確定拠出年金は退職金制度の一つ!退職一時金との違いや税金について解説

確定拠出年金は、退職金制度の1種です。従来の退職一時金制度と同じく、老後生活の資金を準備できる制度ですが、詳細な内容には違いがあります。この記事では、確定拠出年金の主な特徴や従来の退職金との違いなどを解説します。退職所得控除の5年ルールに注意して、退職金やiDeCoの老齢給付金を受け取りましょう。

確定拠出年金は退職金制度の一つ!退職一時金との違いや税金について解説

確定拠出年金とは?

確定拠出年金とは?

確定拠出年金は、老後の資産形成を目的とした制度です。掛金を支払い、投資信託や保険、定期預金で運用し、積み立てた資産を60歳以降に老齢給付金として受け取ります。
確定拠出型年金には「個人型確定拠出年金(iDeCo)」と「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の2種類があり、加入方法や掛金の負担者が異なります。(詳細は後述)
老齢給付金の受取方法は、一時金または年金、あるいはその両方から選べるのが一般的です。

確定拠出年金の主なメリットは、運用益が非課税になることです。金融商品を運用して得られた利益には、通常であれば20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)の税金がかかりますが、確定拠出年金であれば運用益に税金はかかりません。

また、老齢給付金を一時金で受け取った場合は「退職所得控除」、年金受取の場合は「公的年金等控除」の対象になり、大きな税制優遇が受けられます。

個人型(iDeCo)と企業型DCの違い

確定拠出型年金には「個人型確定拠出年金(iDeCo)」と「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の2種類があります。主な違いは、以下の通りです。

個人型確定拠出年金(iDeCo) 企業型確定拠出年金
加入する方法 個人が金融機関と契約する 企業が制度として導入する
掛金 加入者自身が負担 会社が負担
金融機関 加入者自身が選ぶ 会社が決める
運用商品 加入者自身が選んだ金融機関が取り扱う商品 会社が用意する商品から選ぶ
受取方法 年金受取
一括受取
年金受取+一括受取
から選択が可能
基本的には年金受取
※企業が規約で定めていれば一括受取や年金受取+一括受取も選択が可能

個人型確定拠出年金(iDeCo)は、加入者自身が商品ラインナップや手数料体系、サービスの内容などを比較したうえで、好きな金融機関を選ぶことができます。

個人型確定拠出年金の掛金は、全額が所得控除の対象であるため、所得税や住民税の負担を軽減する効果が期待できます。掛金の上限は、以下の通りです。

掛金の拠出上限額
国民年金の第1号被保険者
(例:自営業・フリーランス)
月額6.8万円
※国民年金基金または国民年金付加保険料と合算した金額
国民年金の第2号被保険者
(例:会社員・公務員)
・勤め先に企業年金がない:月額2.3万円
・企業型DCのみ加入:月額2.0万円
・DBと企業型DCに加入:月額1.2万円
・DBのみに加入・公務員:月額1.2万円
国民年金の第3号被保険者
(例:専業主婦・専業主夫)
月額2.3万円

【参考】iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」 詳しくはこちら
※DBとは、確定給付企業年金、厚生年金基金などをいう

一方、企業型確定拠出年金の場合、基本的に企業が掛金を支払い、そこに勤める従業員が金融商品を選んで運用します。掛金を運用する商品の選択肢は、企業ごとに異なります。

企業型確定拠出年金の掛金の額は、役職や勤続年数などで決まるのが一般的です。ただし、以下を超える金額には設定できません。

・ほかの企業年金がある:月額27,500円
・ほかの企業年金がない:月額55,000円

【参考】一般社団法人投資信託協会「企業型DC(企業型確定拠出年金)ってなあに?」 詳しくはこちら
※ほかの企業年金とは、厚生年金基金、確定給付企業年金など

企業によっては、従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」を利用できます。マッチング拠出で支払った掛金は、全額が所得控除の対象です。

ただしマッチング拠出を利用する場合でも、企業が拠出する金額を超える金額の掛金は拠出することはできません。また、企業と従業員が拠出する掛金の合計が限度額の範囲であることが条件となります。

確定拠出年金と退職金の違いとは

確定拠出年金と退職金の違いとは

退職金制度は、企業が自社で準備する従来の退職一時金制度を導入している企業が多いですが、企業型確定拠出年金へと見直す企業も増えてきました。
では、社内準備型の退職一時金制度と、企業型確定拠出年金にはどのような違いがあるのでしょうか。両制度の主な違いは、以下の通りです。

退職一時金制度(社内準備) 企業型確定拠出年金
運用責任 企業 加入者本人(従業員)
掛金負担 企業 基本的に企業であり、従業員が追加で拠出できる場合もある
受取金額 退職金規程で決められている 運用元本+運用収益
受取方法 基本的に一括受取 年金受取
一括受取
年金受取+一括受取
から選択が可能
倒産時の保全 社内積立は保全されないことがある 保全される
転職時 転勤によって勤続年数が短くなると受給額が少なくなることがある 資産の持ち運びが可能

確定拠出年金は、運用責任が加入者本人にあるため、給付額が減った場合でも自己責任となります。対して、退職一時金制度の運用は主に企業が行うため、運用責任も企業側にあります。

確定拠出年金の掛金は、基本的に企業が負担しますが「マッチング拠出」がある企業であれば加入者の拠出も可能です。
退職一時金制度の場合、掛金はすべて企業が負担します。社内積立と社外積立の2パターンがあり、いずれも予定した給付額に積立金が不足した場合は、企業が追加で負担しなくてはなりません。

受取金額については、確定拠出年金は運用元本と運用収益の合計をもとに決まるのに対し、従来の退職金一時金制度は退職金規定で定められた金額が支払われます。受取額は、基本賃金や勤続年数、役職などで変動するのが一般的です。

万が一勤務先が倒産したとしても、確定拠出年金で積み立てた資産は保全されます。確定拠出年金の掛金は、個人の財産として社外に積み立てられているためです。
一方で退職一時金制度については、中小企業退職金共済、企業年金基金や特定退職金共済制度などの社外積立であれば、企業が倒産しても保全されます。
しかし、退職金が社内積立だった場合、倒産となれば退職金がもらえないリスクが高くなるでしょう。

確定拠出年金であれば、転職した場合もこれまで拠出した掛金を資産として持ち運ぶことができます(ポータビリティ)。転職先で企業型確定拠出年金があればそちらに引き継ぎ、ない場合でも個人型確定拠出年金に引き継ぐことが可能です。

確定拠出年金の受け取り方法とかかる税金

確定拠出年金の受け取り方法とかかる税金

確定拠出年金は、一括受取と年金受取で税金のかかり方が異なります。ここでは、確定拠出年金によって受給できる一時金または年金(老齢給付金)の受取方法ごとに税金の計算方法を解説します。

一時金として受け取る場合の税金の計算方法

老齢給付金を一時金で受け取る場合は、受取金額から「退職所得控除額」を差し引いた金額の半分が課税の対象となります。

退職所得控除額の計算方法は、以下の通りです。

勤続年数 控除額の計算方法
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

上記の計算結果が80万円未満の場合、退職所得控除金額は80万円となります。

例えば、勤続年数35年の人が2,000万円の退職金を受け取った場合、退職所得控除額と課税の対象となる退職所得額は、以下の通りです。

〇退職所得控除金額
退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
=800万円+70万円×(35年−20年)
=800万円+70万円×15年
=800万円+1,050万円
=1,850万円

〇退職所得の金額
退職所得の金額=(老齢給付金の受取額−退職所得控除金額)×1/2
=(2,000万円−1,850万円)×1/2
=75万円

よって、2,000万円の老齢給付金を受け取ったとしても、そのうち課税の対象となるのは75万円です。

年金として受け取る場合の税金の計算方法

確定拠出年金の老齢給付金を年金形式で受け取る場合は「雑所得」なり、老齢年金などのほかの公的年金とあわせて「公的年金等控除」が適用されます。

実際に、公的年金等に係る雑所得を計算する時は、速算表を用います。公的年金等に係る雑所得を除いた所得金額が1,000万円以下である場合の速算表は、以下の通りです。

■公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下(令和2年分以降)
受け取る人の年齢が65歳未満の場合

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
60万円以下 0円
60万円超130万円未満 収入金額−60万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75−275,000円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85−685,000円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95−1,455,000円
1,000万円以上 収入金額−1,955,000円

■公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下(令和2年分以降)
受け取る人の年齢が65歳以上の場合

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
110万円以下 0円
110万円超330万円未満 収入金額−110万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75−275,000円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85−685,000円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95−1,455,000円
1,000万円以上 収入金額−1,955,000円

【参考】国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」詳しくはこちら

例えば、公的年金等の収入金額が400万円、年金の受取開始年齢が65歳であるとしましょう。公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が800万円である場合、課税の対象となる雑所得の金額は、以下の通りです。

・公的年金等に係る雑所得=収入金額×0.75−275,000円
=400万円×0.75−275,000円
=2,725,000円

所得税を計算する際は、上記の金額とその年のほかの所得(給与所得・事業所得など)を合算します。

年金で受け取る場合、残りの年金資産は運用され続けるため、一時受取よりも受給総額は増える可能性があります。また、年金として分割受取であれば、受け取ったお金をすぐに使ってしまうことも防ぎやすいでしょう。

ただし、年金で受け取る場合は、一時金受取と比較して課税所得が増える可能性があるため、税制面では不利になるかもしれません。課税所得が増えると、国民健康保険料や介護保険料なども増えてしまう可能性もあります。

確定拠出年金の老齢給付金はどのように受け取るのがお得なのかは、ほかの所得金額や保有資産などで異なるため、ご自身の状況に合った選択を考えることが大切です。

退職所得控除の5年ルールとは?

退職所得控除の5年ルールとは?

一定期間内に、退職金や確定拠出年金の一時金を複数受け取ると、退職所得控除を計算する際に「5年ルール」が適用されます。

5年ルールは、退職金を受け取る前年の4年以内に別の退職金を受け取ると、退職所得控除額を計算する際に、重複する勤続年数は含まれなくなるというルールです。ここでいう退職金には、一時金で受け取ったiDeCoの老齢給付金も含まれます。

例えば、iDeCoの老齢給付金を一時金で受け取ったあとに、65歳で退職金を受け取るとしましょう。退職金を受け取った職場で働いていた期間は、30歳から65歳までの35年です。
iDeCoに45歳から加入し、60歳で老齢給付金を一時金で受け取る場合、退職金を5年後に受け取ることになるため、5年ルールは適用されません。

しかし、64歳になった時にiDeCoの老齢給付金を一括で受け取り、その後65歳で退職金を受け取ると、5年ルールが適用されます。
この場合、あとで受け取った退職金の退職所得控除額を計算する際、勤続年数(35年)とiDeCoの加入期間(45歳から64歳)のうち重複する19年は含まれません。

注意すべきなのは、iDeCoの老齢給付金を先に受け取るケースです。というのも、iDeCoの老齢給付金を受け取った前年から数えて19年以内に退職金を受け取っていると、退職所得控除額の計算時に重複期間分が差し引かるためです。

例えば、65歳で退職金を受け取り、70歳でiDeCoを一括で受け取ると、退職所得控除額が調整されてしまいます。退職金とiDeCoの老齢給付金を受け取れるのであれば、先にiDeCoを受け取り、そこから5年以上経ったあとで退職金を受け取るのがよいでしょう。

ただし、退職所得控除の調整に関するルールは、将来的に変更されるかもしれません。確定拠出年金の老齢給付金や退職金の受取方法を決める時は、金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談をするのも1つの方法です。

まとめ

まとめ

従来の退職金と確定拠出年金(企業型)には、運用責任や掛金の拠出方法などさまざまな面で違いがあります。
また確定拠出年金は、受取方法によって課税の対象となる税金が異なります。セカンドライフにむけた資産形成をする際は、退職金などの企業の福利厚生制度の内容をよく確認することが大切です。

ご留意事項
  • 本稿に掲載の情報は、ライフプランや資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、三菱UFJ信託銀行の見解を示すものではありません。
  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び三菱UFJ信託銀行が保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、三菱UFJ信託銀行は一切責任を負いません。
  • 本稿に掲載の情報に関するご質問には執筆者及び三菱UFJ信託銀行はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。

RANKING

この記事もおすすめ