き、その道のプロとして働けるだけの専門性を高めておくとよいでしょう。

20代、30代のころからシフトチェンジを見据えたキャリアプランを

20代、30代のころからシフトチェンジを見据えたキャリアプランを

―第2のキャリア(雇われない働き方)にシフトする準備は、いつから始めればいいのでしょうか?
大杉:1日も早く準備を始めることをおすすめします。リクルート出身で現在は教育改革実践家として活躍する藤原和博さんは、著書「藤原和博の必ず食える1%の人になる方法」(東洋経済新報社)で、誰でも1万時間かければ1つの分野で100人に1人レベルのプロになることができ、3つの分野でそれぞれ1万時間をかければ、100万人に1人の存在になれるという、「1万時間の法則」を紹介しています。1万時間というと、1日に3時間を費やしたとして約10年、5時間だと約5年かかります。英会話上達でも資格試験取得でもいい、とにかく何か目標をみつけて、1万時間コツコツ続ければビジネスにできるくらいのスキルが身につくというわけですから、スタートは早いに越したことはありません。

私自身、英語力を身につけるにあたって、同時通訳の神様と呼ばれた故・國弘正雄さんが提唱する只管(しかん)朗読法(毎日英文の音読を続ける学習法)を数年間ひたすら続けたことによって、54歳にしてTOEICで自己最高得点955点を取ることができました。ですから、藤原さんの1万時間の法則には100%賛同しています。ごく一握りの天才は別として、普通の人がプロ並みのスキルを身につけるには、1万時間くらいはかかるものなのです。定年後の第2のキャリアで「雇われない働き方」を目指すなら、第1のキャリア時代から常に第2、第3のキャリアを見据えて、1日も早く準備を始めてください。

―とはいえ、具体的に何をしていいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
そうですね。そんな人は、まずは本を読んでみてはどうでしょう。読むだけで新たな知識や気づき、時には人生を変えるきっかけまで与えてくれるわけですから、読書ほど効率のよい自己投資はありません。1週間に1冊でも年に60冊くらいは読むことができます。これを2年、3年と続けていけば、皆さんの知識や教養は相当なものになるでしょうし、視野も広がるはずです。何より、定年後に取り組んでみたいビジネスのヒントもみつけられるかもしれません。

好きなことなら、続けられる。まずは2年続けよう

―第2のキャリアで失敗しないためには、どうすればよいのでしょうか?
大杉:まず、大掛かりなスタートを切らないことです。たとえば、いきなり事務所を構えたり人を雇ったりするのは避けたほうが無難です。最初は自宅を事務所にして自分1人、もしくは家族と一緒にできる小さなファミリービジネスとして始め、初期投資(コスト)は最小限に押さえることをおすすめします。というのも、ビジネスが軌道に乗るには短く見積もっても通常は2年程度かかると言われているからです。ホームページを開設しても、ブログやSNSで発信しても、それですぐに仕事依頼が舞い込むことなんて、まずありません。最初にコストをかけ過ぎると回収できなくなり、破綻してしまうリスクもおおいにあります。私の場合は、坂下 仁さんの著書「今すぐ妻を社長にしなさい~サラリーマンでもできる魔法の資産形成術」(サンマーク出版)を読んで感銘を受けていましたので、独立にあたって合同会社を作る際には、妻に社長になってもらいました。会社の住所も自宅にしましたので、初期コストはほぼかかっていません。妻に社長として会社のお金の流れを見てもらうわけですから、無駄な支出をしなくなるというメリットもあります。

もう1つは、好きなことを仕事にすることです。先程申し上げたとおり、事業が軌道に乗るまで、少なくとも2年はかかります。起業からしばらくの間は、まったく成果が上がらない日々が続くと思っておいたほうがよいでしょう。そんな状況ですから、誰かにやらされている仕事・不本意な仕事だったら、途中で投げ出してしまってもおかしくありませんよね。でも、不思議なことに、人間って好きなことなら、多少の苦労が伴っても続けられるものなんです。第2のキャリアでは第1のキャリアと違って、仕事内容は自分で選ぶことができます。ぜひ、楽しみながら続けられること・好きなことを仕事にしてください。

私もビジネス書を1日1冊読み、毎日ブログにその書評を書くという形の情報発信を2400日以上続けています。最初は何の反応もありませんでしたから、ただひたすらビジネス書を読み、書評を書くだけの毎日が続きました。もちろん、1銭にもなりません。でも、私はビジネス書を読むのが大好き、文章を書くのも大好きですから、投げ出さずにコツコツ続けることができました。すると有り難いことに次第にブログの読者が増え始め、コメントも多く寄せられるようになりました。その結果、出版社の方と知己を得ることができ、新しいビジネス書が出るたびに献本していただけるようになったばかりか、自分自身が念願のビジネス書を執筆できるチャンスにも繋がりました。

何歳になっても学び続け、「自分が主役の人生」を取り戻そう

何歳になっても学び続け、「自分が主役の人生」を取り戻そう

―見事に第1キャリアから第2キャリアへのシフトチェンジを果たした大杉さんですが、今後はどんな目標をもち、どんなキャリアプランを描いていますか? また、そのためにどんなことを実行していますか?

大杉:第2のキャリアに移ってからは、「自分で自分の人生の舵を取っている」という実感があります。第1のキャリア時代は、会社が決めたポジションで会社から求められる仕事をするわけですから、自分の人生なのに会社に左右される部分が大きいですよね。しかし、第2のキャリアに移って雇われない働き方をするようになると、何をするにも、自分で判断・実行せねばなりません。他人任せにできない分、大変な面もありますが、自分で自分の人生をデザインしていること・自分が主役の人生を生きていることを実感できるのは、私にとって非常に大きな喜びです。今後も自分がしたいこと・できることを通じて社会に貢献し、同時にしっかり稼いでいきたいと考えています。そして、先程も申し上げたとおり、最終的には70歳くらいで生活の拠点をハワイに移し、執筆の仕事のみに専念できるようになることが、今の私の目標です。

この目標を達成するには、今の私ではまだまだ力不足です。もっと成長するために、現状に満足せず、どんどん新しいことに挑戦し続け、学び続けていきたいと思っています。今、最も力を入れているのは、動画の活用です。教育の世界でもマーケティングの世界でも、動画の活用に注目が集まっていますが、特に2020年からは5Gの商用利用が始まり、大容量のデータを超高速で配信できるようになるため、ますます多くの人が動画を見るようになると言われています。私もこれまでは情報発信をブログやSNS,書籍などの文字ベースでおこなってきましたが、今後は動画による発信にも積極的に取り組んでいきます。


手始めに、今年の2月にはYou Tubeで「大杉潤のyoutubeビジネススクール()」の動画配信をスタートしました。これは毎日1冊、私のビジネス書活用法を約10分間のYouTube動画で解説するもので、スタートから100日以上継続しています。ブログの場合もそうでしたが、こういったコンテンツは単発ではまったく意味がありません。コツコツと作り続けてストックができて初めて威力を発揮するのです。今はまだ反響も少ないですが、今後はYouTubeだけでなく、若者の間で圧倒的な人気を誇る動画共有プラットフォーム「Tik Tok(ティックトック)」でも、配信を始める予定です。今から制作を続けていけば、本格的な動画ブームが始まるころには大量のストックができているはずなので、私は動画で発信する研修講師・コンサルタントとして、かなり有利なスタートを切ることができるでしょう。もちろん、動画以外でも、面白い!と思ったことには果敢に挑戦し、学び、仕事に活かそうと思っています。

こうやって日々働き続けること、学び続けること。これこそが、人生100年時代の長い老後の不安を解消する生き方だと私は確信しています。老後に不安をお持ちの方は、その不安から目をそらさず、立ち向かいましょう。まずは人生の棚卸しをしてみてください。自分の目指すべき方向やすべきことが自ずと見えてくるはずです。

※この記事は2020年3月に行った取材をもとに作成しております。

今回お話を聞いた人

今回お話を聞いた人

1958年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。大手金融機関に22年間勤務した後、新銀行東京の創業メンバーに。人材会社およびメーカーの人事責任者を経て、2015年よりコンサルタント、研修講師として活動。株式会社HRインスティテュート・アライアンスパートナー。著書に「入社3年目までの仕事の悩みに、ビジネス書10000冊から答えをみつけました」(キノブックス)、「定年後不安 人生100年時代の生き方」(角川新書)など。年間300冊の多読生活を38年間継続し、1万冊以上を読破。毎日1冊ビジネス書の書評を掲載するブログを2400日以上更新継続中。
http://jun-ohsugi.com/

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